上 下
2,670 / 2,806

未来への希望

しおりを挟む
 俺が眠りに付きその後の忙しさもあったため、大事なことが通り過ぎ、また目前となっていた。
 保奈美や諸見と綾の弔いがあり、喫緊の問題として俺と聖がいない間の防衛体制の構築、そして新たな作戦の準備、世界中で勃発している戦乱の対処。
 誰もが忙しく動き回り、全て上手く対処してくれた。
 そして俺の私的なことでも大きな変化が進んでいた。
 出産ラッシュだ。

 まず、皇紀と風花に子どもが生まれた。
 7月初旬のことだ。
 すぐに六花と双子が行き、祝っている。
 その後「紅六花」の連中も顔を出し、更に世界中から祝いの品が届いて大変だったようだ。
 俺も案内され見せてもらったが、膨大な量だ。
 あのアラスカでの結婚式の影響だ。

 「ワハハハハハハハ!」
 「広い家で良かったです」
 「ワハハハハハハハ!」

 7月の中旬に身体が動くようになって、俺は大阪へ行き、二人の子どもたちに会った。
 他の子どもたちは既に行っているので、今回は同伴しない。
 まだ俺の体調が万全ではなく、「タイガーファング」で行った。
 青嵐の操縦で、護衛にまた虎蘭が付いた。
 二人に似て可愛らしい子どもたちだった。
 男女の双子で、世間的には男児が先に生まれたことにされることが多かった。
 だが、皇紀と風花は実際に生まれた順に従った。
 先も後も兄も姉も無いのだ。
 二人にとっては大切な、愛する子どもたちでしかない。
 風花も家に戻っており、双子を見せてもらった。
 とにかく皇紀が嬉しそうだった。
 すぐに俺に二人の子どもを抱かせてきた。

 「お前、ルーとハーが大好きだからな」
 「エヘヘヘヘヘ」
 「風花、こいつがデレ過ぎないように頼むな」
 「はい!」

 虎蘭も生まれたばかりの双子を見て、喜んでいた。
 やはりこいつも「女」なのだ。
 普段は荒くれのような面も見せるが、やはり芯には優しい慈愛の心がある。
 まあ、石神家はみんなそんなだが。

 「おい、虎蘭。石神家の人間って子どもの頃は何やって遊ぶんだよ?」
 「え、普通ですよ?」
 「だから、お前らの普通ってよく分かんねぇんだよ!」
 「?」

 虎蘭は困ったような顔をして、スマホを取り出して虎白さんに聞くと言った。

 「ますます分かんねぇから、もういいや」

 皇紀と風花が笑い、虎蘭も笑った。
 まあ、自分の正常を証明するっていうのは意外に難しいものだ。

 皇紀と風花は一人ずつ子どもを抱いて、虎蘭に順番に抱かせた。
 俺が抱き方を教えると、虎蘭は嬉しそうな顔で二人を抱いてあやした。
 遠慮する青嵐にも抱かせて、幸せそうな顔をしていた。
 皇紀と風花は若い二人だが、子育ては周囲の人間に助けてもらいながら何とかやるだろう。
 部屋には育児書が何冊もある。
 風花が、六花から良いものを送ってもらったのだと言っていた。
 俺が見ると、付箋が沢山ついていた。
 「絶怒」の連中も結婚している者も多いし、風花は様々な人間に慕われている。
 ご近所にも親しい人間も多く、「梅田精肉店」でももちろん風花は大事にされている。
 皇紀は、まあ子どもを愛することに関しては何の不安も無い。
 こいつならば、何があっても必ず何とかするだろう。
 それに野薔薇もいる。
 それに……

 「お父様ぁー!」

 外へ出掛けていた二人が入って来た。

 「おう、野菊か!」
 「お会い出来て嬉しく思いますぅー」
 「俺もだ。皇紀たちを宜しくな」
 「はいぃー! お姉さまと一緒に御守り致しますぅー」
 「おう!」

 タヌ吉の二人目の子だ。
 「野菊」と名付けた。
 野薔薇と同じく、異常に美しく、そして愛らしい娘だ。
 俺に対して絶対にして絶大な愛情を持っていることが分かる。
 だから俺も、本当に愛らしく思っている。
 麗星に、妖魔の子について聞いたが、生憎麗星も詳しくは無かった。
 妖魔と人間の間に子をなすことは過去にもあったようだが、ほとんどが生まれると人間とは離れるようだ。
 家族として長く人間の傍にいることは、前例が無いそうだ。
 しかも、人間の命ずるままに他の人間を護るなどとは。
 俺に甘えて縋る野菊の後ろで、野薔薇が微笑んでいた。
 妖魔にそういう感情があるのかは分からんが、「妹」に俺を譲っているという感じか。
 俺は野薔薇を手招いて抱き締めてやった。

 「野薔薇、最近はうちに来ないじゃねぇか」
 「すみません。風花ちゃんに子どもが生まれたので忙しく」
 「忙しいったって、皇紀もいるし、デュールゲリエたちもいるだろう?」
 「いいえ、何と言っても大きな光の子なので」
 「え?」
 「幼い時に狙ってくる輩も多く。それに「業」の方でも以前の偵察程度から、徐々に攻性を帯びたものに変わって来ております」
 「そうなのか」

 光の子ってなに?
 「業」の動きについては、俺も霊素観測レーダーなどで把握している。
 確かに風花の妊娠以降、近寄る数が増えてはいるようだ。
 だが、野薔薇たちによって即座に消されている。

 「じゃあ結構大変だな」
 「いいえ、それほどでも。でも、いつ強力な奴が来るかもしれませんので」
 「そっか。じゃあ、頼むな。でも短時間でもいいから会いに来てくれよ」

 野薔薇の顔がパッと輝いた。
 俺を抱き締める腕に力が入った。

 「お父様!」
 「お前の顔を見たいんだよ。もっと野菊と一緒に来てくれないか?」
 「はい! 是非に!」

 野薔薇が俺に嬉しそうな顔を向けて喜んだ。
 こいつが言うのだから、本当にまあ、いろいろやってくれているらしい。
 妖魔は嘘を言えない。
 まあ、野薔薇と野菊が何をどうやっているのかは全然知らんが。

 あまり長い時間はおらず、皇紀たちの家(?)を出て京都の道間家にも寄った。
 麗星に虎蘭を紹介し、また天狼、奈々、夜羽にも会わせた。
 虎蘭がまた嬉しそうに三人の子どもに挨拶した。
 天狼が虎蘭を見て、尊敬の眼差しで言った。

 「虎蘭様は相当お強い方ですね」
 「まだまだですよ」
 「素晴らしい方とお会い出来ました。これからもよろしくお願いします」
 「こちらこそ。天狼さんも相当ですね」
 「いいえ、こちらこそまだまだです。早く父上のお役に立ちたいと思っております」
 「そうですか」

 虎蘭は一人前の人間に対するように話していた。
 奈々は甘えるばかりだったが、虎蘭を少しばかり警戒しているようだった。

 「奈々、どうした?」
 「うーん、この方には敵いませんね」
 「おい、何やろうとしてんだよ!」
 「エヘヘヘヘヘヘ」

 そういう警戒だった。

 「虎蘭、こいつ、五平所をぶっ殺しそうな悪戯ばかりでよ」
 「え?」

 俺が数々の奈々の悪戯を話すと、虎蘭が爆笑した。

 「いい鍛錬になりそうですね!」
 「お前よ……」
 「虎蘭様、是非我が家へ」

 五平所がマジな顔で虎蘭に頼んで、みんなが笑った。
 道間家でまた美味い食事をもらい、家に戻った。





 貴い命が喪われ、そして新たな命がこの世に生まれる。
 生転流転は無常であり、恩寵だ。
 俺たちは、そういう世界にいるのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...