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《虎星》の管理者

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 3月の初旬の土曜日。
 朝食を終えてロボとのんびりしていると、グランマザーが庭に降りて来た。
 ロボとウッドデッキに出る。

 「石神様!」
 「よう、どうした?」

 グランマザーはいつもタイミングがいい、というか、きっと俺を観測している。

 「実は、石神様のあの「虎星」に管理者を設置しました」
 「おお、そういえば前に言ってたな」

 聖を連れて行った頃か、管理者を置くとか言っていた記憶がある。
 俺にとっては別にどうでもいいことだったのだが。

 「はい、お待たせしましたが、ようやく。つきましては、一度石神様にお会いして頂きたく」
 「必要があるのか?」
 「はい、石神様がオーナーでございますので」
 「そうか。じゃあ、行こうかな」
 「今からいかがですか?」
 「ああ、構わないぞ」

 グランマザーは、俺がそう言えるタイミングで来ている。
 万事を計らっているのだ。
 ロボが俺を見ていた。

 「お前も行くか?」
 「にゃう!」

 行くそうだ。
 俺たちはグランマザーと共に、出掛けた。






 いつものようにマザーシップで「虎星」に到着し、上陸シップに乗り換えて地表に降りた。
 グランマザーが管理者を呼び出す。
 目の前の空間が輝き、何かが現われた。
 そういう登場かー。

 「この者をこの星の管理者に設定いたしました」
 「こいつ?」

 体長50センチほどの人型。
 ただし、背中にハチのような翅が4枚ある。
 それをはためかせて空中に浮かんでいた。
 もちろん、翅の浮力で浮いているわけではないだろう。
 身体は女性型なのか、薄い白の衣装で髪も背中まで伸びている。

 「お初にお目にかかります。管理者でございます」
 「へぇー」
 
 何か威厳に欠けるが、非常に丁寧な態度で好ましい。

 「石神様、この者が生物の進化を管理し……」

 グランマザーが話している間に、ロボが管理者に近づいた。


 プス


 「「!」」

 ロボが爪で刺しやがった!
 管理者が気を失って地面に落ちる。

 「おい!」
 
 慌てて抱き上げると、すぐに意識を取り戻した。

 「おい、大丈夫か!」
 「うーん……」
 
 グランマザーも覗き込んでいる。
 多分、見ているだけでなく様々な診断や解析をしているのだろう。
 管理者が眼を開いた。

 「あー、なんかスッキリ!」
 「?」
 「あ、なんか分かった!」
 「なんだ?」

 グランマザーの方を向くと、グランマザーもよく分からないようだった。

 「そっか、時空間をこうやって……」
 「お前、何言ってんの?」
 「あんたさ、キャ!」

 生意気なので引っぱたいた。
 地面に叩きつけられる。

 「いったぁーい! 何すんのよ!」
 「うるせぇ! 「あんた」とはなんなんだテメェは!」
 「石神様、申し訳ございません」
 「この野郎、どういう教育をしたんだ!」
 「申し訳ございません!」

 グランマザーは平謝りだが、管理者は空中であぐらをかいている。
 この野郎。
 ロボが飽きたか、どこかへ飛んで行った。
 どこ行ったかなー。

 「おい、こいつに管理なんか無理だろう」
 「はい、あのぅ……」
 
 俺たちが話そうとしていると、管理者が叫んだ。

 「あ! あ! あれぇ! なに!」
 「おい、なんか言ってるぞ?」
 「はい、何が起きたのですか?」
 「なんか、プスプスやって、どんどん変わって……」
 「「?」」

 グランマザーが何かサーチを始めた。
 どんどん青ざめて来る。
 そんな機能もあるのかー。

 「おい、どうした?」
 「はい、石神様。実はロボ様が今……」
 「あんだよ?」
 「現行の生物を書き換えているようでして」
 「書き換え?」

 「ネコ型、トラ型、猿人型、クマ型……」
 「あんだ?」
 「様々な動物に知性が」
 「え?」

 よく分からん。

 「石神様! この星に知的生命体が生まれます!」
 「なんだよ!」
 「ロボ様です! 突然、知的生命体の素体が!」
 「!」

 全然分からんが、とんでもないことが起きたようだ。
 ロボがあの爪で改造したのか!

 「あ、ヒト型も生まれました! それにこれは……まさかエルフ型!」
 「????」

 管理者も驚いている。

 「おい、羽虫!」
 「あぁ! やっぱソレなんだぁ!」 
 「?」

 なんのことだ?

 「おい、なんか始まってるらしいけど、どういうことか分かるか?」
 「まーね! ヒューマンとエルフ、獣人が揃ったってことね。うん、未来はスゴイ活性化してるわー」
 「未来?」
 「あー、魔素が複雑に影響するのね。魔獣も荒っぽくなるのねぇ」
 「お前、何言ってんだ?」
 「でも負けないか。とんでもないのも生まれそうだけど、そん時はねぇ」
 「おい、説明しろ!」
 「あー無理。ずっと未来のことだから、あんたには説明出来ないわ」
 「このやろう!」
 
 羽虫を引っぱたいた。

 「いったぁー! あんたのは本当に痛いんだから!」
 「うるせぇ! 何がどうなったのか説明しろ!」
 「だからぁ! 今、ロボ様がやったんだって! もう後戻りできないよ!」
 「ロボが何をした!」
 「とんでもないことよ! この星は宇宙でも稀に見るほど特別な星になったの! 他の管理者じゃ無理よ、私じゃなきゃ」
 「お前もさっき刺されたよな?」
 「そうよ! ロボ様がここの管理が出来るように私を変えたの!」
 「なるほどな」

 羽虫が海の方を見た。

 「あー、海までやるんだぁ」
 「何があった?」
 「マッグロをたくさん。ロボさんが好きみたいね。それにマグロとウナギの美味しさを併せたウミヘビみたいなもの。でっかいわよ?」
 「ほう」

 ロボはマグロが大好物で、ウナギも大好きだ。

 「あー、海を夢中になって変えてる。こりゃ、普通の人間たちには無理ねぇ。あ、そういうことか!」
 「なんだ!」
 「ひみつー。今は話せないよ」
 「なんだこいつ!」

 グランマザーもよく分からないようだ。
 
 「石神様、どうかお許し下さい。ロボ様が介入した時点で、もう私共は成り行きに任せるしか」
 「そうなのかよ!」
 「はい。もう、我々の理解の範疇ではないのでしょう」
 「でも、こいつなんか分かってるっぽいぞ?」
 「いえ、この者にも詳細は。但し、何か時間を行き来する能力が一部あるようでして」
 「なんだと!」
 「正しくは時空ですが。時間と空間を見通し、ある程度作用する力が」
 「そんなもんがあるのか!」
 「はい。でも、この「虎星」に限定された力のようです」
 「お前もそんなことが分かんの?」
 「何とか。恐らくはロボ様のお力の片鱗が与えられたかと」
 「!」

 確かにロボには時空間を操る能力があるようだ。
 ブランたちの再生はそうでなければ説明がつかないし、他にも過去に送られた俺を取り戻し、また瀕死の俺の死ぬ運命を変えてしまった。
 その力のほんの一部とはいえ、この羽虫に流れたのか。

 「でも、こいつってなんか態度悪ぃぞ?」
 「まあ、それでもこの星のために誠心誠意努めることは確実です」
 「ほんとかよ」

 羽虫が俺を睨んでいる。
 デコピンをくれてやった。
 
 「いったぁーいってぇ!」
 「この者は石神様の御為に存在します。そのことは確実でございます」
 「見えねぇんだよなー」
 「ふん!」

 グランマザーが苦笑している。

 「どうやら、「ツンデレ」という様式が発動したようです」
 「こいつが?」
 「はい。結構大きな能力を得たようです。石神様のためにお役に立てたいと」
 「なんでお前に分かんだよ」
 「基本的には私の分体の一つでございますゆえ。ロボ様に改編されたのは、その能力のみでございます。あまりにも巨大な能力のために、若干性格にも影響したようですが」
 「なんかなぁー」

 グランマザーの説明では、今後結構な速さでこの星に知的生命体が発展して行くようだ。
 万能タイプの人間型のヒューマン族、魔法に秀でて長命なエルフ族、身体能力に秀でて獣の特徴を備えた獣人族が主だった種族で、他にもドラゴンの一部なども知性を有するようになるらしい。
 まるでゲームの異世界のようだ。
 魔法はこの「虎星」に魔素が満ちたために発動する現象のようで、地球上ではあり得ない。

 「魔法の存在する惑星は非常に珍しいです」
 「そうなのか」

 まあ、分からん。
 要は、ファンタジー世界のようなものが芽生えるらしい。

 「楽しみでございますね!」
 「そうかな」
 「石神様も、この星であれば魔法が使えるようになると思います」
 「そうなのか」

 興味はねぇ。





 まあ、ロボが好きなようにしたのだが、別にどうでもいい。
 この星にはこの星の運命があるのだろう。
 俺の所有らしいが、別に君臨するつもりも管理するつもりもない。
 知的生命体が生まれたのならば、そいつらが好きにやって行けばいい。

 でも、なんか、あいつ知ってる気がすんだよなぁー。
 なんだろ?
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