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佐野誘拐 Ⅳ

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 四谷の「アドヴェロス」の本部まで戻り、敷地に着陸した。
 すぐに玄関から早乙女さんと成瀬さん、十河さんが出て来る。

 「佐野さん! ご無事ですか!」
 「あ、ああ。早乙女さん、申し訳ない。ヘマをしちまって」
 「とんでもない! 良かったですよ! 石神、本当にありがとう!」
 「おう!」
 「ハーちゃんもね!」
 「うん!」

 中へ入って、会議室に集まった。

 「今、総出で探してたんです。これから連絡しますから、もうみんな戻ってきますよ」

 そう言いながら、成瀬さんはまた作戦室へ戻って行った。

 「申し訳ない」
 「いいえ! 佐野さんのせいじゃありません」
 
 トラがコワイ顔で言った。

 「おい、早乙女! 佐野さんには危険なことをさせるなって言っただろう!」
 「うん、申し訳ない」
 「二度とやるなよな! ああ、今後は必ずバディを組ませろ!」
 「ああ、そうする」
 「腕の立つ奴な!」
 「うん」

 トラが早乙女さんを部屋の隅に呼んで、耳元で何か囁いていた。
 早乙女さんが俺の方をびっくりして見た。
 トラが「おい、内密にしろ!」と怒鳴る。
 早乙女さんが俺から視線を外してうつむいた。
 トラが腕を組んで考えていた。

 「あー、バディはこっちで用意すっかぁ」
 「石神、どうするんだ?」
 「デュールゲリエだな」
 「おい、トラ、俺は目立つ奴とは一緒に行動できないぜ」
 「大丈夫ですよ。蓮花のアンドロイド技術は凄いですからね。人間と区別つきません」
 「そうか?」
 「はい。最高のバディを用意します!」
 「おう、いつも手間かけてすまないな」
 「とんでもない! 佐野さんのためならなんだって嬉しいや!」
 「おいおい」

 トラが本当に嬉しそうな顔をしやがった。
 まったく、こいつのそういう顔は最高だ。

 トラがインカムに集中した。
 何か連絡が入ったようだ。

 「あ」
 「どうしたんだ、石神?」
 「あのさ、終わったって」
 「うん?」
 「子どもたちに手分けして、「創世の科学」の施設を探させてたんだ」
 「ああ、そうなのか?」
 「うん、終わったって」
 「そうか」

 トラがもじもじしている。
 ハーちゃんに、終わった連絡をしてなかったとトラが小声で話していた。

 「あのさ、早乙女」
 「うん、なんだ?」
 「佐野さんだったじゃん」
 「そうだけど?」
 「緊急事態だったしよ、ちょっと強引に調べさせてた」
 「え?」

 成瀬さんが部屋に飛び込んできた。

 「早乙女さん! 「創世の科学」の関東一円の施設が全滅したそうです!」
 「なッ!」
 「建物は全壊です! 何個所かで大量殺戮も!」
 
 早乙女が俺を見た。
 俺も驚いてトラを見ている。
 あいつ、何をやりやがった!

 「じゃあ、ハー、そろそろ帰るかな」
 「そだね!」
 「待て、石神!」
 「なーに?」
 「お前、何をやったんだよ!」
 「だから、強制捜査?」
 「おい!」
 
 トラが困った顔をし、すぐに開き直りやがった。

 「うるせぇな! 佐野さんが無事だったんだからいいだろう!」
 「そういう問題じゃないだろう!」
 「何とかしろ!」
 「石神!」
 「ああ、「業」の仕業だよ!」
 「おい、何言ってんだ!」
 「そういうことにしろ! 今までも何度もやってる!」
 「だからって! おい、まだ終わってないぞ!」

 トラとハーちゃんが走って逃げた。
 呆れる奴だが、俺のためにやってくれたことなんで、俺は何も言えない。

 「早乙女さん。本当に申し訳ない」
 「いや、佐野さんのせいじゃ……」
 「トラは俺のためにやってくれたんです」
 「まあ、そうなんですけど」
 「どうか、責任は俺ということで」

 早乙女さんが笑った。

 「いいえ、石神の言う通りです。佐野さんが無事なことがすべてです」
 「すいません」
 「まあ、何とかしますよ」

 成瀬さんも笑っていた。

 「一応、死亡者のほとんどはライカンスロープでした。それに非合法に武装していた人間たちです」
 「そうか!」
 「そっちは何とかなりそうですが、問題は」
 「まだあるのか?」
 「全施設が破壊されていることです。ほとんどは法を犯したものではありませんからね」
 「まあ、そっちは考えよう。「創世の科学」が非合法どころか「業」の軍と手を結んでいたことは確かだからな」
 「はい。ちょっとストーリーを考えますね」
 「頼む」

 成瀬さんが難しい顔をしながら出て行った。
 まったく、俺のヘマのために大変なことになってる。
 早乙女さんが俺に頭を下げた。

 「佐野さん、本当に申し訳ない。佐野さんを酷い目に……」
 「いや、何もないですよ。ちょっと服を脱がされたりした程度で」
 「!」
 「早乙女さん?」
 「申し訳ない!」

 早乙女さんがちょっと泣いてた。
 あ、トラ!
 あいつ、俺が無理矢理レイプされたとか話しやがったかぁ!

 



 後から「創世の科学」の被害状況を詳しく知ったが、関東での施設の全てが崩壊し、死者18名(他にライカンスロープ300体と、銃で武装した人間59名がいる)負傷者約3000名。 
 「創世の科学」は「業」と繋がっていたことが世間に知れ、大変な騒ぎになっていた。
 教祖は行方不明(トラが最初に殺したらしい)で、ナンバー2も行方をくらました。
 事件の後からも、全国で施設の破壊や信徒の襲撃が行なわれたからだ。
 そちらは「業」の軍隊ということで発表があった。
 自分たちの情報が漏れないように始末したという発表だったが、実際はトラたちがぶっ壊した。
 「創世の科学」は内部分裂の末、結局は解散した。
 





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 佐野さんを救出し、家に戻った。
 一応みんなを集めて、状況を話した。

 「えぇー! ぶっ殺しても良かったんですかぁー!」

 亜紀ちゃんが叫んだ。

 「よくねぇよ!」
 「でも、タカさんも教祖をぶっ殺したんですよね!」
 「まあ、元凶だかんな」
 「ハーもじゃんじゃんぶっ殺したんですよねー!」
 「エヘヘヘヘヘ」
 「笑うんじゃねぇ!」

 まったく、どこの殺人狂一家だ。

 「私ももっと悪人をぶっ殺せばよかったー!」
 「おい!」
 
 まあ、それでも良かったのだが。
 でも、多分まともな人間もいただろうし。
 ハーは波動で分かるから、ライカンスロープと殺人を平然と行なう連中を始末しただけだ。
 その証拠にルーは一人も殺してない。
 「黒い」連中がいなかったからだ。
 柳は相当頑張ったようだ。
 怪我人すらほとんどいない。

 そういうことも、後から早乙女に聞いたのだが。

 「あー、悔しい! タカさん、また行っていいですかー!」
 「ばかやろ!」
 「だってぇー!」
 「俺たちは殺人鬼じゃねぇ!」
 「だってぇー!」
 
 亜紀ちゃんがロボを抱き締めた。

 「ロボもぶっ殺したかったよねぇー」
 「にゃ」
 
 「……」

 70か所の「創世の科学」が全て崩壊し、都内と関東一円の「創世の科学」の建物は無くなった。

 「残った場所も潰しましょうよー」
 「もういいよ!」
 
 目的が変わっている。
 佐野さんの救出のためだったのだが。

 「佐野さん、また誘拐されないかなー」
 「バカ!」

 頭を引っぱたき、ようやく亜紀ちゃんが黙った。

 「ちょっと出て来ますねー」

 亜紀ちゃんが出掛けた。
 3時間後に戻って来た。
 すっきりした顔になっていた。

 翌日、早乙女から電話が来た。

 「石神、新たに「創世の科学」の全ての施設が消えたぞ」
 「なに?」
 「どうも、《デミウルゴス》の精製所とライカンスロープの収容施設もあったようだ」
 「……」

 「お前がやったのか?」
 「いや、俺じゃない」
 「ほんとうか?」
 「ウソじゃない。亜紀ちゃんだ」
 「おい!」
 「俺も知らねぇ!」

 電話を切った。
 





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 家に帰ると、女房が玄関まで迎えに出た。

 「おう、ただいま」
 「あなた……」
 
 女房の顔を見て分かった。
 俺が誘拐されたことを、もう聞いているのだろう。

 「大丈夫だ、何もないよ」
 「はい、そうですね」

 ん?
 返事がおかしい。
 女房が珍しく俺の肩を抱きながら、一緒に階段を上がる。
 やけに心配してやがる。

 「おい、本当に大丈夫だって」
 「はい、分かってますよ」
 「お前、ちょっとおかしいぞ?」
 「すみません。あなたが生きて帰ってくれただけで、もう十分ですから」
 「ちょっと、何言ってんだ?」
 「何でもありません。本当に生きててくれて。辛かったでしょうけど、私は本当にそれだけで十分です」

 本当におかしい。
 女房に確認した。

 「まさか、トラがここへ来たか?」
 「はい、先ほど。あなたを労わって欲しいと言って」
 「おい! あいつが言ったことは全部デタラメだぁ! 俺は尻を犯されてなんかねぇぞ!」
 「そうですとも。あなたは何もありませんでした」
 「お前、信じてねぇだろう!」

 その晩、よくよく話して、やっと何も無かったことを信じてくれた。
 女房は最後は大笑いし、本当に良かったと言った。
 早乙女さんにも誤解を解くために、相当苦労した。

 トラ、てめぇ、覚えてろ!
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