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パムッカレ 緊急防衛戦 Ⅶ

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 「虎城(とらしろ)さん、今日はどうします?」
 
 高虎さんや剣聖のみなさんが出掛けたので、私は上級剣士の虎城さんに聞いた。
 虎城さんは、多分近く剣聖に昇格する実力者だった。
 だから、今は剣士たちの鍛錬の中心になっていて、私がその補佐の立場にいる。

 「ああ、虎白さんが、「魔法陣」の練習をしとけってさ」
 「なるほど!」
 「あと高虎が、くれぐれも「魔法陣」そのものは描かないようにってさ。それよりも速く描けるようにしとけってことで、円を練習しろってよ」
 「え、どういうことです?」
 「今後は「魔法陣」は剣聖と一定の熟練の剣士だけしか使わせないってことだ。敵に渡ると大変だからな」
 「分かりました! じゃあ、中級までの剣士を集めますね」
 「おう。他の剣士と見習いはいつも通りだ。型と仕合でな」
 「はい! 天丸さんたちはどうします?」
 「千鶴と御坂に組み手の相手をさせろ。あいつらにもいい訓練だ」
 「はい!」

 みんなに伝えた。
 それぞれに鍛錬を始める。
 天丸さんと天豪さんは、毎日「花岡」の訓練をしている。
 時々剣技も教えるが、今はまだアラスカの千石さんに教わった「花岡」の習得に専念すべき時期だ。
 実際に組み手形式で技を繰り出して、身体に馴染ませていく。
 「花岡」は第五階梯まで教わったようだから、並の剣士以上に「花岡」には精通していることになる。
 私は自分の「小雷」を工夫しながら、全員に目を配っていた。
 今日は虎城さんが中心になっているが、私が全体の管理をすることが多い。
 基本的に石神家は他の人間に頓着しない。
 高虎さんが私や虎蘭のように、他人の面倒を見たがる人間を喜んでいた。
 以前に私と虎蘭を呼んで、高虎さんが言っていた。

 「あの人ら、本当に刀を振り回すことだけだかんなー」
 「「アハハハハハハハハ!」」





 昼になり、全員で昼食の準備をした。
 若い剣士たちが下に食事を取りに行き、みんなで食べる。
 天丸さんと天豪さんが真っ先に走る。
 そういうお二人なので、自然に他の剣士たちともすぐに親しくなって行った。
 今日はキノコと鶏の炊き込みご飯だった。
 私は天丸さんと天豪さんの近くに行った。
 ちょっと気になることがあったからだ。

 「天豪さん、どこか調子悪い?」
 「え、そんなことは!」

 若い天豪さんは必死だ。
 天丸さんは試合経験も豊富で、戦闘に関して対処が慣れていることが分かった。
 でも天豪さんはまだ実戦が乏しく、むしろ実戦形式でしか教えない石神家の鍛錬に馴染めないでいる。 
 努力は素晴らしいのだが。
 そういうこともあってか、何か見ていてこの数日調子が悪く見えた。
 
 「天豪、虎水さんは見抜いているよ。お前、やっぱ体調が悪いんだろう?」
 
 天丸さんも気付いていたようだ。

 「虎水さん、すいません。こんなにみんなさんに良くして頂いてるのに。二日前からちょっと身体がおかしいというか、ヘンな感覚があるんです」
 「言って下さいよ! それで、どんな感じなんですか?」

 ヘンな感覚というのは、どういうことだろう。
 技の体得が急激に進むことはある。
 そういう時に、確かに自分の体感がズレた感覚になることはある。
 もしかしたら、天豪さんも伸びている時期なのだろうか。
 でも、表現は難しいのだは、そういうものとは少し違う感じもあった。
 技の習得よりも、むしろ肉体が変わっているような感じ……
 
 「なんと言っていいのか、自分でもよくは。苦しいとか辛いとかじゃないんです。自分の身体なのに、何か別な感覚があって」
 「そうなんですか?」
 「上手く説明出来ないんです。でも、本当に辛い感じじゃないんですよ。大丈夫です」
 「そうですか。無理は、あ、うちは無理するしかないんですけど、何かあったら言って下さい」

 お二人が笑った。

 「はい、すいません」
 「いいんですよ」

 天丸さんも気付いているから大丈夫だろう。
 動きに精彩が無いのは、そういうことだったか。
 自分などが考えても仕方がないので、今は虎城さんに報告し、剣聖の皆さんが戻ったらまたお話ししよう。

 昼食を終え、午後の鍛錬に入った。
 打ち明けたことで気が楽になったか、天豪さんの動きが多少良くなった。
 精神的なものだったのかもしれない。
 まあ、よくは分からないのだが。
 でも、むしろ本当に動きが変わった。
 どんどん良くなる。
 心配する必要は無いようだ。
 私も自分の鍛錬に集中した。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 《虎星》での訓練は3日間に亘った。
 一つは如何に速く「魔法陣」を描けるのかの特訓と、もう一つはもちろん制御だ。
 剣聖たちが本気でぶっ放せば、簡単に時空に亀裂が入る。
 そこから出て来る怪物を絶対に押し戻さなければならない。
 これは単に高威力の「魔法陣」攻撃だけでは済まない。
 ちゃんと時空の裂け目を上書きし、尚且つ怪物をぶっ飛ばす必要がある。
 下手をすれば、更に裂け目を押し広げ、怪物を呼び込むことになってしまう。
 俺と聖が監督で、剣聖たちには主にその制御を学ばせた。
 怒貪虎さんは、流石に逸早く確立してくれた。
 だから三人で万一の対処をしていく。
 中にはべらぼうにでかい裂け目を作る奴もいて、俺たちが対処出来ない場合はロボに頼んだ。
 但し、ロボは寝ていることも多く、常に当てにはならない。
 ロボにとっては異次元の怪物などものの数ではないので、慌てることはないのだ。

 剣聖たちの訓練の合間に、俺は聖の相手をしていた。 
 リハビリを兼ねた組み手が主だ。
 聖は大分復調していた。
 それと、食事は俺の分担だった。
 この人らは、鍛錬以外に無頓着だ。
 俺が用意しないと、適当なものを食べているだろう。
 ロボがいつも「マッグロ」を取って来るので、それを分けてもらう。
 他にも海には魚や甲殻類も多い。
 どれもでかいが。
 グランマザーが毒性を判定してくれ、俺は調理に専念出来た。
 幸い、調味料などはグランマザーが十分に用意しておいてくれた。
 何度か遠くのジャングルへ行き、哺乳動物のようなものも狩って来た。
 一度でかいカエルがいて美味そうだったのだが、持って帰れば何があるかわからんので放置した。
 剣聖たちはどれも文句も言わずに喰う。
 聖も同じだ。
 美味いとも言わない。
 結構気を遣っているんだぞ!
 ロボは「マッグロ」があれば満足だ。
 デカホタテも好物のようだった。
 そうやって過ごしているうちに、全員が制御をものにすることが出来た。
 三日というのは、結構早い。
 俺はその倍は掛かると思っていた。
 全員が必死だったのだ。
 怒貪虎さんも、もういいだろうと思っていたようだ。

 「ケロケロ」
 「そうですね」
 「はい!」

 「じゃあ、そろそろ戻るか」
 「ケロケロ」
 「はい!」

 頭を引っぱたかれた。
 なんで?

 「お前、どうしてカールを持って来なかったんだよ!」
 「あ!」

 ねぇ、それって俺の責任なの?

 「怒貪虎さんは帰ったらすぐに喰うからな!」
 「は、はい!」

 全員が乗り込んでから、グランマザーが俺の傍に来て耳元で囁いた。

 「石神様、申し訳ありません。わたくしがカールをご用意しておけば」
 「お前、さっき言ってくれよ」
 「すいません、あの方々ってちょっとコワくて」
 「もう!」

 お前、大銀河連合の統括やってんだろう!
 もういいやーー。
 ああ、ファンタもね。
 俺たちは地球へ戻った。
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