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パムッカレ 緊急防衛戦 Ⅸ

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 世界中を覆う軍事衛星「御幸」群の観測で、天豪が潜ったゲートが西安に開かれたことを知った。
 何故あの場所へ移動したのかは分からないが、俺たちが追えない場所ということかもしれない。
 恐らく、天豪が身に付けた技や情報を確実に手にするためだろう。

 俺は天豪が逃走した経緯の全てを聞いた。
 凡そ、信じられない話だった。
 俺は天丸と天豪を信頼しきっていたのだ。
 実際に天豪が遁走した今でさえも、俺があいつらを大事な仲間になると信じた自分が間違っていたとは思えない。
 虎白さんたちもそうだった。
 道間家へ連れて行った時に、麗星は詳細に天豪のことを調べたが、何も異常は無かった。
 まあ、あの時は別に何かを見つけようとしたのではないのだが。
 しかし、アラスカに連れて行った。
 あそこでは、タマが必ず精神走査をする。
 他にも強力な結界が張ってあるのだ。
 万一にも俺たちの本拠地に敵や怪しい人間を入れないためだ。
 そもそもタマが裏切り者を見逃すはずはない。

 虎水が説明した。
 数日前から天豪の様子がおかしく、だがそれがどういうことなのか誰も分からなかった。
 虎水が気付き、虎城さんも気付いていたようだが。
 でも、具体的に、何がどうおかしいとは分からなかった。
 天豪に聞いてみたようだが、当の天豪にも説明出来なかった。
 確実なのは、その時点ではまだ天豪は正常だったのだ。
 ここに据えられている霊素観測レーダーは、最高峰に鋭敏だ。
 その時点では、天豪は俺たちの仲間だったのだ。

 虎水が、天丸が言っていたという、天豪が子どもの頃に道間家へ連れて行かれた話を伝えて来た。
 病気がちだった天豪を心配し、静香さんが道間家へ頼み込んだのだと。
 その時に、当主だった宇羅に「何か」をされた。

 「その後に、天豪はすっかり丈夫になったんだな?」
 「そうらしいです」
 「まさか……」

 俺の他には怒貪虎さんと剣聖たちと虎城さん、虎水がいる。
 俺には思い当たるものがあった。
 怒貪虎さんも虎白さんも、俺の予感を理解していた。
 
 「高虎、天豪は「業」と同じことをされたんだな」
 「恐らく」
 「高虎さん、どういうことですか?」

 虎水が俺に聞いてくる。
 虎水は、俺たちの留守に大失態を犯したと自責の念でいる。
 だから俺が説明した。

 「道間宇羅は、子どもに妖魔を埋め込む術を編み出していた。弱めたパスを繋いで身体に埋め込み、成長と共に妖魔に馴染ませて行く。そうすることで普通の人間には受け入れられない強大な妖魔を身体に宿すことが出来るんだ。「業」もそうやって生み出された」
 「どうして今まで天豪は正体が隠されていたんですか!」
 「俺にも分からんが、多分、そういう術式だったんだろうよ。一定の年齢になるまで、または一定の力を手に入れるまでは、体内の妖魔も大人しくしているような、な。今、麗星をこっちに呼んでいる。詳しい話が聞けるかもしれん」

 俺はこちらへ向かおうとしている麗星に、今の話を聞かせた。
 麗星も動揺していた。
 30分後、麗星が来た。
 「タイガーファング」に乗ってだが、夜明け前のことで大変だっただろう。
 だが今はそういう状態ではない。

 後部のデッキが開き、麗星が駆け出して来る。

 「あなたさま!」
 「おう、御苦労だったな。とにかく中へ入ってくれ」
 
 麗星も慌てている。
 天豪が妖魔化して逃走したことを聞いてはいるが、まさかと思っているだろう。
 自分が見逃していた自責や、更に父親で前当主であった宇羅の所業に責任も感じている。
 俺は少し麗星を落ち着かせ、茶を淹れて飲ませた。
 ようやく麗星が話し始める。
 様々なものが錯綜していることが分かる。
 俺は昼間に天丸から虎水が聞いたという話を改めてした。

 「まさか宇羅が天豪さんにまで……」
 「ああ、俺も驚いている。静香さんは知っていたのかな」
 「いいえ、恐らくは何も。当時宇羅の傍にいた五平所が、静香さんを離れに案内していたと言っていました。五平所も、特殊な祈祷をしたと聞いていたようです」
 「そうか」

 多分、宇羅が天豪を預かり、密かにあの妖魔を埋め込む儀式を行なったのだろう。
 静香さんには隠して。
 その時には、宇羅はもう「業」に絡めとられていたのだ。
 何の目的でかは分からない。
 天豪に何らかの才能を見出したのか。
 直系の静香さんの血を色濃く引いていた天豪だ。
 宇羅にその気にさせる才能があった可能性は高い。
 それとも、他に目的があったのだろうか。
 今は何も分からない。
 
 「恐らく静香様は本当に道間家の祈祷をしたのだと解釈していたのではないかと」
 「妖魔を埋め込まれて、誰も気付かないものなのか?」
 「はい。本当に細い径で妖魔と子どもの身体を繋ぐようです。もう詳しい術式は分かっておりませんが。ですので、子どもが成長し、径が徐々に太くなるまでは」
 「ある程度の太さになると、妖魔と融合するのか?」
 「その通りでございます。もちろんその以前から少しずつ融合は始まっています。ですが、本格的に一体化するのは、14歳から20歳の頃のようです。天豪さんは今16歳でした。そして、急激に技を覚え強くなられた……」
 「そうだな」

 虎白さんが立ち上がって麗星に近づいた。

 「おい、道間の娘! 天豪は「花岡」の上級技と石神家の技を幾つか盗んで行ったんだぞ!」
 「虎白さん!」
 
 麗星が床に土下座した。

 「申し訳ございません! 本当に! この償いはなんとでも!」
 「お前ぇ! 俺たちは今、石神家の技を盗んだ敵と戦おうとしているんだぞ! それをヌケヌケと!」
 「虎白さん! これは俺の失態だ! 麗星は関係ねぇ!」
 「うるせぇ!」

 俺は虎白さんにぶっ飛ばされた。
 麗星は自分も殴って欲しそうに顔を上げ、虎白さんを睨んでいた。
 虎白さんはそんな麗星は殴らず、虎城さんと虎水を殴った。

 「てめぇら! 「魔法陣」は極秘だって言ってただろう!」
 「「すいません!」」
 
 虎水が円を描いているのを、天豪に見られたようだ。
 その時に、虎水は「究極の技」と教えてしまった。
 もちろん円を描いていただけであり、その後は離れた場所で練習していたようだが。
 でも、何かを描くことが特別な技になることを知られてしまった。
 それも俺の責任だ。
 石神家の多くの剣士に「魔法陣」を教えたのは俺なのだ。
 そのことで、一部とはいえ、敵に秘密が渡ってしまった。

 「ケロケロ」
 「はい、「魔法陣」そのものは知られていないはずです」
 「ケロケロ」
 「そうですか。まあ、今は何を言っても仕方ありませんが」

 俺たちは《刃》を斃すために、「魔法陣」を使う。
 それによって、敵にこれ以上知られるわけには行かない。
 なんとかしなければ。

 怒貪虎さんが刀を抜いた。
 一瞬で魔法陣を描き、更にその上に塗りつぶした円を描いた。
 
 『!』

 全員が理解した。
 「魔法陣」を隠す方法だ!
 虎白さんが、即座に立ち上がって叫んだ。

 「全員、今の二重の「魔法陣」をものにしろ! 急げ!」
 『オウ!』

 全員が外へ出て、鍛錬場に移動した。
 「魔法陣」を描ける中級剣士までが全員連れて行かれる。
 聖も一緒に行った。
 
 「あなたさま……」
 「……」

 俺は麗星と双子を連れて、街の病院へ向かった。
 ルーにハマーを運転させ、俺は麗星を抱き締めていた。
 



 そうすることしか出来なかった。
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