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ダーティ玻璃 Ⅱ

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 しくった。
 このあたしが、油断しておめおめと敵の罠にはまってしまった。
 転移されてすぐに分かった。
 ここは、あの電波も何も通じない、妖魔を練り込んだ特殊な防壁に囲まれた場所だ。
 しかも、「皇紀通信」ですら使えない、強化バージョンのもののようだ。 

 もちろん、力が奪われたわけではない。
 私は怪我もなく、「花岡」も「石神家剣術」も使える。
 大抵の敵に襲われても心配は無い。
 さて、何を仕掛けて来るのか。
 しかし、まさかゲートにあんな使い方があるなんて。
 本当に油断してた。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 1月の第2週の木曜日。
 私は「人生研究会」の幹部たちに銃撃戦の訓練をさせるために、シグ・ザウエルのXM7を取りに行った。
 ルーは先に幹部たちを四谷の地下のシューティング・レンジに連れてってる。
 以前、御堂さんの頼みで幽霊退治をした、未公表の地下施設の一角だ。
 元々は旧日本陸軍の施設だったけど、あれから大々的な地下開発が行なわれ、避難施設や高速鉄道の開発が進んでいる。
 その一部を「虎」の軍がもらって、防衛システム設置や今回使うシューティング・レンジを作った。
 これまでは丹沢の山に行って銃撃戦の訓練をしていたけど、近場に出来て便利になった。
 ただ、銃器を常に置いておくのは控えて、毎回うちから持ち込んでいる。
 ということで私が一旦家に戻り、XM7を持ち出すつもりだったが、その途中で空間が歪んだ。

 「!」

 「業」のゲートだと瞬時に判断し、そのまま迎撃態勢に移った。
 ゲートが開いた場合、先制攻撃をするのが基本戦略だ。
 こちらへ何かが出て来る前に、ゲートごしに攻撃することで、素早く敵を殲滅出来る。
 だから即座に攻撃することが重要なのだ。
 一旦出て来てしまえば厄介なことになる。
 私を狙ってのものならばまだいいけど、敵の目的が別にあった場合、それを追い掛けてのことになってしまう。

 でも、後から思えば私としたことが誰かに連絡を取ることもなく、そのまま交戦するつもりだったのが悔やまれる。
 開いたゲートに向かって、そのまま内部へ先制攻撃を仕掛けたのだ。
 すると私の後方から新たなゲートが迫って来た。
 攻撃に夢中で、周囲の観測を怠っていた。
 慢心していたんだ!

 「なんだ!」

 私はゲートに呑み込まれ、気が付くと見知らぬ部屋へ転移させられていた。
 すぐに状況は分かったけど、自分が妖魔を練り込んだ特殊な建物の中に送られたことに気付いて焦った。

 「壁を破壊することは、多分出来るけど……」

 部屋の広さは30平米ほど。
 小さなダウンライトが一つだけ、オレンジ色の明かりを灯している。
 窓は無く、鋼鉄の分厚そうなドアが1枚。
 この広さだと、壁を破壊する大技は自分にも被害を及ぼすかもしれない。
 壁の厚さや強度、また全体の構造が分からないことには、出力の調整が出来ない。
 それに、周囲の状況も分かってない。
 だから、大きな出力で壁を破壊出来たとしても、周囲に一般の人がいた場合、とんでもないことになる。
 そうは言っても、このまま攻撃を待つのも危険だ。

 さて、敵はこれからどうするつもりだろうか。
 即座に攻撃するつもりは無さそうだ。
 超感覚を研ぎ澄ませても、《地獄の悪魔》のような強烈なプレッシャーは感じられない。
 まあ、正直言ってこの特殊な壁のために、いつもの超感覚も鈍っているだろうけど。
 だけど、これまでの戦場の経験で、タカさんや聖みたいに、別な特殊感覚が養われた。
 その感覚では、プレッシャーを感じていない。
 モンスター・ハウスのように、周囲を妖魔に取り囲まれているような罠でなくて良かった。
 もちろん、そんな場合でも撃破するけどね。

 外に連絡できないようにしたのは、私一人ならば殺せる罠を用意したということだろう。
 もしくは何らかの利用をするつもりか。
 何にしても、それほど先ではなく攻撃が始まる可能性が高い。

 敵は私に通信手段が無いと思ってる。
 「皇紀通信」すら遮断することで、安心しているに違いない。
 ルーに呼び掛けた。

 (ルー!)
 (ハー! 今、どこにいるの!)
 (わかんない。ゲートに呑み込まれてどこかへ転移させられたみたい)
 (大変じゃない!)
 (落ち着いて。そっちはどこまで状況を把握してる?)
 (「皇紀通信」が途絶えたから、緊急回線が回ったの! 今もハーの行方が分からないんでみんな探してる!)
 (そっか。どっかの建物みたいだけど、例の妖魔を練り込んだ構造物だね。だから通信は出来ない)
 (何か見えない?)
 (無理。窓が無いんだ。これから脱出するつもり)
 (うん、気を付けてね!)
 (「皇紀通信」はオープンにしとく。通じたら宜しくね!)
 (うん!)

 私とルーとは互いに考えていることが分かる。
 幼い頃からそうだ。
 このことは、タカさんとか兄弟たちしか知らない。
 どんなものでも、私とルーとの絆は断てない。
 さて、じゃあ始めますか!





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「ウラ、石神玻璃の拉致に成功した」
 「ああ、「業」様のお力だ。ミハイル、失敗するなよ?」
 「もちろんだ。必ず仕留めてやる」
 
 「業」様にゲートを重ねていただいた。
 蓋をかぶせるように、ゲートを重ねて石神玻璃を捕獲した。
 ただ、移動はさせられても攻撃は出来なかった。
 何かを差し向けても、反撃されてしまう。
 だから、まったく別な罠を仕掛けた。
 石神玻璃が対処出来ない、《ニルヴァーナ》を使うのだ。
 部下が準備を整えた報告を上げた。

 「ミハイル様、感染者の準備が整いました」
 「そうか」

 石神玻璃は、《ニルヴァーナ》に感染した者たちを敵だと考えて攻撃するに違いない。
 そうすれば、飛散した肉片や血液で《ニルヴァーナ》を感染させられる。
 粘膜の接触と歯や爪などが血中に入っても感染する。
 感染者の血液を浴びても、また破壊された肉体や血液から空気中に蒸発するものによっても感染する。
 もう、あの部屋へ入った時点で石神玻璃には逃れようがない。
 《ニルヴァーナ》に感染して死ぬのだ。
 逃れようのない罠。
 出来れば、石神たちにも感染するがいい。
 今日ばかりは、ウラと一緒でも不快ではない。
 ウラに、私の勝利を見せつけるのだ。
 そして、「カルマ」様に褒めて頂こう。
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