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天丸と天豪 Ⅷ

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 「その後もさ、こいつが大怪我するとみんなで必死になってよ」
 「ワハハハハハハハハ!」

 「天丸が隊長の三番隊って、喧嘩の猛者たちを集めたんだ。俺、そいつらに天丸を護れってこっそり頼んでたのな」
 「そうだったのかよ」
 「でも、バカ連中だから、喧嘩が始まると真っ先に飛び出してってよ。誰も天丸の傍にいねぇ」
 「ワハハハハハハハハ!」

 みんなが大笑いした。

 「顔に金属バット喰らってさ。パンパンに腫れちゃったから、みんなで氷集めて必死で冷やした」
 「ああ、あったな、そんなこと」
 「腕が折れた時なんてなぁ! こいつ、静香さんの前じゃ必死に痛みに耐えてよ。腕組まれたら引き攣ってバレそうになったけどな!」
 「ワハハハハハハハハ!」
 「こいつ、翌日に遊園地でデートだったんだよ。二人でジェットコースターに乗って両手上げてさ」
 「痛くて涙が出たぜ」
 「おう、それで静香さんが「こういうの苦手なんだ」って」
 「アハハハハハハハハ!」
 「お化け屋敷で腕掴まれて飛び上がったんだよな」
 「そうだった」
 
 麗星と五平所が爆笑していた。
 天豪も笑っている。
 親父の思い出はそれほど聞いちゃいないだろう。
 子どもに美しい思い出を語ってやるのもいいものだ。

 「天豪、知らなかっただろ?」
 「はい。でも、トラさんのお話はよく聞いてました」
 「俺の?」
 「はい。トラさんがどんなに強かったのか、優しかったのか」
 「俺はそんなんじゃねぇよ」
 「よせよ、トラ。お前は最高だった。槙野もイサも、木村も早坂も郷間も仁村も犬飼も、ああ、保奈美は別格でお前のことが大好きだったよな」
 「あいつらか」
 「茜が保奈美を探しに行ってるんだろう?」
 「ああ、今は中南米にいるよ。あちこちの戦場を探してくれている」
 「見つかるといいな」
 「ああ、そうだな」

 「みんないい連中だった。俺たちは最高だった」
 「そうだな」

 そろそろ遅くなった。
 俺たちは寝ることにした。

 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 俺たちは東京へ戻り、そのままアラスカへ行った。

 まだ具体的に「虎」の軍がどのようなものかを知らない二人は、アラスカのヘッジホッグを見て驚愕していた。

 「ここが俺たちの最大の砦だ。ここが落とされれば俺たちは負ける」
 「おい、こんな規模でやってるのか……」
 「そうだ。これから世界は激変する。地獄の釜が開くんだ」
 「そうか……」

 天丸も天豪も黙り込んだ。
 人間の想像を超えた戦いなのだ。
 人類史上最大最強の軍事基地なのだ。
 「タイガーファング」で移動し、10分ほど周回してから基地に降りた。
 ターナー大将自ら出迎えてくれ、俺は天丸と天豪を紹介した。

 「見事な肉体だな」
 「ああ、これから鍛え上げるからな」
 「千石が準備している」
 「そうか」

 ハンヴィで移動しながら、俺は「花岡」をまずは習得してもらうと話した。
 念のために、日本では二人の訓練については何も教えていない。
 俺は天丸たちの決意を聞いて、徹底的に仕上げるつもりになっていた。
 まあ、二人の素養次第なのだが。

 千石の訓練場に着く。
 二人を千石に紹介した。

 「こいつは千石仁生だ。特殊な能力があって、他人に「花岡」を伝えることが出来る」
 「この人に教えてもらうのか?」
 「まあ、教えるというかな。まあ、実際に体験しろよ」

 二人は既にコンバットスーツを着ている。
 すぐに始めた。

 千石が二人の前に立ち、舞のような動きをする。
 そして両手を前に出した。

 「おい、なんだこれは!」

 天丸と天豪が驚いている。
 俺は経験が無いので、どういう感覚なのかは分からん。

 「千石、今のは基本技か?」
 「はい。同時にレベル2までの技を伝えました。お二人は格闘技の基礎がありましたので」

 千石には、相手の力量と才能が感じ取れる。
 だから、相手に合わせての技の伝授も出来るのだ。

 「そうか」
 「トラ、何が起きたんだ!」
 「トラさん、物凄くヘンな感じがしましたよ!」
 
 千石が笑って、「槍雷」を撃って見せた。
 二人にもやるように言う。
 二人は最初は戸惑っていたが、すぐに技を「思い出し」て、「槍雷」を撃った。

 「なんだこりゃ!」
 「なんかスゴイのが出ましたよ!」

 千石と笑って、一通りの今教えた技を試させる。
 「螺旋花」「金剛花」「仁王花」その他10種類もの技だ。

 「おい、こんなに簡単に覚えられるものなのか!」
 「そんなこともねぇよ。才能がなきゃ覚えられないし、それに使いこなすのは当然訓練が必要だ。ただまあ、基礎から積み上げるよりはよっぽど早いけどな」
 「こんなんでいいのかよ」
 「心配すんな。後でみっちりしごいてやる」
 「おう、期待してるぜ!」
 「宜しくお願いします!」

 二人とも喜んでいる。
 自分たちで早速技の使い方を考え始めていた。
 流石に格闘家として積み上げて来たことが分かる。

 「千石、どう見た?」
 「はい、才能は申し分ないですね。第5階梯までは間違いなく習得するでしょう」
 「そうか。こいつらは制限はねぇ。教えられる限りを伝えてくれ」
 「分かりました」

 「こいつらならば2週間でものにするだろうよ」
 「自分もそう思います」
 「じゃあ、頼むな」
 「はい、お任せを」

 呆然としている二人の背中を叩き、俺は笑いながらヘッジホッグの指令本部へ行った。





 「タイガー、《ヤイバ》には「フェートン」の攻撃も効かなかったな」
 「ああ、あのエネルギー量が凌げるとなれば、兵器は打つ手が無いな」
 「まいったぜ」

 ターナー大将と話し合った。
 先日の西安潜入調査でのことだ。
 他に参謀本部の連中もいる。

 「虎白さんの言うには、石神家の《界離》らしい」
 「なんだ、その《カイリ》というのは?」
 「この世から去る、という意味だ。一時的に異空間へ移行するんだとよ。俺も知らなかった」
 「そんな技があるのか!」
 「虎葉さんのオリジナルだ。虎白さんや怒貪虎さんくらいしか出来ねぇ。今、剣聖たちが習得中だ」
 「凄まじいな。「フェートン」の攻撃は2.089秒だった。数億度の空間はその後8.4秒続いた。100度に下がるまでは更に42秒かかっている。暴風の中だけどな」
 「まあ、周辺500キロがとんでもない高熱になったからな。誰も生き残ってねぇ」
 「ああ、中国軍の大陸間弾道弾も全滅だ。《ハイヴ》は無事だろうけどな」
 「《ハイヴ》の観測はまだ出来ねぇか」
 「まだだ。でも、《ヤイバ》が戻って行ってそのまま何の反応も観測出来ないので、損害は無いのだろう」
 「度肝を抜くつもりだったんだがなぁ」
 「当てが外れたな」

 兵器としては、俺たちの最大のものの一つだった。
 「フェートン」からの一撃は、必殺のものになるはずだったのだ。
 
 「やっぱ石神家に賭けるしかねぇなぁ」
 「宜しく頼む。そっちはどんな状態だ?」
 「まだ模索中だよ。今は100人以上の剣士に剣聖を同時攻撃をさせている。でも、全然届かねぇよ」
 「そうか」
 
 今やっているのは、《刃》の凄まじい猛攻を一時的にせよ防御する訓練に過ぎない。
 未だ、《刃》を斃すための剣技ではないのだ。
 もちろん、防御しながらの攻撃もそれぞれに考えてはいる。
 だが、まだ到底実用的な段階には来ていない。
 何しろ相手は異次元に避難出来る技を持っているのだ。

 俺は天丸たちを千石に任せ、日本へ戻った。
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