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パムッカレ 緊急防衛戦 XⅠ

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 「諸見さん! アラスカから緊急入電です!」
 「どうしたんですか!」

 夜の23時過ぎ。
 そろそろ寝ようかと思っていた時に、綾さんが叫んだ。

 「すぐにパムッカレ基地へ! ここに「業」の大規模な攻勢のようです!」
 「なんですって!」

 綾さんは常にアラスカや他の場所と交信している。
 緊急で通信が入ったのだ。
 状況的には、「業」のゲートが観測されたのだろう。
 それ以外の進軍であれば、もっと早期に発見しているはずだ。
 すぐに家を飛び出し、「飛行」でパムッカレ基地へ向かった。
 基地は既に厳戒態勢であったが、自分と綾さんはすぐに中へ入れてもらった。
 綾さんが既に自分たちが基地へ向かっていると知らせてくれたのだろう。
 状況はすぐに、月岡さんに付いている、元千万組の方々が教えてくれた。
 やはり、ゲートが開いたようだ。

 「現在、敵は東40キロの地点だ。デュールゲリエが殲滅戦装備で攻撃を開始した。お前の情報のお陰で、アラスカからの救援部隊も既に編制されていて、こっちへ向かう準備をしてくれている」
 「そうですか!」

 綾さんが気付いてくれた情報から、月岡さんが手配してくれていたのだ。
 自分などの言葉をちゃんと受け止めてもらえて嬉しい。

 「デュールゲリエたちがゲートを攻撃しながら食い止めてはいるが、何しろ妖魔の数が多い。100億が進軍することが分かっている。15分後にはアラスカから救援チームが来るが、ギリギリだ」
 「分かりました! 自分も防衛に加わります!」
 「ああ、頼む。今は少しでも戦力が欲しい」
 「はい!」

 すぐに「Ωコンバットスーツ」を借りて防衛戦に加わった。
 ジェイさんが指揮を執っているが、100億もの妖魔は尋常ではない。
 この基地でも危ういのは分かる。
 しかしこの基地を喪うわけにはいかない。
 フィリピンと共に、アジアで最初に築いた拠点なのだ。
 自分も石神さんたちと、ジャンダルマの勇敢な警官たちとの友情は聞いている。
 何としてもここを護らなければ。

 「諸見さん、傍にいさせてください」
 
 綾さんが隣に立った。
 綾さんも殲滅戦装備を身に付けている。
 自分には予感があった。

 「綾さん、自分の傍を離れないで」
 「はい!」

 綾さんが嬉しそうに笑った。
 最高の笑顔だった。
 自分も笑った。
 自分と綾さんは、パムッカレの住民の避難誘導を頼まれた。
 まだ敵は街に入っていない。
 今のうちに、基地内へ出来るだけ多くの避難民を入れなければ。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「諸見の言った通りになったな」
 「はい、助かりました」

 予想外の急襲になるはずだったが、幸いにも、諸見の情報で念のために組んでいた防衛計画が役だった。
 ゲートの初期反応に対応し、すぐに殲滅戦装備のデュールゲリエを出動させることが出来たのだ。
 あの情報が無ければ、ゲート出現と同時の攻撃が間に合わなかった。
 「業」の軍への対応は、ゲート出現時に如何に速くゲートを攻撃するかに掛かっている。
 実際、偶然にも北海道の「悪魔島」ではそこにいたディアブロたちが出現と同時にゲートを攻撃し、大戦果を挙げた。

 「月岡、救援は間に合うかな」
 「分かりません。でも、ジェイさん、俺たちのやることは一緒ですよ」
 「そうだな!」

 俺は不敵に笑う月岡を頼もしく思った。
 諸見の情報を共有していたものの、流石に常駐軍を置くわけには行かなかった。
 いつ他にも強襲があるか分からないからだ。
 実際、このパムッカレ基地の他に、西安と蓮花研究所に《刃》が出現している。
 タイガーと石神家が対応するので、救援チームは全部こちらへ回してもらえそうだが。

 ジェヴォーダンやバイオノイドは問題ない。
 しかし、100億もの妖魔は相当きつい。
 応援が到着するまでもたせるのも、ギリギリだろう。
 今はデュールゲリエたちが必死に攻撃して、少しでも侵攻を遅らせてくれている。
 但し、タイガーの命令で、デュールゲリエたちに特攻「桜花」は使わせないようにされている。
 だから本当に危険な場面になれば、デュールゲリエたちも後退することになる。
 そうなれば本格的な攻防となり、俺たちはジリ貧になるに違いない。
 俺は基地内の防衛機構を再編成し、防衛戦に備えた。
 まだデュールゲリエの損耗は殆ど無いが、後退命令をいつ下すかが重要になるだろう。
 戦力を維持しながら、最も良いタイミングで呼び戻さなければならない。
 今はゲートを攻撃しながら、出て来る膨大な数の妖魔を駆逐出来ている。
 しかし徐々に溢れ出す妖魔の数も増しており、ゲート攻撃も困難になって行く。

 「妖魔の撃破が2%を超えました! デュールゲリエを呼び戻しますか?」
 「まだだ!」

 2億も斃して、まだこの数字だ。
 本当に厳しい。
 まあ、デュールゲリエの戦闘力が格段に上がったことの証でもあるのだが。
 2000体のデュールゲリエたちが、戦闘開始3分で一人当たり10万もの妖魔を屠っているのだ。
 実際には5マンセルで行動し、各チームごとに2000の《スズメバチ》を操っている。
 《スズメバチ》の攻撃とデュールゲリエ本体の攻撃の成果だ。
 量子コンピューターが戦略支援をしていることが大きい。
 常に最良の攻撃パターンで駆逐している。
 
 「《地獄の悪魔》、前に出てきます!」
 「街の避難状況は!」
 「全体の70%! ジャンダルマも協力していますが、外周にまだ多くの人間が!」
 「仕方ねぇ! 急がせろ!」
 「はい!」

 状況は良くない。
 ジャンダルマには、基地周辺の避難民を誘導してもらっている。
 そして外周部はソルジャーたちが向かっていた。
 街に攻撃が入った場合、ジャンダルマたちはすぐに基地に入ってもらうためだ。
 もっと日頃から避難民の誘導を訓練していれば良かった。
 俺の責任だ。
 パムッカレ基地から大型車両を全部出しているが、全然足りない。
 避難誘導の手順やルートの確立が出来ていなかったのだ。
 本当に悔やまれる。

 「よし、デュールゲリエの30%を呼び戻せ! そして避難誘導に加えろ!」
 「はい!」
 「《地獄の悪魔》に上級戦士を当たらせろ!」
 「はい!」

 どうせデュールゲリエに《地獄の悪魔》は荷が重い。

 「司令! ディアブロ・アキから連絡!」
 「繋げ!」

 来てくれたか!
 司令本部の全員の顔が輝いた。
 スピーカーから、頼もしい声が響いて来る。

 「ジェイさん! あと3分で現着します! ドラゴンレディも一緒です!」
 「おう! 助かったぜ!」
 「堪えて下さい!」
 「任せろ!」

 司令本部が湧き立った。
 これで大丈夫だ!

 「全員に通達! ディアブロとタイガーレディが3分後に来る!」
 
 すぐに全員に通信が発信された。

 「デュールゲリエを全部呼び戻せ! 避難民を総出で回収!」
 「はい!」

 デュールゲリエたちは本体が戻っても、《スズメバチ》はそのまま攻撃させる。
 3分ならば、それで何とかなるはずだった。

 戦況は刻一刻と流れて行く。
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