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天丸と天豪 XⅠ

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 翌朝。
 また真白が剣士の一人に担がれて山に上がった。

 「おい、まだ生きてたんだな」
 「ふん! あと100は生きるよ!」

 一体幾つなのか。
 まあ、全然興味も無いので聞かない。
 俺の周りには300歳まで生きるとか言う奴らが多い。
 好きにすればいいと思う、

 もう「ガンスリンガー」たちは到着しており、虎白さんたちが早速打ち合わせを始めた。
 ソニアたちも優秀だから、すぐに話は理解するだろう。
 鍛錬場に着いて、すぐに天丸と天豪が呼ばれた。
 戸板が二枚敷かれ、二人が裸になって寝るように言われる。

 「おい、トラ。何が始まるんだ?」
 「血反吐を吐く訓練だ」
 「なんだと?」
 「お前ら、覚悟しろ」

 俺は笑ってそれだけ言った。
 まあ、嫌でもすぐに分かる。
 近づいて来る真白の異様な姿に、二人が驚いている。
 天豪の方から施術された。
 多分、若い天豪に否応なく施術させるつもりだったのだろう。
 先に天丸の苦痛を知れば、動揺するかもしれない。
 天豪がすぐに苦悶の叫びを挙げる。
 やはり耐え切れないのだ。
 天丸は横でそれを見ている。
 声も掛けない。
 自分たちが無茶なことをやろうとしているのが、最初から分かっているのだ。
 アラスカでは苦痛なく「花岡」を習得出来た。
 ここからは本番だ。
 自分たちが口にしたように、血反吐を吐きながらやってもらう。
 30分後、もう声も出なくなった天豪が地面で喘いでいる。

 「じゃあ、あんた。やるよ」
 「おう!」

 天丸は覚悟を決めている。
 天豪は剣士たちに無理矢理立たされ、日本刀を握らされた。

 「おう! しっかり持て!」
 「……」

 剣士たちに怒鳴られ、天豪は必死で剣を構えようとした。
 余りの激痛で筋肉が異常反射を繰り返し、まともに立ってもいられない。
 
 「おい、こいつダメだぜ」
 「まだ早かったか」

 天豪が目を閉じ、刀を落としそうになっていた。
 凄まじい激痛が全身を苛んでいるのだ。

 「天豪! 道間の血を見せろ!」

 俺が叫ぶと、天豪の目が開いた。
 震える全身で何とか倒れずにいる。
 落としそうになっていた刀を握り直した。
 
 「お前の血は何色だ!」
 「!」

 天豪が今度はしっかりと前を見た。
 
 「おう、じゃあやるか」
 
 剣士たちが笑って天豪へ向かって行った。
 何をやるのかも、どうやるのかも、何も説明しない。
 ただ、天豪に斬りかかり、刃先を向けて行く。
 少し入ることもあるが浅い攻撃で、多くは寸止めになっているのだが、天豪は為す術もなく受けるしかない。
 側頭部に峯撃ちを喰らい、天豪が失神した。
 だが、倒れるとすぐに意識を取り戻した。
 激痛が、失神させたままにしないのだ。

 「立て! 立てないのなら、お前はそこまでだ。山を降りろ!」
 「!」

 天豪が血を吐きながら立ち上がった。
 胃の粘膜が激しいストレスで破れたのだ。
 強度のストレスに襲われると、人間の消化器はたちまち暴走する。

 天豪がまたやられまくる。

 天丸の施術も終わったようだ。
 天丸は苦痛の唸り声すら挙げなかった。
 天豪と同じく激しい激痛に襲われているはずだが、渡された日本刀を構える。

 「おう、ちょっとはやりそうだな」

 天豪と同じく、剣士たちに攻撃を喰らいまくった。
 天丸は僅かだが剣を動かして反応しようとしている。
 元々剣技など使ったことのない連中だ。
 天豪も次第に剣先が揺れ始めた。
 激痛に身体が慣れて行っている。
 二人は2時間弱立ち続けて、それぞれに地面に突っ伏した。

 「まあまあだな」
 
 先に倒れた天豪の横に、後から天丸も横たえられた。
 真白が近付いて、幾つかまた鍼を打った。

 やがて昼食になったが、二人は目覚めはしていたが、身体は動かせなかった。
 
 「おい、大丈夫か?」
 「あ……」
 「無理して言わなくていい。まあ、大丈夫じゃねぇのは分かってる」

 天丸が微笑んだ。
 それすらも辛そうにした。
 天豪は呆然としている。
 まだ子どもなのだ。

 「どうだ、天豪。石神家は思い切りがいいだろう?」
 
 天豪が目だけを俺に向けた。

 「無理はすんな。お前はよくやった」
 
 天豪の目に光が入った。
 無理矢理に立ち上がろうとする。
 天丸もそれを見て立ち上がろうとした。

 「おい、ほんとに無理すんなって! 今、食い物を運んでやる」

 俺がそう話していると、誰かが丼を持って来た。

 「あ、本当に立とうとしてますね」
 
 若い剣士だった。

 「虎白さんが、粥を持って行けって。まさか「虎地獄」の後で飯は食えないと思ってたんですが」
 「こいつらは特別なんだよ」
 「へぇ。そりゃすげぇや」

 俺が丼を受け取って二人に渡した。
 二人を壁を背に座らせて匙を持たせる。
 口に運ぶが、震える手なので多くを零してしまう。
 それでも、口に懸命に粥を入れた。

 昼食が終わり、剣士たちが立ち上がって来た。
 天丸と天豪も立ち上がる。
 ふらついてはいるが、先ほどよりも多少はいいらしい。
 真白が施術してくれたお陰だろう。
 だが、また2時間もやると、今度は本当にぶっ倒れた。
 剣聖たちは、俺が呼んだ「ガンスリンガー」たちと早速鍛錬をしていた。





 「高虎、お前は《刃》に勝てるか?」

 休憩の最中に、虎白さんが俺に言った。

 「さあ。何しろあの聖がボロボロですからね」
 「でも、お前は何かあるんだろう?」
 「……」

 俺はまだ話せなかった。
 でも、虎白さんは何か気付いている。
 流石は石神家の当主代行だ。
 恐らくは怒貪虎さんも。

 「今度、剣聖のみなさんをある場所にご案内したいと思います」
 「おう」
 「そこで、ある技を教えます」
 「なんだよ、今教えろよ」
 「いいえ、敵には絶対に知られたくないんで」
 「そうか」

 虎白さんは黙って引き下がってくれた。

 「期待してるぜ、当主!」
 「アハハハハハハハハ!」

 俺はその日の夕方に帰った。

 「天丸と天豪をお願いします」
 「おう、任せろ! あいつら、なかなか根性があるぜ」
 「そうですね」
 「手加減はしねぇぞ」
 「結構です。あいつらが望んでいることですから」
 「まあ、してくれって言われても困るけどな」
 「ワハハハハハハハハ!」

 



 「飛行」で家まで戻り、双子を呼んで「手かざし」をさせた。

 「タカさん、またボロボロだね」
 「死んじゃいそうだね」
 「……」

 また遠慮なくズブズブされていた。
 天丸たちの手前、何でもないようにしていたが、実際は気を喪いそうだった。

 「一緒に風呂に入ってくれ」
 「「うん!」」
 「その後は一緒に寝てくれな」
 「「うん!」」

 悪いが、最後の方は天丸も天豪も面倒をまったく観れなかった。
 まあ、あいつらなら大丈夫だろう。





 一週間後、虎白さんから電話が来た。

 「「ガンスリンガー」の連中な、役立ってるぜ」
 「そうでしょう」
 「天丸と天豪な。元気にやってるよ。あいつら、泣き言一つ言わねぇ」
 「そうですか。お世話になります」
 「あいつらよ、高虎と一緒に戦いたいんだって、そればっか言ってるよ」
 「そうですか」
 「バカだな」
 「そうですね」
 
 「あいつらも死なせていいんだな?」

 虎白さんが硬い声で俺に言った。

 「……はい」
 
 電話が切れた。

 聖もようやく動けるようになった。
 俺たちは、《刃》討伐に向かって動き出している。
 その先については、誰も考えていない。
 俺たちは向かっていくだけなのだ。 
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