上 下
2,660 / 2,808

愛の旅路 Ⅲ

しおりを挟む
 俺も一人前として認められるようになり、徐々に第一外科部のホープと認められて行った。
 修行は蓼科部長自らのオペの技術習得に移って行った。
 「奇跡の外科医」として世界中に知られている蓼科部長のオペの手腕は、俺にとって最高の修行となった。
 一切の淀みなく動いて行く両手。
 患部への果敢な執刀。
 美しさと荘厳さが重なった見事なオペだった。
 その蓼科部長の直接の指導により、それが俺にも宿りつつあった。

 「お前ならばと思っていたよ」
 「まだまだです!」
 
 毎回笑って俺のオペを褒める蓼科部長に、本当に自分の未熟さを毎回感じていた。





 蓼科部長の直接指導が終わり、俺は保奈美にプロポーズした。
 まだ自分では未熟さを痛感してはいたが、蓼科部長からそろそろけじめを付けろと言われた。
 俺もこれ以上保奈美を待たせるつもりもなかった。
 サンシャイン60の最上階の会員制のバーラウンジ。
 二人で豪華な食事とワインを楽しんだ。
 そして保奈美にプロポーズし、指輪のケースを見せた。
 20カラットのダイヤモンドの婚約指輪を奮発した。
 途端に保奈美が涙を零す。

 「トラ!」
 「待たせてしまったな。保奈美、俺と結婚してくれ」
 「喜んで! 私からもお願いします!」
 「ああ、宜しくな!」

 翌日、蓼科部長に報告すると喜んで下さった。
 数日後にはわざわざお宅にまで呼んでくれ、奥さんの静子さんと一緒に祝って頂いた。
 蓼科部長のお宅には、何度も保奈美も連れて来ている。
 俺だけの時はその数倍あり、ほとんど家族のように接して下さっていた。
 お二人が本当に嬉しそうに祝って下さった。
 
 「お前もやっと結婚か」
 「はい、お猿の怖い人がなかなか一人前にしてくれなかったんで」
 「なんだ、石神!」
 「まあまあ」
 
 静子さんが大笑いしながら止めてくれた。
 保奈美は笑いを堪えていた。
 蓼科部長は病院内でも相当偉い人だ。
 笑っちゃまずい。
 蓼科部長を茶化すのは、俺だけの特権だった。
 
 山口のお袋にも報告し、保奈美と二人で挨拶に行った。
 お袋も保奈美のことは知っていたので、喜んでくれた。
 南原さんたちも喜んでくれ、歓待された。
 二泊させてもらい、保奈美は南原さんや陽子さんと左門とも仲良くなれた。
 一緒にゴルフまでさせてもらい、保奈美はどんどん上手くなったが、俺はまあ酷いもんだった。
 練習場で南原さんが丁寧に指導してくれたが、思い切り打ったボールが真上の鉄骨に跳ね返り、後ろの左門の顔スレスレをぶっ飛んで行った。
 みんなが引き攣りながらも笑ってくれた。

 「コースに出るのは、また今度にしようか」
 「そうして下さい」

 陽子さんがマジで大笑いしていた。

 結婚式では蓼科部長夫妻が仲人を引き受けてくれ、大勢の人たちに祝われた。
 御堂や山中、花岡さんも参列してくれ、「ルート20」の連中も呼んだ。
 一種異様な奴らだったが、精一杯に俺たちを祝う姿に、他の出席者たちも笑顔になってくれた。
 茜と武市が終始大泣きで、槙野とイサはそれ以上に泣いていた。
 井上さんが俺たちの家を建ててやると言い、天丸はタイマンを俺に申し込み、無茶苦茶だった。
 御堂が友人代表の挨拶をしてくれた。
 聖まで来てくれた。
 他人と慣れないあいつが、御堂や山中とも楽しそうに話していた。
 上機嫌だった。
 お袋はずっと嬉しそうに笑っていた。
 そうすることが出来て、俺も嬉しかった。
 俺と保奈美は結婚し、幸せな結婚生活を送った。

 しばらくは俺のマンションで生活し、いずれ家を建てようと話し合った。
 俺も保奈美も毎日幸せだった。
 茜がよく遊びに来て泊って行った。
 昔以上に保奈美に夢中で、茜が来ると家の中が一層明るくなった。

 「お前、よく大型免許を取ったよなぁ」
 「はい! 女将さんのお陰なんですよ!」

 茜の驚くべき定食屋の話を聞き、俺も保奈美も大笑いしながら感心した。
 「ルート20」の他の連中もよく遊びに来たし、俺たちも連中の所へ遊びに行った。
 保奈美と二人の時にも、いつだって楽しく話した。
 昔の思い出も幾らでもあり、また病院での話も多かった。
 
 「ねえ、新しくオペ看に配属された峰岸鷹さんって、物凄くガッツがあるの!」
 「ああ、知ってるよ」
 「顔立ちも綺麗だしね。それにね、トラのことを神様みたいに崇拝してるのよ?」
 「え、俺を?」
 「うん! トラが鷹の最初のオペ室作りを手伝ってあげたんでしょ?」
 「まあ、あれは他の新人ナースにもやってるけどな」
 「それに、オペの時にもいろいろ気遣ってくれたんだって」
 「あいつは頑張ってるからな。実家が有名な料亭じゃない。そこを飛び出してナースになりたいって奴だからな。根性が違うよ」
 「うん、私もそう思う。楽しみだよ」

 保奈美も鷹のことを気に入って、可愛がるようになった。
 鷹も保奈美に懐いていた。
 やがて蓼科部長が院長に就任することになり、俺は第一外科部長に推薦された。

 「トラ! スゴイじゃない!」
 「いや、断るつもりだよ。斎木先輩とかいるしさ」
 「え、断っちゃうの?」
 「俺は出世には興味ないしな。斎木さんの方が相応しいしよ」
 「そうなんだ」

 保奈美はそれ以上何も言わなかったが、この件は蓼科部長が強く推し、ついに俺の昇進が決まった。

 「何度も断ったんだけど、あのおサルは強硬でよ」
 「いいじゃん! 期待されてんだから、それに応えないと!」
 「まあ、そうか」
 「そうだよ! ねぇ、お祝いしなきゃ!」
 「えー、別にいいよー」
 「ダメだって! あたしが仕切るからね!」
 「おい、あんまし大げさにしないでくれな」
 「えーと、御堂さんでしょ。あとは」
 「御堂は忙しいよ」
 「聞いてみるから! 山中さん、花岡さん、あとは鷹と、あー、トラを慕ってる人は多いから、結構な人数になっちゃうなー」
 「だからぁ!」
 「ウフフフフフ」

 銀座のエスコフィエを貸し切って豪華な昇進祝いになった。
 俺は恥ずかしかったが、みんなが喜んでくれ、やって良かったと思った。
 ブサイクな一江が隅で暗かったので、俺が引き寄せていろんな話をした。
 俺の右腕にするとみんなの前で言うと、一江が青い顔をしていた。
 斎木が拍手をし、全員が祝った。
 一江が泣いた。




 俺たちは、明るい未来に向かっていることを実感し、本当に幸せだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...