2,693 / 2,806
不死者の軍「グレイプニル」 Ⅳ
しおりを挟む
中央アフリカ共和国。
アフリカ大陸の中央に位置する内陸国家。
1960年にフランス植民地から独立するが、以来、クーデターの連続で未だに政権は無いに等しい。
政府がほとんど機能しておらず、群雄割拠の勢力が林立している状態だ。
だから「業」が強引に押し入ってアフリカ大陸で最初の《ハイヴ》を作った。
「業」にとっては、政府も軍も機能していないこの国を制するのは簡単なことだっただろう。
それにあちこちの国や組織に浸透し、利権に群がる連中を手玉に取る手段を確立している。
恐怖と甘い汁を示せば、国への忠誠心を持たない奴らを操るのは容易い。
比較的早期に国家を掌握しただろうために、中央アフリカ共和国の《ハイヴ》は、今ではアフリカ大陸で最高のレベル7の状態まで進展している。
ロシア国内以外でレベル5を超える数少ない頑強な《ハイヴ》となっていた。
7月の下旬、俺はルイーサと「グレイプニル」の兵士を連れて中央アフリカに向かった。
ルイーサと話し合い、「ウロボロス」による《シャンゴ》の爆撃は行なわないことになった。
「グレイプニル」が独力で各階層を攻略していくと。
ルイーサは厳格な現実主義者だ。
だから無理な作戦は押し出さない。
ルイーサが出来ると言うからには、絶対の勝算があるのだ。
「グレイプニル」の精鋭の兵士400名には、「Ωコンバットスーツ」を与えている。
戦闘には最適なものだ。
ただ、ルイーサ自身はオリジナルのドレスのような甲冑を着込んでいた。
上半身はうろこ状のスケールメイルのようだが、下半身は膨らんだスカートのようなものを、同じくスケールメイルで覆っている。
ルイーサが言うには、それも「黒小人」たちに創らせたものだそうだ。
俺にも前にもらったフルプレートの甲冑を着て来るように言った。
俺自身にも分かるが、甲冑の装いでありながら、俺の動きを一切妨げない。
「黒小人」というものがどういう連中かは分からないが、超高度の技術を持つ者たちらしい。
俺は「虎王」を二振りと背中に「常世渡理」を挿している。
それらがしっかりと固定される装備まで付いていたことに驚く。
「グレイプニル」は歩兵の集団だが、武装は刀剣と槍、そして一部に銃。
ルイーサによれば、どれも「黒小人」(やっぱりね)の造りであり、銃は「崋山」のものに劣らないそうだ。
20人が重火器のようなものを背負っており、恐らく凶悪な威力のものなのだろう。
まあ、刀剣なども通常のものではないのだろうが。
「タイガーファング」で《ハイヴ》の20キロ手前に着陸し、部隊が準備を終えた。
恐ろしく早い。
そしてルイーサがいるせいか、どの兵士も真剣な顔をしている。
整列した兵士たちの前で、ルイーサが宣言した。
「美獣の前だ。お前たち、無様は許さん」
全員が姿勢を一層整える。
「行け」
それだけだった。
作戦のブリーフィングもまったく無かった。
だが全て、何らかの方法で伝達されているのだろうと感じた。
ノスフェラトゥの特有の意志共有があるのだ。
《ハイヴ》の10キロ手前から戦闘が始まる。
周囲を警戒している妖魔やライカンスロープたちだが、もちろん難なく撃破される。
主に刀剣と槍の部隊が駆逐し、俺はその戦闘力の高さに感嘆した。
俺が知る限り、この《ハイヴ》の防衛に配置されている妖魔やライカンスロープたちは決して弱くはない。
数十体は「アドヴェロス」のハンターたちを苦しめた《デモノイド》だった。
それらが呆気なく敗退していく。
「グレイプニル」の兵士たちは、明らかにアラスカの「ソルジャー」以上の戦闘力を有している出来だ。
やがて《ハイヴ》から、いきなり「水晶騎士」と「弓使い」が出て来た。
それぞれが100体を超える。
「業」の軍勢としては、桁違いに強力な防衛ラインと言える。
《ゲート》による進軍は数の多さはあれど、「水晶騎士」クラスの強力な妖魔は少ない。
時間を掛けて後から上級妖魔や《地獄の悪魔》を送り出すことはあっても、数体であることが多い。
あらかじめ準備している《ハイヴ》の防衛ならではの布陣だった。
「グレイプニル」の前衛20人が早くも激突する。
後ろに控える中衛に動きはない。
ならば、前衛だけで相手をするということだろう。
「弓使い」が無数の矢を放って来る。
俺が高速移動で数百の「槍雷」を放ったのと同じ構図だ。
前衛の兵士たちが瞬時に散り、余裕で矢を回避しながら攻撃を開始した。
どんどん「弓使い」が消えて行き、合間に「水晶騎士」も攻撃を受けて消える。
前衛の攻撃が更に濃厚になり、一体が高温の光で満ちて行く。
防衛ラインが5分ほどで消滅した。
《ハイヴ》までの進軍の空間が開けていた。
前衛たちがそのまま進軍し、中衛と後衛もそれに従った。
前衛に交代の気配は無いので、今の戦闘はまるで負担では無かったのだろう。
「ルイーサ、大したものだな」
「これからだ。われの軍団をよく見ていろ」
「ああ」
ルイーサがそれでも満足そうに笑っていた。
俺に実力を示せて嬉しいのだろう。
この作戦は《ハイヴ》の攻略そのものではなかった。
もちろん第一には「グレイプニル」の戦闘力を確認することだが、更に《ハイヴ》での活動状況を把握する目的があった。
だから「シャンゴ」による徹底的な破壊ではなく、《ハイヴ》内部へ侵入し、その構造や活動の詳細を調査し把握することに主眼がある。
俺と聖が以前にやったことだが、あの時は俺たちが甘く失敗した。
途中で聖が設備をぶち壊し、俺も調子に乗って何も内部調査が出来ずに終わってしまった。
まあ大失敗で、ターナー大将にえらく怒られた。
まだ《ハイヴ》についてよく分かっていなかったことも数多くある。
特に当初は単に、妖魔やバイオノイドの生産拠点と考えられていたのだ。
最下層に超強力な《地獄の悪魔》やまたは「神」が控えていることは分かっていたんで、その防備の強力さにだけ目が行っていた。
だが《ニルヴァーナ》の存在を確認し、それが《ハイヴ》で生産されるだろうことが予測出来た。
俺と聖が《ハイヴ》内部へ侵入した時には、強力な妖魔を召喚するシステムなどがあったのを確認した。
恐らくは他のものもあったのだろうが、俺と聖のいい加減さのせいでほとんど成果を得られなかった。
すまんね。
今回は真面目にやんぞー。
アフリカ大陸の中央に位置する内陸国家。
1960年にフランス植民地から独立するが、以来、クーデターの連続で未だに政権は無いに等しい。
政府がほとんど機能しておらず、群雄割拠の勢力が林立している状態だ。
だから「業」が強引に押し入ってアフリカ大陸で最初の《ハイヴ》を作った。
「業」にとっては、政府も軍も機能していないこの国を制するのは簡単なことだっただろう。
それにあちこちの国や組織に浸透し、利権に群がる連中を手玉に取る手段を確立している。
恐怖と甘い汁を示せば、国への忠誠心を持たない奴らを操るのは容易い。
比較的早期に国家を掌握しただろうために、中央アフリカ共和国の《ハイヴ》は、今ではアフリカ大陸で最高のレベル7の状態まで進展している。
ロシア国内以外でレベル5を超える数少ない頑強な《ハイヴ》となっていた。
7月の下旬、俺はルイーサと「グレイプニル」の兵士を連れて中央アフリカに向かった。
ルイーサと話し合い、「ウロボロス」による《シャンゴ》の爆撃は行なわないことになった。
「グレイプニル」が独力で各階層を攻略していくと。
ルイーサは厳格な現実主義者だ。
だから無理な作戦は押し出さない。
ルイーサが出来ると言うからには、絶対の勝算があるのだ。
「グレイプニル」の精鋭の兵士400名には、「Ωコンバットスーツ」を与えている。
戦闘には最適なものだ。
ただ、ルイーサ自身はオリジナルのドレスのような甲冑を着込んでいた。
上半身はうろこ状のスケールメイルのようだが、下半身は膨らんだスカートのようなものを、同じくスケールメイルで覆っている。
ルイーサが言うには、それも「黒小人」たちに創らせたものだそうだ。
俺にも前にもらったフルプレートの甲冑を着て来るように言った。
俺自身にも分かるが、甲冑の装いでありながら、俺の動きを一切妨げない。
「黒小人」というものがどういう連中かは分からないが、超高度の技術を持つ者たちらしい。
俺は「虎王」を二振りと背中に「常世渡理」を挿している。
それらがしっかりと固定される装備まで付いていたことに驚く。
「グレイプニル」は歩兵の集団だが、武装は刀剣と槍、そして一部に銃。
ルイーサによれば、どれも「黒小人」(やっぱりね)の造りであり、銃は「崋山」のものに劣らないそうだ。
20人が重火器のようなものを背負っており、恐らく凶悪な威力のものなのだろう。
まあ、刀剣なども通常のものではないのだろうが。
「タイガーファング」で《ハイヴ》の20キロ手前に着陸し、部隊が準備を終えた。
恐ろしく早い。
そしてルイーサがいるせいか、どの兵士も真剣な顔をしている。
整列した兵士たちの前で、ルイーサが宣言した。
「美獣の前だ。お前たち、無様は許さん」
全員が姿勢を一層整える。
「行け」
それだけだった。
作戦のブリーフィングもまったく無かった。
だが全て、何らかの方法で伝達されているのだろうと感じた。
ノスフェラトゥの特有の意志共有があるのだ。
《ハイヴ》の10キロ手前から戦闘が始まる。
周囲を警戒している妖魔やライカンスロープたちだが、もちろん難なく撃破される。
主に刀剣と槍の部隊が駆逐し、俺はその戦闘力の高さに感嘆した。
俺が知る限り、この《ハイヴ》の防衛に配置されている妖魔やライカンスロープたちは決して弱くはない。
数十体は「アドヴェロス」のハンターたちを苦しめた《デモノイド》だった。
それらが呆気なく敗退していく。
「グレイプニル」の兵士たちは、明らかにアラスカの「ソルジャー」以上の戦闘力を有している出来だ。
やがて《ハイヴ》から、いきなり「水晶騎士」と「弓使い」が出て来た。
それぞれが100体を超える。
「業」の軍勢としては、桁違いに強力な防衛ラインと言える。
《ゲート》による進軍は数の多さはあれど、「水晶騎士」クラスの強力な妖魔は少ない。
時間を掛けて後から上級妖魔や《地獄の悪魔》を送り出すことはあっても、数体であることが多い。
あらかじめ準備している《ハイヴ》の防衛ならではの布陣だった。
「グレイプニル」の前衛20人が早くも激突する。
後ろに控える中衛に動きはない。
ならば、前衛だけで相手をするということだろう。
「弓使い」が無数の矢を放って来る。
俺が高速移動で数百の「槍雷」を放ったのと同じ構図だ。
前衛の兵士たちが瞬時に散り、余裕で矢を回避しながら攻撃を開始した。
どんどん「弓使い」が消えて行き、合間に「水晶騎士」も攻撃を受けて消える。
前衛の攻撃が更に濃厚になり、一体が高温の光で満ちて行く。
防衛ラインが5分ほどで消滅した。
《ハイヴ》までの進軍の空間が開けていた。
前衛たちがそのまま進軍し、中衛と後衛もそれに従った。
前衛に交代の気配は無いので、今の戦闘はまるで負担では無かったのだろう。
「ルイーサ、大したものだな」
「これからだ。われの軍団をよく見ていろ」
「ああ」
ルイーサがそれでも満足そうに笑っていた。
俺に実力を示せて嬉しいのだろう。
この作戦は《ハイヴ》の攻略そのものではなかった。
もちろん第一には「グレイプニル」の戦闘力を確認することだが、更に《ハイヴ》での活動状況を把握する目的があった。
だから「シャンゴ」による徹底的な破壊ではなく、《ハイヴ》内部へ侵入し、その構造や活動の詳細を調査し把握することに主眼がある。
俺と聖が以前にやったことだが、あの時は俺たちが甘く失敗した。
途中で聖が設備をぶち壊し、俺も調子に乗って何も内部調査が出来ずに終わってしまった。
まあ大失敗で、ターナー大将にえらく怒られた。
まだ《ハイヴ》についてよく分かっていなかったことも数多くある。
特に当初は単に、妖魔やバイオノイドの生産拠点と考えられていたのだ。
最下層に超強力な《地獄の悪魔》やまたは「神」が控えていることは分かっていたんで、その防備の強力さにだけ目が行っていた。
だが《ニルヴァーナ》の存在を確認し、それが《ハイヴ》で生産されるだろうことが予測出来た。
俺と聖が《ハイヴ》内部へ侵入した時には、強力な妖魔を召喚するシステムなどがあったのを確認した。
恐らくは他のものもあったのだろうが、俺と聖のいい加減さのせいでほとんど成果を得られなかった。
すまんね。
今回は真面目にやんぞー。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる