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未来への希望 Ⅶ

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 六花を「紅六花」の連中に任せて家に戻った。
 今日は一時アラスカへ移動していた栞と士王がうちに来ることになっている。
 いろいろと自業自得の不安はあるのだが、なるようにしかならないだろう。
 まあ、あいつは本当にコワイのだが。
 虎蘭のことは、どう話そうかなー。

 子どもたちはもう夏休みでのんびりしている。
 昼食は途中で食べて来たので、俺も一応はのんびりしている。
 3時前に鷹が来た。
 鷹にも、虎蘭とのことは話しておかなければならないので呼んだ。
 それと栞が暴走した場合に備えてだ。
 鷹は六花と同じで、俺の女が増えたことにはそれほどの抵抗はないだろう。
 問題は……
 最初は上機嫌で栞も来るだろうから、そこから対策を組み上げて行こう。

 「タカさん、そろそろ時間ですよー!」
 「おう!」

 亜紀ちゃんが呼びに来た。
 気を引き締めねば!






 いつもの「花見の家」に「タイガーファング」が到着する。
 俺は最大限のニコニコ顔を作る。
 子どもたちもニコニコだ。
 鷹も。
 ロボはふつー。

 後部のハッチが開いた。
 栞は笑顔で俺に抱き着きに来るだろう。
 と思っていたのだが。

 「みんな集まってくれたんだ」
 「よう! 待ってたぞ!」
 「栞さーん!」
 「亜紀ちゃん、ああ、柳さんもご苦労様。アフリカは大変だったでしょう」
 「全然! 楽しかったですよ!」
 「私もです! 亜紀ちゃんと思い切りやりましたから!」
 「そう。まあ、みんなが一生懸命な時に、どうにもならない人がいるけどね」
 「!」

 なんだ!
 栞は一度も俺の顔を見ようとしなかった。

 「さあ、家に行きましょう。ここは暑いわ」
 「そ、そうだよな!」

 青嵐と紫嵐が俺に挨拶し、士王が俺に抱き着いて来る。
 桜花たちも俺に挨拶するが、どこかよそよそしい。
 まずい……
 子どもたちが荷物を持ち、家に向かって歩いた。
 栞は鷹と仲良く話している。
 俺には振り向きもしなかった。
 俺は士王の手を引いて一緒に歩いた。
 こいつは普段通りなのだが。

 「……」

 リヴィングにみんな集まる。
 栞が懐かしそうに周囲を見ている。
 本当に久し振りにここへ来たのだ。
 思えば、もっと呼んでやれば良かったと思った。
 いろいろと理由はあるが、決して出来ないことではなかったはずだ。
 虎蘭のことを話そうとする緊張の中で、俺はそういうことを考えていた。
 子どもたちが栞のお腹を見て騒いでいる。
 ロボがポンポンする。
 誰も飲み物の用意をしない。

 「おい、誰か紅茶を……」
 「自分でやりなさいよ」
 「……」

 完全に不味い。
 既に俺の計画は崩れ去り、必死に言い訳を高速思考していた。
 そうしながら、俺が紅茶を淹れる。
 全員に配りながら、栞に話しかけようとした。

 「あのさ……」
 「私、日本茶が良かったな」
 「!」
 「じゃあ、私が淹れますね。桜花たちは?」
 「私たちは紅茶で結構です」
 
 鷹がキッチンに入った。
 俺の紅茶は栞が手を伸ばして遠くに離された。

 亜紀ちゃんたちは何事も無かったかのように栞や士王、桜花たちと楽しく話している。
 と言うか、栞の態度を見てそれに合わせている。
 これも石神家のノリだ。
 俺は誰とも話せず、仕方なく椅子に座った。
 鷹が栞の前に日本茶を置いた。
 一口すすり、栞が俺を睨んでいる。
 言わねばなるまい。

 「栞、話があるんだ」
 「ふーん」
 「実は、石神家の虎蘭と……」

 「アハハハハハ!」

 突然栞が大笑いした。
 鷹も笑っている。
 亜紀ちゃんたちもニコニコしていた。

 「ねえ、みんな見た? この人、本当に困った顔してるでしょ!」
 「おい、栞」
 「もう! いいわよ、あなたのことなんだから」
 「え?」
 「麗星さんから聞いてる。聞いた瞬間はあのヤロウと思ったけど、すぐに何でもなくなったわ。虎蘭さんのことは知っているもの。あなたを一心に愛していたでしょ?」
 「おい、それは……」
 「アラスカで初めて会った時にね、私に挨拶して来たの」
 「え?」
 
 全然知らなかった。
 最初ということは、皇紀と風花の結婚式か。

 「真直ぐな人ね。私に、あなたのことを愛しているのだって言ってた」
 「そうなのか?」

 何故、虎蘭は栞に話したのか、それは何となく分かる。
 栞が最初の妻だからだ。
 六花や鷹には話していないだろう。
 あの時の虎蘭は、俺の妻になりたいとは考えていなかったに違いない。
 それに、もしかすると、今でもそう思っているかもしれない。
 ただひたすらに、俺を愛しているだけなのだ。
 栞は俺の考えをなぞるように話した。

 「うん。その時は、どういう関係になりたいとも考えてはいなかったみたい。でも、自分にその気持ちがあるってことを私に伝えたかったのね」
 「それで、お前はどうしたんだ?」
 「え、別に何も。だって、そういう女は幾らでもいるじゃない。あなたが受け入れるかどうかだけよ」
 「そうだったのか」
 「あのね? もちろんいい気持ちじゃないわよ!」
 「す、すまん!」
 
 栞が大きくため息をつき、そして笑った。

 「もういいんだって。あなたが受け入れたのなら、それでいいの。私や鷹への愛が薄れるわけじゃないでしょう?」
 「もちろんだぁ!」
 「じゃあいい。もうこの話はお仕舞」
 「石神先生、私も同じです。私も麗星さんから聞いてましたし」
 「そうなの?」
 「はい」

 そういえば麗星は、隠し事をしない女だ。
 もちろん、秘密は守るし俺が頼めば話さない。
 そうだ、俺も何も麗星には止めることは無かったのだ。
 麗星は俺の他の妻とも親しく付き合っていきたいと考えている。
 ならば、当然話すだろう。
 虎蘭との関係は、隠すべきものではない。
 俺の愛する女の一人だということだ。

 亜紀ちゃんたちがニコニコして俺を見ていた。
 こいつらも知っていたということか。
 まったく。

 柳はまた複雑そうな顔をしている。
 それを見て栞が言った。

 「柳ちゃん。あなたも受け入れて。もう、こういう人なんだから」
 「そうですね」
 「ね?」
 「は、はい!」

 柳が明るい顔になった。
 まあ、複雑なのだろうが、心を決めたようだ。
 栞に頭を下げた。
 栞が微笑んで俺を見た。

 「私がいない間、士王や桜花たちをよろしくね」
 「ああ、任せろ!」
 
 桜花たちは一応交代で栞の傍に一人ずつ付くことになっている。
 でも、基本的にしばらく俺の家で暮らす。
 
 「ああ、またあの病院に戻れるんだ。楽しみだよ」
 「そうか。一江や大森もいるし、院長も楽しみにしているよ」
 「響子ちゃんもね。ああ、今は茜さんと葵さんもいるんだよね?」
 「そうだ。みんな宜しく頼む」
 
 栞の病室は響子の部屋の近くにしてある。
 いろいろな意味で特別な人間だからだ。
 士王は基本はこの家で子どもたちと暮らし、随時栞の病室へも行く。
 移動は子どもたちもいるし、桜花たちも運転は出来る。
 栞が遠ざけていた紅茶を手元に戻し、飲み始めた。
 俺は嬉しくなって栞の背中を抱いた。

 「私が出産する前に」
 「はい?」
 「虎蘭に会いたいわ」
 「!」

 栞の顔が見れなかった。
 やっぱコェえよー!
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