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双子と磯良 Ⅲ
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「磯良ぁー」
また胡蝶だ。
目を瞠る美貌で、入学初日から同じクラスの石神姉妹と共に注目を集めている。
身長は168センチ。
体重は知らない。
でも抜群のスタイルだ。
姉の帰蝶さんも相当な美人だが。
両親を喪った俺は胡蝶の家に居候しており、子どもの頃から一緒だった。
そのためもあって、中学の頃から昼休みになるといつも胡蝶が俺を昼食に誘いに来ていた。
ちなみにうちの高校は学食が美味いので有名だ。
数年前から、ある富豪の援助でそうなったと聞いている。
しかし、俺はいつも弁当を持って来ている。
独りが好きなのだ。
俺に親し気に寄って来る胡蝶に、クラスのみんなが注目していた。
「ねぇ、一緒に学食に行こうよー」
「嫌ですよ。人が大勢いるし」
「えー! だって一緒に食べたいじゃない」
「俺は別に」
胡蝶が俺が取り出した弁当を掴んだ。
「おい!」
「いいじゃない。学食で一緒にね?」
俺たちの遣り取りを石神の双子が見ていた。
胡蝶も目を引くほどの美人だが、石神姉妹は更に次元が違う。
二人とも端麗な顔に背中まである長い髪。
背が高く178センチとのことだ。
豊満ではないが、抜群のスタイル。
何よりも、この二人には「雰囲気」がある。
妖しい、危険な雰囲気だ。
高校生どころか、大人にだって、これほどの深い雰囲気はない。
俺は子どもの頃から、結構いろんな人間を見て来ている。
何人も、「特別」な人間を知っている。
そういうものと、石神姉妹は通じていた。
「何見てるのよ? あ! 石神さんたちね!」
胡蝶がこちらを見ている二人に手を振るので俺が慌てて止めた。
確かにいつまでも見ていたい二人だが、安易に関わるのは危険だ。
俺の勘がそう教えていた。
尋常ではない世界で生きている。
それが俺には分かる。
どういう世界なのかは分からないが。
「ねぇ! 石神さんたちも一緒にどう?」
胡蝶が大きな声で呼びかけた。
こいつは天真爛漫というか、緊張感も遠慮もない。
その明るい性格は好ましいのだが。
「バカ! よせよ!」
「学食で! 二人とも行こうよ!」
石神姉妹が顔を見合わせている。
小さく頷くのが見えた。
こちらへ歩いて来る。
「いいけどさ。私たちは事前に連絡が必要なんだよ」
姉の瑠璃がそう言った。
「どういうこと?」
「もう卒業した亜紀ちゃんがそうだったの。私たちも「同じ」だから、学校からそうしてくれって言われてるの」
「ふーん。で、連絡しなかったら?」
「まあ、別に。でも、学食が大変でしょうね」
「じゃあ、いいじゃない」
二人はニッコリと笑った。
俺はゾッとした。
尋常ではない妖しい微笑みだった。
「そういうことなら。でも今日はあなたが責任を引き受けてね、堂前さん」
妹の玻璃がそう言った。
「え、別にいいけど」
胡蝶は引き受けた。
俺たちは学食へ向かった。
後ろから、石神姉妹の仲間たちが一緒に付いて来る。
全員1組なので、相当優秀な連中だ。
10分後。
俺たちは人垣に囲まれていた。
俺たちのテーブルには50人前のトレイが置いてある。
「俺たちの」というのは正確じゃない。
50人前が置かれているので、他の人間が座れないだけだ。
石神姉妹の食事は、すべて取り巻きの連中が用意した。
同じ中学校から一緒にいる連中で「人生研究会」と言うらしい。
石神姉妹を神の如くに仰いでいるのは、入学式からすぐに分かった。
俺は玻璃が出したエルメスのリザードのドゴンから、万札が十枚ほど出て来たのを見た。
「あんたたちもこれで食べなさい」
「はい! ありがとうございます!」
二人の男女が恭しく受け取った。
そのまま駆け出して行って、食券機の前で他の連中を待たせたまま何十枚も買っていく。
あいつらも「喰い」の人間か。
その食券を数枚受け取る人間がいて、そいつらは注文カウンターでどんどん受け取って行く。
券売機では、連中の後ろで行列が出来ている。
そして、俺の目の前で石神姉妹がガンガン喰っている。
あの美しい顔で、物凄い勢いで口に入れ、咀嚼し、呑み込み、時々互いの皿の料理を奪い合い、パンチを応酬しながらだ。
「ねぇ、磯良」
「なんだよ」
「これって何?」
「お前が誘ったんだろう!」
胡蝶が呆然としている。
胡蝶がナイフで切ったハンバーグが瑠璃の一閃した箸に奪われる。
「消えたわ」
「そうだな」
50人前の食事は、20分ほどで無くなった。
パシリの一人がコーヒーを持って来る。
二人は頷いて受け取った。
「この人たちにも」
「はい!」
俺と胡蝶の前にもコーヒーが置かれた。
「早く中間テストが始まらないかしらね」
瑠璃が言った。
「なんで?」
胡蝶が聞く。
「実力を示したら、この学校は自由にさせてくれるんだって」
「へぇー」
「亜紀ちゃんが言ってた。亜紀ちゃんは修学旅行も別な宿とって、毎晩飲み歩いたって」
「えぇー!」
瑠璃と玻璃が交互に説明してくれた。
「学校来なくても、出席扱いになるんだって」
「その亜紀さんって、お姉さんよね?」
「うん。唯一私たちが勝てない人間ね」
「タカさんと聖と虎白さんたちを除けばね」
知らない名前がどんどん出て来る。
ただ、「亜紀」については多少は知っている。
数年前の在校生で、「稲城会」を潰した張本人だ。
裏の世界では超有名人だった。
そうすると「タカさん」というのは、あの石神高虎か。
そうか、こいつら「石神一家」なのか。
今はまだ高校一年の4月だ。
俺もまさかあの「石神一家」に関わるとは想像もしていなかった。
石神高虎。
本業は医者らしい。
しかし、その裏でヤクザ界に旋風を巻き起こした。
北関東の千万組を平らげ、そして南関東最大の稲城会を一月ほどで壊滅させた。
発端は稲城会が「石神一家」にあやを掛けたらしいと言われている。
潰したその方法が凄い。
稲城会の事務所や資金源のキャバレーや賭博場を次々と文字通りに「吹っ飛ばし」ていった。
爆発物と言われていたが、そうではないらしいことが後から分かった。
六本木の巨大なビルが一棟、一瞬で崩壊した。
稲城会は一切の抵抗を諦め、石神高虎の下についた。
そして日本最大の神戸山王会は石神に不可侵条約を申し出、衝突を避けた。
胡蝶の父親の堂前家が所属している吉住連合も実質的に傘下になった。
警察は、何故か「石神一家」を追わなかった。
警察内部にも相当なコネがあることは確実だった。
人間技ではない、凄まじい拳法を使うと聞く。
信じられないが、その拳法で巨大なビルをも一瞬で崩壊するのだと。
ならば、この姉妹も使い手だろう。
なるほど、修羅場を潜っているから、あんな雰囲気なのか。
「あなた」
考え事をしている俺を、玻璃が呼んだ。
「名前はなんだったかしら?」
「ああ、俺? 神宮寺磯良だけど」
「ふーん」
「知らなかった?」
胡蝶が言った。
「何となくは知ってたけど。でも近くで見てよく分かった」
玻璃がよく分からない言い方をした。
「何が分かったの?」
「あなた、変わってるのね」
「え?」
「ハー、タカさんほどじゃないけど、まあまあいい顔よね」
「ルー、比較がでかすぎだって。虎とアリンコよ?」
「そうだけどさー」
石神姉妹が勝手に俺のことを話している。
「まあ、100人を超えてからかな」
「本当は1000人だけどね」
「!」
やはり、こいつらとは付き合うのは危険だ。
目の前の美しい姉妹は、「殺し」の数を口にしている。
「ねえねえ、何の話?」
「なんでもない。じゃあ、食事は終わったから行くね」
「うん、またねー」
俺は最後にとっておいた卵焼きを口に入れた。
何を喰ったか、全然実感もない。
石神姉妹は「人生研究会」の連中と一緒に学食を出て行った。
「すごい子たちだったねー」
「お前なぁ」
「世の中にはあんなのもいるんだ。磯良、アリンコ扱いだったじゃん」
「おい」
「100人かぁー。まあ、すぐだよね?」
「……」
胡蝶にも、あの数字の意味が分かっていた。
こいつも普通の高校生ではない。
都立筑紫野高校。
毎年東大合格率全国トップの超進学校。
俺たちは今、一年生の4月初旬。
出会いは始まったばかりだった。
また胡蝶だ。
目を瞠る美貌で、入学初日から同じクラスの石神姉妹と共に注目を集めている。
身長は168センチ。
体重は知らない。
でも抜群のスタイルだ。
姉の帰蝶さんも相当な美人だが。
両親を喪った俺は胡蝶の家に居候しており、子どもの頃から一緒だった。
そのためもあって、中学の頃から昼休みになるといつも胡蝶が俺を昼食に誘いに来ていた。
ちなみにうちの高校は学食が美味いので有名だ。
数年前から、ある富豪の援助でそうなったと聞いている。
しかし、俺はいつも弁当を持って来ている。
独りが好きなのだ。
俺に親し気に寄って来る胡蝶に、クラスのみんなが注目していた。
「ねぇ、一緒に学食に行こうよー」
「嫌ですよ。人が大勢いるし」
「えー! だって一緒に食べたいじゃない」
「俺は別に」
胡蝶が俺が取り出した弁当を掴んだ。
「おい!」
「いいじゃない。学食で一緒にね?」
俺たちの遣り取りを石神の双子が見ていた。
胡蝶も目を引くほどの美人だが、石神姉妹は更に次元が違う。
二人とも端麗な顔に背中まである長い髪。
背が高く178センチとのことだ。
豊満ではないが、抜群のスタイル。
何よりも、この二人には「雰囲気」がある。
妖しい、危険な雰囲気だ。
高校生どころか、大人にだって、これほどの深い雰囲気はない。
俺は子どもの頃から、結構いろんな人間を見て来ている。
何人も、「特別」な人間を知っている。
そういうものと、石神姉妹は通じていた。
「何見てるのよ? あ! 石神さんたちね!」
胡蝶がこちらを見ている二人に手を振るので俺が慌てて止めた。
確かにいつまでも見ていたい二人だが、安易に関わるのは危険だ。
俺の勘がそう教えていた。
尋常ではない世界で生きている。
それが俺には分かる。
どういう世界なのかは分からないが。
「ねぇ! 石神さんたちも一緒にどう?」
胡蝶が大きな声で呼びかけた。
こいつは天真爛漫というか、緊張感も遠慮もない。
その明るい性格は好ましいのだが。
「バカ! よせよ!」
「学食で! 二人とも行こうよ!」
石神姉妹が顔を見合わせている。
小さく頷くのが見えた。
こちらへ歩いて来る。
「いいけどさ。私たちは事前に連絡が必要なんだよ」
姉の瑠璃がそう言った。
「どういうこと?」
「もう卒業した亜紀ちゃんがそうだったの。私たちも「同じ」だから、学校からそうしてくれって言われてるの」
「ふーん。で、連絡しなかったら?」
「まあ、別に。でも、学食が大変でしょうね」
「じゃあ、いいじゃない」
二人はニッコリと笑った。
俺はゾッとした。
尋常ではない妖しい微笑みだった。
「そういうことなら。でも今日はあなたが責任を引き受けてね、堂前さん」
妹の玻璃がそう言った。
「え、別にいいけど」
胡蝶は引き受けた。
俺たちは学食へ向かった。
後ろから、石神姉妹の仲間たちが一緒に付いて来る。
全員1組なので、相当優秀な連中だ。
10分後。
俺たちは人垣に囲まれていた。
俺たちのテーブルには50人前のトレイが置いてある。
「俺たちの」というのは正確じゃない。
50人前が置かれているので、他の人間が座れないだけだ。
石神姉妹の食事は、すべて取り巻きの連中が用意した。
同じ中学校から一緒にいる連中で「人生研究会」と言うらしい。
石神姉妹を神の如くに仰いでいるのは、入学式からすぐに分かった。
俺は玻璃が出したエルメスのリザードのドゴンから、万札が十枚ほど出て来たのを見た。
「あんたたちもこれで食べなさい」
「はい! ありがとうございます!」
二人の男女が恭しく受け取った。
そのまま駆け出して行って、食券機の前で他の連中を待たせたまま何十枚も買っていく。
あいつらも「喰い」の人間か。
その食券を数枚受け取る人間がいて、そいつらは注文カウンターでどんどん受け取って行く。
券売機では、連中の後ろで行列が出来ている。
そして、俺の目の前で石神姉妹がガンガン喰っている。
あの美しい顔で、物凄い勢いで口に入れ、咀嚼し、呑み込み、時々互いの皿の料理を奪い合い、パンチを応酬しながらだ。
「ねぇ、磯良」
「なんだよ」
「これって何?」
「お前が誘ったんだろう!」
胡蝶が呆然としている。
胡蝶がナイフで切ったハンバーグが瑠璃の一閃した箸に奪われる。
「消えたわ」
「そうだな」
50人前の食事は、20分ほどで無くなった。
パシリの一人がコーヒーを持って来る。
二人は頷いて受け取った。
「この人たちにも」
「はい!」
俺と胡蝶の前にもコーヒーが置かれた。
「早く中間テストが始まらないかしらね」
瑠璃が言った。
「なんで?」
胡蝶が聞く。
「実力を示したら、この学校は自由にさせてくれるんだって」
「へぇー」
「亜紀ちゃんが言ってた。亜紀ちゃんは修学旅行も別な宿とって、毎晩飲み歩いたって」
「えぇー!」
瑠璃と玻璃が交互に説明してくれた。
「学校来なくても、出席扱いになるんだって」
「その亜紀さんって、お姉さんよね?」
「うん。唯一私たちが勝てない人間ね」
「タカさんと聖と虎白さんたちを除けばね」
知らない名前がどんどん出て来る。
ただ、「亜紀」については多少は知っている。
数年前の在校生で、「稲城会」を潰した張本人だ。
裏の世界では超有名人だった。
そうすると「タカさん」というのは、あの石神高虎か。
そうか、こいつら「石神一家」なのか。
今はまだ高校一年の4月だ。
俺もまさかあの「石神一家」に関わるとは想像もしていなかった。
石神高虎。
本業は医者らしい。
しかし、その裏でヤクザ界に旋風を巻き起こした。
北関東の千万組を平らげ、そして南関東最大の稲城会を一月ほどで壊滅させた。
発端は稲城会が「石神一家」にあやを掛けたらしいと言われている。
潰したその方法が凄い。
稲城会の事務所や資金源のキャバレーや賭博場を次々と文字通りに「吹っ飛ばし」ていった。
爆発物と言われていたが、そうではないらしいことが後から分かった。
六本木の巨大なビルが一棟、一瞬で崩壊した。
稲城会は一切の抵抗を諦め、石神高虎の下についた。
そして日本最大の神戸山王会は石神に不可侵条約を申し出、衝突を避けた。
胡蝶の父親の堂前家が所属している吉住連合も実質的に傘下になった。
警察は、何故か「石神一家」を追わなかった。
警察内部にも相当なコネがあることは確実だった。
人間技ではない、凄まじい拳法を使うと聞く。
信じられないが、その拳法で巨大なビルをも一瞬で崩壊するのだと。
ならば、この姉妹も使い手だろう。
なるほど、修羅場を潜っているから、あんな雰囲気なのか。
「あなた」
考え事をしている俺を、玻璃が呼んだ。
「名前はなんだったかしら?」
「ああ、俺? 神宮寺磯良だけど」
「ふーん」
「知らなかった?」
胡蝶が言った。
「何となくは知ってたけど。でも近くで見てよく分かった」
玻璃がよく分からない言い方をした。
「何が分かったの?」
「あなた、変わってるのね」
「え?」
「ハー、タカさんほどじゃないけど、まあまあいい顔よね」
「ルー、比較がでかすぎだって。虎とアリンコよ?」
「そうだけどさー」
石神姉妹が勝手に俺のことを話している。
「まあ、100人を超えてからかな」
「本当は1000人だけどね」
「!」
やはり、こいつらとは付き合うのは危険だ。
目の前の美しい姉妹は、「殺し」の数を口にしている。
「ねえねえ、何の話?」
「なんでもない。じゃあ、食事は終わったから行くね」
「うん、またねー」
俺は最後にとっておいた卵焼きを口に入れた。
何を喰ったか、全然実感もない。
石神姉妹は「人生研究会」の連中と一緒に学食を出て行った。
「すごい子たちだったねー」
「お前なぁ」
「世の中にはあんなのもいるんだ。磯良、アリンコ扱いだったじゃん」
「おい」
「100人かぁー。まあ、すぐだよね?」
「……」
胡蝶にも、あの数字の意味が分かっていた。
こいつも普通の高校生ではない。
都立筑紫野高校。
毎年東大合格率全国トップの超進学校。
俺たちは今、一年生の4月初旬。
出会いは始まったばかりだった。
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