上 下
2,562 / 2,808

佐野誘拐 Ⅲ

しおりを挟む
 2時間が経過した。
 もう、全員半分は回っているようだ。
 まだ佐野さんは見つからない。
 焦る自分を抑えながら、次の目標に向かっていると、ハーから連絡が来た。

 「タカさん! ここっぽい!」
 「ほんとか!」
 「うん! 黒い波動がバンバン出てる! その中で、佐野さんの綺麗な波動がちょっとあるみたい!」
 「分かった! よく見つけたぞ、ハー!」

 念のために他の子どもたちには俺とハーの受け持ちも続けて探してもらい、俺はハーの行っている浮間舟渡の非公表施設へ向かった。
 ハーが俺を見つけてすぐに飛んでくる。

 「上から見たけど、警備が結構多いよ!」
 「そうか!」
 「さっき、《アイオーン》が周辺の監視カメラの映像を解析したの。昨日から警備の人間が集まってるっぽい」
 「じゃあ、怪しいな!」
 「ね!」

 いい判断と対処だ。
 ハーと一緒に中へ入った。
 すぐに警報が鳴り、警備の人間が出て来た。
 最初から隠れるつもりもない。
 このまま強行突破で佐野さんを救出するつもりだ。

 「「佐野さーん!」」

 二人で叫びながら突っ込んで行った。
 待ってて下さい、佐野さん!







 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 外が騒がしくなった。
 大きな警報が鳴り響き、大勢の人間が走り回っているのも分かる。
 どんどん怒号と悲鳴が聞こえて来た。
 激しい銃声もする。
 大勢の人間が銃を撃っている。
 ここが誰かに襲われているのだろうか。

 「佐野さーん!」

 誰かが大声で叫んでいるのが聞こえた。
 すぐにドアを思い切り叩いた。

 「おーい! ここだぁー!」
 「佐野さん!」

 突然ドアが切り裂かれた。
 慌てて飛びのく。

 「うぉ!」
 「あ、すみません!」
 
 トラだった!
 ハーちゃんも入って来る。

 「助けに来てくれたのか!」
 「はい! 遅くなって申し訳ありません!」
 「いや、とんでもねぇ! ありがとうな!」
 「いいえ!」

 トラは素早く部屋の中を見回し、俺が裸なのを見た。

 「お怪我はありませんか!」
 「あ、ああ。大丈夫だ。突然攫われてさっき目が覚めた。まあ、ちょっと尻の穴が痛ぇ程度だ」

 トラの顔が変わった。
 物凄い形相になってる。

 「おい、トラ?」
 「あいつらぁ! 佐野さんによくもぉー!」
 「トラ、大丈夫だって」
 「ハー! 佐野さんのお尻の穴を調べろ!」
 「はい!」
 「おい! 何言ってやがんだぁ!」

 ハーちゃんに抱えられて、強引に俺をベッドにうつぶせにした。

 「なんなんだぁ!」
 「佐野さん、大人しく!」

 トラが叫び、ハーちゃんに尻の肉を押し広げられた。

 「おい! やめてくれぇ!」
 「あ、タカさん! ちょっと血が出てるよ!」
 「佐野さん!」
 「違うってぇ!」
 「ハー! オロチ軟膏、持ってるな!」
 「はい!」
 「優しく塗って差し上げろ!」
 「はい!」
 「お前らぁ!」

 塗られた。
 ハーちゃんの指が、俺の肛門の周りと中までヌルヌルとしたものを丁寧に塗る。
 尻の痛みが無くなった。

 「佐野さん! あいつらのチンコ切り取って来ますから!」
 「なんでだよ!」
 「佐野さんによくも、あいつらぁ!」
 「何もされてねぇよ!」

 トラが悲しそうな顔で俺を見ている。
 ハーちゃんも沈痛だ。
 トラの奴が、俺に優しく微笑んで言った。

 「佐野さん、奥さんには黙っていましょうね」
 「何言ってんだよ!」
 「犬にでも咬まれたと思って」
 「だから何もされてねぇってよ!」
 「かわいそうに」
 「俺の話を聞けぇ!」
 「佐野さん、もういいですから。ハーもこのことは誰にも言うなよな」
 「うん!」
 「……」

 ハーちゃんが軟膏を仕舞いながら言った。

 「佐野さんの服を探してきますね!」
 「お、おう!」

 すぐにハーちゃんが来た。
 手に服を持っている。
 おい……

 「タカさん、これ!」
 「おう!」

 ハーちゃんが持って来た服を見た。
 シャツとスラックスだったが。
 
 「……」
 「佐野さん、早く着て下さい!」
 「いや、これはちょっと」

 白いシャツは血まみれで、スラックスも血で濡れていた。
 しかも、シャツの襟がねぇ。
 スッパリと切り取られていた。
 なんなんだ、こりゃ。
 トラがハーちゃんの頭をはたいていた。

 「だって! みんな首を斬っちゃったから!」
 「このバカ!」
 「……」

 トラがベッドのシーツを外し、俺に巻き付けた。
 
 「佐野さん、お尻はまだ痛みますか?」
 「もういいってぇ!」
 
 ハーちゃんがドアから廊下を見張り、合図した。
 俺たちもすぐに廊下へ出る。
 物凄い状況にぶったまげた。

 「おい……」

 廊下は数十人の男たちが折り重なって死んでいる。
 どれもまともな死体ではない。
 千切れ潰され、破壊されまくっていた。
 多くの死体に首がねぇ。
 床や壁、天井にも血飛沫が飛び散っていた。
 トラたちは、一体何をしやがったんだ。
 ハーちゃんが床に置いていた何かを拾って来た。

 「タカさん、これ」

 ハーちゃんが生首を4つ持って来た。

 「こんなもの、いらねぇよ」
 「エェー! 佐野さんに捧げるってタカさんが言ったから一生懸命斬ったのにぃー!」
 「うるせぇ! あ、佐野さん、いります?」
 「……もちろんいらねぇ……」

 トラが呆然としている俺を見て、壁を破壊した。
 大穴が空いて、俺はトラに抱えられて空中に飛び出た。
 ハーちゃんも飛び出し、建物に向かって何かをした。
 足の下で巨大な建物が爆発するように消えた。

 「トラ! おい!」

 そのまま空を移動する。
 
 「ハー! 早乙女に連絡しろ!」
 「はい!」
 
 「おい、どこへ行くんだ!」
 「このまま、「アドヴェロス」まで! 20分で行きます!」
 「え?」

 スピードが上がり、俺はもう風圧で何も喋れなくなった。





 おい、トラ、こりゃ一体どういうことなんだよ……
 それと、一つだけ言わせて欲しいんだが。
 俺は尻に何かされたわけじゃねぇぞ!
 
 でも、顔がひん曲がる程の風圧で何も喋れなかった。
 トラを睨んだが、トラは俺を憐れむように見るだけだった。

 このやろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...