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天丸と天豪 Ⅱ

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 「鬼愚奈巣」との抗争が始まり、俺の指示で敵が少ない人数でいる時に潰して回る作戦を実行して行った。
 相手は俺たちの倍以上の人数がいるため、そうやって敵の兵隊を減らして行ったのだ。
 暴走族と言っても、それほど強い連中はいない。
 喧嘩好きが集まっているので、そこそこの強さはあるが、それでも素人と大きな違いは無い。
 喧嘩にビビらないかどうかが強さの違いと言っても良かった。

 もちろん、中にはとんでもない連中もいた。
 俺もそうだし、後に戦うピエロの青なども傑出していた。
 聖もそうだ。
 そしてうちのチームでは天丸。
 巨体で筋肉も凄く、まず負けることは無かった。
 それでもゴチャマンで乱戦になると、数人がかりで潰されることもある。
 やはり素人なのだ。

 「鬼愚奈巣」の枝潰しは順調に行っていた。
 俺は特攻隊を中心に攻撃チームを編成し、主に俺と天丸とで数人になった連中を潰して回った。
 槙野やイサもいたが、確実に相手を潰すのは俺と天丸だった。
 まだ何番隊という大きな編成は出来ず、特攻隊という一つの集団でいた時期。
 相手に倍する人数で襲撃し、俺と天丸は毎回一人で数人を潰して行った。

 しかし、ある時に天丸が失敗した。
 相手が3人だったために自分一人で乗り込んだのだが、生憎相手が得物を持っていた。
 鉄パイプを全員が持ち、しかも人を殴るのに躊躇が無い冷酷な者たちだった。
 天丸は初撃を後頭部に喰らい、脳震盪を起こした。
 その後は滅多打ちだ。
 保奈美たちがたまたま通りかかり、俺に連絡してきた。
 四輪を呼ばれ連れ去られた天丸を、俺が救出に行った。
 俺は特攻隊を引き連れて「鬼愚奈巣」の廃工場のアジトに突っ込み、15人を相手に何とか潰した。
 当時は特攻隊はまだ20人だけだった。
 天丸は気を喪っていたが、それほどの重傷では無かった。
 鍛え上げた筋肉が衝撃を吸収し、骨は折れていない。
 打ち身は激しいが、こいつならば大丈夫だろう。

 俺は仲間を呼んで、相手の四輪を運転させて天丸を引き上げた。
 病院は必要無かった。
 天丸の家に運び込み、手当をする。

 「トラ」
 「おう、起きたか。危なかったな」
 「悪い、しくったぜ」
 「油断したな」
 「ああ、最初に頭に喰らっちまった」
 「気を付けろ。お前、それ以上バカになったら大変だかんな」
 「ワハハハハハハハハ!」

 天丸は元気そうだった。
 静香が来た。
 天丸の彼女だ。
 細身の大人しい女で、「ルート20」には入っていない。
 天丸が同じ高校で静香と出会った瞬間に一目惚れした。
 最初はでかくいかつく、粗暴に見える天丸は嫌われていた。
 しかし、猛烈に交際を申し込み、ついに静香と付き合うことになった。
 付き合ってみれば、天丸ほど優しい男はいない。
 今では静香も天丸に夢中だ。

 「天丸!」
 「おう、やられちまった」
 「大丈夫なの!」
 「ああ、トラが助けてくれた」
 「うん!」

 静香が泣きながら天丸に抱き着いた。

 「じゃあ、俺は行くな」
 「おう、ありがとうな」
 「仲間だろう。お前がやられたら助けに行くって」
 「ああ、俺もだ」

 俺たちの働きで、「ルート20」は巨大な「鬼愚奈巣」に勝利した。
 天丸は大活躍で、掛かって来る敵を全部潰した。
 特攻隊が褒め称えられ、チームがでかくなるに従い、特攻隊のメンバーも増えて行った。
 チームの花形と見做され、希望者が多かった。
 その中で、天丸は猛者たちを従えて、常に活躍していた。

 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「そう言えば、静香さんは元気か?」

 天丸は静香さんと結婚し、「ルート20」の多くのメンバーが式に呼ばれ祝った。
 俺も出れなかったが、みんなが幸せそうな天丸と静香さんを心底から祝った。

 「静香は死んだんだ。もう7年になる」
 「なんだって!」

 俺は何も知らなかった。
 天丸の活躍は知っていたが、連絡を取ることは無かったからだ。
 
 「殺されたんだよ」
 「誰にだ!」
 「「業」だと思う」
 「!」

 俺はその言葉に衝撃を受け、天丸の目が真っ赤に燃えていた。

 「相手のことが分かったのは最近だ。犯人は見つからず、ずっと誰に殺されたのか分からなかった」
 「どうして「業」だと知ったんだ!」
 「静香は「道間静香」だったんだ」
 「なんだと……」

 全てが分かった。
 「業」が道間家の血筋を滅ぼした時に、静香さんも殺されたのだろう。
 静香さんの旧姓は俺も知らなかった。
 学校も違ったし、天丸からは「静香」とだけしか聞いたことがなかった。
 まさか道間の家の人間だったとは。

 「上半身が吹き飛ばされて死んでいたんだ。買い物帰りに襲われ、駐車場で。警察は爆発物だと考えたようだけど、爆発音は誰も聞いていない。あれは「花岡」だったんだな」
 「お前は道間家のことを知ったのか」
 「ああ。静香の葬儀のために、道間家へ連絡したが、誰とも連絡が繋がらなかった」
 「そうか」

 当時は大騒ぎだったはずだ。
 血筋の人間のほとんどを殺され、麗星の他は幾人も残っていない。

 「先日、やっとな。道間家の方が俺に連絡をくれたんだ。その時に、道間家がどういう家系かも聞いた。どうして殺されたのかもな」
 「……」

 天丸が話したのは、どうやら五平所らしい。
 あちらも残った血筋を探していたのだろう。
 天丸と俺との関係は知らなかったに違いない。
 
 「天豪はよく助かったな」
 「ああ。俺と一緒にアメリカへ行っていたんだ。向こうの試合を見せようと思ってな。だから生き延びた」
 「そうか」
 
 天丸が赤い瞳で俺を見ている。
 よく分かった。

 「道間家は大変なことになった。当主も跡継ぎも皆殺しだ。かろうじて直系では麗星だけが助かった。今は俺の妻の一人でもある」
 「なんだって!」
 「不思議な縁だ。なんだ、お前と俺は親戚になってたんだな」
 「おう、そうなのか!」

 天丸がやっと明るく笑った。

 「道間家の血筋は、妖魔を操る。天豪にも、その才能がきっとあるだろうよ」
 「それって、戦えるってことか?」
 「まあ、多分な」

 天丸と天豪が立ち上がった。
 そして並んで俺に頭を下げた。

 「トラ! 頼む! 俺たちを「虎」の軍へ入れてくれ!」
 「分かったよ。でも、訓練は一からになるぞ」
 「構わねぇ! どんなきつい訓練でも大丈夫だ。いや、むしろそうしてくれ。俺も天豪も強くなりてぇんだ!」
 「そうか」
 「これまでだって、血反吐を吐くほどやって来たんだ。何でもやらせてくれよ」
 「じゃあ、そうするか」
 「おう! 頼むぜ!」

 二人が喜んだ。
 こいつらにとっては、仇討ちだ。
 俺たちは「業」に大切な人間を奪われて来た。
 これからもそうだろう。
 だから戦うのだ。
 大切な者たちのために。
 愛があるからこそ、復讐もあれば護る戦いもある。

 「期待してるぜ!」
 「おう、任せろ!」
 「宜しくお願いします!」

 輝かしい未来のある二人が、地獄の戦場へ行く。
 連れて行くのは俺だ。
 俺の罪なのだ。
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