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未来への希望 Ⅷ

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 夕飯は栞が食べたいものを聞いた。
 栞は鰻が食べたいと言ったので、出前を取ることにした。
 亜紀ちゃんが制限を俺に確認する。
 いつもは一人二人前までで、白焼きは一人前にしている。
 そうしなければ、店が大変だからだ。
 本物の美味い鰻の店は、作るのに時間がかかる。

 「店に聞いて出来る範囲で」
 「はい! やったぁー!」

 亜紀ちゃんが大喜びだ。
 店には迷惑を掛けることになるが、今日は勘弁してくれ。
 俺にはいつもの威厳がねぇ。
 配達の量が多いので、子どもたちに取りに行かせた。
 柳がアルファードを出した。
 帰って来てすぐに並べ始める。
 栞が大喜びで食べている。
 桜花たちも嬉しそうだ。
 士王ももちろんニコニコだ。
 士王の味覚は俺の好みに似て来て、鰻は大好物だ。
 まあ、そういうことを思うのも俺の親バカかもしれないが。
 亜紀ちゃんたちは当然で、4人前を掻き込んでいる。
 ロボも白焼きを唸りながら食べた。

 「あー、久し振りに鰻を食べたー」
 「そうだよな。アラスカじゃ滅多に無いもんな」
 「うん、鷹のお兄さんがいるけど、鰻そのものが手に入らないからね」
 「栞様、申し訳ありません!」
 「桜花たちのせいじゃないよ。あっちじゃしょうがないんだから」
 「はぁ」

 桜花たちは栞の奴隷ではない。
 ただ、栞と士王のために出来るだけのことをしたいだけなのだ。
 栞も最初はワガママを言っていたが、桜花たちの心が染みるようになって、もう滅多にワガママは言わない。
 栞は元々愛らしい性格だ。
 それが士王を生み、また二人目を妊娠し、更に愛らしく優しい女になった。

 みんなで「虎温泉」に入った。
 お腹の大きな栞は早目に上がり、士王はオッパイ天国に狂喜した。
 みんなそれとなく注意しているのだが、いつの間にか誰かがオッパイを触られていた。
 なかなかの男になって来た。
 俺も士王を連れて風呂を上がり、栞と少し話した。
 皇紀と風花の子どもの話をし、六花のことも話した。

 「六花はあそこで大丈夫なの?」
 「ああ。タケやよしこたちも随分と強くなった。「紅六花」は「虎」の軍でも最強部隊の一つだよ」
 「そうなんだ。スゴイよね」
 「そうだよな。ド素人の集団だったんだからな」
 「六花のことをみんなが大好きだからだよね」
 「うん。「花岡」が愛に繋がっているなんて、誰も想像もしていないだろう」

 士王が眠そうになったので、ベッドへ連れて行った。
 もう一人で寝るようになっている。
 皇紀の部屋に寝かせた。
 栞と「幻想空間」でまた話した。
 温めのホットミルクで、俺もそれで付き合った。

 「保奈美と、諸見さんたちは残念ね」
 「仕方がないよ。俺たちは戦争をしているんだからな」
 「そうね。でもやっぱり辛い。保奈美とは仲良くなれたと思うの」
 
 栞は「保奈美」と呼んだ。
 やはり、保奈美と過ごした記憶があるのだ。
 俺もまた保奈美との20年の生活を話した。
 栞も時折思い出したように遠い目をした。
 六花や鷹、一江たちにも記憶があることを話すと、栞も感慨深げにうなずいた。

 「不思議よね。本当に一緒だったのね」
 「そうだな。二つの世界の記憶が俺たちの中にある」
 「あなたは本当に幸せそうだった」
 「今もそうさ。お前たちがいてくれるからな」
 「うん」

 栞を抱き寄せ、そろそろ寝ようと言った。
 一緒にベッドに入ると、ロボが栞のお腹に背を預けて寝ようとした。
 背もたれにすると丁度いいらしい。

 「こらー!」

 俺は笑い、栞も笑ってそのまま眠らせた。





 翌日、栞と桜花たちを連れて病院へ行った。
 すぐに鷹が来て、嬉しそうに栞を迎えた。
 鷹は仕事があるので、すぐに戻ったが。
 まだ入院はしないが、一通りの検査と、響子や一江たちに顔を見せるためだ。
 一江と大森が泣きそうになり、薬剤部の人間たちも喜んだ。
 院長が威厳をもって来たが、すぐに顔がほころび、喜びを隠せなかった。
 入院したら静子さんも来ると言う。

 響子の部屋へ行き、そこにいた茜と葵も紹介した。
 全員で「般若」に行って昼食を食べた。

 「赤虎!」
 「よう、久し振りだな!」

 青が喜んで飛んで来て、カスミや涼子ちゃんとも挨拶した。
 店は相変わらず混んでいたが、俺たちは特別にソファ席に案内された。

 「最愛の妻の栞が出産のために戻って来てくれたんだ!」
 「もう!」
 
 言いながら栞は喜んでいた。
 チョロイのは相変わらずだ。
 栞は青のことはよく知っている。
 何度も前の「般若」に連れて行っているからだ。
 桜花たちを紹介した。

 「栞の世話をしてくれてる、桜花、椿姫、睡蓮だ。今後はここも寄るだろうから宜しくな」
 「柴葉青児です。赤虎には本当に世話になってます」
 「でも、その目を潰したのはこの人ですよね?」
 「ワハハハハハハハ!」

 栞が茶化すと青が大笑いした。
 桜花たちも、『虎は孤高に』を観ているので知っている。
 
 「随分と繁盛していらっしゃるんですね?」
 「ええ、まあ。それも赤虎のせいで」
 「俺は何もしてねぇだろう!」
 「お前じゃなきゃ、どうしてローマ教皇なんか来るんだよ!」
 「だから俺のせいじゃねぇだろうが!」
 「バカヤロウ!」

 俺たちが怒鳴り合うので、客が見ている。
 二人で肩を組んで、笑顔を振りまいた。
 栞と桜花たちが大笑いしていた。
 青がカウンターに戻り、俺はこの店の開店の話をした。
 栞たちがまた大笑いし、青がこっちを睨んでいた。

 「少しは亜紀ちゃんから聴いてるの。奥様とのことも」
 「そうか」
 「あなたは本当にいろいろな所で何かやってるのよね」
 「そんなことはねぇよ。青の目と顔を潰した詫びだ」
 「ふーん」

 栞が微笑み、桜花たちもニコニコして俺を見ていた。

 「響子は青のことが最初から大好きだったもんな」
 「そうだよ! オニオニは優しかったもん」
 「だよな」
 「タカトラが私が大事なヨメなんだって紹介してくれたから。そうしたらいつも本当に優しかった」
 
 茜も笑っていた。

 「まさか、こんな所でピエロの青さんに会うなんて思ってませんでしたよ。当時は鬼のように怖いお人でしたよね」
 「そうだよな。ヤク喰らって暴れ回ってたもんなぁ」
 「あの抗争は物凄かったですよね」
 「お前、いたっけか?」
 「ひっどいですよ! まあ、最初に潰されて寝ちゃってましたけど」
 「ワハハハハハハハ!」

 保奈美など、一部のレディースが抗争に参加していた。
 保奈美が行くのならば、茜も必ず来ていたのだろう。
 懐かしく思い出した。

 カスミが料理を運んで来た。
 ハンバーグの定食で、響子は小さめのハンバーグに薄味のチキンライスだ。
 他の俺たちはシソをまぶしたライスになっている。

 「へぇー! オシャレな食事ね!」
 「そうだろう? 俺も大好きなんだよ」
 「毎日ここに来ようかなー。でも混んでるのね」
 「まあ、響子か俺が一緒なら、カウンターでいつでも喰えるぞ」
 「そうなんだ!」
 「あそこは常連席だからな。いつでも空いてるんだ。響子は「超常連」だしな」
 「そうだよ!」

 みんなで笑った。
 まあ、響子も自由には来れないのだが。
 青は流石に忙しく、もう席には来られなかった。
 ずっとカウンターでコーヒーを淹れている。
 俺たちも食後にコーヒーを頼み、栞と響子以外はシャーベットをもらった。
 栞と響子はチーズケーキだ。
 青がコーヒーを運んで来た。

 「とっても美味しかったです!」
 「ありがとう。今後ともよろしくお願いいたします」
 「はい!」
 「赤虎はもっと来い!」
 「分かったよ!」

 桜花たちも美味しかったと礼を言った。
 青が出口まで見送ってくれた。
 マクシミリアンがたまに来るのだと俺に教えてくれ、驚いた。

 「あいつ!」
 「赤虎には黙っててくれと言われてるんだ」
 「なんでだよ!」
 「お前にも会いたいらしいんだけど、お前、忙しいだろ?」
 「だから?」
 「だからこっそりここに来て、お前の話を聞きたがってるんだ。まあ、俺も詳しいことはいつも知らないんだけどな」
 「あのやろう」





 マクシミリアンとは2ヶ月に一度くらいは会っている。
 今度会ったら、いつでも会いたければ連絡しろと言ってやろう。
 俺も会いたいに決まってるじゃねぇか。
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