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未来への希望 XⅡ

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 俺は午後のオペを終え、6時頃に響子の部屋へ行った。
 柳と茜、葵もいる。
 3人で何か楽しそうに話していた。

 「柳、帰るぞ」
 「はい!」
 「響子、また明日な」
 「うん、バイバイ!」
 「茜、あまり遅くまでいるなよな」
 「はい、大丈夫ですよ」
 「じゃあ、葵も響子を宜しくな」
 「はい!」

 俺は響子を軽く抱き寄せて額にキスをした。

 「響子、明後日は俺の家に来てくれな」
 「うん、楽しみだよ!」
 「茜と葵もな」
 「あの、私たちもいいんですか?」
 「もちろんだ。お前たちは響子の親友で、俺の大事な妹分だからな」
 「トラさん!」

 茜と葵が嬉しそうに笑い、俺に頭を下げた。
 駐車場に向かい、アルファードで帰った。
 柳とが嬉しそうにハンドルを握りながらニコニコしている。

 「石神さん、このままどっかドライブに行きませんか?」
 「腹減ったよ」
 「えー! いいじゃないですか!」
 「虎蘭が待ってる」
 「ギャァァァァー! それを私に言いますかぁ!」
 「ワハハハハハハハ!」
 
 柳と家に戻り、ロボの大歓迎を受けて一緒に食事をした。
 他の人間たちは先に済ませている。
 今日は海鮮丼の日だったが、当然俺と柳の分は残り物だ。
 かろうじて2人分が残っていて、刺身定食という感じだ。
 栞が和食を食べたがると思ってのメニューだ。
 斬が茶を飲んでいる。

 「斬、お前は普段どんなものを食べてるんだ?」

 和食だろうと思っているが。
 俺が斬の家に行くと、出て来る食事は大体そうだからだ。

 「何でも喰う。五月がいろいろ作るからな」
 「ああ」

 五月というのは、いつも斬の身の回りの世話をしている女性だ。

 「でも和食が多いんだろう?」
 「そうでもない。洋食も多いぞ。ステーキも食べる」
 「へぇ」

 本当かどうかは分からない。
 うちが肉食なのを斬も知っているので、遠慮しているかもしれない。
 あとで五月に聞いてみるか。
 一応うちのために来てくれているのだ。
 斬にも美味い食事をして欲しい。
 恐らくは本当に好き嫌いはなく、出されたものを食べてはいるのだろうと思った。
 五月も斬のことを考え、多分和食にしているはずだ。
 だから今日の石神家海鮮丼のように、自分の好きな食材を選んで好きなだけ乗せるという食事は苦手だったろう。
 まあ、栞や桜花たちがそれとなく手伝ったのだろうが。
 どうも、斬に関しては気遣いが荒い気がしてきた。
 ちょっと気を付けよう。

 食事を終え、風呂に入ると亜紀ちゃんと柳が呼びに来る。
 笑ってみんなで『虎は孤高に』を観た。
 明日は金曜日なので、また一緒に大騒ぎになる。
 今日は斬も付き合った。
 珍しい。
 意外と斬もちゃんと観ていた。
 士王は虎蘭の膝にちゃっかり座り、後頭部でオッパイを堪能して御機嫌だった。
 ドラマなどは、まだどうでもいいのだろう。
 物語は俺の修業時代だ。
 院長の「熊鷹」のエピソードだった。

 俺は「鬼理流」の話をし、久し振りに郷里の広島へ院長たちが帰った時の話をした。

 「デュールゲリエのルーとハーが護衛で一緒だったんだけどよ。鬼族が全員揃って大変だったらしいぜ」
 
 子どもたちも知らないことだ。
 みんなが驚いていた。

 「数億が集まってさ。院長が引っ繰り返りそうだったって」
 
 みんなが爆笑した。
 栞がお腹を押さえて苦しそうだった。

 「あなた、ちょっと!」
 「ああ、悪い」

 笑い過ぎだ。
 そのまま解散し、俺は虎蘭を誘ってウッドデッキに出た。
 虎蘭はやはり虎白さんに話したそうだ。
 まあ、向こうでの鍛錬にも関わることだからだろう。

 「虎白さん、喜んでましたよ」
 「そっか」
 「虎影さんに報告に行くって言ってました」
 「マジか! じゃあ麗星にも連絡しとかねぇと」
 「大変ですね」
 「あの人らだけはなぁ。恐ろしく無茶苦茶だからな」
 「アハハハハハハ!」

 虎蘭もその一員なのだが、大笑いしていた。

 「まあ、虎蘭が俺の子を産んでくれるのは本当に嬉しいんだ。それだけはちゃんと言っておこうと思ってな」
 「はい、私も嬉しいです」
 「栞とは昨日、どんな話をしたんだ?」
 「はい、私なんかが家族になってくれて嬉しいと。一緒に高虎さんを守って行こうって」
 「そうか、有難いな」
 「高虎さんは案外神経が細いんで、私たちが支えなきゃいけないと言われました」
 「俺が?」
 「ええ。そうですよね?」
 「そうかもな」

 笑ったのだが、その通りかもしれない。
 俺は大事な人間を喪えば自分を制御できなくなる。
 そのことがいつも心配で仕方がない自分を知っている。

 「お前のことは特に心配なんだよなぁ」
 「私ですか?」
 「そうだよ。栞なんかはちゃんと自分のことを守ろうとする。六花や鷹もな。まあ、六花は俺と一緒に死ぬつもりなんだけどよ」
 「そうですか」
 「だけどお前は違う。自分のことを簡単に投げ捨てて俺を守ろうとするだろう?」
 「その通りですが?」
 「だから心配なんだって! お前を喪ったら俺は壊れるぞ!」
 「!」
 
 虎蘭が目を見開いて、そして涙を零した。

 「ほら! お前は全然自分のことを考えてねぇだろうが! お前、俺の子どもまで身ごもって、まさか俺を置いて行くなよな!」
 「高虎さん……」
 「他の女たちもそうだし、子どもたちもな。他にも聖や御堂やいろいろいるよ。俺にとっては掛け替えのねぇ人間たちなんだ。だから簡単に自分を捨てるな」
 「じゃあ、高虎さんもそうして下さいね」
 「もちろんだぁ! 俺はお前たちを楯にして自分は助かるからな!」
 「ウソですよね!」
 「そうですね!」

 二人で笑った。
 上手く言葉には出来ないが、これで俺の心は通じただろう。

 「俺たちはとんでもねぇ敵と戦ってる。だから甘いことを言うつもりはねぇ。でもな、分かるよな?」
 「はい、分かりました」
 「まあ、それでもお前のことも分かっているつもりなんだ。だけど、ちょっとは労わってくれよ」
 「はい、ありがとうございます」
 「愛している」
 「はい、私も」

 虎蘭を抱き締めてキスをした。

 「ロボともキスをするんだ」
 「そうですか」
 「あいつ、マグロが大好きでさ」
 「そうなんですね」
 「だから、時々マグロくせぇ」
 「!」
 
 虎蘭が俺の胸を叩いた。

 「ワハハハハハハハ!」
 「だって! 夕飯の海鮮丼が本当に美味しくて!」
 「まあ、うちでは一杯喰ってくれよな」
 「もう!」

 何事にも動じない虎蘭が真っ赤になっていた。
 こいつにも女の恥じらいはあるのだ。
 俺は抱き寄せてまたキスをした。

 「高虎さんもちょっと匂いますよ」
 「お揃いだな!」
 「もう!」

 虎蘭からまたキスをしてきた。




 二人で歯を磨きに行った。
 磨き終えてお互いを向いて笑い、またキスをした。
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