上 下
2,612 / 2,808

麗星の出産(三人目!) Ⅲ

しおりを挟む
 9時頃に天狼と奈々と風呂に入った。
 天狼と奈々は嬉しそうに俺の背中を流し、髪を洗った。
 まあ、天狼がまともにやってくれ、奈々は嬉しそうに天狼と同じ動きをするだけだ。
 俺も二人の身体と髪を洗い、三人で楽しんだ。
 風呂から出ると、五平所が待っていた。

 「お生まれになります!」
 「そうか」

 まあ、俺にはやることはない。
 天狼たちと遊びながら待っていた。

 10時前に、また五平所が来た。

 「お生まれになりました! 元気な男の子です!」
 「そうか!」

 俺はまたしばらく待たされ、11時前にやっと麗星の所へ行った。
 天狼と奈々はもう寝かせている。
 麗星は出産直後だが、元気そうだった。
 流石に3人目なので、お産も軽いのだろう。

 「あなたさま……」
 「おう、大丈夫か?」
 「はい。どうか子どもの顔を見て下さいませ」
 「ああ」

 前にも会った産婆が俺に新生児を見せた。
 あどけない顔で眠っている。

 「石神様。また」
 
 そう言って産婆が俺に両腕を見せた。
 またリヒテンベルク図形が拡がっていた。

 「これで三度も。どんな産婆でも、これほどのことは」
 「ワハハハハハハハハ!」

 とんでもねぇ。
 火傷自体は支障は無いようなのだが、まさかまたこんな現象が起きるとは。

 「あなたさま」
 「ああ」
 「是非、名付けを」
 「……」

 麗星と五平所が俺を見ていた。
 俺は赤子を抱きながら、その顔を見ていた。
 重要な場面だ。
 どうも道間家ではとんでもない名前があるようで、麗星たちは「もうない」と言っていたが当てにはならない。

 「あのさ、ずっと頭に思い浮かんでいた名前があるんだ」
 「それは!」

 二人が驚いている。
 あー、やっぱりまだ特別な名前があるんだー。
 もうやらかさないぞー。
 
 「いや、お前たちともよく話し合って決めたいからさ。お前たちが何か考えてた名前はないのか?」
 「いいえ、あなたさまにお願いするつもりでしたので、なにも」
 「そっか」
 
 流石に引っ掛からない。
 まあ、俺も肚の読み合いは得意だ。
 今回は最初から危ないことを悟ってここにいる。
 俺は御立派な子どもを欲しいわけではない。
 普通でいいのだ、普通で。

 「天狼はもちろん夜空で最も輝くシリウスだな。そして奈々は幾つかの思入れはあるが、北斗七星と繋がってもいる」
 
 麗星と五平所の目が輝いた。
 星関連は不味そうだ。
 そこへハイファが現われた。

 「なんだよ!」
 「私もご一緒に名付けを拝聴したく」
 「なんでだよ!」
 「いいえ、なんとなく」

 ハイファが「なんとなく」なんてあり得ない。
 これは相当注意せねば。
 俺は更に思考を高速回転させた。
 ぐるぐる。

 「ただな、この子には星には関わらない名にしようかと思うんだけど、どうかな」

 麗星と五平所から目の光が消えた。
 隠そうとはしているが、少し落胆したようだ。
 あぶねー、やっぱ星はヤバイ系かぁ。

 「あなたさま、「虎」の名は如何でしょうか?」

 麗星が言った。
 そっちに来たか。

 「「虎名」は、石神家がうるさいからなぁ。別に文句は言って来ないだろうけど、ヘンな関りを求めて来るかもしれん」
 「なるほど」

 そっちもやめだ。
 ここからは本当に肚の探り合いだ。

 「それで俺はやっぱり麗星が大好きだからさ」
 「あなたさまぁ!」
 「《麗人》(れいと)なんてのも考えたんだけどさ」
 「それはなんと!」
 「お屋形様!」
 
 まずい!

 「でも、なんか宝塚みたいだろ? ちょっとなぁ」
 「そ、そうですか……」

 別に宝塚でも構わないのだが。
 俺はそうやって、幾つかの名を挙げた。
 二人の反応を見て、全部やめた。
 ハイファは無表情だ。
 こいつの心を読むのは至難だ。

 「そこで《夜羽》(よるは)というのを考えたわけだけど」
 「さようでございますか」

 あ、二人の反応がねぇ!
 まあ、麗星にしても五平所にしても、元々正直一辺倒の連中だ。
 肚の探り合いは俺に軍配が上がったようだ。

 「じゃあ、《夜羽》でどうかな」
 「あなたさまのお決めになることですから。よろしいのではないでしょうか」
 「そっか! じゃあ《夜羽》な! おい、お前の名前は《夜羽》だぞ!」

 実は一番思いが強かった名前だ。
 夜というのは、道間家そのものに繋がる。
 この世の理(ことわり)の外で何事かを為そうとしてきた一族。
 その道間家の理想を羽ばたく者であるように、という願いを込めて。
 最初は自然に降って来るように俺の思考に落ちて来た。
 そこから、《夜羽》の何かが展開したような気がする。
 自分でも不思議だが、天狼や奈々の時もそうだった。
 まあ、今回は無難に終わりそうだ。
 
 五平所が俺を連れ出し、隣の部屋に用意してあった楮紙の前に俺を座らせた。

 「おい、また書くのかよ」
 「お願いいたします。これもこの家の決まりでございまして」
 「分かったよ」

 俺が紙に認め、それを持って麗星の部屋へ戻った。

 「命名! 《夜羽》!」

 麗星と五平所が抱き合って喜んだ。
 ハイファまでが夜羽を抱き上げて笑っていた。
 アレ?

 「五平所! やりましたよ!」
 「はい、お屋形様! 見事に!」

 「おい?」

 「これで道間家は途轍もない繁栄を!」
 「はい! 《道間皇王》天狼様に続き、《道間七道》の奈々様! そしてついに《道間賢聖》の夜羽様まで!」
 「五平所! わたくし、途中でもうダメかと!」
 「私もです! 石神様が夜羽の名を口にしたときには、思わず気を喪いそうでした!」
 「ね! わたくし、一生懸命我慢したのですよ!」
 「お見事でございましたぁ!」
 「五平所もぉー!」
 
 「おい!」
 
 二人は俺の話など聞いちゃいねぇ。
 ちくしょう、やっちまったか!

 「お前ら、俺をたばかったか!」
 「そんなことは! あなたさまがお決めになられたのです」
 「おい、夜羽はなしだ!」
 「いいえ、もう決まってしまいました。ハイファ、そうですよね?」
 「その通りでございます。つつがなく、名付けの儀は完了いたしました」
 「ね!」

 「……」

 まあ、麗星たちがこんなに喜んでいるんだ。
 それに、夜羽が俺の子どもであることには何ら変わりはない。
 カワイイ俺の子だ。

 「お屋形様、すでに全員を招集しております!」
 「でかした、五平所!」
 「料理人も先ほど到着いたしました」
 「では、存分に宴を!」
 「はい!」
 
 「おい、またやるのかよ」
 「それはもう! わたくしも着替えなければ」
 「寝とけ!」

 仕方ねぇ。
 また付き合うかぁ。






 そういえば、俺って「人狼ゲーム」が全然ダメだった。
 他の人間相手には肚の探り合いも得意なのだが、どうにも愛する者たちが相手では、俺はひたすら無力らしい。
 もう、しょうがねぇ。

 五平所が宴の指示を出している。
 俺は不貞腐れることもなく、それを笑って見ていた。
 麗星は隣の間で寝たまま、同じく笑っていた。
 俺は麗星の所へ行き、抱き締めた。

 「あなたさま……」
 「おう、いい子を産んでくれたな」
 「はい!」
 「お前は最高だ」
 「!」
 「これからも宜しくな」
 「つ、次は双子を!」
 「おい!」
 「頑張りますね!」

 俺は大笑いして麗星をまた抱き締めた。
 本当に愛しい女だ。
 最高の女だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...