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桜の《ハイヴ》攻略

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 トルコのトゥンゼリ北東の山中。
 俺は石神さんに言われて、そこにあるレベル3の《ハイヴ》の攻略を担うことになった。
 皇紀さんの結婚式が終わった翌年の1月の中旬だ。
 これまで《ハイヴ》は度々攻略されてきた。
 だから、その手順も確定されつつある。
 レベル3ともなれば、上級のソルジャーが揃えばそれほど困難な任務ではない。
 パムッカレの基地が本格的に建設が始まるので、その前に同じ国内の《ハイヴ》を潰しておきたいという、石神さんの指示だった。
 それに、石神さんは俺を指揮官として鍛え上げようとしてくれている。
 前にも北アフリカの戦線指揮を俺に任せてくれた。
 まあ、あの時は石神家のみなさんもいて、俺などは何ほどのことも出来なかったのだが。
 そればかりか、石神家の虎葉さんを戦死させてしまった。
 石神さんは何も責めなかったが、俺の未熟を痛感する出来事だった。

 「桜、お前は千万組だった連中を連れて行け」
 「はい、分かりました」
 「「シャンゴ」の支援はもちろんある。だからソルジャーは50人だ。その人員をお前が選べ。デュールゲリエは殲滅戦装備で200体出す」」
 「はい」
 「それと、もう一人同行させろ」
 「はい、どなたが?」
 「連城竹流だ」
 「ああ! 旦那の息子という!」
 「そうだ。まあ、亜紀ちゃんたちと同じく血の繋がりはねぇけどな。竹流は戦場の経験がそれほどない。お前が上手く導いてくれ」
 「分かりました!」

 連城竹流というのは皇紀さんの結婚式で、石神さんと一緒にギターを演奏していた子だ。
 まだ中学生のようだが。
 もちろん年齢など関係無い。
 ルーさんとハーさんはもっと小さい頃から過酷な戦場で戦っていたのだ。

 「桜」
 「はい」
 「一応今回の《ハイヴ》はレベル3とされている。だが、戦場ではどんなことが起きるか分からねぇ」
 「はい、心得ております」

 北アフリカの戦場でも、とんでもねぇ化け物が出て来た。
 あの時は石神家の虎白さんたちがいたから、なんとか対処出来たのだし、結局石神さんがいらしてくださって撃破出来たのだ。

 「だから、絶対に無理しねぇで撤退しろ。あそこの《ハイヴ》は絶対目標じゃねぇ」
 「はい、分かりました」
 「まあ、お前なんか死んでもどうでもいいんだけどな!」
 「ワハハハハハハハ!」

 石神さんの言う通り、《ハイヴ》はまだまだ未知のことが多い。
 《ハイヴ》の一番底にいる奴はいつだって強く、何度も危ないことがあった。
 石神の旦那や聖さんたちが対処して、何とか勝利したのだ。
 だから、レベル3といえども、何が出て来るのかは分からない。
 レベル3だからと言って、簡単な奴が控えているとは限らない。
 そのことは俺も承知している。
 本当に《ハイヴ》はまだまだ謎が多いのだ。
 石神さんがデュールゲリエをソルジャーの4倍も出すというのは、俺たちが何としても撤退出来るようにとの配慮だ。
 そして、同行する連城竹流は相当な使い手だと感じた。
 石神さんが「息子」と言う程の人間だ。
 きっと、俺たちを護るための要員なのだろう。
 石神さんに深く感謝した。





 1月13日。
 俺たちはトルコのトゥンゼリの山中に着陸した。
 デュールゲリエたちが山中に着陸場を整備した。
 周辺の木々を切り倒し、ある程度整地まで行なう。
 「花岡」を使えばそれほどの苦労はない。
 着陸の準備を終えて、「タイガーファング」で降りた。
 目標の《ハイヴ》までは50キロ。
 まだ敵戦力とは交戦しない。
 《ハイヴ》から半径20キロ圏内に入ってからが、敵のうろつく範囲だ。
 もちろん「タイガーファング」に搭載された霊素観測レーダーがちゃんと監視している。
 上空の衛星でもだ。
 情報は常にアラスカの超戦略量子コンピューター《ウラノス》が観測し解析している。

 作戦は《ハイヴ》の攻略だが、実際には超高熱爆弾「シャンゴ」が《ハイヴ》を焼き尽くすので、俺たちは周辺や《ハイヴ》から出て来る妖魔やライカンスロープの駆逐と、「シャンゴ」が通じない奥底の奴を斃すことだ。
 レベル3であれば、そういうコワイ奴はいないはずなのだが、油断は出来ない。
 全員が装備を一度確認し、俺たちは森林を踏破して行った。
 「花岡」を習得した俺たちの移動速度は速い。
 俺は竹流に確認した。

 「竹流、速度は大丈夫か?」
 「はい! 問題ありません!」

 他の連中は実力が分かっているが、竹流は未知だ。
 石神さんは頼りに出来ると言っていたので、それほど気にはしていないが。
 俺から見ても、竹流はこのスピードに問題なく付いて来ている。
 木々や障害物の避け方も問題ないと見えた。

 10分で20キロを走破し、《ハイヴ》から30キロ手前で一度待機する。
 爆撃機《ヨルムンガンド》が来て、空爆を開始する。
 上部の構造物が激しく溶解しながら崩れて行き、その下も次々に蒸発して行くのが分かる。
 30キロ離れたここまで熱風が吹いて来る。

 「霊素観測レーダーはどうだ?」

 レーダー係に聞いた。

 「《ハイヴ》周囲10キロの妖魔やライカンスロープが死んで行きます。生き残った奴らがもう我々を感知したようです。一部はそろそろこちらへ」
 「そうか。全員迎え撃て! ここから5キロ前進するぞ!」

 ソルジャーたちが「カサンドラ」を抜き、襲撃に備える。
 前衛20人が飛び出していき、すぐに向かってくる敵と交戦を開始した。
 
 「中衛は展開! 敵を取り囲め!」

 前衛の両脇に中衛20人が左右に拡がる。
 霊素観測レーダーによって敵の位置は全て把握出来る。

 「竹流、お前は俺の傍にいろ」
 「はい!」
 
 俺たち後衛は戦線の支援と作戦本部になる。
 「シャンゴ」の空爆が終わり、《ヨルムンガンド》は帰投して行く。
 いよいよ正念場だ。
 まだ《ハイヴ》で生きている奴は、相当な実力者だ。

 「レーダー! どうだ!」
 「《ハイヴ》から強烈な霊素反応! 来ます!」
 「《地獄の悪魔》か!」
 「恐らく!」

 予想外に、コワイ奴がいたようだ。
 俺は前衛と中衛を呼び戻した。
 後衛を中心に、両翼を伸ばした陣営を取る。

 「全員、「カサンドラ」最大出力! 出て来る奴を撃て!」

 それほど待つまでもなく、「シャンゴ」が溶解した穴から何かが昇って来た。
 黒光りする球体が三つ繋がったような形。
 表面は磨き上げた黒曜石のようで、球体はどれも300メートルほど。
 細い管のようなもので繋がっており、全長は1キロという感じか。

 レーダー係が霊素の観測値を言った。

 「《地獄の悪魔》! しかも相当強い奴です!」
 「全員! 攻撃準備!」

 雄叫びが挙がった。
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