2,639 / 2,840
《 лезвие(リェーズヴィエ:刃)》そして秘策 Ⅱ
しおりを挟む
「業」様の居室から戻り、タイニータイドに連絡した。
ミハイルとは違い、私が頼むとすぐにやって来てくれる。
私はタイニータイドに、「業」様から言われた石神家の首を手に入れる方法を相談した。
「石神が関わることで、今後石神家が飛躍すると「業」様が仰っておられた。お前の予言だということだな」
「その通りです。今でも凄まじい一族ですが、更に驚異的な発展を遂げます。石神高虎によってもたらされることが、私にははっきりと見えました」
「だが、高々剣技だぞ。「花岡」であろうと「業」様のお力には届かないのだ」
「石神家の剣技は、「花岡」すら相手になりません。あの一族は、ありとあらゆる闘技を研究し、それを無効化し上回る剣技を構築して来ました。それも予言により分かっております」
それほどのことまでしていたとは知らなかった。
日本には「花岡」以外にも、幾つもの隠された凄まじい流派があることは知っている。
千石家や神宮寺家他、幾つものそういう流派を「業」様と一緒に潰して日本を出た。
その折に、その流派の技を吸収しても来た。
しかし石神家は我々以上に、既にそういうあらゆる流派にも精通していたのか。
一体どのような方法で……
「しかし、どのように妖魔を斃す剣技であろうと、「業」様の擁する妖魔の数は……」
「それを上回る剣技が今後出て来るということです。あの一族、そして石神高虎は「理」を超えて来るのです」
「まさか、そのような……」
「宇羅様、石神はあの「業」様の宿敵なのですよ?」
「!」
タイニータイドでも、具体的なことは分からないようだ。
しかし、その言葉通りとすれば、一振りで数億の妖魔を滅するような技としか考えられない。
それはあり得ないことだ。
「「業」様は石神家の剣技を欲しておられる。石神家には石神家をぶつけるおつもりだ」
「なるほど、良いお考えと思います」
「私がその役割を仰せつかった。だが、どのようにすれば良いのか」
私はタイニータイドに、石神家の剣士の脳を手に入れればという話をした。
その者の記憶を吸い出す方法があることを。
「しかし、石神家の拠点は相当硬い。アラスカほどではないが、あそこを襲うのは困難だ」
「ならば、どこかの戦場になりましょう」
「おお、なるほど。石神高虎が、あいつらを出して来るか」
「はい、必ず。その時に何とか。私がその予言を授かりましょう」
「宜しく頼む。「業」様は何としてもと仰っている」
「はい。宇羅様、ところで朗報です」
「なんだ?」
「恐らく今のお話に関わることです。新たに加わったロシア人の少年、キリールと申す者です」
私も知っていた。
下半身が麻痺している少年だったようだが。
「ああ、あの父親が宇宙飛行士だったという奴か。あれもお前の予言で連れて来たのだったな」
「はい。あの者は良いです。石神高虎に対する激しい憎悪が好ましい」
「なるほど。それでその少年がどうしたのだ?」
「先日、新たな予言が。キリールが石神高虎を苦しめると」
「なんだと?」
「大きな力を得て、石神高虎の大切な者たちを殺すと予言で観ました」
「なんと!」
「最初の予言では、強大な力を得る者としか。しかし先日の予言ではより具体的に。数多の剣を持ち、それを振るう凄まじい者と観ました」
「それでは、石神家の!」
「恐らく間違いございません。宇羅様は「業」様の御命令を成し遂げるのです」
「それは何と言う!」
私は思わず歓喜の叫びを挙げた。
タイニータイドも微笑んで見ていた。
「タイニータイド、やろう」
「はい、必ず。いずれその時が訪れます故」
「待っているぞ!」
後に、そのチャンスが訪れた。
あの時の言葉通り、タイニータイドが予言を授かってくれたのだ。
私は北アフリカでの戦闘で、石神家の一団が来たことを知った。
米軍の中に潜んでいるスパイからの情報だった。
同時にタイニータイドから連絡があり、その戦場で求める物が手に入ると言われた。
「業」様にお願いし、《地獄の悪魔》を召喚させていただいた。
そのことで多くの人間を犠牲にせねばならず。北アフリカでの拠点を喪うことになったが、それに見合うものが手に入った。
少年キリールの一部を苗床とし、《 лезвие(リェーズヴィエ:刃)》が生まれた。
想像以上に、そして「業」様のお考えの通りに、凄まじい威力を持つ妖魔となった。
《リェーズヴィエ》は西安の《Улья(ウーリッヒ(=ハイヴ)》で、「虎」の軍を撃退したばかりか、石神の盟友セイントを半死半生にした。
「業」様は大層喜ばれ、《リェーズヴィエ》を幾体か複製された。
残念なことに、偉大なる「業」様といえども、3体までしか《リェーズヴィエ》は生み出せなかった。
恐ろしく複雑で難解な妖魔だったためだ。
「虎」の軍の最大戦力すら上回る《リェーズヴィエ》が、今後作戦の要となって行くだろう。
《地獄の悪魔》や「神」ですら撃退する石神たちであったが、《リェーズヴィエ》がいれば今後の勝利は堅い。
その証拠に、「虎」の軍はその後手をこまねき、西安を攻略できないでいる。
一度強力な熱線で攻撃されたが、《リェーズヴィエ》がそれを凌いだ。
石神家の剣技は確かに素晴らしい。
我々は途轍もない力を得た。
我々は今も、西安にて「虎」の軍を引き寄せる体制で臨んでいる。
どのような襲撃が来ても、徒に戦力を消耗させるだけなのだ。
笑いが止まらない。
この私が、この状況を成し遂げたのだ。
またミハイルに一歩先んじることが出来たのだ。
そしてキリールは別に、「業」様の中心となる戦略も担うようになっている。
《ニルヴァーナ》の本格的な開発が、キリールを中心に進められている。
ミハイルはキリールに研究を明け渡すように「業」様に命じられ、今は旧戦力となったバイオビースト(ジェヴォーダン)の開発を細々としている。
しかも、先日飛行タイプのバイオビーストが「謎のX 」によって全滅させられ、ミハイルが困り果てていた。
僅かに《ニルヴァーナ》をばら撒くバイオノイドの用意がミハイルの中心となったか。
石神が敗退することは確実だった。
やはり「業」様がこの世界を覆うのだ。
一切が混沌とし、何も意味を為さない世界が。
世界は眠るのだ。
何もかもが消え失せ、一切が死んだ世界。
私はその世界のために全てを捧げる。
偉大なる「業」様の御為に。
そして、以前に仕込んだ仕掛けが、思わぬタイミングで石神によって誘発されたことを知った。
我々に運が向いて来たのだ。
笑いが止まらない。
さて、石神はどう動くことか。
苦しめ、石神よ。
また大切な者を喪って、泣き喚くがいい。
偉大なる「業」様に逆らうお前だ。
せいぜい苦しみ抜いて絶望の淵に沈むがいい。
ミハイルとは違い、私が頼むとすぐにやって来てくれる。
私はタイニータイドに、「業」様から言われた石神家の首を手に入れる方法を相談した。
「石神が関わることで、今後石神家が飛躍すると「業」様が仰っておられた。お前の予言だということだな」
「その通りです。今でも凄まじい一族ですが、更に驚異的な発展を遂げます。石神高虎によってもたらされることが、私にははっきりと見えました」
「だが、高々剣技だぞ。「花岡」であろうと「業」様のお力には届かないのだ」
「石神家の剣技は、「花岡」すら相手になりません。あの一族は、ありとあらゆる闘技を研究し、それを無効化し上回る剣技を構築して来ました。それも予言により分かっております」
それほどのことまでしていたとは知らなかった。
日本には「花岡」以外にも、幾つもの隠された凄まじい流派があることは知っている。
千石家や神宮寺家他、幾つものそういう流派を「業」様と一緒に潰して日本を出た。
その折に、その流派の技を吸収しても来た。
しかし石神家は我々以上に、既にそういうあらゆる流派にも精通していたのか。
一体どのような方法で……
「しかし、どのように妖魔を斃す剣技であろうと、「業」様の擁する妖魔の数は……」
「それを上回る剣技が今後出て来るということです。あの一族、そして石神高虎は「理」を超えて来るのです」
「まさか、そのような……」
「宇羅様、石神はあの「業」様の宿敵なのですよ?」
「!」
タイニータイドでも、具体的なことは分からないようだ。
しかし、その言葉通りとすれば、一振りで数億の妖魔を滅するような技としか考えられない。
それはあり得ないことだ。
「「業」様は石神家の剣技を欲しておられる。石神家には石神家をぶつけるおつもりだ」
「なるほど、良いお考えと思います」
「私がその役割を仰せつかった。だが、どのようにすれば良いのか」
私はタイニータイドに、石神家の剣士の脳を手に入れればという話をした。
その者の記憶を吸い出す方法があることを。
「しかし、石神家の拠点は相当硬い。アラスカほどではないが、あそこを襲うのは困難だ」
「ならば、どこかの戦場になりましょう」
「おお、なるほど。石神高虎が、あいつらを出して来るか」
「はい、必ず。その時に何とか。私がその予言を授かりましょう」
「宜しく頼む。「業」様は何としてもと仰っている」
「はい。宇羅様、ところで朗報です」
「なんだ?」
「恐らく今のお話に関わることです。新たに加わったロシア人の少年、キリールと申す者です」
私も知っていた。
下半身が麻痺している少年だったようだが。
「ああ、あの父親が宇宙飛行士だったという奴か。あれもお前の予言で連れて来たのだったな」
「はい。あの者は良いです。石神高虎に対する激しい憎悪が好ましい」
「なるほど。それでその少年がどうしたのだ?」
「先日、新たな予言が。キリールが石神高虎を苦しめると」
「なんだと?」
「大きな力を得て、石神高虎の大切な者たちを殺すと予言で観ました」
「なんと!」
「最初の予言では、強大な力を得る者としか。しかし先日の予言ではより具体的に。数多の剣を持ち、それを振るう凄まじい者と観ました」
「それでは、石神家の!」
「恐らく間違いございません。宇羅様は「業」様の御命令を成し遂げるのです」
「それは何と言う!」
私は思わず歓喜の叫びを挙げた。
タイニータイドも微笑んで見ていた。
「タイニータイド、やろう」
「はい、必ず。いずれその時が訪れます故」
「待っているぞ!」
後に、そのチャンスが訪れた。
あの時の言葉通り、タイニータイドが予言を授かってくれたのだ。
私は北アフリカでの戦闘で、石神家の一団が来たことを知った。
米軍の中に潜んでいるスパイからの情報だった。
同時にタイニータイドから連絡があり、その戦場で求める物が手に入ると言われた。
「業」様にお願いし、《地獄の悪魔》を召喚させていただいた。
そのことで多くの人間を犠牲にせねばならず。北アフリカでの拠点を喪うことになったが、それに見合うものが手に入った。
少年キリールの一部を苗床とし、《 лезвие(リェーズヴィエ:刃)》が生まれた。
想像以上に、そして「業」様のお考えの通りに、凄まじい威力を持つ妖魔となった。
《リェーズヴィエ》は西安の《Улья(ウーリッヒ(=ハイヴ)》で、「虎」の軍を撃退したばかりか、石神の盟友セイントを半死半生にした。
「業」様は大層喜ばれ、《リェーズヴィエ》を幾体か複製された。
残念なことに、偉大なる「業」様といえども、3体までしか《リェーズヴィエ》は生み出せなかった。
恐ろしく複雑で難解な妖魔だったためだ。
「虎」の軍の最大戦力すら上回る《リェーズヴィエ》が、今後作戦の要となって行くだろう。
《地獄の悪魔》や「神」ですら撃退する石神たちであったが、《リェーズヴィエ》がいれば今後の勝利は堅い。
その証拠に、「虎」の軍はその後手をこまねき、西安を攻略できないでいる。
一度強力な熱線で攻撃されたが、《リェーズヴィエ》がそれを凌いだ。
石神家の剣技は確かに素晴らしい。
我々は途轍もない力を得た。
我々は今も、西安にて「虎」の軍を引き寄せる体制で臨んでいる。
どのような襲撃が来ても、徒に戦力を消耗させるだけなのだ。
笑いが止まらない。
この私が、この状況を成し遂げたのだ。
またミハイルに一歩先んじることが出来たのだ。
そしてキリールは別に、「業」様の中心となる戦略も担うようになっている。
《ニルヴァーナ》の本格的な開発が、キリールを中心に進められている。
ミハイルはキリールに研究を明け渡すように「業」様に命じられ、今は旧戦力となったバイオビースト(ジェヴォーダン)の開発を細々としている。
しかも、先日飛行タイプのバイオビーストが「謎のX 」によって全滅させられ、ミハイルが困り果てていた。
僅かに《ニルヴァーナ》をばら撒くバイオノイドの用意がミハイルの中心となったか。
石神が敗退することは確実だった。
やはり「業」様がこの世界を覆うのだ。
一切が混沌とし、何も意味を為さない世界が。
世界は眠るのだ。
何もかもが消え失せ、一切が死んだ世界。
私はその世界のために全てを捧げる。
偉大なる「業」様の御為に。
そして、以前に仕込んだ仕掛けが、思わぬタイミングで石神によって誘発されたことを知った。
我々に運が向いて来たのだ。
笑いが止まらない。
さて、石神はどう動くことか。
苦しめ、石神よ。
また大切な者を喪って、泣き喚くがいい。
偉大なる「業」様に逆らうお前だ。
せいぜい苦しみ抜いて絶望の淵に沈むがいい。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?
冥府の花嫁
七夜かなた
キャラ文芸
杷佳(わか)は、鬼子として虐げられていた。それは彼女が赤い髪を持ち、体に痣があるからだ。彼女の母親は室生家当主の娘として生まれたが、二十歳の時に神隠しにあい、一年後発見された時には行方不明の間の記憶を失くし、身籠っていた。それが杷佳だった。そして彼女は杷佳を生んですぐに亡くなった。祖父が生きている間は可愛がられていたが、祖父が亡くなり叔父が当主になったときから、彼女は納屋に押し込められ、使用人扱いされている。
そんな時、彼女に北辰家当主の息子との縁談が持ち上がった。
自分を嫌っている叔父が、良い縁談を持ってくるとは思わなかったが、従うしかなく、破格の結納金で彼女は北辰家に嫁いだ。
しかし婚姻相手の柊椰(とうや)には、ある秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる