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未来への希望 XⅥ

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 昼前にハマーを出し、響子と茜たちを迎えに行った。
 柳に運転させる。
 自分が俺に呼ばれたので、柳は御機嫌だった。
 自然に鼻歌を歌っている。
 少々ウザいが、気分が良さそうなので黙っていた。
 それに、もう俺がうるさく運転に文句を言うことも無い。
 こいつも運転が上手くなった。

 「うちって、来客多いですよね」
 「そうだよなぁ。あの家に独りで暮らしてた静かな日々が懐かしいぜ」
 「アハハハハハハ!」

 まあ、別に嫌いな連中を呼ぶことは無い。
 呼びたくて来て貰っている人間だけだ。
 橘弥生や石神家など、ちょっと困惑する人間も来るが、それだって本心では大歓迎だ。
 ローマ教皇たちはぶっ飛んだが。

 すぐに病院に着き、響子の部屋へ行く。
 既に茜と葵もいて、三人とも支度が出来ていた。
 それに青とカスミまでいた。
 「般若」は土日を休むようにしている。
 以前は多くの人間に来て貰いたいと休日無しでやろうとしていたが、俺が説得した。
 だから青たちもよく、俺と六花のいない土日に響子の所へ来てくれている。
 有難いことだ。

 「よう、来てたのか」
 「ああ、響子ちゃんは超常連だからな」
 「ワハハハハハハハ!」

 響子も喜んでいる。

 「月曜日までうちに泊まるんだ」
 「そうだってな」
 「お前らものんびりしろよ」
 「ああ」

 青は休みに何をやっているのだろうか。
 ちょっと気になったので聞いてみた。

 「お前、この後どうすんの?」
 「ああ、カスミと映画でも観に行こうと思ってる」
 「へぇ!」

 驚いた。
 カスミを連れ歩いているのか。
 カスミが嬉しそうに俺に言った。
 
 「『ノスタルジア』のリバイバルがあるんです」
 「ああ、知ってるよ。あれは劇場で観るとまたいいんだよな」
 「そうなんですか。楽しみです」
 「青は始まったらグーグー寝てるだろうけどな」
 「そんなことないですよ。いつも一緒に楽しんでます」
 「そうなのかよ」

 青も笑っていた。
 自分に似合わない趣味だと思っているのだろう。
 カスミは「いつも」と言った。
 ならば、青がよく映画に連れ出しているのか。
 カスミが俺の心を察したか、また話した。
 勘の良い奴だ。

 「美術館にもよく行きますし、ドライブなんかも行くんですよ?」
 「へぇ!」
 
 青が微笑んでいる。
 恥ずかしそうにするかと思ったが、カスミを楽しませることが心底から嬉しいのだ。
 俺は、青がカスミとどこに行こうかと相談している姿が浮かんで来た。
 俺も嬉しかった。

 「じゃあ、楽しんで来てくれ。おい、行こうか」
 「うん!」
 「トラさん、私たちまでお世話になります」
 「お前らは妹だぁ!」
 
 みんなが笑った。





 15分で家に戻り、みんなで響子たちを歓迎した。
 仏頂面の斬にも、茜と葵が挨拶する。

 「こいつは一応義理の父親なんだけどな。今結構な保険金をかけてるから、なるべく早く死んで欲しいんだ」
 「あなた!」
 「フン!」

 斬が歩く茜と葵の動きを観ていた。
 あー。

 「お前ら、少しはやるようになったな。後で手ほどきしてやる」
 「あ、ありがとうございます」
 「宜しくお願いします」
 「おい、茜はまだ身体が回復してねぇんだ」
 「分かっておる。わしに任せろ」
 「茜、無理はすんなよな」
 「は、はい!」

 止めてやりたいが、俺ものんびりしたい。
 悪いな。

 昼食は蕎麦だ。
 アラスカでは蕎麦も送っていたが、ほとんどはパスタだ。
 うちでも休日はパスタが多いのだが、栞たちのために蕎麦にした。
 大量のせいろをみんなで食べる。
 天ぷらはもちろんだが、鴨もあるし、もちろんステーキもある。
 薬味も大量に揃っている。
 響子はマイタケと海老、ナスの天ぷらを皿に乗せた。
 嬉しそうに食べている。
 天ぷらは他にインゲン、アスパラ、ピーマン、ハス、スズキ、鮭、鳥肉、豚ロース、それにゴボウとニンジンのかき揚げ、タマネギと小エビのかき揚げだ。
 どれも量が多い。
 茜がステーキを貪る子どもたちを見ていた。

 「トラさん、ステーキもあるんですね」
 「ああ、喰いたければ遠慮するなよな」
 「はい、でも初めて見ました」
 「10年前に名古屋で流行したんだよ」

 俺がそう言うと亜紀ちゃんが驚いて俺に言った。

 「え、タカさん、そうだったんですか?」
 「ウソに決まってんだろう! どこのバカがステーキが薬味なんて考えんだよ!」
 「ワハハハハハハハ!」

 笑いながら亜紀ちゃんはステーキ狙いだ。
 茜も一切れ乗せた。

 「あー、なるほど」
 「おい、分かんなくていいんだからな!」
 「そうですね」

 みんなが笑った。
 合うわけがねぇ。
 士王はナスと小エビのかき揚げ。
 栞は鴨南蛮にしていた。
 
 「おいしー!」
 
 栞が士王に一口食べさせていた。
 士王も喜ぶ。
 桜花たちは天ぷら全てに挑戦している。
 最初に口に入れて感動していた。
 
 「石神様、この天ぷらは美味しいですね!」
 「まあな。プロにいろいろ聞いてるからなぁ」
 「そうなんですか!」
 「双子がな。こいつらの料理研究は大したものになってきたぞ。有名店に潜り込んでいろいろ教わってるしよ」
 「素晴らしいですね!」

 双子は金をばら撒きながら、有名な天ぷら店に実際に行って教わっている。
 厨房で直に秘伝なども伝授されていた。
 まあ、金は渡すのだが、異常に熱心でコミュ力もある双子ならではだ。
 双子が喜び、桜花たちにいろいろ説明していた。
 葵も傍で聞いて、茜のためにと思っている。
 賑やかで温かな食卓だ。
 葵はあちこちで話し掛けて食事を楽しくし、合間に片づけを率先してやってくれている。
 自分が一緒に食べられないということを、葵たちはどう考えているのだろうか。
 寂しがってはいないだろうか。
 俺が声を掛けた。

 「葵、お前はディディには会ったけど、轟にはまだ会ってねぇよな?」
 「はい! 私も一度お会いしたいと思っていたんです!」
 「そうか、じゃあ今度会わせてやる。俺の大事な佐野さんの相棒だ」
 「はい、それは存じております。「アドヴェロス」の捜査部門ですよね?」
 「ああ、優秀な奴だ。こないだもついに「ボルーチ・バロータ」を捕まえたしな。お陰で重要な情報が手に入った」
 「はい、私も頑張ります!」
 「よろしくな!」

 茜が嬉しそうに笑った。
 一緒に食事が出来ないのは寂しい。
 だが、それは俺たちの持って生まれた宿命だ。
 俺たちは確かに仲間なのだ。

 食事の後、俺は響子とオセロをし、響子を寝かせた後で庭に出た。
 響子が起きれば、鍛錬には付き合ってやれないからだ。
 士王と茜と葵が一緒に来た。
 俺が降りると、すぐに斬に誘われた。

 「来たか! やるぞ!」
 「おう!」

 葵は虎蘭に誘われ、一緒に鍛錬した。
 士王と茜は「花岡」の動きを斬に指導されていく。
 みんなが楽しそうに笑っているので、俺も嬉しくなった。





 「おい、やるぞ」
 「俺?」
 「当たり前じゃ」
 「……」

 楽しかったのにー。
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