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パムッカレ 緊急防衛戦 X

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 霊素観測レーダーが感知した妖魔が天豪であることが判明し、すぐに天丸も探された。
 そして天丸が瀕死の傷を負っている姿で発見され、一緒にいた剣士は殺されていた。
 応急処置を施されながら、天丸は病院へ運ばれた。

 腹を裂かれ重傷だった天丸だが、命に別状はなく血管、腸と筋肉を縫い合わせて助かった。
 運ばれたのは石神家が懇意にしている病院で、外科の腕がとにかくいい。
 忙しい時には、野戦病院並に怪我人が運ばれてくることが多い。
 ほとんどが石神家だが。
 俺も信頼し、「虎」の軍の機密のものなども渡している。
 今回も「Ω」の粉末なども使用しているので、天丸の回復は早いだろう。
 「龍刀」を使われたと思われるが、それにしては両断もされずに助かった。
 脊髄まで斬られていれば、とんでもない重傷だった。
 元々頑健な奴であったこともあり、俺たちが病室へ行くと目を覚ましていた。

 「トラ……」
 「大丈夫か?」
 「済まない! 俺はとんでもないことをした!」

 天丸がベッドの上に起き上がろうとしたので、俺が押しとどめた。
 双子が両側から「手かざし」をする。
 今の動きで相当な激痛が走ったはずだが、天丸は顔もしかめなかった。
 天丸は俺を見ながら、天豪が裏切ったことを何度も詫びた。
 もう天丸も、天豪が妖魔化したことは承知している。

 「落ち着け、天丸。今回のことは全然見抜けなかった俺の責任だ」
 「何を言ってる! 俺が天豪を連れて来たんだ! 俺の責任だ!」
 「だから落ち着けって。お前は何も知らなかったんだ。「虎」の軍に入れるかどうかは俺の決断だ。お前に責は無い」
 「トラ……申し訳ない、ほんとうに……」

 天丸が泣いた。
 どれほどの激情が渦巻いているのかが分かる。
 俺は天豪に何が起きたのかを話した。
 幼い天豪が病気に冒された時に、静香さんが道間家へ連れて行ったこと。
 その時に、宇羅に騙され、天豪の身体に妖魔を埋め込まれたこと。
 それは誰にも察知されず、天豪の成長が一定に達すると発動するものだったことを。
 麗星が道間家の当主として天丸に詫びた。

 「先代の宇羅は、あの時点でもう「業」に操られていたのでございます。以前より道間家の一層の繁栄のために、宇羅はその術式を完成しておりました。ですので、その技術を天豪さんにまで」
 「……」

 天丸が声を押し殺して、血の涙を流していた。
 どれほど悔しいのか。

 「トラ、俺が必ず天豪を討つ。俺にやらせてくれ」
 「天丸……」
 「俺はお前の力になるはずだった。だけどこんなことになっちまった。本当に済まない! 必ず俺がなんとかする!」
 
 天丸は天井を見ながら血の涙を流し続けた。

 「「業」も同じなんだ」
 「なに?」
 「「業」も幼い頃に、宇羅によって妖魔を埋め込まれた。元々邪悪だった奴だ。それが更に邪悪な大妖魔と結合して、この始末だ」
 「そうだったのか」
 「俺の妻の一人、栞の弟だ。「花岡」を統括している斬は、孫の「業」を必ず殺すと言っている」
 「……」
 
 俺は天丸の髪を撫でた。

 「だけどな。元々は俺のせいなんだ」
 「なんだって?」
 「俺が「業」と出会い、あいつを覚醒させてしまった。それによって、「業」はこれほどの怪物になった。だから俺が戦っているんだ」
 「おい、トラ、お前……」

 理解の追いつかない話を聞かされ、天丸の激情が少し和らいだ。

 「6年前になるか。お前、狂犬・宇留間を覚えているか?」
 「ああ、灯油を撒いて拳銃で俺たちを襲って来た奴だな?」
 「宇留間が6年前に俺を狙って来たんだ。まあ、相当に俺を恨んでいたからな」
 「そんなことが!」
 「その時に、「花岡」の斬の命令で「業」が俺に接近して来た。命令は俺のガードだったんだがな。あいつは俺と邂逅して本来の運命に目覚めた」
 「運命だと?」
 「俺と「業」は戦う運命なんだよ。俺にもよく分からんがな」

 俺は天丸に話した。
 遙かな過去からこの地球上で何度も「業」と戦って来たこと。
 今回の戦いは過去最大になるようで、宇宙まで巻き込んだものになりかねないこと。
 天丸の理解を大きく超えてはいたが、俺は構わずに話した。
 そうすることで、天丸は落ち着いて行った。

 「なんだか、頭の悪い俺なんかには分からないよ」
 「俺だってそうだ。過去の戦いなんて言われても、俺も全然覚えちゃいねぇしな」

 天丸が呆然としている。
 俺は眠るように言い、病院を出た。
 深夜の2時になっていた。

 その時、端末にアラスカから連絡が入った。





 「西安で《刃》出現!」
 「来やがったか!」

 俺たちの準備は万端だ。
 俺はすぐに石神家の剣聖を中心とした討伐チームを編成しようとした。
 しかし、アラスカから更に連絡が来た。

 「蓮花研究所に襲撃! 西安と同じく、《刃》の霊素反応があります!」
 「なんだと!」

 予感はしていたが、やはり《刃》は複数いるのだ。
 すぐに戻って虎白さんと相談した。
 虎白さんたちにも連絡は来ている。

 「蓮花の研究所は高虎に任せてもいいか?」
 「はい、分かりました」
 「西安は俺たちでやる」
 「あの、聖も連れて行ってもらえませんか?」
 「おお、あいつか!」
 「あいつもぶっ飛ばしたいでしょうから」
 「そうだな。分かった」
 「お願いします」

 そういうことになった。
 すぐに「タイガーファング」が到着し、剣聖8人と聖、それに上級剣士と「ガンスリンガー」10名ずつが乗り込む。
 これで万全のはずだ。

 俺は一人で《刃》に対抗出来る。
 《虎星》で、それを虎白さんたちに示した。
 俺は「Ωコンバットスーツ」を着て自分で飛んだ。
 蓮花の研究所に着いてすぐ、またアラスカから連絡が入った。

 「タイガー! パムッカレの基地が襲われている!」
 「なんだと!」
 「霊素解析の結果、100億の妖魔とジェヴォーダン40体、それに続々とバイオノイドがゲートから出ている!」
 「!」

 大規模な攻撃だ。
 俺はアラスカのエマージェンシー・チームの出動を指示した。
 3か所の同時攻撃か!
 嫌な予感がする。
 南米にいる亜紀ちゃんと柳にも、パムッカレに向かうように言った。
 麗星は双子に護衛させて京都へ戻した。
 もしかしたら、あそこも襲われるかもしれない。
 《御虎》シティは大丈夫だろう。
 あとは大阪かもしれないが、皇紀と風花に任せるしかない。
 六花の故郷、フィリピン、アゼルバイジャン、そして響子。
 それぞれに連絡し、何か事態があればすぐにアラスカへ連絡するように伝えた。
 「業」め、どこまで手を拡げるつもりか。
 今は、3カ所に集中するしかない。
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