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夢のあとに Ⅲ
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体調をある程度戻した俺は、家には帰らずに一度アラスカへ行った。
諸見と綾がアラスカへ運ばれていたからだ。
諸見と綾の葬儀は「虎」の軍の「軍葬」となっていた。
俺が目覚めない間に、ターナー大将が中心となり大々的に行なわれたのだ。
本来は総司令官である俺が直々に執り行うべきことであった。
しかし、ターナー大将は俺が諸見と綾の死を知って取り乱すことを考えてくれたのだろう。
俺が意識を喪っている間に、全てのことを終わらせておいてくれたのだ。
俺の子どもたちも参列し、アラスカへ戻っていた栞と士王も参列した。
アラスカで多くの人間が希望して式に出て、諸見と綾の献身によりパムッカレ基地が救われたことが知らされた。
保奈美を護ろうとしていたことは伏せられた。
俺の個人的な人間だったためだ。
千両が日本から諸見を知る千万組の人間たちを連れて来た。
他にも大勢の人間が式に出たと聞いた。
あの寡黙で人と接するのが大の苦手だった男が、これほどの人間に慕われていたのかと多くの人間が驚いていた。
諸見は元々他人から慕われる人間ではあったのだが、綾との出会いからそれがますます表に出て来た。
綾のお陰でよく笑顔を作るようになり、口下手ながら他人と話すようにもなった。
本来の諸見はいつも他人のために何かをしたがる、真面目な優しい男だった。
それが慕われる根底になっていたが、綾が諸見を少し明るくさせた。
それでも、まあ口数の少ない男のままだったが。
だから面白おかしく付き合った人間は少ないが、多くの者が諸見を認め慕っていた。
大勢の参列者が諸見と綾のために泣いた。
惜しい男を亡くしたとは全員が思ってはいたが、それ以上に諸見が勇敢にわが身を捨てて「虎」の軍を護ったということが皆の胸に響いた。
そして諸見を支え、愛し、諸見の最期にも一緒に戦って散った綾のことも、全員が誇らしく胸に秘めた。
デュールゲリエではあったが、全員が綾のことを人間と同じく思っていた。
諸見と綾との愛は、「真の愛」として全員の胸に仕舞われた。
葬儀の後、諸見と綾の遺体はしばらく「虎の穴」の特別ホールに置かれた。
毎日大勢の人間が弔問に訪れた。
軍の関係者以外の人間も、諸見のことを知り立ち寄ってくれた。
大きな広間が充てられていたが、いつまでも花で埋め尽くされていたと聞く。
俺がアラスカに行った時、諸見と綾の遺骨は俺が建てた《アヴァロン》の「虎大聖堂」の一室に置かれていた。
諸見と綾の大きな写真の前に、二つの棺が並べられている。
中には、全員が一生懸命に集めた諸見の肉体の遺灰と、綾の身体の部品や髪が収められている。
今は別々になっているが、俺は墓に入れる時には一緒にしようと思っていた。
俺は自分でも不思議なほど、諸見たちの前で取り乱すことは無かった。
亜紀ちゃんが心配してずっと俺の傍にいたが、俺が落ち着いて経を唱え線香を焚くのを黙って見ていた。
「タカさん、大丈夫ですか?」
「ああ。まあ、あいつらがいなくなったというのは、まだ実感が湧かないけどな」
「そうですね」
「諸見も綾も、精一杯に生きた。それだけは分かってるんだ」
「はい、そうですよね」
もちろん悲しい気持ちはある。
でも、俺には諸見がどんな気持ちで最後の戦いを挑んだのかがよく分かっていたのだ。
そして綾の心も。
愛する諸見と一緒に死ぬということが、綾の最高の幸せになった。
そう信じたい。
蓮花が綾の最後の言葉を俺に聴かせてくれた。
「諸見さん、愛しています。今まで本当に幸せでした。愛しています!」
その言葉は口からは発することは無かった。
危急の状況で、諸見と綾は瞬時に心を通わせ、自分たちがやるべきことを決めていた。
綾は最後の思考でそう叫んで散華したのだ。
その記録は蓮花の元へ伝わり、保存されていた。
諸見の最終奥儀を最大限に発揮させるために、綾は自分が閃光となって輝いた。
諸見も綾のその心を感じていたに違いない。
綾の最後と共に、自分の最大の技を撃ち、そして自分も散って行った。
最高の愛であり、最高の人生だ。
俺は諸見と綾の遺体の前に立ち、その言葉を思い出し初めて涙を流した。
亜紀ちゃんが俺の肩をそっと抱き寄せた。
俺も言葉を発することは無かった。
俺は諸見と綾の遺体をどこに葬ろうかと考えていた。
ターナー大将などは、「ヘッジホッグ」に特別な霊廟を作りたいと言っていた。
「虎」の軍にとって、この上ない勇敢な戦士の最期だったからだ。
こういう言い方は嫌なのだが、ターナー大将はその霊廟が今後の軍の支えとなってくれると考えていた。
もちろん、俺もその気持ちはよく分かる。
それでも、俺は諸見たちがどういう葬り方が良いのかを考え続けていた。
諸見と綾を知るいろいろな人間に話を聞いて行った。
東雲や月岡、ジェイたち。
特に東雲は一番長く諸見と付き合っている。
俺の家の増築の頃からだったのだ。
綾と一緒に暮らすようになってから、もっと多くの人々が諸見と親しくなっていった。
その中で、川尻という元千万組の男が諸見と仲が良かったようだ。
東雲に諸見が自動車の運転をしたいと頼んだ時、川尻が実際に諸見に運転技術を教えたそうだ。
その縁で、諸見と川尻は親しくなり、諸見が個人的に一緒に食事をしたりする、数少ない友人となった。
その川尻から聞いた。
「諸見と綾が最初にドライブに行く時にですね。自分が知っている綺麗な花の咲いている場所を教えたんです」
「それはどこなんだ?」
俺は直感で、その場所がいいだろうと思っていた。
川尻にその場所へ案内してもらった。
諸見と綾がアラスカへ運ばれていたからだ。
諸見と綾の葬儀は「虎」の軍の「軍葬」となっていた。
俺が目覚めない間に、ターナー大将が中心となり大々的に行なわれたのだ。
本来は総司令官である俺が直々に執り行うべきことであった。
しかし、ターナー大将は俺が諸見と綾の死を知って取り乱すことを考えてくれたのだろう。
俺が意識を喪っている間に、全てのことを終わらせておいてくれたのだ。
俺の子どもたちも参列し、アラスカへ戻っていた栞と士王も参列した。
アラスカで多くの人間が希望して式に出て、諸見と綾の献身によりパムッカレ基地が救われたことが知らされた。
保奈美を護ろうとしていたことは伏せられた。
俺の個人的な人間だったためだ。
千両が日本から諸見を知る千万組の人間たちを連れて来た。
他にも大勢の人間が式に出たと聞いた。
あの寡黙で人と接するのが大の苦手だった男が、これほどの人間に慕われていたのかと多くの人間が驚いていた。
諸見は元々他人から慕われる人間ではあったのだが、綾との出会いからそれがますます表に出て来た。
綾のお陰でよく笑顔を作るようになり、口下手ながら他人と話すようにもなった。
本来の諸見はいつも他人のために何かをしたがる、真面目な優しい男だった。
それが慕われる根底になっていたが、綾が諸見を少し明るくさせた。
それでも、まあ口数の少ない男のままだったが。
だから面白おかしく付き合った人間は少ないが、多くの者が諸見を認め慕っていた。
大勢の参列者が諸見と綾のために泣いた。
惜しい男を亡くしたとは全員が思ってはいたが、それ以上に諸見が勇敢にわが身を捨てて「虎」の軍を護ったということが皆の胸に響いた。
そして諸見を支え、愛し、諸見の最期にも一緒に戦って散った綾のことも、全員が誇らしく胸に秘めた。
デュールゲリエではあったが、全員が綾のことを人間と同じく思っていた。
諸見と綾との愛は、「真の愛」として全員の胸に仕舞われた。
葬儀の後、諸見と綾の遺体はしばらく「虎の穴」の特別ホールに置かれた。
毎日大勢の人間が弔問に訪れた。
軍の関係者以外の人間も、諸見のことを知り立ち寄ってくれた。
大きな広間が充てられていたが、いつまでも花で埋め尽くされていたと聞く。
俺がアラスカに行った時、諸見と綾の遺骨は俺が建てた《アヴァロン》の「虎大聖堂」の一室に置かれていた。
諸見と綾の大きな写真の前に、二つの棺が並べられている。
中には、全員が一生懸命に集めた諸見の肉体の遺灰と、綾の身体の部品や髪が収められている。
今は別々になっているが、俺は墓に入れる時には一緒にしようと思っていた。
俺は自分でも不思議なほど、諸見たちの前で取り乱すことは無かった。
亜紀ちゃんが心配してずっと俺の傍にいたが、俺が落ち着いて経を唱え線香を焚くのを黙って見ていた。
「タカさん、大丈夫ですか?」
「ああ。まあ、あいつらがいなくなったというのは、まだ実感が湧かないけどな」
「そうですね」
「諸見も綾も、精一杯に生きた。それだけは分かってるんだ」
「はい、そうですよね」
もちろん悲しい気持ちはある。
でも、俺には諸見がどんな気持ちで最後の戦いを挑んだのかがよく分かっていたのだ。
そして綾の心も。
愛する諸見と一緒に死ぬということが、綾の最高の幸せになった。
そう信じたい。
蓮花が綾の最後の言葉を俺に聴かせてくれた。
「諸見さん、愛しています。今まで本当に幸せでした。愛しています!」
その言葉は口からは発することは無かった。
危急の状況で、諸見と綾は瞬時に心を通わせ、自分たちがやるべきことを決めていた。
綾は最後の思考でそう叫んで散華したのだ。
その記録は蓮花の元へ伝わり、保存されていた。
諸見の最終奥儀を最大限に発揮させるために、綾は自分が閃光となって輝いた。
諸見も綾のその心を感じていたに違いない。
綾の最後と共に、自分の最大の技を撃ち、そして自分も散って行った。
最高の愛であり、最高の人生だ。
俺は諸見と綾の遺体の前に立ち、その言葉を思い出し初めて涙を流した。
亜紀ちゃんが俺の肩をそっと抱き寄せた。
俺も言葉を発することは無かった。
俺は諸見と綾の遺体をどこに葬ろうかと考えていた。
ターナー大将などは、「ヘッジホッグ」に特別な霊廟を作りたいと言っていた。
「虎」の軍にとって、この上ない勇敢な戦士の最期だったからだ。
こういう言い方は嫌なのだが、ターナー大将はその霊廟が今後の軍の支えとなってくれると考えていた。
もちろん、俺もその気持ちはよく分かる。
それでも、俺は諸見たちがどういう葬り方が良いのかを考え続けていた。
諸見と綾を知るいろいろな人間に話を聞いて行った。
東雲や月岡、ジェイたち。
特に東雲は一番長く諸見と付き合っている。
俺の家の増築の頃からだったのだ。
綾と一緒に暮らすようになってから、もっと多くの人々が諸見と親しくなっていった。
その中で、川尻という元千万組の男が諸見と仲が良かったようだ。
東雲に諸見が自動車の運転をしたいと頼んだ時、川尻が実際に諸見に運転技術を教えたそうだ。
その縁で、諸見と川尻は親しくなり、諸見が個人的に一緒に食事をしたりする、数少ない友人となった。
その川尻から聞いた。
「諸見と綾が最初にドライブに行く時にですね。自分が知っている綺麗な花の咲いている場所を教えたんです」
「それはどこなんだ?」
俺は直感で、その場所がいいだろうと思っていた。
川尻にその場所へ案内してもらった。
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