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双子と磯良 XⅢ
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皇紀さんと一緒にリヴィングへ行った。
大きなテーブルに、すき焼きの鍋が二つ置いてあった。
一つは石神さんの前に。
もう一つはテーブルの中央に。
そっちは見たことがないくらいに大きかった。
「磯良、まずはそっちで食べてみろよ。無理だったらこっちに来い」
「はい?」
どういうことかよく分からなかった。
皇紀さんはバトルになると言っていたが。
肉を取り合うのだろうが。
亜紀さんと皇紀さん、反対に柳さん、ルーとハーがいる。
俺は皇紀さんの隣に並んだ。
全員の顔つきが違う。
獰猛な獣の顔で笑っている。
「いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
「いただきます」
テーブルには食材、特に牛肉が大量にあった。
10キロはありそうだ。
見るとキッチンにはもっと大量にある。
これは……
「磯良君! ボウっとしてちゃダメだよ!」
皇紀さんが俺の肩を掴んで後ろに下げた。
亜紀さんの旋風脚が目の前を通過した。
風圧で髪が靡く。
「!」
次の瞬間、四方から箸が伸びて肉をさらっていく。
それと同時にみんなが殴り合っている。
「磯良君! 早く!」
「はい!」
皇紀さんに促されて肉を取った。
一瞬で亜紀さんに奪われた。
「ガハハハハハ!」
あの優しそうで美しい亜紀さんが、鬼のような顔をしていた。
「磯良! 死に物狂いにならなきゃ食べられないよ!」
ルーに言われた。
なんでだ?
これほど大量の肉があるというのに!
石神さんを見ると、何事もないかのように悠々と鍋を楽しんでいる。
テーブルの肉が半分になった頃、皇紀さんが俺の器に肉を入れてくれた。
やけに優しさが染みる。
なんでだろう。
たちまちあれほどあったテーブルの肉が無くなり、ハーがキッチンから次の肉を抱えて来た。
1キロほどを鍋に投下する。
本当にでかい鍋なので、それだけ入れても余裕がある。
鍋の周りの空気が硬くなって行く。
みんなが狙っている。
「磯良! 箸が折れたら1分休憩だからね!」
ルーが叫んだ。
なんだ。
肉がいい具合に煮え、一斉に箸が伸びた。
俺は剣技で皇紀さん以外の箸を折った。
「「「「!」」」」
皇紀さんが俺に笑い掛け、一緒に大量の肉を取った。
四人は砂時計を引っ繰り返した。
俺を睨んでいる。
石神さんが笑っていた。
1分後。
四人が一斉に戻って来る。
ルーが煮えた白菜を俺の顔面に箸で投げた。
俺は咄嗟に箸ではたき、白菜は亜紀さんの右目に当たった。
「アチ!」
高速のブローが俺に迫り、顔の前でガシンという音がする。
「不動要塞!」
亜紀さんが叫ぶ。
皇紀さんがガードしてくれたのに気付いた。
皇紀さんの雰囲気が違っている。
「お姉ちゃん! 磯良君への攻撃はダメだよ!」
「後でちゃんと謝る!」
その言葉数で謝れるんじゃないだろうか。
30分ほどで肉が全部無くなり、みんなゆっくりと野菜を味わい始めた。
ご飯も食べる。
みんなニコニコしている。
何故か一層恐ろしい感じがした。
まあ、俺もゆっくりと食べる。
「春菊美味しいね!」
「豆腐も味が染みたね!」
「ジャガイモも入れようか?」
「磯良君、さっきはごめんね」
「い、いいえ」
亜紀さんに謝られた。
もうすっかり元の美人に戻っていた。
ルーとハーもニコニコしている。
「磯良、最後までこっちで食べたね」
「偉いぞ!」
「はぁ」
「タカさんが「お手」も「日本舞踊」も出さなかったよね!」
「初めてじゃない?」
「磯良、スゴイよ!」
「なにそれ?」
よく分からなかったが、まあ楽しかった。
こんな奪い合いの食事は初めてだ。
結構面白い。
野菜も少なくなり、雑炊になった。
亜紀さんが仕切って作ってくれる。
また美味しかった。
「ほら、磯良君にはさっきのお詫びに肉の破片あげるね!」
「えーと、ありがとう?」
みんなが笑った。
鍋が片付けられ、バニラアイスがコーヒーと一緒に配られた。
「磯良、ちゃんと食べたか?」
石神さんが笑顔で聞いて来た。
「はい! 美味しかったです!」
「そうか。俺は見ての通り上品な人間なんだけどよ。こいつら、どこでどう間違ったのか、こんなになっちまってなぁ」
「「「「「ワハハハハハハハ!」」」」」
「柳なんて元々上流階級だったはずなのになぁ。どうしちゃったんだ?」
「私は外では普通ですよ!」
「ウソつけ! こいつよ、俺がお世話になった食堂で鍋一杯にご飯を盛ってもらってさ。魚の煮汁をかけてもらってガンガン喰ってたんだよ」
「石神さん!」
「それで500円しか払わねぇの。話を聞いて慌ててお詫びしたもんなぁ」
「もうやめてください!」
みんなで笑った。
「あの、柳さんは御堂総理のお嬢さんですよね?」
「そうなんだよ! 御堂なんてさ、テラスで食べてるとあまりの上品さで小鳥が肩に止まるんだぜ!」
みんな爆笑した。
「あいつは最高なんだよ!」
「磯良、タカさんの前で御堂さんのことを悪く言ったら大変だからね」
ルーが俺の耳に囁いた。
気を付けよう。
「あの、いつもこんな楽しい食事なんですか?」
「やめてくれよ! 冗談じゃねぇ! 鍋とかバーベキューの時だけだよ。俺は本当に上品なんだって!」
「タカさん! こないだ磯良が私たちのために食事を作ってくれたの!」
「本当に手間暇かけて、美味しかった!」
「そうか」
「でも、量が足りなかったんじゃ?」
「大丈夫だよ! あんなに心を込めてくれたらお腹一杯になるって!」
「そうですか」
石神さんが言った。
「磯良、今日は泊って行ってくれ」
「え、でも」
「お前には話しておきたいことがあるんだ」
「分かりました」
「ああ、早乙女達も間もなく来る。今晩がすき焼きだと言ったら遠慮しやがってよ!」
「何となく分かりました」
「ワハハハハハハ!」
楽しい家だった。
大きなテーブルに、すき焼きの鍋が二つ置いてあった。
一つは石神さんの前に。
もう一つはテーブルの中央に。
そっちは見たことがないくらいに大きかった。
「磯良、まずはそっちで食べてみろよ。無理だったらこっちに来い」
「はい?」
どういうことかよく分からなかった。
皇紀さんはバトルになると言っていたが。
肉を取り合うのだろうが。
亜紀さんと皇紀さん、反対に柳さん、ルーとハーがいる。
俺は皇紀さんの隣に並んだ。
全員の顔つきが違う。
獰猛な獣の顔で笑っている。
「いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
「いただきます」
テーブルには食材、特に牛肉が大量にあった。
10キロはありそうだ。
見るとキッチンにはもっと大量にある。
これは……
「磯良君! ボウっとしてちゃダメだよ!」
皇紀さんが俺の肩を掴んで後ろに下げた。
亜紀さんの旋風脚が目の前を通過した。
風圧で髪が靡く。
「!」
次の瞬間、四方から箸が伸びて肉をさらっていく。
それと同時にみんなが殴り合っている。
「磯良君! 早く!」
「はい!」
皇紀さんに促されて肉を取った。
一瞬で亜紀さんに奪われた。
「ガハハハハハ!」
あの優しそうで美しい亜紀さんが、鬼のような顔をしていた。
「磯良! 死に物狂いにならなきゃ食べられないよ!」
ルーに言われた。
なんでだ?
これほど大量の肉があるというのに!
石神さんを見ると、何事もないかのように悠々と鍋を楽しんでいる。
テーブルの肉が半分になった頃、皇紀さんが俺の器に肉を入れてくれた。
やけに優しさが染みる。
なんでだろう。
たちまちあれほどあったテーブルの肉が無くなり、ハーがキッチンから次の肉を抱えて来た。
1キロほどを鍋に投下する。
本当にでかい鍋なので、それだけ入れても余裕がある。
鍋の周りの空気が硬くなって行く。
みんなが狙っている。
「磯良! 箸が折れたら1分休憩だからね!」
ルーが叫んだ。
なんだ。
肉がいい具合に煮え、一斉に箸が伸びた。
俺は剣技で皇紀さん以外の箸を折った。
「「「「!」」」」
皇紀さんが俺に笑い掛け、一緒に大量の肉を取った。
四人は砂時計を引っ繰り返した。
俺を睨んでいる。
石神さんが笑っていた。
1分後。
四人が一斉に戻って来る。
ルーが煮えた白菜を俺の顔面に箸で投げた。
俺は咄嗟に箸ではたき、白菜は亜紀さんの右目に当たった。
「アチ!」
高速のブローが俺に迫り、顔の前でガシンという音がする。
「不動要塞!」
亜紀さんが叫ぶ。
皇紀さんがガードしてくれたのに気付いた。
皇紀さんの雰囲気が違っている。
「お姉ちゃん! 磯良君への攻撃はダメだよ!」
「後でちゃんと謝る!」
その言葉数で謝れるんじゃないだろうか。
30分ほどで肉が全部無くなり、みんなゆっくりと野菜を味わい始めた。
ご飯も食べる。
みんなニコニコしている。
何故か一層恐ろしい感じがした。
まあ、俺もゆっくりと食べる。
「春菊美味しいね!」
「豆腐も味が染みたね!」
「ジャガイモも入れようか?」
「磯良君、さっきはごめんね」
「い、いいえ」
亜紀さんに謝られた。
もうすっかり元の美人に戻っていた。
ルーとハーもニコニコしている。
「磯良、最後までこっちで食べたね」
「偉いぞ!」
「はぁ」
「タカさんが「お手」も「日本舞踊」も出さなかったよね!」
「初めてじゃない?」
「磯良、スゴイよ!」
「なにそれ?」
よく分からなかったが、まあ楽しかった。
こんな奪い合いの食事は初めてだ。
結構面白い。
野菜も少なくなり、雑炊になった。
亜紀さんが仕切って作ってくれる。
また美味しかった。
「ほら、磯良君にはさっきのお詫びに肉の破片あげるね!」
「えーと、ありがとう?」
みんなが笑った。
鍋が片付けられ、バニラアイスがコーヒーと一緒に配られた。
「磯良、ちゃんと食べたか?」
石神さんが笑顔で聞いて来た。
「はい! 美味しかったです!」
「そうか。俺は見ての通り上品な人間なんだけどよ。こいつら、どこでどう間違ったのか、こんなになっちまってなぁ」
「「「「「ワハハハハハハハ!」」」」」
「柳なんて元々上流階級だったはずなのになぁ。どうしちゃったんだ?」
「私は外では普通ですよ!」
「ウソつけ! こいつよ、俺がお世話になった食堂で鍋一杯にご飯を盛ってもらってさ。魚の煮汁をかけてもらってガンガン喰ってたんだよ」
「石神さん!」
「それで500円しか払わねぇの。話を聞いて慌ててお詫びしたもんなぁ」
「もうやめてください!」
みんなで笑った。
「あの、柳さんは御堂総理のお嬢さんですよね?」
「そうなんだよ! 御堂なんてさ、テラスで食べてるとあまりの上品さで小鳥が肩に止まるんだぜ!」
みんな爆笑した。
「あいつは最高なんだよ!」
「磯良、タカさんの前で御堂さんのことを悪く言ったら大変だからね」
ルーが俺の耳に囁いた。
気を付けよう。
「あの、いつもこんな楽しい食事なんですか?」
「やめてくれよ! 冗談じゃねぇ! 鍋とかバーベキューの時だけだよ。俺は本当に上品なんだって!」
「タカさん! こないだ磯良が私たちのために食事を作ってくれたの!」
「本当に手間暇かけて、美味しかった!」
「そうか」
「でも、量が足りなかったんじゃ?」
「大丈夫だよ! あんなに心を込めてくれたらお腹一杯になるって!」
「そうですか」
石神さんが言った。
「磯良、今日は泊って行ってくれ」
「え、でも」
「お前には話しておきたいことがあるんだ」
「分かりました」
「ああ、早乙女達も間もなく来る。今晩がすき焼きだと言ったら遠慮しやがってよ!」
「何となく分かりました」
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楽しい家だった。
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