上 下
2,592 / 2,806

双子と磯良 Ⅱ

しおりを挟む
 翌日から授業が始まった。
 クラスの雰囲気は中学までと同じで、「人生研究会」のメンバーが私たちにかしずいている。

 「ルーさん、ハーさん、おはようございます!」
 「うん、おはよう」
 「おはよう」

 私たちの椅子を引いて座らせる。
 幹部筆頭の柳川が活動報告をする。
 みんな株や債券、金、プラチナ、ダイヤモンド、石油、ウラン、天然ガスなどの市場で投機活動をしている。
 それに各国の政情も把握しており、それらについての報告。
 特に日本国内では、外務省や経済産業省などに一部アドバイザーとして参画しており、その活動報告。
 他の生徒にはちょっと異様に見えるだろうけど、すぐに慣れるだろう。

 今日は山邑先生の数学の授業があった。
 私もハーも、高校の数学はもう意味がない。
 しかし、山邑先生は、なんとアポロの軌道計算の数式を黒板に書き始めた。
 亜紀ちゃんからちょっとは聞いていたけど、最初からこれかー。
 同級生たちは驚いているし、授業に関係ない内容に愚痴を言っている奴もいる。
 だけど授業時間内に書き切れずに終わった。
 黒板を消そうとする山邑先生を私たちが止めて、写真に撮らせてもらった。
 その後で職員室に行き、質問した。

 「さっきの軌道計算ですけど、あれ、別なものが入ってましたよね?」
 「石神、よく気付いたな!」
 「はい。軌道計算は幾つか前に検討したことがあるので」

 「御幸」の衛星軌道の計算を、ミユキさんから頂いて自分なりにやったことがある。
 
 「そうなのか! 石神はスゴイな!」
 「エヘヘヘヘヘ」
 「あれはな、実はスイングバイの計算式なんだよ」
 「なんでスイングバイ?」
 「アハハハハ! ちょっと火星を回って戻って来るようにしたんだ」

 なんで?

 「よく気付いたなぁ! 先生、嬉しいよ」
 「アハハハハハ」

 やっぱ面白い人だ。





 
 昼休みの時間になり、胡蝶が私たちに声を掛けてきた。
 いきなり接近して来るとは、私もハーも思っていなかった。

 「ねえ、一緒に食べない?」

 最初から感じていたけど、胡蝶は明るい性格だ。
 だから誰とでも仲良くする。
 ただし、決して無邪気で能天気な人間じゃない。
 吉住連合の上位団体のヤクザの娘だ。
 危険察知の感覚はそれなりに養っているに違いない。
 世の中で注意しなければいけないのは、明るく優し気に振る舞う人間だ。
 裏に悪意がある場合、恐ろしい結果になる。
 まあ、胡蝶に関してはその心配はいらない。
 私たちのことも、知っているはずだし。
 あの「石神一家」の人間であることを。
 滅多なことを仕掛けようなんて絶対に考えない。
 あの稲城会がどうなったか、ヤクザの娘なら知らないはずがないよ。
 だから、単に実力者である私たちにコネクションを付けたいのだろう。
 それに、私たちのことを知り、今後の付き合い方を図りたいか。

 タカさんが全国のヤクザの頂点に君臨していることは、裏社会の人間であれば十分に知っている。
 そして私とハーがその娘であることも。
 そのくらいの情報は、絶対に胡蝶は入学する前に調べ上げている。
 それでも、平然と声を掛けてきた。
 なかなか肝が据わっているぞ?
 まー、自分もヤクザの娘だから平気なのかな?
 タカさんから磯良に身分を明かすって聞いているので、向こうから接近してくるのはいいだろう。
 少し話をして、きっと私たちに接近して、仲良くしておきたいのだろうと判断した。
 堂前組の人間として、石神家と敵対するのはもってのほかで、仲良くしておきたいんだろうな。
 まー、私たちもそのつもりだしね。
 ということで学食へ行った。

 「人生研究会」の連中とも一緒に行く。
 この学校の学食は豪華だと聞いている。
 タカさんと亜紀ちゃんのお陰だ。
 私たちは利用前に伝えるように山邑先生に言われていたけど、無視してどんどん注文した。
 お腹空いたもん。
 食券の券売機の前で「人生研究会」のメンバーが買いまくり、受け出しのカウンターで待っててどんどん運んでくる。
 テーブルに置かれる端から、私とハーで食べて行く。
 私とハーの「喰い」に驚いている。
 まー、普通だよ?
 胡蝶には注文を聞いてハンバーグ定食を置いた。
 もちろん、自分の分はお金を払ってもらってる。
 磯良は手弁当を持って来てた。
 へぇー、自分で作るんだー。
 二人がゆっくり食べているので、胡蝶のハンバーグを食べたら、胡蝶が驚いていた。
 磯良のもハーが奪おうとしたけど、迎撃された。
 流石だ。

 「喰い」もひと段落したので、ちょっと話をした。
 向こうの意図もあるだろうけど、こっちもあるからね。

 「あなた、神宮寺磯良だよね?」
 「ああ、そうだけど」
 「タカさんには劣るけど、なかなかいい顔だよね」
 「え?」
 「ルー、比較の対象が桁違い過ぎだよ」
 「あー、そうか」

 磯良はまるで女の子みたいな顔をしている。
 それも、とびきりの美人だ。
 怪しい雰囲気さえある。
 タカさんは綺麗な顔立ちなんだけど、精悍で迫力がある。
 そこが違った。
 それに磯良は180センチだけど、痩せている。
 タカさんは逞しい肉体だー!

 「まあ、100人は超えてるみたいだけど、1000人を超えてからかな」
 「!」

 磯良が驚いた顔をしていた。
 私が言ったのは、人間の「殺し」の数だ。
 磯良も修羅の道を歩んできた。
 でも、タカさんには到底及ばない。
 そういう数を口にしたことが、磯良には伝わった。
 胡蝶の方も気付いていたようだ。
 まー、ヤクザだもんな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...