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グレイプニル ―Gleipnir―
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皇紀と風花の結婚式も終わり、俺たちは本格的に対外折衝に取り掛かった。
皇紀と風花の結婚式は、式自体のこともあったが、「虎」の軍の力を対外的に見せる目的もあった。
アラスカの防衛システムを見せ、広大な都市の開発を見せ、エキシビジョン仕合で俺たちの力を見せた。
もちろん防衛システムはほんの一部であり、稼働もほとんど見せてはいない。
同様に戦力についても、タマによって精神操作し、「印象」は残しながら詳細は意識に上らないようにしている。
今回招待したのは、「虎」の軍に協力すると明言している国家や組織だ。
それぞれ個別に俺たちのことは公開した。
そしてこれから、それぞれの国家や組織と協力関係の詳細を詰めていくことになっている。
エキシビジョン仕合によって、俺たちの強大な戦力は印象付けた。
トップの戦力はもちろん、ソルジャーたちの実力も大いに度肝を抜いたはずだった。
そしてクロピョンや妖魔たちの力。
また、「大銀河連合」という、まったく想定外の仲間たち。
まあ、「大銀河連合」については実力を測ることは出来なかっただろうが。
「業」の戦力については、現状で分かっているだけで、驚異的なのはジェヴォーダンやバイオノイドたちだ。
まだ、「業」の操る妖魔たちについてはあまり情報が流れていない。
《ハイヴ》の実態についても、掴んでいる国や組織はまだないはずだった。
そして、各国の政府や組織が求めているのは、「虎」の軍による防衛だ。
自分たちを護って欲しいという目的が中心になる。
もちろん、そのために「虎」の軍を創設したわけだが、現状は兵士の数を中心としてまったく足りない。
今後の最大の焦点は、「虎」の軍の兵士の数になるだろう。
地球の人類の人口を遙かに凌駕する妖魔の数に対し、少しでも対応出来る兵士の数を揃えたい。
それと、各国への「虎」の軍の駐留。
そして、現地での戦闘に対する俺たちの自由裁量だ。
「業」は「ゲート」による派兵が出来るようになった。
それによって、いつ、どこに敵が出現するのか予想出来ない。
通常の軍隊であれば、派兵すればその動きを追って対処出来る。
特に「虎」の軍は地球を覆う偵察衛星網が完備しており、通常の軍の派兵もミサイルの発射も監視している。
しかし、「ゲート」は一瞬で出現し、数分で敵軍が出て来る。
本当は「ゲート」出現と同時に攻撃出来れば、「ゲート」内で敵軍を殲滅することも可能だ。
これまで、そんな機会は数えるほどしかない。
戦力が揃った所に出現した「ゲート」に限ってそれが出来たが、最近ではそれを見越して離れた場所に、しかも複数の「ゲート」を展開してくるのだ。
だから現実的には「ゲート」の出現を察知し、そこへ「虎」の軍を派兵するしか手立てはない。
昨年の蓮花研究所への襲撃では10億の妖魔が出てきたが、研究所に相当な戦力を揃えてあったから迎撃出来た。
あの規模で、戦力の整っていない場所に出現した場合、派兵も追いつかない可能性もある。
俺や聖のような最強戦力であれば撃退も可能だ。
虎白さんたちでも大丈夫だろう。
だが、亜紀ちゃんでは荷が重い。
周囲を破壊し尽くすことが出来る場合であれば、亜紀ちゃんでもなんとか出来るだろうが、防衛しながらの戦闘であればどうにもならないだろう。
だから、時間との勝負になる。
出動要請を待っていたのでは、間に合わない可能性がある。
即座に最高司令官が決定出来るのであればいいが、そういう政府も組織も少ないだろう。
現実には、「虎」の軍の独断で動けなければならない。
国家主権だの言い出したら間に合わない。
間に合わないということは、人類が負けるということだ。
つまり、「虎」の軍が独自に敵戦力を発見し、同時に独自に戦闘を開始する。
戦闘によって被った被害は「虎」の軍には責を負わせない。
そういう取り決めが必要だった。
これは、これまでの通例では決して認められないものだ。
主権国家が自国内で自由に戦端が開かれ、尚且つその損害はその国が負うことになる。
そういう無茶を通すために、皇紀と風花の結婚式は利用された面もある。
こちらの招待を断れば、今後「虎」の軍の援助は受けられない。
そういうことを言ったわけではないが、そう受け取らざるを得ない。
だから世界中の国がこぞって参加を希望し、「虎」の軍に恭順を示した。
俺は世界支配など興味は無いが、出来ないことではない。
そのことが、現実的な人間には分かっている。
今は、本当の意味で国家という単位で硬直するべきではないのだ。
これまでは一部の勢力が国家に対する反抗というのは、ほぼ無理なことだった。
国家同士で優劣はあれど、国家以外の勢力が世界の中で孤立して戦乱を巻き起こすことは不可能だったのだ。
テロリストは地下に潜って戦うことは出来ても、国家そのものを相手には出来ない。
被害は及ぼせても、国家を敵に真正面から挑むことは出来なかったのだ。
しかし、「業」は違う。
本当の意味で世界を相手に戦える存在だ。
そして勝利出来る。
それに対抗できる国家は無い。
唯一、「虎」の軍だけだ。
だから「虎」の軍の援助を求めるのであれば、国家はその存在を主張出来ない。
全てを「虎」の軍に従う他は無いのだ。
「業」も俺たちも、世界を支配できる。
そのことを心底から理解しなければならない。
イサを死なせた復讐で、俺はフランスを壊滅させかけた。
あの事件が、実質的な意味で国家の「虎」の軍への恭順を促した。
本当に、俺の一存で一つの大国が即座に亡びるのだ。
フランスは大混乱の末に、「虎」の軍に協力的な政権が緊急大統領府を構築した。
あの事件がEU諸国で決定的なものとなり、「虎」の軍に完全なる恭順を示した。
「虎」の軍に敵対することがどういうことかが分かったのだ。
俺としても、別に脅して従わせるつもりもないのだが、結果的にそのようなものとなった。
だが。俺の方も、これまでの出来るだけの協力を仰ぐという姿勢から、もう一歩踏み込んだ態度になった。
やはり、もう綺麗事は通用しないのだ。
世界は一丸となって「業」と対峙する以外に無い。
もう人類が全力で「業」と戦わなければならない状況になったのだ。
さて。
この状況に対して、俺たちはまだ体制が整っていなかった。
以前から憂慮していたのだが、「虎」の軍には人材が足りなかった。
イギリスからウィルソンが来てくれたことは大きな僥倖だった。
対外事務手続き、外交問題で優秀な専門家が来てくれた。
軍事関連ではターナー大将が中核となり、アメリカ軍も協力してくれてそれなりの体制は整った。
しかし、それ以外で俺たちは全くの人材不足だった。
外交方面でも、ウィルソンは優秀だが、それでも手が足りない。
80カ国以上、またそれ以上の世界中の組織と連携するには、ウィルソン一人では手が回らない。
ウィルソン自身も、自分の伝手で人材を集めてはくれたが、それでも全然足りない。
ロックハート家にも協力を要請していたが、外交官というものはなかなか集まらなかった。
やはり、どの国でも優秀な外交官は手放さなかったのだ。
どうしようもないことだが、まだ世界は本当の意味で一つにはなっていない。
俺は発想を変えて、各国家から「虎」の軍の外交担当を選出してもらう方法を考えた。
だが、やはりそれでは自国の利益を優先する考え方が壊せずに、結局俺の思い通りにはならなかった。
俺はついに、デュールゲリエに外交担当を任せることにした。
人間がデュールゲリエに対して下に着くというのは、最初は反発も多かった。
交渉の上に決定事項は人間の担当者を要求された。
俺はデュールゲリエに全権を委託したことを明言し、徐々に外交交渉は上手く回るようになった。
「虎」の軍の威光を背にした存在は、人間でなかろうとも受け入れられるようになった。
そこから様々な方面、基地建設の交渉や視察、軍事方面での交渉、政治的折衝、そういう方面でもデュールゲリエが活躍し出した。
こうして俺たちは史上初の電脳が行き渡った超国家的組織になった。
最初のうちこそ反発もあったが、実際に具体的な交渉が進んでいくうちに、信頼を獲得していった。
そして俺がこうした体制を築いてから気が付いたことだが、交渉はAIのような明確な目的を有していることが非常に重要だということだ。
人間は基本的の欲得で交渉を上手く回そうとし、結果的に相手の欲望と衝突して上手く行かなくなる。
しかし、AIは損得をある程度除外して目的を中心に据えることが出来る。
そこから相手との交渉に臨むので、相手との問題点が明確に浮かび上がった。
基本的には、俺たちに絶対の優位があり、相手が渋々条件を呑むということが多くなって行った。
それでも俺は、一時的には上手く回って行った外交交渉が、限界に来たと感じた。
ウィルソンに意見を聞いても、同じものだった。
「タイガー、力で相手を屈服させるのは不味いと思います」
「ああ、分かっている。だが今は何としても「業」への対抗手段を築いて行かなければならない」
「はい、それはもちろん分かっているのですが」
元々は俺たちの外交方面の人材が不足していることに起因している。
そうした時、思わぬ処から援助が持ち掛けられた。
ルイーサだった。
俺は以前以上にルイーサの館を訪れるようになっていた。
皇紀の結婚式で大変世話になったことと、ルイーサ自身が俺に接触を求めて来るようになったからだ。
こちらが頼みもしないのに、ルイーサは俺のために様々な方面で動いてくれていた。
ルイーサが目覚めて本格的に眷族たちが以前の力を取り戻しつつあるということが、説明された。
俺もルイーサの能力を高く評価し、力を求めるようになっていた。
悩ましい外交問題も相談した。
「そうか、外交が上手く回らないか」
「ああ。少しずつでも外交官を増やしていくしかないだろう」
「ならば我々も協力しよう」
「なに?」
「「ローテスラント」は世界各国に喰い込んでいる。ロックハート家もそうだろうが、我々の方が政府の中枢に伝手が多い」
「なんだと!」
「タカトラ、任せろ。人材も多い。お前の所へ回そう」
「しかし、ルイーサの方でも重要な人間たちなんだろう?」
ルイーサが美しく笑った。
「タカトラ、我は以前も今も、お前のものだ。我の力を存分に使え。何でも言え。我がそれを叶えよう」
「本当か!」
「ああ。戦力の方でもな。「ブルートシュヴァルト」の連中は大分だらけていたようだ。今、我が練り直している。期待しろ」
「お前が言うのならばその通りなのだろう。分かった、期待している」
ルイーサが続々と「虎」の軍に人材を回してくれた。
俺はすぐに、人間よりも長く生きるということが、どういうことかが分かった。
「ローテスラント」が世界に展開し、盤石の基盤を築いていた理由がよく分かった。
俺たちがクロピョンによって力業の資源独占をしなければ、恐らく今も世界最大のコングロマリットとして君臨していただろう。
そしてルイーサが目覚めたということの意味も分かった。
ノスフェラトゥたちは、女王ルイーサの存在によって大きく力を増す。
それはルイーサへの掛け替えのない崇拝によるものだ。
そういう組織もあるのだ。
ルイーサは200名もの超優秀な人材を寄越してくれ、それによって各国、組織との交渉は順調以上に上手く行くようになった。
そして、ルイーサの戦闘集団の力を後に知るようになる。
俺はその軍団に「グレイプニル(Gleipnir)」と名付けた。
「業」の軍団を止める力を有する強大な軍団。
俺たちは確実に強くなっている。
皇紀と風花の結婚式は、式自体のこともあったが、「虎」の軍の力を対外的に見せる目的もあった。
アラスカの防衛システムを見せ、広大な都市の開発を見せ、エキシビジョン仕合で俺たちの力を見せた。
もちろん防衛システムはほんの一部であり、稼働もほとんど見せてはいない。
同様に戦力についても、タマによって精神操作し、「印象」は残しながら詳細は意識に上らないようにしている。
今回招待したのは、「虎」の軍に協力すると明言している国家や組織だ。
それぞれ個別に俺たちのことは公開した。
そしてこれから、それぞれの国家や組織と協力関係の詳細を詰めていくことになっている。
エキシビジョン仕合によって、俺たちの強大な戦力は印象付けた。
トップの戦力はもちろん、ソルジャーたちの実力も大いに度肝を抜いたはずだった。
そしてクロピョンや妖魔たちの力。
また、「大銀河連合」という、まったく想定外の仲間たち。
まあ、「大銀河連合」については実力を測ることは出来なかっただろうが。
「業」の戦力については、現状で分かっているだけで、驚異的なのはジェヴォーダンやバイオノイドたちだ。
まだ、「業」の操る妖魔たちについてはあまり情報が流れていない。
《ハイヴ》の実態についても、掴んでいる国や組織はまだないはずだった。
そして、各国の政府や組織が求めているのは、「虎」の軍による防衛だ。
自分たちを護って欲しいという目的が中心になる。
もちろん、そのために「虎」の軍を創設したわけだが、現状は兵士の数を中心としてまったく足りない。
今後の最大の焦点は、「虎」の軍の兵士の数になるだろう。
地球の人類の人口を遙かに凌駕する妖魔の数に対し、少しでも対応出来る兵士の数を揃えたい。
それと、各国への「虎」の軍の駐留。
そして、現地での戦闘に対する俺たちの自由裁量だ。
「業」は「ゲート」による派兵が出来るようになった。
それによって、いつ、どこに敵が出現するのか予想出来ない。
通常の軍隊であれば、派兵すればその動きを追って対処出来る。
特に「虎」の軍は地球を覆う偵察衛星網が完備しており、通常の軍の派兵もミサイルの発射も監視している。
しかし、「ゲート」は一瞬で出現し、数分で敵軍が出て来る。
本当は「ゲート」出現と同時に攻撃出来れば、「ゲート」内で敵軍を殲滅することも可能だ。
これまで、そんな機会は数えるほどしかない。
戦力が揃った所に出現した「ゲート」に限ってそれが出来たが、最近ではそれを見越して離れた場所に、しかも複数の「ゲート」を展開してくるのだ。
だから現実的には「ゲート」の出現を察知し、そこへ「虎」の軍を派兵するしか手立てはない。
昨年の蓮花研究所への襲撃では10億の妖魔が出てきたが、研究所に相当な戦力を揃えてあったから迎撃出来た。
あの規模で、戦力の整っていない場所に出現した場合、派兵も追いつかない可能性もある。
俺や聖のような最強戦力であれば撃退も可能だ。
虎白さんたちでも大丈夫だろう。
だが、亜紀ちゃんでは荷が重い。
周囲を破壊し尽くすことが出来る場合であれば、亜紀ちゃんでもなんとか出来るだろうが、防衛しながらの戦闘であればどうにもならないだろう。
だから、時間との勝負になる。
出動要請を待っていたのでは、間に合わない可能性がある。
即座に最高司令官が決定出来るのであればいいが、そういう政府も組織も少ないだろう。
現実には、「虎」の軍の独断で動けなければならない。
国家主権だの言い出したら間に合わない。
間に合わないということは、人類が負けるということだ。
つまり、「虎」の軍が独自に敵戦力を発見し、同時に独自に戦闘を開始する。
戦闘によって被った被害は「虎」の軍には責を負わせない。
そういう取り決めが必要だった。
これは、これまでの通例では決して認められないものだ。
主権国家が自国内で自由に戦端が開かれ、尚且つその損害はその国が負うことになる。
そういう無茶を通すために、皇紀と風花の結婚式は利用された面もある。
こちらの招待を断れば、今後「虎」の軍の援助は受けられない。
そういうことを言ったわけではないが、そう受け取らざるを得ない。
だから世界中の国がこぞって参加を希望し、「虎」の軍に恭順を示した。
俺は世界支配など興味は無いが、出来ないことではない。
そのことが、現実的な人間には分かっている。
今は、本当の意味で国家という単位で硬直するべきではないのだ。
これまでは一部の勢力が国家に対する反抗というのは、ほぼ無理なことだった。
国家同士で優劣はあれど、国家以外の勢力が世界の中で孤立して戦乱を巻き起こすことは不可能だったのだ。
テロリストは地下に潜って戦うことは出来ても、国家そのものを相手には出来ない。
被害は及ぼせても、国家を敵に真正面から挑むことは出来なかったのだ。
しかし、「業」は違う。
本当の意味で世界を相手に戦える存在だ。
そして勝利出来る。
それに対抗できる国家は無い。
唯一、「虎」の軍だけだ。
だから「虎」の軍の援助を求めるのであれば、国家はその存在を主張出来ない。
全てを「虎」の軍に従う他は無いのだ。
「業」も俺たちも、世界を支配できる。
そのことを心底から理解しなければならない。
イサを死なせた復讐で、俺はフランスを壊滅させかけた。
あの事件が、実質的な意味で国家の「虎」の軍への恭順を促した。
本当に、俺の一存で一つの大国が即座に亡びるのだ。
フランスは大混乱の末に、「虎」の軍に協力的な政権が緊急大統領府を構築した。
あの事件がEU諸国で決定的なものとなり、「虎」の軍に完全なる恭順を示した。
「虎」の軍に敵対することがどういうことかが分かったのだ。
俺としても、別に脅して従わせるつもりもないのだが、結果的にそのようなものとなった。
だが。俺の方も、これまでの出来るだけの協力を仰ぐという姿勢から、もう一歩踏み込んだ態度になった。
やはり、もう綺麗事は通用しないのだ。
世界は一丸となって「業」と対峙する以外に無い。
もう人類が全力で「業」と戦わなければならない状況になったのだ。
さて。
この状況に対して、俺たちはまだ体制が整っていなかった。
以前から憂慮していたのだが、「虎」の軍には人材が足りなかった。
イギリスからウィルソンが来てくれたことは大きな僥倖だった。
対外事務手続き、外交問題で優秀な専門家が来てくれた。
軍事関連ではターナー大将が中核となり、アメリカ軍も協力してくれてそれなりの体制は整った。
しかし、それ以外で俺たちは全くの人材不足だった。
外交方面でも、ウィルソンは優秀だが、それでも手が足りない。
80カ国以上、またそれ以上の世界中の組織と連携するには、ウィルソン一人では手が回らない。
ウィルソン自身も、自分の伝手で人材を集めてはくれたが、それでも全然足りない。
ロックハート家にも協力を要請していたが、外交官というものはなかなか集まらなかった。
やはり、どの国でも優秀な外交官は手放さなかったのだ。
どうしようもないことだが、まだ世界は本当の意味で一つにはなっていない。
俺は発想を変えて、各国家から「虎」の軍の外交担当を選出してもらう方法を考えた。
だが、やはりそれでは自国の利益を優先する考え方が壊せずに、結局俺の思い通りにはならなかった。
俺はついに、デュールゲリエに外交担当を任せることにした。
人間がデュールゲリエに対して下に着くというのは、最初は反発も多かった。
交渉の上に決定事項は人間の担当者を要求された。
俺はデュールゲリエに全権を委託したことを明言し、徐々に外交交渉は上手く回るようになった。
「虎」の軍の威光を背にした存在は、人間でなかろうとも受け入れられるようになった。
そこから様々な方面、基地建設の交渉や視察、軍事方面での交渉、政治的折衝、そういう方面でもデュールゲリエが活躍し出した。
こうして俺たちは史上初の電脳が行き渡った超国家的組織になった。
最初のうちこそ反発もあったが、実際に具体的な交渉が進んでいくうちに、信頼を獲得していった。
そして俺がこうした体制を築いてから気が付いたことだが、交渉はAIのような明確な目的を有していることが非常に重要だということだ。
人間は基本的の欲得で交渉を上手く回そうとし、結果的に相手の欲望と衝突して上手く行かなくなる。
しかし、AIは損得をある程度除外して目的を中心に据えることが出来る。
そこから相手との交渉に臨むので、相手との問題点が明確に浮かび上がった。
基本的には、俺たちに絶対の優位があり、相手が渋々条件を呑むということが多くなって行った。
それでも俺は、一時的には上手く回って行った外交交渉が、限界に来たと感じた。
ウィルソンに意見を聞いても、同じものだった。
「タイガー、力で相手を屈服させるのは不味いと思います」
「ああ、分かっている。だが今は何としても「業」への対抗手段を築いて行かなければならない」
「はい、それはもちろん分かっているのですが」
元々は俺たちの外交方面の人材が不足していることに起因している。
そうした時、思わぬ処から援助が持ち掛けられた。
ルイーサだった。
俺は以前以上にルイーサの館を訪れるようになっていた。
皇紀の結婚式で大変世話になったことと、ルイーサ自身が俺に接触を求めて来るようになったからだ。
こちらが頼みもしないのに、ルイーサは俺のために様々な方面で動いてくれていた。
ルイーサが目覚めて本格的に眷族たちが以前の力を取り戻しつつあるということが、説明された。
俺もルイーサの能力を高く評価し、力を求めるようになっていた。
悩ましい外交問題も相談した。
「そうか、外交が上手く回らないか」
「ああ。少しずつでも外交官を増やしていくしかないだろう」
「ならば我々も協力しよう」
「なに?」
「「ローテスラント」は世界各国に喰い込んでいる。ロックハート家もそうだろうが、我々の方が政府の中枢に伝手が多い」
「なんだと!」
「タカトラ、任せろ。人材も多い。お前の所へ回そう」
「しかし、ルイーサの方でも重要な人間たちなんだろう?」
ルイーサが美しく笑った。
「タカトラ、我は以前も今も、お前のものだ。我の力を存分に使え。何でも言え。我がそれを叶えよう」
「本当か!」
「ああ。戦力の方でもな。「ブルートシュヴァルト」の連中は大分だらけていたようだ。今、我が練り直している。期待しろ」
「お前が言うのならばその通りなのだろう。分かった、期待している」
ルイーサが続々と「虎」の軍に人材を回してくれた。
俺はすぐに、人間よりも長く生きるということが、どういうことかが分かった。
「ローテスラント」が世界に展開し、盤石の基盤を築いていた理由がよく分かった。
俺たちがクロピョンによって力業の資源独占をしなければ、恐らく今も世界最大のコングロマリットとして君臨していただろう。
そしてルイーサが目覚めたということの意味も分かった。
ノスフェラトゥたちは、女王ルイーサの存在によって大きく力を増す。
それはルイーサへの掛け替えのない崇拝によるものだ。
そういう組織もあるのだ。
ルイーサは200名もの超優秀な人材を寄越してくれ、それによって各国、組織との交渉は順調以上に上手く行くようになった。
そして、ルイーサの戦闘集団の力を後に知るようになる。
俺はその軍団に「グレイプニル(Gleipnir)」と名付けた。
「業」の軍団を止める力を有する強大な軍団。
俺たちは確実に強くなっている。
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