2,568 / 2,916
ダーティ玻璃 Ⅱ
しおりを挟む
しくった。
このあたしが、油断しておめおめと敵の罠にはまってしまった。
転移されてすぐに分かった。
ここは、あの電波も何も通じない、妖魔を練り込んだ特殊な防壁に囲まれた場所だ。
しかも、「皇紀通信」ですら使えない、強化バージョンのもののようだ。
もちろん、力が奪われたわけではない。
私は怪我もなく、「花岡」も「石神家剣術」も使える。
大抵の敵に襲われても心配は無い。
さて、何を仕掛けて来るのか。
しかし、まさかゲートにあんな使い方があるなんて。
本当に油断してた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
1月の第2週の木曜日。
私は「人生研究会」の幹部たちに銃撃戦の訓練をさせるために、シグ・ザウエルのXM7を取りに行った。
ルーは先に幹部たちを四谷の地下のシューティング・レンジに連れてってる。
以前、御堂さんの頼みで幽霊退治をした、未公表の地下施設の一角だ。
元々は旧日本陸軍の施設だったけど、あれから大々的な地下開発が行なわれ、避難施設や高速鉄道の開発が進んでいる。
その一部を「虎」の軍がもらって、防衛システム設置や今回使うシューティング・レンジを作った。
これまでは丹沢の山に行って銃撃戦の訓練をしていたけど、近場に出来て便利になった。
ただ、銃器を常に置いておくのは控えて、毎回うちから持ち込んでいる。
ということで私が一旦家に戻り、XM7を持ち出すつもりだったが、その途中で空間が歪んだ。
「!」
「業」のゲートだと瞬時に判断し、そのまま迎撃態勢に移った。
ゲートが開いた場合、先制攻撃をするのが基本戦略だ。
こちらへ何かが出て来る前に、ゲートごしに攻撃することで、素早く敵を殲滅出来る。
だから即座に攻撃することが重要なのだ。
一旦出て来てしまえば厄介なことになる。
私を狙ってのものならばまだいいけど、敵の目的が別にあった場合、それを追い掛けてのことになってしまう。
でも、後から思えば私としたことが誰かに連絡を取ることもなく、そのまま交戦するつもりだったのが悔やまれる。
開いたゲートに向かって、そのまま内部へ先制攻撃を仕掛けたのだ。
すると私の後方から新たなゲートが迫って来た。
攻撃に夢中で、周囲の観測を怠っていた。
慢心していたんだ!
「なんだ!」
私はゲートに呑み込まれ、気が付くと見知らぬ部屋へ転移させられていた。
すぐに状況は分かったけど、自分が妖魔を練り込んだ特殊な建物の中に送られたことに気付いて焦った。
「壁を破壊することは、多分出来るけど……」
部屋の広さは30平米ほど。
小さなダウンライトが一つだけ、オレンジ色の明かりを灯している。
窓は無く、鋼鉄の分厚そうなドアが1枚。
この広さだと、壁を破壊する大技は自分にも被害を及ぼすかもしれない。
壁の厚さや強度、また全体の構造が分からないことには、出力の調整が出来ない。
それに、周囲の状況も分かってない。
だから、大きな出力で壁を破壊出来たとしても、周囲に一般の人がいた場合、とんでもないことになる。
そうは言っても、このまま攻撃を待つのも危険だ。
さて、敵はこれからどうするつもりだろうか。
即座に攻撃するつもりは無さそうだ。
超感覚を研ぎ澄ませても、《地獄の悪魔》のような強烈なプレッシャーは感じられない。
まあ、正直言ってこの特殊な壁のために、いつもの超感覚も鈍っているだろうけど。
だけど、これまでの戦場の経験で、タカさんや聖みたいに、別な特殊感覚が養われた。
その感覚では、プレッシャーを感じていない。
モンスター・ハウスのように、周囲を妖魔に取り囲まれているような罠でなくて良かった。
もちろん、そんな場合でも撃破するけどね。
外に連絡できないようにしたのは、私一人ならば殺せる罠を用意したということだろう。
もしくは何らかの利用をするつもりか。
何にしても、それほど先ではなく攻撃が始まる可能性が高い。
敵は私に通信手段が無いと思ってる。
「皇紀通信」すら遮断することで、安心しているに違いない。
ルーに呼び掛けた。
(ルー!)
(ハー! 今、どこにいるの!)
(わかんない。ゲートに呑み込まれてどこかへ転移させられたみたい)
(大変じゃない!)
(落ち着いて。そっちはどこまで状況を把握してる?)
(「皇紀通信」が途絶えたから、緊急回線が回ったの! 今もハーの行方が分からないんでみんな探してる!)
(そっか。どっかの建物みたいだけど、例の妖魔を練り込んだ構造物だね。だから通信は出来ない)
(何か見えない?)
(無理。窓が無いんだ。これから脱出するつもり)
(うん、気を付けてね!)
(「皇紀通信」はオープンにしとく。通じたら宜しくね!)
(うん!)
私とルーとは互いに考えていることが分かる。
幼い頃からそうだ。
このことは、タカさんとか兄弟たちしか知らない。
どんなものでも、私とルーとの絆は断てない。
さて、じゃあ始めますか!
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「ウラ、石神玻璃の拉致に成功した」
「ああ、「業」様のお力だ。ミハイル、失敗するなよ?」
「もちろんだ。必ず仕留めてやる」
「業」様にゲートを重ねていただいた。
蓋をかぶせるように、ゲートを重ねて石神玻璃を捕獲した。
ただ、移動はさせられても攻撃は出来なかった。
何かを差し向けても、反撃されてしまう。
だから、まったく別な罠を仕掛けた。
石神玻璃が対処出来ない、《ニルヴァーナ》を使うのだ。
部下が準備を整えた報告を上げた。
「ミハイル様、感染者の準備が整いました」
「そうか」
石神玻璃は、《ニルヴァーナ》に感染した者たちを敵だと考えて攻撃するに違いない。
そうすれば、飛散した肉片や血液で《ニルヴァーナ》を感染させられる。
粘膜の接触と歯や爪などが血中に入っても感染する。
感染者の血液を浴びても、また破壊された肉体や血液から空気中に蒸発するものによっても感染する。
もう、あの部屋へ入った時点で石神玻璃には逃れようがない。
《ニルヴァーナ》に感染して死ぬのだ。
逃れようのない罠。
出来れば、石神たちにも感染するがいい。
今日ばかりは、ウラと一緒でも不快ではない。
ウラに、私の勝利を見せつけるのだ。
そして、「カルマ」様に褒めて頂こう。
このあたしが、油断しておめおめと敵の罠にはまってしまった。
転移されてすぐに分かった。
ここは、あの電波も何も通じない、妖魔を練り込んだ特殊な防壁に囲まれた場所だ。
しかも、「皇紀通信」ですら使えない、強化バージョンのもののようだ。
もちろん、力が奪われたわけではない。
私は怪我もなく、「花岡」も「石神家剣術」も使える。
大抵の敵に襲われても心配は無い。
さて、何を仕掛けて来るのか。
しかし、まさかゲートにあんな使い方があるなんて。
本当に油断してた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
1月の第2週の木曜日。
私は「人生研究会」の幹部たちに銃撃戦の訓練をさせるために、シグ・ザウエルのXM7を取りに行った。
ルーは先に幹部たちを四谷の地下のシューティング・レンジに連れてってる。
以前、御堂さんの頼みで幽霊退治をした、未公表の地下施設の一角だ。
元々は旧日本陸軍の施設だったけど、あれから大々的な地下開発が行なわれ、避難施設や高速鉄道の開発が進んでいる。
その一部を「虎」の軍がもらって、防衛システム設置や今回使うシューティング・レンジを作った。
これまでは丹沢の山に行って銃撃戦の訓練をしていたけど、近場に出来て便利になった。
ただ、銃器を常に置いておくのは控えて、毎回うちから持ち込んでいる。
ということで私が一旦家に戻り、XM7を持ち出すつもりだったが、その途中で空間が歪んだ。
「!」
「業」のゲートだと瞬時に判断し、そのまま迎撃態勢に移った。
ゲートが開いた場合、先制攻撃をするのが基本戦略だ。
こちらへ何かが出て来る前に、ゲートごしに攻撃することで、素早く敵を殲滅出来る。
だから即座に攻撃することが重要なのだ。
一旦出て来てしまえば厄介なことになる。
私を狙ってのものならばまだいいけど、敵の目的が別にあった場合、それを追い掛けてのことになってしまう。
でも、後から思えば私としたことが誰かに連絡を取ることもなく、そのまま交戦するつもりだったのが悔やまれる。
開いたゲートに向かって、そのまま内部へ先制攻撃を仕掛けたのだ。
すると私の後方から新たなゲートが迫って来た。
攻撃に夢中で、周囲の観測を怠っていた。
慢心していたんだ!
「なんだ!」
私はゲートに呑み込まれ、気が付くと見知らぬ部屋へ転移させられていた。
すぐに状況は分かったけど、自分が妖魔を練り込んだ特殊な建物の中に送られたことに気付いて焦った。
「壁を破壊することは、多分出来るけど……」
部屋の広さは30平米ほど。
小さなダウンライトが一つだけ、オレンジ色の明かりを灯している。
窓は無く、鋼鉄の分厚そうなドアが1枚。
この広さだと、壁を破壊する大技は自分にも被害を及ぼすかもしれない。
壁の厚さや強度、また全体の構造が分からないことには、出力の調整が出来ない。
それに、周囲の状況も分かってない。
だから、大きな出力で壁を破壊出来たとしても、周囲に一般の人がいた場合、とんでもないことになる。
そうは言っても、このまま攻撃を待つのも危険だ。
さて、敵はこれからどうするつもりだろうか。
即座に攻撃するつもりは無さそうだ。
超感覚を研ぎ澄ませても、《地獄の悪魔》のような強烈なプレッシャーは感じられない。
まあ、正直言ってこの特殊な壁のために、いつもの超感覚も鈍っているだろうけど。
だけど、これまでの戦場の経験で、タカさんや聖みたいに、別な特殊感覚が養われた。
その感覚では、プレッシャーを感じていない。
モンスター・ハウスのように、周囲を妖魔に取り囲まれているような罠でなくて良かった。
もちろん、そんな場合でも撃破するけどね。
外に連絡できないようにしたのは、私一人ならば殺せる罠を用意したということだろう。
もしくは何らかの利用をするつもりか。
何にしても、それほど先ではなく攻撃が始まる可能性が高い。
敵は私に通信手段が無いと思ってる。
「皇紀通信」すら遮断することで、安心しているに違いない。
ルーに呼び掛けた。
(ルー!)
(ハー! 今、どこにいるの!)
(わかんない。ゲートに呑み込まれてどこかへ転移させられたみたい)
(大変じゃない!)
(落ち着いて。そっちはどこまで状況を把握してる?)
(「皇紀通信」が途絶えたから、緊急回線が回ったの! 今もハーの行方が分からないんでみんな探してる!)
(そっか。どっかの建物みたいだけど、例の妖魔を練り込んだ構造物だね。だから通信は出来ない)
(何か見えない?)
(無理。窓が無いんだ。これから脱出するつもり)
(うん、気を付けてね!)
(「皇紀通信」はオープンにしとく。通じたら宜しくね!)
(うん!)
私とルーとは互いに考えていることが分かる。
幼い頃からそうだ。
このことは、タカさんとか兄弟たちしか知らない。
どんなものでも、私とルーとの絆は断てない。
さて、じゃあ始めますか!
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「ウラ、石神玻璃の拉致に成功した」
「ああ、「業」様のお力だ。ミハイル、失敗するなよ?」
「もちろんだ。必ず仕留めてやる」
「業」様にゲートを重ねていただいた。
蓋をかぶせるように、ゲートを重ねて石神玻璃を捕獲した。
ただ、移動はさせられても攻撃は出来なかった。
何かを差し向けても、反撃されてしまう。
だから、まったく別な罠を仕掛けた。
石神玻璃が対処出来ない、《ニルヴァーナ》を使うのだ。
部下が準備を整えた報告を上げた。
「ミハイル様、感染者の準備が整いました」
「そうか」
石神玻璃は、《ニルヴァーナ》に感染した者たちを敵だと考えて攻撃するに違いない。
そうすれば、飛散した肉片や血液で《ニルヴァーナ》を感染させられる。
粘膜の接触と歯や爪などが血中に入っても感染する。
感染者の血液を浴びても、また破壊された肉体や血液から空気中に蒸発するものによっても感染する。
もう、あの部屋へ入った時点で石神玻璃には逃れようがない。
《ニルヴァーナ》に感染して死ぬのだ。
逃れようのない罠。
出来れば、石神たちにも感染するがいい。
今日ばかりは、ウラと一緒でも不快ではない。
ウラに、私の勝利を見せつけるのだ。
そして、「カルマ」様に褒めて頂こう。
2
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる