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竹流 アゼルバイジャンへ Ⅱ

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 東雲さんのお部屋へ行くと、中へ入れてくれお茶を頂いた。
 仮に立てた集合住宅で、東雲さんもみんなと同じに住んでいる。
 ただし、二人住まいなのと指揮官でもあるので、最上階の広いお部屋だ。
 僕が西野さんのことを話すと、喜んでくれた。

 「そうか、そりゃよかったな」
 「はい! 東雲さんのお陰です!」
 「俺は何でもねぇよ。こういうのは縁だかんな」
 「そういうものですか」
 
 誘われて東雲さんと一緒に小春さんの作った夕食をいただいた。
 小春さんの料理は本当に美味しい。

 「どういう人なんだ?」
 「西野さんという方で、医療関係のお仕事をしているそうです。ずっと海外にいるって」
 「そうなのか」
 「40歳くらいだと思うんですけど、お化粧もしてないんですが、綺麗な方でしたよ」
 「へぇー」
 
 僕は嬉しくて東雲さんに一杯西野さんのことを話した。
 東雲さんは折角仲良くなったのだから、今後も交流して行くように言ってくれた。

 「まあ、時間があったら行ってやれよ。ああ、携帯電話を手配してやる。お前、持ってないだろう?」
 「え、いいんですか?」
 「もちろんだ。まあ軍のものは使えないけどな。石神さんからも使いそうになったら用意してやれって言われてる」
 「そうなんですか!」
 「まあな。でも、お前、全然誰かと話すことも無かったからよー」
 「アハハハハハハ!」

 神様とは「虎」の軍の端末で話すし、他の軍の方々ともそうだ。
 それ以外に通話する相手はいなかった。
 たまに「暁園」の仲間や「紅六花」の方々とも話すけど、その時にも「虎」の軍の端末だ。
 個人的な友達はいなかった。

 



 西野さんとは携帯で連絡を取るようになった。
 でも、西野さんは携帯電話を持っていなかった。
 だからホテルの電話で話したり、連絡を取って待ち合わせを決めたりした。
 一緒に食事やお茶をし、互いの買い物などを付き合った。

 ある時、西野さんが言った。

 「実はね、近々移動する予定だったんだけど、ダメになっちゃったの」
 「そうなんですか」
 「うん。近くで戦争がありそうでね。それで通行止めになっちゃって」
 「はい」

 僕には分かった。
 バクー市街の基地建設に伴って、「業」の軍が攻撃を始めたのだ。
 今はまだ散発的なものだけど、いつ本格的な戦闘になるのか分からない。
 だから外国人の移動は基本的に出来なくなっている。
 基地の方は基礎工事が終わりかけているところだった。
 アラスカからも応援が増えつつある。
 バクー市周辺にも戦火が広がりつつあるので、だから、一般人の移動も差し止められているのだ。

 「でも、僕は良かったですよ」
 「え?」
 「だって、折角仲良くなれた西野さんと一緒にいれますもん!」
 「あ、そうか! そういう考え方ね!」
 「はい!」
 「アハハハハハ! そっか、私も同じだ! 竹流君とまだ一緒にいれて嬉しいよ!」
 「はい!」

 西野さんは僕に別な悩みを言った。

 「実はね、うちのチームは結構危険な場所に行くことが多いんだ」
 「え、そうなんですか?」
 「今はどこも戦争が増えているしね」
 「護衛の人たちとかはいないんですか?」
 「うん。自分たちである程度は護らないといけないの」
 「大変じゃないですか!」
 
 僕は心配になった。
 西野さんは笑っている。

 「でもさ、私って結構強いんだよ!」
 「え、西野さんが?」
 「そう。高校時代の恋人って喧嘩が強くてね! だから私も一緒に喧嘩することも多くてね!」
 「西野さんがですか!」
 「そうなのよ! だから今でも結構やるのよ?」
 「信じられません!」
 「アハハハハハハ!」

 西野さんが嬉しそうに笑った。
 確かに、一般の人に比べて、西野さんが動けるのは見ていて分かった。
 体力もあるし、運動神経もいい。
 僕には、西野さんが銃器を扱えることも見て取れた。
 どれほどの腕かまでは分からなかったけど。
 その日はそれで別れ、僕は東雲さんに相談した。

 「いつもお会いしている西野さんという方なんですけど」
 「おう、どうした?」
 「いつも危険なこともあるそうなんです。だから、西野さんに「花岡」を少し教えたいと」
 「なるほどな。じゃあよ、石神の旦那に相談してみろよ」
 「え!」
 「竹流は幹部メンバーなんだ。しかもネームドのな。だから本来独自の判断で「花岡」を伝授したり、情報を一部明かしたり、それに武器の貸与も出来るんだぜ?」
 「そうなんですか!」

 神様からネームドの幹部メンバーとは聞いていたけど、どれほどの権限があるのかなどは知らなかった。

 「でもよ、一応お前はまだ未成年だ。だから一度旦那に確認しろよ。俺が繋いでやる」
 「はい! ありがとうございます!」

 東雲さんはすぐに神様に繋いでくれた。
 神様がちょっと東雲さんを怒っているみたいで、東雲さんが頭を下げて謝っていた。
 僕のせいなのは分かって申し訳なかったけど、すぐに東雲さんが笑顔で僕に通話を回してくれた。

 「竹流か! どうだよ、元気でやってるか?」
 「はい! 東雲さんや皆さんにもよくしてもらってます!」
 「そうか。ああ、さっき東雲から突然連絡が来て何事かと思ったんだけどな。お前のことだって?」
 「そうなんです! あの……」

 僕は神様に西野さんのことを話した。
 医療関係の仕事をされていて、危険な場所にも行くそうなので、「花岡」を教えたいのだと。
 僕が説明すると、すぐに神様は許可してくれた。
 西野さんのことはほとんど聞かれず、僕のことを信頼しどんどんやれと言ってくれた。

 「そうか。お前が認めた人間なら構わないぞ。どこまで教えるのかも竹流の判断に任せるからな」
 「え、いいんですか!」
 「構わん。俺はお前のことを信頼しているからな。ああ、「カサンドラ」や「Ωコンバットスーツ」もやって構わないぞ。お前の大事な人間だ。お前が必要だと思ったらどんどん渡せよ」
 「はい!」
 
 僕も知っている。
 「カサンドラ」や「Ωコンバットスーツ」は、神様の敵に渡れば機能しないことを。
 それに根本的に神様の意に反するような人たちにも機能しない。
 物凄い技術でどういう仕組みかは分からないけど、本当にそうなのだ。
 
 「ありがとうございます。じゃあ、西野さんに教えますね!」
 「ああ、存分にな。たまにはお前の顔を見に行きたいんだけどよ」
 「大丈夫ですよ! いつも神様のことを思い出してますから!」
 「そうかよ。でも、近いうちに行くよ。俺がお前の顔を見たいんだ」
 「はい! いつでも待ってます!」
 「じゃあな!」

 通話を切った。
 東雲さんがニコニコしていた。
 東雲さんにお礼を言い、お部屋を出た。
 すぐに西野さんに連絡し、明日にでも会いたいと言った。
 西野さんも喜んで応じてくれた。

 その晩は嬉しくて、なかなか寝付けなかった。
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