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パムッカレ 緊急防衛戦 Ⅳ

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 「諸見さん、喉が渇いたでしょう」

 綾さんがレストランで西野さんたちを見送ってから言った。
 俺のために追加でアイスティーを注文してくれる。

 「今日は沢山お喋りしましたね」
 「そうですかね。でも、西野さんは本当に良い方でした」
 「はい。でも、ちょっと気になることがあるのです」
 「なんですか?」

 綾さんが何か引っ掛かっているようだ。
 
 「前回のオーバーホールで、蓮花様が新たなプログラムを下さいました」
 「ああ、《ウィスパー》というものですね?」
 「はい」

 自分などにはよく分からないものだったが、第六感のようなものが生まれらしい。

 「そのせいでしょうか。先ほどの会話の中で気になる点が」
 「どのようなことですか?」
 「西野さんたちは何故、ここで戦争が起きることを知っているのでしょうか」
 「ああ、それはそうですね。「虎」の軍でもそのような情報は掴んで無いと思いますが」
 「はい。もしも戦闘が起きるのであれば、石神様は決して諸見さんをここへは来させないはずです」
 「まあ、そうですね」

 石神さんは自分のことを大事にしてくれている。
 自分はいつでも石神さんのために戦いたいのだが。

 「もしかすると、まったくの誤情報である可能性が高いです。でも、私には何か不安があるのです」
 「不安ですか」
 「曖昧なものです。「虎」の軍でさえ掴んでいない情報を、他の組織が、まして軍事組織でもない人たちが掴んでいるはずがない。それでも何か不安なのです」
 「分かりました。月岡さんたちに、念のために報告しておきましょう」
 「そうして頂けますか?」
 「もちろんです。自分は綾さんの予感を信じたいです」
 「いえ、本当に曖昧なものなのですが。でも、「虎」の軍に万一有用なものであればと」
 「その通りですよ。じゃあ、今日は基地に寄ってから、もう帰りましょうか」
 「でも、まだ視察の予定がありますよ?」
 「まあいいじゃないですか。今日は大分のんびりしましたよ」
 「はい、分かりました。ああ、諸見さんはここでも鍛錬を欠かさないおつもりなのですね」

 綾さんが笑った。
 まあ、その通りだ。

 「それはもちろん。自分のような不器用な人間は、毎日鍛錬して行かなければお役に立てませんから」
 「御立派です。だから諸見さんもネームドの方々のように、ユニークスキルを授かったんですよ」
 「そんな、自分の技など。じゃあ、まずは基地に寄りましょうか」
 「はい! 私の曖昧な考えなのに申し訳ありません」
 「自分は綾さんを信じてますし。それに万一のことがあったらいけませんから」
 「はい、ありがとうございます」

 綾さんが嬉しそうに微笑んだ。
 自分などが信頼したことが嬉しいのだろうか。

 そのままパムッカレ基地に寄り、月岡さんに西野さんとの会話を報告した。
 全くの曖昧な情報だったが、月岡さんはそれを真剣に受けてくれた。

 「分かった。ジェイさんにも伝えておくよ。確かにこの場所は過去に何度か襲われている。何かがあるのかもしれんな。でも、もうこれだけの規模の拠点が出来たんだ。おいそれと落されはしないぜ」
 「本当にそう思います。大抵の強襲は凌ぎますよね」
 「そうだ。それにアラスカのエマージェンシー部隊も常に控えている。亜紀さんと柳さんも、ああ、ディアブロとタイガーレディも、そろそろ中南米を制してこっちに来てくれるみたいだしな」
 「そうなんですか!」
 「アゼルバイジャンこそ大丈夫なのかよ? あっちはまだまだ建設中だろう?」
 「竹流君がいますからね。それに最近じゃソルジャーも凄い人たちが来てくれてますし」
 「お前もやるんだろうよ!」
 「自分なんて屁のツッパリにしか、まあそれでもやりますけどね」
 「頼むぞ」

 月岡さんも、綾さんの予感を受け入れてくれた。
 「虎」の軍は、絶対に油断出来ないのだ。
 報告を終えて、綾さんと用意された一軒家へ行った。
 綾さんと二人で驚いたが、随分と豪華な邸宅だった。
 広い庭まで付いている。
 きっとまた石神さんが指示して下さったのだろう。
 自分などに、本当に申し訳ない。
 ハンヴィから荷物を降ろし、綾さんと一緒に中へ運んだ。
 キッチンに食材を入れようとして、綾さんが叫んだ。

 「諸見さん、冷蔵庫に食材が一杯!」
 「そうなんですか!」
 
 綾さんが自分に冷蔵庫の中身を見せた。
 様々な食材が満載だ。
 ここでは手に入らない、日本の千疋屋のフレッシュジュースまで揃っている。
 随分前に石神さんのお宅で頂いた折に、自分が美味いと言っていたからだろうか。
 涙が出そうになった。
 簡単なものは先ほど買って来たのだが、ありがたく使わせて頂くことにした。

 「今日は美味しい物を沢山作りますね!」
 「宜しくお願いします」

 綾さんが嬉しそうにエプロンを付けて食事の用意を始めた。
 自分は荷物をほどき、タンスなどへ仕舞った。
 一週間の旅行だったので、結構な量がある。
 向こうを出る時に、東雲さんから絶対に毎日違う服装でいるように厳命された。
 視察中の写真は、全部石神さんに御送りするのだからと。
 自分が適当な服でいると、石神さんに叱られると言っていた。
 だから、なるべくいい服を選んで持って来た。
 それらが、ほとんど石神さんから頂いた物だと気付いた。
 服になど興味が無かったが、石神さんが何かと理由を付けて自分に買って下さったものだ。
 普段はもったいなくて着る機会も無かった。
 こんなにも多く頂いていたことに、あらためて気付いて涙が出そうになった。

 一通り仕舞い終わり、自分は庭に出て鍛錬を始めた。
 石神さんも御存知のことだが、自分などが「花岡」の特殊な技を体得出来た。
 「花岡」は、極めて行くとその本人にしか出来ない固有の技「ユニークスキル」が生まれる。
 才能の無い自分などが「ユニークスキル」を得たのは、千石さんや他の方々のご指導のお陰だ。
 ルーさんやハーさんからも時々教わっていたことも大きいと思う。
 自分以上に才能があり努力家の東雲さんや月岡さんなども「ユニークスキル」を持っている。
 幹部になる方々はみなさんそうだ。
 もちろん自分の「ユニークスキル」などは大したことはないので、幹部ではない。
 ただ、石神さんが異常に喜んでくれ、盛大な祝いまでして下さった。
 そして自分に「石神高虎認定最愛戦士」というよく分からないものを表彰楯にして下さった。
 みなさんが爆笑しておられた。

 綾さんがもうすぐ夕飯が出来るとエプロン姿で呼びに来た。
 シャワーを浴びて、居間へ行った。
 いい匂いがしている。

 夕飯は本当に豪華だった。
 スズキのパイ包をメインに、ハマグリなどの甘辛煮。
 グリンピースご飯にキノコとズッキーニなどの野菜炒めとトマトのサラダ。
 ブイヨンのスープには鳥肉の団子と海藻。
 自分も少食ではないが、結構なボリュームだった。

 「すいません、ちょっと作り過ぎましたか?」
 「いいえ、美味しそうです。いただきます」

 綾さんが笑顔で自分が食べているのを見ている。
 いつもそうだ。
 最初は恥ずかしかったのだが、綾さんが自分が食べているのを見るのが楽しみなのだと言うので、そのままになっている。
 実は今でも恥ずかしいのだが、やがて美味しい食事に夢中になって気にならなくなる。

 幸せだった。
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