富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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天丸と天豪 Ⅳ

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 明らかに常軌を逸した存在。
 体長4メートル以上、体重凡そ1.5トン。
 上腕の太さは1メートルを超え、前腕も太い。
 太ももは150センチで、筋肉の束がうねっている。
 おまけに頭部に角があり、獰猛な牛のような顔だ。
 これまで天丸が相手にして来たのはあくまで人間であり、体躯に関しては天丸以上の人間はいなかっただろう。

 それでも天丸は立ち向かった。
 妖魔は、最初は天丸の攻撃を受けるだけだった。
 顔面にパンチは届かないが、天丸が見事な飛び蹴りを見舞った。
 天丸の身体能力はすさまじい。
 強烈なパンチやキックを次々に見舞って行く。
 人間相手であれば、殺しているほどの勢いだ。
 しかし、そのどれもが全く通じていない。
 天丸の顔が必死になった。
 天丸がローキックに切り替えた。
 人間相手ならばハイキックになる。
 妖魔の太腿ではなく、膝関節を狙って撃ち続けた。
 妖魔は相変わらず受け続け、やはりダメージは無い。
 天丸は半歩近づいて、膝を曲げて飛び蹴りを妖魔の膝関節に見舞った。
 ガキンと音がして、妖魔が初めて体勢を崩した。
 しかし、その直後に右腕の一振りで天丸は吹っ飛んだ。
 ガードも意味を為さない強烈なものだった。
 リング外でのびている天丸に声を掛けた。

 「おい、大丈夫か?」
 「あれは無理だぜ」
 「そうだな」

 俺は笑ってリングに上がった。
 先ほどとは違い、妖魔は瞬間に移動する。

 「ほう、速くなったな」

 俺は笑って振り向きもせずに後ろ蹴りを見舞った。
 視覚ではなく気配察知だ。
 妖魔が吹っ飛ぶ。
 リング外へ飛び出して動かなくなる。

 「すげぇな! それが「花岡か!」
 「いや、普通の立ち技だよ」
 「なんだと!」

 笑っていると、麗星と天豪が降りて来た。

 「おい、天豪! リングへ上がれ」
 「はい!」

 天豪もコンバットスーツへ着替えてリングへ上がって来る。
 俺に一礼し、腰を引いて両手を前に出して構えた。
 足は横に開いている。
 典型的なレスリングのスタンスで、膂力の強い天豪には合っている。
 相手の攻撃を受けるスタイルであり、その攻撃を掴めば天豪はいかようにでも料理出来るのだろう。
 天丸の試合を見たことがあるが、その時には重心を低く取り足を前後にしたスタンスだった。
 総合格闘技のスタンスであり、タックルや立ち技に対応しやすいものだ。
 恐らく天豪も総合格闘技の技を教育されているだろうから、完全に俺に対するスタンスなのだろう。
 こいつは、あらゆる格闘技に精通しているのが分かる。

 俺は前に飛び出し、タックルではなくそのまま天豪の両腕の間に入った。
 天豪は驚いていたが、即座に俺を掴みにかかる。
 その両腕を指で突いた。
 急所だ。

 「ウッ!」

 小さく呻いて身体を後退させる。
 俺は前に踏み出して天豪の胃に掌底を撃ち込んだ。
 天豪が吹っ飛んで転がった。
 苦しがっていたが、すぐに立ち上がる。

 「おい、無理すんな」
 「大丈夫です!」

 天豪が無理矢理に笑った。
 無理な笑顔だったが、本当に嬉しそうだった。

 俺は今度は黙って立っていた。
 天豪が遠慮なく攻めて来る。
 ローキック、ジャブ、フック、ハイキック、どれも俺が余裕で捌いた。
 天豪の瞳が輝き、右フックを撃って来た。
 俺は前に出てかわし、そこへ左のアッパーが来る。
 天豪の必殺技であることが分かった。
 空中に跳ねてかわすと、前に出た天豪が無数の攻撃を仕掛けて来る。
 俺は回転する足と手でまた捌いた。

 「面白いことをやるな!」
 「スゲェです!」

 俺も嬉しくなり、天豪に攻撃を仕掛ける。
 リズムを崩し、天豪を翻弄する。
 トップスピードで攻撃し、天豪が無防備になる。
 軽く当てるだけなので、天豪にダメージは無い。
 しかし、天豪には俺が一撃で沈められることが理解出来ていた。

 「じゃあ、行くぜ!」

 右手の鉤突きを撃った。
 即座に左のフックから、連続して技を繰り出した。
 48手の攻撃が天豪を翻弄する。
 最後に中段蹴りで天豪をリングの外へ弾き出した。

 「参りました!」

 天豪が笑って戻って来た。

 「石神さん、やっぱスゴイですね!」
 「お前もなかなか面白いな。あの右フックと左アッパーのコンビネーションは面白かった」
 「俺の隠し技なんですよ。初見でかわされたのは初めてです」
 「アッパーを受けたら、次の攻撃があったんだろう?」
 「まあ、そうです。避ける奴はいなかったんですけどね」
 「ワハハハハハハハハ!」

 天丸もリングへ上がって来た。

 「トラ、最後の技はなんだ!」

 やはり、こいつも気付いていた。

 「ああ、《奈落》という技だ。聖と一緒に回避不能、防御不能の技を考えた」
 「聖か! ああ、あいつも強かったよなぁ」
 「トラさん、あれは凄いですね。まったく防御出来ませんでした」
 「だからそういう風に考えたんだって」
 「感動しましたよ」
 「そうか」

 三人でシャワーを浴びて着替えて上に上がった。
 麗星が庭の東屋で冷たいお茶を出してくれた。
 天狼と奈々が来て、俺に甘えた。

 「麗星、天豪のことは何か分かったか?」
 「はい、「流観」の素質はあったのですが。でも、道間の者としてはそれほどとは」
 「そうか」
 「トラ、構わない。俺なんかは何の素質も無いんだしな」
 「そうですよ、トラさん。俺たちはどんどん鍛え上げて行くだけです」
 「そうか」

 俺は二人を見た。

 「おい、やっぱりお前たちの格闘技の才能は凄いぞ」
 「そうですか!」
 「特に天豪な。お前なら、さっきの《奈落》も他の技も教えれば習得出来るぜ」
 「是非!」
 
 「ガハハハハハハハ!」

 天丸が大笑いした。
 天豪も笑っている。

 「おい、トラ。もうよせ。俺たちはとっくに覚悟を決めてんだ」
 「なんだよ」
 「お前、天豪にまた総合格闘技をやらせたいんだろう」
 「そりゃ、あんな才能があったらなぁ」
 「バカ! もう格闘技なんて未練はねぇ。俺たちはお前の下で戦いたいだけだ」
 「お前らなぁ」

 天豪も言った。

 「石神さん、ありがとうございます。石神さんが優しい方だって、親父からはいつも。でも、俺も親父と同じですよ。もう決めたんです。俺たちは「業」と戦います」
 「お前らにソルジャーとしての才能が無くてもかよ」
 「はい! そんなもの関係ありません。でも、努力してきっとお役に立ちますよ」

 呆れた奴らだ。
 麗星が俺の肩に手を置いて笑っていた。

 「あなたさま、やっぱりそうですよ」
 「そうだったな」
 「御自分が幸せになりたい方々ではないです」
 「そうだな、バカだかんな」
 
 麗星が言った。

 「天豪さん、さきほどのお話は嘘でございます」
 「なんですって?」
 「天豪さんには途轍もない才能がおありでした。道間家の歴史の中でも相当上の部類です。特に「流観」の才はとても! また他にも「牙波」や「流魂」、「背闇」など、幾つもの素養をお持ちです」
 「あの、なんだか分かりませんが、俺にも才能があるんですか?」
 「はい! 道間家で鍛えても良いのですが、旦那様がもっと良い場所で鍛えて下さるでしょう」
 「本当ですか!」

 俺も笑うしかなかった。
 先ほど天豪を連れて行こうとする麗星に、天豪には才能が無いと伝えるように言ったのだ。
 こいつらには日の当たる普通の道を歩んで欲しかった。

 「おい、天丸。お前も才能はあるから安心しろ」
 「ほんとか!」
 「ああ、最初にやったでかい妖魔な。あいつはお前にある術をかけていた」
 「だから攻撃が通じなかったのか!」
 「そうじゃねぇよ! お前の攻撃なんぞあんな程度だ。そうじゃなくってな、お前が恐怖し、委縮するようにしたんだ。でもお前は突っ込んで行った」
 「あ、ああ。なんだ、俺は弱いのか」
 「今の肉体ではな。でも、精神は違う。お前は一流の戦士の魂を持っている。何者にも屈しない、鋼の精神だ」
 「そうか!」
 「まあ、昔からお前はそうだったよな」
 「ああ!」

 天丸はいつも突っ込んで行った。
 それでやられても、いつも笑っていた。
 負けない男、それが天丸だった。

 俺は天狼と奈々と少し遊び、天丸たちは蓑原たちの訓練を見学した。
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