上 下
2,646 / 2,840

パムッカレ 緊急防衛戦 Ⅶ

しおりを挟む
 「虎城(とらしろ)さん、今日はどうします?」
 
 高虎さんや剣聖のみなさんが出掛けたので、私は上級剣士の虎城さんに聞いた。
 虎城さんは、多分近く剣聖に昇格する実力者だった。
 だから、今は剣士たちの鍛錬の中心になっていて、私がその補佐の立場にいる。

 「ああ、虎白さんが、「魔法陣」の練習をしとけってさ」
 「なるほど!」
 「あと高虎が、くれぐれも「魔法陣」そのものは描かないようにってさ。それよりも速く描けるようにしとけってことで、円を練習しろってよ」
 「え、どういうことです?」
 「今後は「魔法陣」は剣聖と一定の熟練の剣士だけしか使わせないってことだ。敵に渡ると大変だからな」
 「分かりました! じゃあ、中級までの剣士を集めますね」
 「おう。他の剣士と見習いはいつも通りだ。型と仕合でな」
 「はい! 天丸さんたちはどうします?」
 「千鶴と御坂に組み手の相手をさせろ。あいつらにもいい訓練だ」
 「はい!」

 みんなに伝えた。
 それぞれに鍛錬を始める。
 天丸さんと天豪さんは、毎日「花岡」の訓練をしている。
 時々剣技も教えるが、今はまだアラスカの千石さんに教わった「花岡」の習得に専念すべき時期だ。
 実際に組み手形式で技を繰り出して、身体に馴染ませていく。
 「花岡」は第五階梯まで教わったようだから、並の剣士以上に「花岡」には精通していることになる。
 私は自分の「小雷」を工夫しながら、全員に目を配っていた。
 今日は虎城さんが中心になっているが、私が全体の管理をすることが多い。
 基本的に石神家は他の人間に頓着しない。
 高虎さんが私や虎蘭のように、他人の面倒を見たがる人間を喜んでいた。
 以前に私と虎蘭を呼んで、高虎さんが言っていた。

 「あの人ら、本当に刀を振り回すことだけだかんなー」
 「「アハハハハハハハハ!」」





 昼になり、全員で昼食の準備をした。
 若い剣士たちが下に食事を取りに行き、みんなで食べる。
 天丸さんと天豪さんが真っ先に走る。
 そういうお二人なので、自然に他の剣士たちともすぐに親しくなって行った。
 今日はキノコと鶏の炊き込みご飯だった。
 私は天丸さんと天豪さんの近くに行った。
 ちょっと気になることがあったからだ。

 「天豪さん、どこか調子悪い?」
 「え、そんなことは!」

 若い天豪さんは必死だ。
 天丸さんは試合経験も豊富で、戦闘に関して対処が慣れていることが分かった。
 でも天豪さんはまだ実戦が乏しく、むしろ実戦形式でしか教えない石神家の鍛錬に馴染めないでいる。 
 努力は素晴らしいのだが。
 そういうこともあってか、何か見ていてこの数日調子が悪く見えた。
 
 「天豪、虎水さんは見抜いているよ。お前、やっぱ体調が悪いんだろう?」
 
 天丸さんも気付いていたようだ。

 「虎水さん、すいません。こんなにみんなさんに良くして頂いてるのに。二日前からちょっと身体がおかしいというか、ヘンな感覚があるんです」
 「言って下さいよ! それで、どんな感じなんですか?」

 ヘンな感覚というのは、どういうことだろう。
 技の体得が急激に進むことはある。
 そういう時に、確かに自分の体感がズレた感覚になることはある。
 もしかしたら、天豪さんも伸びている時期なのだろうか。
 でも、表現は難しいのだは、そういうものとは少し違う感じもあった。
 技の習得よりも、むしろ肉体が変わっているような感じ……
 
 「なんと言っていいのか、自分でもよくは。苦しいとか辛いとかじゃないんです。自分の身体なのに、何か別な感覚があって」
 「そうなんですか?」
 「上手く説明出来ないんです。でも、本当に辛い感じじゃないんですよ。大丈夫です」
 「そうですか。無理は、あ、うちは無理するしかないんですけど、何かあったら言って下さい」

 お二人が笑った。

 「はい、すいません」
 「いいんですよ」

 天丸さんも気付いているから大丈夫だろう。
 動きに精彩が無いのは、そういうことだったか。
 自分などが考えても仕方がないので、今は虎城さんに報告し、剣聖の皆さんが戻ったらまたお話ししよう。

 昼食を終え、午後の鍛錬に入った。
 打ち明けたことで気が楽になったか、天豪さんの動きが多少良くなった。
 精神的なものだったのかもしれない。
 まあ、よくは分からないのだが。
 でも、むしろ本当に動きが変わった。
 どんどん良くなる。
 心配する必要は無いようだ。
 私も自分の鍛錬に集中した。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 《虎星》での訓練は3日間に亘った。
 一つは如何に速く「魔法陣」を描けるのかの特訓と、もう一つはもちろん制御だ。
 剣聖たちが本気でぶっ放せば、簡単に時空に亀裂が入る。
 そこから出て来る怪物を絶対に押し戻さなければならない。
 これは単に高威力の「魔法陣」攻撃だけでは済まない。
 ちゃんと時空の裂け目を上書きし、尚且つ怪物をぶっ飛ばす必要がある。
 下手をすれば、更に裂け目を押し広げ、怪物を呼び込むことになってしまう。
 俺と聖が監督で、剣聖たちには主にその制御を学ばせた。
 怒貪虎さんは、流石に逸早く確立してくれた。
 だから三人で万一の対処をしていく。
 中にはべらぼうにでかい裂け目を作る奴もいて、俺たちが対処出来ない場合はロボに頼んだ。
 但し、ロボは寝ていることも多く、常に当てにはならない。
 ロボにとっては異次元の怪物などものの数ではないので、慌てることはないのだ。

 剣聖たちの訓練の合間に、俺は聖の相手をしていた。 
 リハビリを兼ねた組み手が主だ。
 聖は大分復調していた。
 それと、食事は俺の分担だった。
 この人らは、鍛錬以外に無頓着だ。
 俺が用意しないと、適当なものを食べているだろう。
 ロボがいつも「マッグロ」を取って来るので、それを分けてもらう。
 他にも海には魚や甲殻類も多い。
 どれもでかいが。
 グランマザーが毒性を判定してくれ、俺は調理に専念出来た。
 幸い、調味料などはグランマザーが十分に用意しておいてくれた。
 何度か遠くのジャングルへ行き、哺乳動物のようなものも狩って来た。
 一度でかいカエルがいて美味そうだったのだが、持って帰れば何があるかわからんので放置した。
 剣聖たちはどれも文句も言わずに喰う。
 聖も同じだ。
 美味いとも言わない。
 結構気を遣っているんだぞ!
 ロボは「マッグロ」があれば満足だ。
 デカホタテも好物のようだった。
 そうやって過ごしているうちに、全員が制御をものにすることが出来た。
 三日というのは、結構早い。
 俺はその倍は掛かると思っていた。
 全員が必死だったのだ。
 怒貪虎さんも、もういいだろうと思っていたようだ。

 「ケロケロ」
 「そうですね」
 「はい!」

 「じゃあ、そろそろ戻るか」
 「ケロケロ」
 「はい!」

 頭を引っぱたかれた。
 なんで?

 「お前、どうしてカールを持って来なかったんだよ!」
 「あ!」

 ねぇ、それって俺の責任なの?

 「怒貪虎さんは帰ったらすぐに喰うからな!」
 「は、はい!」

 全員が乗り込んでから、グランマザーが俺の傍に来て耳元で囁いた。

 「石神様、申し訳ありません。わたくしがカールをご用意しておけば」
 「お前、さっき言ってくれよ」
 「すいません、あの方々ってちょっとコワくて」
 「もう!」

 お前、大銀河連合の統括やってんだろう!
 もういいやーー。
 ああ、ファンタもね。
 俺たちは地球へ戻った。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...