富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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15年前の親子

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 ゴールデンウィークに入り、三週間も中南米の戦場を回っていた亜紀ちゃんと柳をアラスカへ呼んだ。
 その都度報告は受けているが、大活躍らしい。
 中南米は「業」の浸食が激しく、「虎」の軍側の軍が劣勢の場合も多かった。
 正規軍が敵であることも珍しくない。
 実際にはもっと複雑で、同じ政府や軍の中でも分裂して対立していることもある。
 亜紀ちゃんと柳は戦闘が行なわれている場所へ赴いて、敵軍を壊滅させていった。
 時には敵基地や施設を急襲することも多い。
 しかもなるべく兵士を殺さずに、「虎」の軍側の勢力に捕虜として扱わせる。
 本当は敵ではないためだ。
 人類は今後、「業」の勢力に一丸となって立ち向かわなければならない。
 だから大規模な技でなるべく犠牲者を出さないようにしながら圧倒し、戦意を喪わせる戦い方が求められた。
 二人ともその方向でやってくれていた。
 もちろん犠牲者は出るが、なるべく武装を解除させて降伏させていった。

 俺は二人を労うために、「ほんとの虎の穴」のVIPルームに連れて行った。
 亜紀ちゃんたちといえども、許可なく入ることは出来ない。
 自由に使えるのは俺と聖、そして御堂だけだ。
 その三人が許可した人間だけしか使えない。
 一応早乙女にも「親友だから」ということで自由に出入りできるのだと言っている。
 前に連れて来た時にそう説明した。

 「ここは俺の親友の聖、御堂、そしてお前しか自由に出入り出来ねぇ」
 「そうなのか!」
 「親友だかんな」
 「本当か! 嬉しいよ!」
 「うん」

 まあ、聖や御堂は来るが、早乙女はアラスカへは来ない。




 

 「タカさーん!」
 「石神さーん!」

 VIPルームの前で亜紀ちゃんと柳が待っていて、俺に手を振った。
 
 「よう! 大活躍だってな!」
 「はい! もう毎日頑張ってますよー!」
 「私も段々戦場に馴れて来ました!」
 「そうか。じゃあ、今日は遠慮なく飲み食いしろ」
 「「はい!」」

 俺は笑って二人の肩を抱いて部屋へ入った。
 雑賀さんが出迎えてくれる。
 最初は料理を出すために、テーブル席に着いた。

 「今日は存分にお寛ぎ下さい」
 「またお世話になります」
 「雑賀さん! 楽しみにしてました」
 「ありがとうございます」

 すぐに料理が運ばれ、雑賀さんがワインを出して来た。
 柳は酒が強くないので弱い炭酸の水だ。

 「本当に戦場が多いんですよ!」
 「大体弱い方が味方ですね」
 
 二人が食べながら楽しそうに話す。
 コース料理ではなく、俺たちの好きなものがどんどん来る。
 鴨のコンフィや野生の鹿肉のステーキ(厚め・大量)、ローストビーフ(大量)などが最初に運ばれる。

 「ニカラグアで、茜さんたちも大分慣れました」
 
 最初は二人に茜と葵についてもらった。
 葵は大丈夫だったのだが、茜は戦場はあまり経験がない。
 何度か聖に連れられて出たが、自分たちで判断する戦場は初めてだ。

 「茜さん、最初は戸惑ってましたけど、すぐに順応できましたよ」
 
 それはファースト・キルの話だ。
 人間を殺すことには、誰でも抵抗がある。
 しかし戦場ではそれが常なのだ。
 だから敢えて目まぐるしく動く戦場を選んで戦わせた。
 迷うことが死につながる。
 ニカラグアというのも、俺と聖のファースト・キルの地だからだ。
 茜にそれを意識させ、自分も早く戦場に馴れるようにさせた。
 見知らぬ敵、どういう人間かも分からない敵を斃す。
 そうしなければ、戦場で生き延びることは出来ない。
 夢中になってそれをやれば、自然と戦場を理解出来る。

 「葵さんがとにかく的確ですからね。茜さんもすぐに動けるようになりました」
 「そうか」

 戦場が優しいはずもない。
 しかし、あいつはそれを選んだのだ。
 そして、自分で決めたことをあいつは迷わない。
 苦しみながら、悲しみながら、戸惑いながらも進んで行く。
 そういう女だ。

 「何度かライカンスロープが出ました。やっぱり「業」の浸食は深いですね」
 「サンパウロ郊外の戦場だよね。ブラジルは結構ヤバいですよ」

 亜紀ちゃんたちのお陰で、中南米の政情も徐々に分かって来た。
 完全に掌握されてはいないが、政治や軍の中枢にまで「業」の手が及んでいるようだ。

 「あ! ニカラグアでタカさんと聖さんを知ってる人がいましたよ!」
 「そうか」
 「懐かしがってました。今は大佐階級になってました」
 「ほう、出世したな」

 俺たちは飲み食いしながら話していた。
 その時、VIPルームの入り口で声を掛けられた。
 俺の姿が見えるように、入り口はオープンになっている。
 みんなが俺を見たがるという希望があったからだ。
 俺が来ているのを知ると、大勢が入り口から覗き込んで、時には声を掛けて来る。
 俺もいつも愛想よく対応していた。
 ここでは密談はしない。
 料理と酒を味わうために来るのだ。
 俺なんかを見たがるのならば、自由にさせてやりたかった。
 大体が俺に声を掛け、俺が応じれば満足して立ち去って行く。
 俺を見たいのだろうが、俺の邪魔はしないでいてくれた。

 「石神さんですか!」

 振り向くと、日本人の年配の男性と若い女性が二人で立っていた。
 立ち去らないので雑賀さんが向かって、ここは特別な部屋なので離れるように言った。

 「すみません! 分かっているんですが、一言お礼を言いたくて!」
 「石神様は今お食事中です。どうか」
 「すみません! 15年前に石神さんに助けて頂いた者です! 佐伯と言います!」

 大声で叫んでいる。
 亜紀ちゃんが向かった。
 口にでかい鹿肉のステーキを咥えている。
 俺も入口へ向かった。

 「おい、口のものを何とかしろ!」

 亜紀ちゃんが数回咀嚼してステーキを呑み込んだ。

 「おい、雑賀さんが用意したものなんだから味わって喰え!」

 亜紀ちゃんがちょっと身を屈めた。
 口の中がまた一杯になる。
 
 「……」

 こいつ、反芻が出来るようになってやがる。
 ちゃんと味わってから(?)、また呑み込む。
 俺に「これでいいですよね」という目を向けた。

 「お二人はタカさんを知ってる人なんですね!」
 「はい! 石神さんに助けられて、娘と!」
 「どうぞ中へ!」

 雑賀さんが止め、俺を見ていた。

 「亜紀様」
 「タカさん、いいですよね?」

 亜紀ちゃんがもうその気になっている。
 俺は笑って中へ入るように言った。
 二人が近付くが、記憶が無い。
 なんとなく、見覚えはあるのだが。
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