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茜と葵 Ⅴ

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 数日をアラスカの「タイガーホール」で過ごし、葵と一緒に過ごして待機した。
 戦場を周る上で必要なものを揃えたりした。
 二人で買物をするのが楽しかった。
 その間に私と葵がどこの戦場へ向かうかを検討してもらっていた。
 その検討は、今「国境なき医師団」が向かっていない場所。
 率いているミラー医師は自分の功績を高めるために、誰も行かない戦場にいる可能性が高いということだった。
 トラさんは、恐らくミラーの医師団の中に戦闘要員がいると言っていた。
 そうでなければ危険な戦場を本部の援護なしに渡り歩くことは出来ないと。
 「国境なき医師団」は戦闘に本来は加わらない。
 その規範を冒してミラーたちは身の安全を図りながら移動しているのではないかということだった。
 聖さんが以前にミラーたちに会ったことがあるそうだ。
 まだ保奈美さんが加わる前のことだ。
 その時には聖さんの会社に救援を依頼したらしい。
 戦闘を巻き起こすのは明白だったが、ミラーは躊躇しなかった。
 しかも、自分たちが助かるために聖さんたちを騙し、犠牲者が出た。
 そんな所へ保奈美さんがいる!

 「トラさん、なんでそんな酷い奴の傍に保奈美さんがいるんですか!」
 「分からん。だけどな、多分一番戦場を移動するからじゃないかと思う」
 「え!」
 「保奈美は俺と会えることを願っている。だから一つの所へ留まるよりも、あちこちを移動して俺の噂なりを聞けたらと考えているのかもしれない」
 「保奈美さん……」

 そんな、悲しい……
 保奈美さんもトラさんと会える可能性は低いと思っているだろう。
 でも、その中で最も高い可能性……
 酷い奴の下でも、保奈美さんにとってはそのことが一番大事なんだ。





 葵とはすぐに打ち解けた。
 葵は私のことを一番に想ってくれているけど、私に絶対服従じゃないことがすぐに分かった。
 ちゃんと私のために反対し、意見を言ってくれる。
 まー、むしろ怒られるようなことが多い。
 それは私が全然ダメだからで、有難いだけだ。
 一杯ダメなところはあるんだけど、葵は私をバカにするようなことはなかった。
 葵の方がよっぽど頭が良くていろいろ知っている。
 でも、私のために何でも一生懸命に考えてくれている。

 「ねえ、私って全然ダメだよね?」
 「そんなことはありませんよ」
 「でもさ、失敗ばかりで間違ってばかりじゃん」
 「茜はそんなことよりも、最高の心を持ってます」
 「え?」
 「保奈美さんを探すために、ここまで必死で頑張って来たのでしょう?」
 「まあ、そうだけど」
 「御立派です」
 
 葵が微笑んでそう言った。
 そして私の手を取って握った。

 「本当に尊敬します。茜は最高の人間です」
 「え、そんなことはないよ!」
 「いいえ。誰が何と言おうと、私はそう思っています。普通の人間がここまでになるのは不可能です。茜のそのお心が美しくお強いから奇跡が起きたのです」
 「え、そんなに私ってダメ?!」
 「ウフフフフ、そんなことはありませんよ。だから茜は最高ですって」
 「そ、そう?」
 「はい!」
 
 二人で笑った。
 
 二人で「ほんとの虎の穴」に行った。
 トラさんが手配してくれ、美味しい料理を出すからと言われていた。
 行くと雑賀さんという一番上の方が出迎えてくれ、VIPルームへ案内してくれた。

 「ここは石神様の親しい方の一部しか入れないんです」
 「そうなんですか!」
 「はい。この基地の将官や幹部の方でさえも。美住様は特別なのですよ」
 「えぇー!」
 「そしてそちらの葵さんも。お二人のことは石神様から少し伺いました。これから大事なお仕事をされるのだと」
 「はい! 必ず保奈美さんを探し出しますから!」
 「宜しくお願いいたします。石神様の最も悩んでおられる問題です。どうか実現して下さいませ」
 「はい!」

 雑賀さんが本当に美味しいお料理を沢山出してくれた。
 私はお酒があまり強くないと言うと、アルコール抜きのカクテルなんかも作ってくれる。
 それもまたとっても美味しかった!
 葵が、雑賀さんは世界最高のバーテンダーであり、お客さんを見ると好みが分かるのだと教えてくれた。
 
 「葵は何でも知ってるんだね!」
 「いいえ、こんなものはただのデータです。茜に必要なことを知っているだけで、茜のように努力して得たものではありません」
 「そんなことないよ! 前に蓮花さんからも聞いたよ? 誰かのバディになるようなデュールゲリエたちは、自分で必要な知識を選んで習得するんだって」
 「はい、膨大なデータがありますから、その中で必要と思われることを選んではいますが」
 「そうでしょ! それにさ、デュールゲリエの戦闘力は他のデュールゲリエたちの経験から蓄積されているんだっていうことも聞いたよ」
 「その通りです」
 「蓮花さんが言ってた。過去に誰かを護るために自ら犠牲になったデュールゲリエたちが沢山いるんだって! そういう人たちが最後に送った戦闘データが一番役に立ってるんだって!」
 「茜……」
 「それってさ! 私、本当に感動したんだ! 葵たちは、命を燃やして次に繋いでいるんだって! そうなんでしょ?」
 
 葵は私を見詰めていた。
 何故か、葵の綺麗な黒い瞳が濡れているように見えた。

 「茜は、私たちに命があると考えていますか?」
 「え? 当たり前じゃん! 葵の命は私が護るからね!」
 「茜……ありがとう……」

 葵が泣いていた。
 はっきりと涙を零すのを見て驚いた。

 「葵! なんで泣くの!」
 「すいません。嬉しくてつい」

 私は持っていたハンカチで葵の涙を拭った。
 葵がまた礼を言ってハンカチを受け取った。

 「茜、お願いがあります」
 「なに、葵?」
 「このハンカチを私にいただけませんか? もちろん新しい物を……」
 
 葵の顔を両手ではさんだ。

 「あげるよ! ハンカチなんか一杯あるから!」
 「いいんですか?」
 「だから涙を拭いて。あー、それあんまり高いもんじゃないんだけどさ」
 「ウフフフフ、ありがとうございます。大事にします」
 「うん、いいけどさ」

 葵が嬉しそうに笑って涙を拭いてポケットにハンカチを仕舞った。
 いつ買ったものか、タオル地の小さな花の刺繍のあるものだ。
 フリルが四辺にあって可愛らしいと思った。
 どこかの道の駅で買ったんじゃないかな。
 そんな安物を葵が欲しがった。
 大事にすると言ってくれた。
 雑賀さんが微笑んで私たちを見ていた。

 「お二人とも、どうか御無事でお戻りください」
 「「はい!」」

 二日後に、私と葵の最初の戦地が決まった。
 中米のニカラグアだそうだ。
 トラさんと聖さんが最初に行った戦場だそうだ。
 丁度亜紀さんと柳さんもそっちへ行くので、初めは同行してくれるらしい。
 やっぱりトラさんはまだ私のことが不安なのだろう。
 何にしても、これからだ!
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