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不死者の軍「グレイプニル」

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 少し遡り、俺が蓮花研究所で目覚めてしばらく後のこと。
 ようやく身体が動くようになり、戦闘はまだきついが移動は出来るようになった。
 早速考えるべきことがあった。

 《刃》を斃したことで、「業」の戦略が大きく変わるだろうことが予想されたのだ。
 「業」にとって《刃》は、聖を降したことで俺たちに対する強大な決戦兵器になるはずだった。
 俺に関してはともかく、誰にも斃すことの出来ない超強力な使い手であった。
 だからその強大な力で、一気に俺たちの戦力を削ぐ作戦に出た。
 それ以前にも何度も強襲作戦を展開して来たが、「業」側は多くは失敗している。
 俺たちの戦力が「業」の予想を常に上回って来たからだ。
 自分たちが上回るつもりの派兵が、俺たちが必死で抗い勝利して来た。

 もちろん、俺たちも危ういことは何度もあったし、犠牲者が出たこともある。
 アメリカへの防衛装置の輸送中に襲われたジェヴォーダンの攻撃は、双子を喪う可能性もあった。
 レイや海兵隊の必死の抵抗で、何とか虎口を凌いだ。
 そのレイを拉致して俺を殺させる作戦では、レイを喪う結果となった。
 俺はアメリカを破壊するはずが、麗星の特別な丸薬や聖やロックハート家の行動やターナー少将の命懸けの説得で何とか納まった。
 あのまま俺がアメリカを破壊していれば、今の「虎」の軍の戦力は無い。
 「神」を使った俺への攻撃も、ロボや「柱」たちの存在が無ければやられていた。
 《地獄の悪魔》の運用も、一歩間違えれば俺たちの根幹の戦力を喪っていた可能性も高い。
 アフリカ戦線で石神家を喪い、グアテマラでも子どもたちや、聖さえも喪ったかもしれない。
 「アドヴェロス」への《デモノイド》による急襲もそうだ。
 展開が少しでも変わっていれば、愛鈴や葛葉たちを死なせていた。
 あいつらの激突自体が、ギリギリのものだった。
 他の戦闘でもそうだ。
 うちの子どもらも何度も死に掛けている。
 最も危険だったのは、俺の親父の虎影を使った攻撃だった。
 石神家当主の親父の戦力は凄まじく、亜紀ちゃんと斬を喪うところだった。
 「業」が親父の力を複製していれば、その後の戦闘は俺たちにとって相当きついものになったに違いない。
 あの時に気付かなかったか、もしくは「業」に複製の能力が無かったお陰で助かっている。
 俺たちもレイを喪い、槙野やイサ、そして多くの仲間を喪って来たが、何とか勝ちこしては来た。

 そして《刃》の完成と複製は、「虎」の軍にとって脅威だった。
 あの聖でさえもやられたのだ。
 「業」の側では相当な高揚があっただろう。
 しかし、結果的に俺たちの勝利で終わった。
 保奈美と諸見と綾という犠牲は出したが。

 だからこれまでは俺たちの暗殺か拠点を襲撃する作戦がほとんどだった攻撃から、今後は世界戦略に切り替えて来る可能性が高い。
 「虎」の軍を降せば「業」の勝利は確定するが、「業」の勝利条件はあくまでも人類全滅だ。
 「虎」の軍の脅威の排除は困難さがあるので、むしろ人類の虐殺そのものを一層推し進めることになるだろう。
 もちろんその過程で「虎」の軍との戦闘もあるだろうが、虐殺を中心に据えれば戦闘そのものを回避しながら進展できる。
 そうしながら、恐らく「業」の力は増大して行く。
 それに、「業」と「大羅天王」の融合は日々進んでいると考えられる。
 「業」は新たな力、より大きな力を手にして行く。

 「業」の世界戦略の最も大きなものは《ハイヴ》の建造だ。
 《ハイヴ》に関しては、完全に俺たちが出遅れた。
 「業」は俺たちが察知する前に、ロシア国内、そして世界中に《ハイヴ》の建造を完成させていたのだ。
 分かりやすい拠点をエサに、その裏で恐ろしい《ハイヴ》の建造を進めていた。
 その存在を把握してからは、「業」の本来の拠点である《ハイヴ》は新たに建造されながらも、徐々に俺たちが攻略し、一進一退の現状にある。
 しかしそれは俺たちが攻撃を控えているせいでもあり、今後本格的に《ハイヴ》攻略を進めていくつもりだった。
 「業」が世界戦略を進行したいのと同様に、俺たちは「業」との激突を望んでいる。
 だから《ハイヴ》の攻略なのだ。
 「業」の世界戦略は《ハイヴ》からの進展になるのは明らかだった。
 《ニルヴァーナ》の生産は《ハイヴ》以外にはあり得ない。
 それは、他の拠点であれば発覚した時点で俺たちが簡単に潰すからだ。
 《ハイヴ》の攻略は「虎」の軍にとっても容易い事ではない。
 そう「業」に想わせておきたい。
 俺たちは一挙に《ハイヴ》の攻略を進め、「業」の世界戦略を阻止したい。
 互いに攻防が激化して行くことになる。


 今は「業」の能力も数十億の妖魔の出現が精一杯で、それ以上は相当な無理をしていると考えられた。
 これは今までの戦闘を俺たちの量子コンピューターが解析した結果だ。
 戦闘時にどれほどの規模で妖魔が投入されてくるのか、また妖魔の種別や戦闘力、そしてゲートの構築に関するデータやその前後の襲撃との関連等を解析し、「業」の能力を推論している。
 それは戦略的により効果的な場合を想定し、そこからの差異が能力の限界に関わるということなのだ。
 もしも簡単に兆を超える規模で妖魔を投入できるのであれば、俺たちの防衛戦は途轍もなく厳しいものになっていただろう。
 しかしそれが成されていないということは、相手が出来ないということなのだ。
 このような解析は、通常の戦闘でも行なわれるものだが、俺たちの量子コンピューターはより高度な解析を行なう。
 かなりの正確さで、「業」の戦力を推定していると考えられる。
 俺たちにとって、超高度量子コンピューターの開発は、大きなアドバンテージになっている。

 しかし、「業」もその力は今のままではないだろう。
 俺たちが強くなり続けているように、「業」もまた発展して行く。
 俺は聖やターナー大将、蓮花といった「虎」の軍の軍事の中枢の人間たちと話し合って、そのことを確認していった。
 そしてついに佐野さんと轟が捕らえた「ボルーチ・バロータ」からの情報で、《ニルヴァーナ》がほぼ完成しているということも俺たちの予想と一致した。

 これまでは国際社会の闇に紛れて世界を陣営を二分する争いを引き起こしていた。
 欧米の先進国は逸早く俺が取り込んで統制したが、後進国が「業」の標的にされ、元々の政情不安を衝かれて「業」の陣営に降った者たちも多かった。
 だが亜紀ちゃんと柳が中心となり、各地の戦闘は即座に鎮圧され、更に水面下で取り込まれていた勢力に対する絶大な恣意を見せることとなった。
 世界は徐々に「虎」の軍に傾きつつある。
 そうなると、「業」は真正面から世界の破壊に動き出すはずだった。
 俺たちの戦いは、世界規模での対「業」との戦闘に移行する。

 俺は、そのための準備に取り掛かった。
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