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麗星の出産(三人目!) Ⅲ

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 9時頃に天狼と奈々と風呂に入った。
 天狼と奈々は嬉しそうに俺の背中を流し、髪を洗った。
 まあ、天狼がまともにやってくれ、奈々は嬉しそうに天狼と同じ動きをするだけだ。
 俺も二人の身体と髪を洗い、三人で楽しんだ。
 風呂から出ると、五平所が待っていた。

 「お生まれになります!」
 「そうか」

 まあ、俺にはやることはない。
 天狼たちと遊びながら待っていた。

 10時前に、また五平所が来た。

 「お生まれになりました! 元気な男の子です!」
 「そうか!」

 俺はまたしばらく待たされ、11時前にやっと麗星の所へ行った。
 天狼と奈々はもう寝かせている。
 麗星は出産直後だが、元気そうだった。
 流石に3人目なので、お産も軽いのだろう。

 「あなたさま……」
 「おう、大丈夫か?」
 「はい。どうか子どもの顔を見て下さいませ」
 「ああ」

 前にも会った産婆が俺に新生児を見せた。
 あどけない顔で眠っている。

 「石神様。また」
 
 そう言って産婆が俺に両腕を見せた。
 またリヒテンベルク図形が拡がっていた。

 「これで三度も。どんな産婆でも、これほどのことは」
 「ワハハハハハハハハ!」

 とんでもねぇ。
 火傷自体は支障は無いようなのだが、まさかまたこんな現象が起きるとは。

 「あなたさま」
 「ああ」
 「是非、名付けを」
 「……」

 麗星と五平所が俺を見ていた。
 俺は赤子を抱きながら、その顔を見ていた。
 重要な場面だ。
 どうも道間家ではとんでもない名前があるようで、麗星たちは「もうない」と言っていたが当てにはならない。

 「あのさ、ずっと頭に思い浮かんでいた名前があるんだ」
 「それは!」

 二人が驚いている。
 あー、やっぱりまだ特別な名前があるんだー。
 もうやらかさないぞー。
 
 「いや、お前たちともよく話し合って決めたいからさ。お前たちが何か考えてた名前はないのか?」
 「いいえ、あなたさまにお願いするつもりでしたので、なにも」
 「そっか」
 
 流石に引っ掛からない。
 まあ、俺も肚の読み合いは得意だ。
 今回は最初から危ないことを悟ってここにいる。
 俺は御立派な子どもを欲しいわけではない。
 普通でいいのだ、普通で。

 「天狼はもちろん夜空で最も輝くシリウスだな。そして奈々は幾つかの思入れはあるが、北斗七星と繋がってもいる」
 
 麗星と五平所の目が輝いた。
 星関連は不味そうだ。
 そこへハイファが現われた。

 「なんだよ!」
 「私もご一緒に名付けを拝聴したく」
 「なんでだよ!」
 「いいえ、なんとなく」

 ハイファが「なんとなく」なんてあり得ない。
 これは相当注意せねば。
 俺は更に思考を高速回転させた。
 ぐるぐる。

 「ただな、この子には星には関わらない名にしようかと思うんだけど、どうかな」

 麗星と五平所から目の光が消えた。
 隠そうとはしているが、少し落胆したようだ。
 あぶねー、やっぱ星はヤバイ系かぁ。

 「あなたさま、「虎」の名は如何でしょうか?」

 麗星が言った。
 そっちに来たか。

 「「虎名」は、石神家がうるさいからなぁ。別に文句は言って来ないだろうけど、ヘンな関りを求めて来るかもしれん」
 「なるほど」

 そっちもやめだ。
 ここからは本当に肚の探り合いだ。

 「それで俺はやっぱり麗星が大好きだからさ」
 「あなたさまぁ!」
 「《麗人》(れいと)なんてのも考えたんだけどさ」
 「それはなんと!」
 「お屋形様!」
 
 まずい!

 「でも、なんか宝塚みたいだろ? ちょっとなぁ」
 「そ、そうですか……」

 別に宝塚でも構わないのだが。
 俺はそうやって、幾つかの名を挙げた。
 二人の反応を見て、全部やめた。
 ハイファは無表情だ。
 こいつの心を読むのは至難だ。

 「そこで《夜羽》(よるは)というのを考えたわけだけど」
 「さようでございますか」

 あ、二人の反応がねぇ!
 まあ、麗星にしても五平所にしても、元々正直一辺倒の連中だ。
 肚の探り合いは俺に軍配が上がったようだ。

 「じゃあ、《夜羽》でどうかな」
 「あなたさまのお決めになることですから。よろしいのではないでしょうか」
 「そっか! じゃあ《夜羽》な! おい、お前の名前は《夜羽》だぞ!」

 実は一番思いが強かった名前だ。
 夜というのは、道間家そのものに繋がる。
 この世の理(ことわり)の外で何事かを為そうとしてきた一族。
 その道間家の理想を羽ばたく者であるように、という願いを込めて。
 最初は自然に降って来るように俺の思考に落ちて来た。
 そこから、《夜羽》の何かが展開したような気がする。
 自分でも不思議だが、天狼や奈々の時もそうだった。
 まあ、今回は無難に終わりそうだ。
 
 五平所が俺を連れ出し、隣の部屋に用意してあった楮紙の前に俺を座らせた。

 「おい、また書くのかよ」
 「お願いいたします。これもこの家の決まりでございまして」
 「分かったよ」

 俺が紙に認め、それを持って麗星の部屋へ戻った。

 「命名! 《夜羽》!」

 麗星と五平所が抱き合って喜んだ。
 ハイファまでが夜羽を抱き上げて笑っていた。
 アレ?

 「五平所! やりましたよ!」
 「はい、お屋形様! 見事に!」

 「おい?」

 「これで道間家は途轍もない繁栄を!」
 「はい! 《道間皇王》天狼様に続き、《道間七道》の奈々様! そしてついに《道間賢聖》の夜羽様まで!」
 「五平所! わたくし、途中でもうダメかと!」
 「私もです! 石神様が夜羽の名を口にしたときには、思わず気を喪いそうでした!」
 「ね! わたくし、一生懸命我慢したのですよ!」
 「お見事でございましたぁ!」
 「五平所もぉー!」
 
 「おい!」
 
 二人は俺の話など聞いちゃいねぇ。
 ちくしょう、やっちまったか!

 「お前ら、俺をたばかったか!」
 「そんなことは! あなたさまがお決めになられたのです」
 「おい、夜羽はなしだ!」
 「いいえ、もう決まってしまいました。ハイファ、そうですよね?」
 「その通りでございます。つつがなく、名付けの儀は完了いたしました」
 「ね!」

 「……」

 まあ、麗星たちがこんなに喜んでいるんだ。
 それに、夜羽が俺の子どもであることには何ら変わりはない。
 カワイイ俺の子だ。

 「お屋形様、すでに全員を招集しております!」
 「でかした、五平所!」
 「料理人も先ほど到着いたしました」
 「では、存分に宴を!」
 「はい!」
 
 「おい、またやるのかよ」
 「それはもう! わたくしも着替えなければ」
 「寝とけ!」

 仕方ねぇ。
 また付き合うかぁ。






 そういえば、俺って「人狼ゲーム」が全然ダメだった。
 他の人間相手には肚の探り合いも得意なのだが、どうにも愛する者たちが相手では、俺はひたすら無力らしい。
 もう、しょうがねぇ。

 五平所が宴の指示を出している。
 俺は不貞腐れることもなく、それを笑って見ていた。
 麗星は隣の間で寝たまま、同じく笑っていた。
 俺は麗星の所へ行き、抱き締めた。

 「あなたさま……」
 「おう、いい子を産んでくれたな」
 「はい!」
 「お前は最高だ」
 「!」
 「これからも宜しくな」
 「つ、次は双子を!」
 「おい!」
 「頑張りますね!」

 俺は大笑いして麗星をまた抱き締めた。
 本当に愛しい女だ。
 最高の女だ。
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