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未来への希望 Ⅸ

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 「般若」から病院へ戻り、栞に用意した部屋を見せた。
 響子の部屋の二つ隣だ。
 40平米あり、病室としては結構広い。
 ちなみに響子の部屋はその倍以上ある。
 栞が一目で喜んでくれた。

 「素敵な部屋ね」
 「気に行ってくれたか?」
 「うん!」

 俺が全ての調度を揃えた。
 ダニエルの特注のダブルサイズのベッドと、ソファセットや収納。
 銘木を使った、温かみのある家具たちだ。
 簡易キッチンとシャワー、トイレ。
 テレビやオーディオも揃えている。
 テレビは特別な台に乗せ、栞が寝たままでも観れるようにしていた。
 換気の都合があり調理はそれほど出来ないが、湯を沸かしたり簡単なものは作れる。
 床にはカーペットが敷かれ、カーテンも豪華だ。
 桜花たち用のベッドもある。
 栞たちはあちこちを見て楽しんでいた。
 桜花たちがベッドを見つけて言った。
 ベビーベッドは他にあるので、自分たち用のものだと理解した。

 「石神様、私たちにベッドは不要です」

 夜間の警護をここでもするつもりなのだ。

 「いや、ここは警備の必要は無いんだ。響子のガーディアンが最強だし、おまけに院長のガーディアンがまた恐ろしく強くてよ」
 「そうなんですか!」
 「だから本来はお前たちがいる必要もないんだ。でも、そう言ってもお前たちは来るだろうからな」
 「それはもう!」
 「だからな。ここではちゃんと寝ろ」
 「はぁ」

 一応カーテンで仕切られるようになっている。
 仕切りがないと、桜花たちも休みにくいだろう。
 まあ、こいつらが本当に眠るのかは分からんが。
 桜花たちが部屋を詳細に見て、あれこれと話し合っていた。
 必要なものを検討し、準備をするそうだ。
 栞に相談しながら、俺にも幾つか聞いてくる。
 桜花たちは早速買い物と持ち込む荷物のメモを取り始めた。
 楽しそうだ。
 だが俺は多少緊張していた。 
 
 さて、今日は二人客が来る。
 どちらも、ちょっと面倒だ。
 面倒の方向性は違うが。





 3時前に家に戻り、みんなでお茶にした。
 途中で伊勢丹に寄って買って来た、干し柿のミルフィーユをみんなで食べる。
 栞が一口食べて喜んだ。
 
 「ああ、やっぱり日本がいいなー」
 「アラスカだっていろいろあるだろう。桜花たちも作ってくれるし」
 「いいえ、私たちなんて! こういう繊細なお菓子は発想にもありませんし」
 「そうだよねー。特にこの人って、美味しい食べ物は本当にいろいろ知ってるし」

 亜紀ちゃんが「緑翠」の《虎好》の話をした。
 栞たちが感動し、是非食べてみたいと言った。

 「まあ、病院から近いから買って来るよ」
 「本当にお願いね! 日本では食べるのが楽しみなんだから!」
 「分かったよ」

 そろそろ時間か。
 出迎える連中ではないので家で待っていたが、どうやら二人とも同時に来たらしい。
 自分で「飛行」で来たはずなのだが、時間通りの二人なので途中で会ったのだろう。
 インターホンが鳴り、亜紀ちゃんがすぐに出迎えに行った。
 そのまま2階に上がって来る。
 来ることは分かっていたので、二人の菓子も準備していた。
 双子が用意する。
 斬が先に上がって来た。

 「おう、来たか」
 「フン! おお、士王!」
 「おじいちゃん!」

 士王が嬉しそうに斬に駆け寄る。
 その動きを見て、斬も士王がどれほどになったのかが分かるだろう。
 士王は日々、恐ろしく成長している。
 続いて虎蘭も入って来た。

 「虎蘭も、呼び出して悪いな」
 「いいえ、呼んで下さればいつでも」
 「まあ、座ってくれよ」

 栞と士王の護衛のために、斬に来て貰った。
 亜紀ちゃんたちもいるのだが、何かあれば出撃して家を離れることもあり得るからだ。
 「アドヴェロス」の事件もそうだし、海外でもいつ大きな襲撃があるか分からない。
 俺は戦闘もこなせるほどに戻ったが、まだ全力で動くことは出来ない。
 聖は寝込んだままだ。
 そうなると、亜紀ちゃんたちが頼りになる場面もあるかもしれない。
 まあ、士王のことは幾らでも何とでもなるのだが、斬を呼んで万全のものにした。
 それに斬も栞や士王と会いたいだろう、
 二人目の曾孫は一層だ。
 仕方ねぇ。

 斬とは特に打ち合わせることも無い。
 こいつは戦闘になれば、全てを任せていられる奴だ。
 今は士王に夢中なので、そのままにしておいた。
 虎蘭がミルフィーユを見詰めていた。

 「虎蘭、遠慮しないで喰えよ」
 「はい。でも、これ、どうやって食べるんですか?」
 「あ?」

 亜紀ちゃんが笑ってフォークでミルフィーユを切って見せた。
 
 「干し柿と一緒に口に入れると美味しいですよ!」
 「そうなんだ!」

 虎蘭が口に運び、顔を綻ばせた。

 「美味しい!」
 「ね!」

 石神家では、甘いものは滅多に口にしないだろう。
 しかし、甘未は人類普遍の美味だ。
 虎蘭が夢中で食べるので、俺が追加で皿を出した。
 本当に嬉しそうな顔をする。

 「虎蘭、いつまでここにいられる?」

 俺は虎白さんに、出来るだけ長くいて欲しいと話している。

 「1週間ですかね。ああ、どこか鍛錬出来る場所はありますか?」
 「庭を使って貰って構わないし、ちょっと技を使うなら丹沢に行ってくれ。亜紀ちゃん、後で案内してくれよ。夕飯前に戻れよな!」
 「はい、分かりました!」
 「石神家の鍛錬場で出来ることは、丹沢で大丈夫だろう。「飛行」で行けば大した時間も掛からんしな」
 「ありがとうございます!」
 「それと、斬もいるしよ!」
 「ふん!」

 それが俺の目的でもある。
 斬が来たからには、絶対に俺が鍛錬に付き合わされる。
 それを虎蘭に肩代わりして欲しかった。
 だから虎白さんに、「出来るだけ長く」と頼んだのだ。

 「斬さん、宜しくお願いします!」
 「お前、剣聖だったな?」
 「はい!」
 「じゃあ、付き合ってもらおう。虎白はいい相手になってくれた」
 「アハハハハハハ!」

 皇紀と風花の結婚式で、エキシビションで斬と虎白さんの戦いがあった。
 二人とも僅差だったが、最終的に斬は虎白さんに負かされた。
 本気の戦闘であればまた違ったかもしれないが。
 別に勝敗が問題になる勝負ではない。
 虎蘭であれば、斬のいい鍛錬相手になるはずだ。
 虎蘭にとっても、斬はいい勉強になるだろうし。

 お茶を終えて、亜紀ちゃんは虎蘭を連れて丹沢に行った。
 斬が俺に言った。
 
 「おい、やるぞ」
 「俺かよ!」
 「他に誰がいる?」
 「もう!」

 早速か。
 虎蘭を出掛けさせて後悔した。
 ルーとハーに夕飯を早目に作るように言って、斬と庭で遣り合った。
 俺がまだ不調だと言っても、やっぱり斬は手加減しなかった。
 まあ、そういう奴だ。
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