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「ルート20」絆 Ⅳ

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 「俺が、「ルート20」の2番隊隊長の俺が、トラさんを裏切るわけないじゃないですか」

 イサが涙を流しながら、笑顔で俺に言った。
 もう、その顔を見て俺は全てを察してしまった。

 「お前! 奥さんと子どもが捕まってるんだろうがぁ!」
 「トラさん、フランス政府が「業」と手を組みました。それをトラさんに話さないとと思って」
 「俺を誘導すれば助かるんだろう!」
 「無理ですよ、トラさん。そんな連中じゃないことは分かってます。俺は最初からトラさんを逃がすつもりでした。最後にトラさんと会いたかった」
 「バカ! 俺が絶対に助ける! だから俺を連れてけ!」

 イサが一心に俺を見詰めていた。

 「トラさん、ありがとうございました。最後にトラさんに会えて良かった。こんないい人も紹介してもらって、本当に楽しかった。ありがとう、トラさん!」
 「イサ、言え! どこだ!」
 
 イサがある区画を口にした。
 
 「でも行かないでください」
 「イサ、その区画のどこなんだ!」
 「必要ありません。大きな爆弾を仕掛けているそうですから」
 「!」

 俺はマクシミリアンにイサを頼んだ。

 「マクシミリアン! イサを連れて行ってくれ!」
 「分かった、任せてくれ。お前はどうするんだ?」
 「待ち伏せの区画へ行く」

 その時、イサの身体が崩れた。
 短い時間でイサの顔は鉛色になっている。

 「イサ!」
 「トラさん、さっき毒を飲みました」
 「何言ってやがる!」
 「だからトラさん、行かないで下さい。行く必要はありませんから」
 「すぐに助けるぞ! マクシミリアン! 救急車だ!」
 「分かった!」

 マクシミリアンがすぐに電話を取り出し連絡する。

 「イサ、しっかりしろ! 絶対に助ける!」
 「と、トラさ、ん」
 「もう喋らなくていい! おい、マクシミリアン! 救急車はまだかぁ!」
 「と……ら、さん。トラ、さんはうらぎ……ない。だ、けど……家族……もそ、の……ま、まには」
 「イサぁー!」

 イサが微笑んで目を閉じた。
 イサの口から甘いアーモンドの香りがした。
 青酸化合物であることが分かった。

 その時、強烈なプレッシャーを感じた。
 俺はその方向へ「轟雷」をぶち込んだ。
 上空に巨大なプラズマの塊が生じ、地上に電光を迸らせた。
 プレッシャーが消えた。
 電子基板が破壊され、恐らく遠隔操作で爆発させようとした意図を消し去った。

 「イシガミ!」

 マクシミリアンがイサを抱えていた。
 イサはこと切れていた。
 アラスカのターナー大将に連絡した。

 「ターナー、フランス政府に宣戦布告しろ」
 「なんだって?」
 「30分後に攻撃する。俺を狙った奴らが全員名乗り出ない場合、フランスを壊滅させる」
 「おい、タイガー! 何を言ってる!」
 「俺の友のイサが殺された。家族が人質に取られている。家族も解放しなければ、本当にフランスを潰す」
 「おい、待て! タイガー、何を言っているのか分からん!」
 
 「ウルセェ! イサがやられたと言っただろう! すぐに宣戦布告しろ!」
 「わ、分かったから説明してくれ!」

 俺は通信を切った。

 「イシガミ、どうするんだ!」

 マクシミリアンが俺を見て言った。
 あのマクシミリアンが少し脅えていた。
 俺の本気の怒りを見たのだ。

 「今聞いた通りだ。これからフランスに攻撃する」
 「おい! 落ち着け! 一度バチカンへ戻ろう!」
 「マクシミリアン、イサを頼む。後で受け取りに行く」
 「イシガミ! 冷静になれ! お前、どうかしてしまったのか!」
 「イサを殺されてどうにもならないわけがあるか。マクシミリアン、俺はもう自分を抑えられない」
 「待て! 本当に待ってくれ!」

 俺はそのまま飛び立った。
 アルコールはもちろん全て消えていた。
 涙すら出なかった。
 槙野に続いてイサまでも。
 しかもその家族までも。
 フランスを絶対に許さない。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 タイガーの指令が来て、私はすぐに事態の把握に急いだ。
 同時にタイガーを止めなければならない。

 「ディアブロ!」
 「ターナー大将、どうしたんですか?」
 「タイガーが大変だ! フランスを消滅させようとしている!」
 「え! どういうことなんですか!」
 「分からないんだ。いつものタイガーじゃない! 怒り狂ってる! フランスに宣戦布告しろと言ってる!」
 「まさか、諫早さんに何かあったんじゃ!」
 「イサハヤ? ああ、イサと言っていた! イサが殺されたのだと」
 「それは大変ですよ! 諫早さんは「ルート20」の仲間です! タカさんは諫早さんに会いに行ったはずなんです!」
 「そういうことか! ディアブロ、すぐにタイガーを止めてくれ! あいつ、本当にフランスを消し去るつもりだ!」
 「分かりました!」

 ディアブロはすぐに行ってくれそうだ。
 私はとにかくタイガーとイサハヤとの関係を知る人間を探した。
 「ルート20」というのは、タイガーが若い頃に所属していたバイクの集団であることは分かっている。
 確か、イノウエがそこの総長だったはずだ。
 シノノメに問い合わせ、イノウエの連絡先を聞いた。

 「イノウエ! 私は「タイガーホール」の総司令官のターナーだ」
 「え、俺に何か!」
 
 私はイノウエに今の状況を話した。

 「諫早はトラの特攻隊2番隊の隊長だった奴です! 今はフランスのレースチームのメカニックになっているはずで」
 
 そこから想像出来た。
 タイガーが今日、バチカンに行っていることは知っている。
 恐らく、そこからイサハヤに会いに行ったのだろう。
 そこで何かがあった。
 もうタイガーに連絡は通じない。
 フランスへ宣戦布告もまだしていない。
 私はバチカンへ連絡した。
 「虎」の軍とバチカンは直通の回線がある。

 「「虎」の軍のターナー大将です。タイガーの状況を把握している人間を探しています」
 「先ほど、パラディンのマクシミリアンから緊急の連絡が入りました。イシガミ氏に同行しているはずで、マクシミリアンからそちらへ直接連絡させます」
 「分かりました、至急お願いします」
 「はい。ローマ市内で攻撃があったようです。詳細はマクシミリアンから」
 「お待ちしてます」

 マクシミリアンが事情を知っていそうだった。
 彼からすぐに連絡があった。
 彼も「皇紀通信」を所持していた。

 「ターナー大将ですね! 大変なことになりました!」
 「すぐにお教え下さい!」
 
 マクシミリアンが、簡潔に状況を説明してくれた。
 全て分かった。
 あの時と同じなのだ。
 タイガーの恋人のレイがアメリカ政府に殺された時と。
 あの時、タイガーはアメリカを相手に攻撃を始めた。
 西海岸が壊滅する寸前で、回避することが出来たのだが。

 今度はイサハヤという友のために、タイガーの怒りが爆発している。

 「今、タイガーの娘のアキが向かってます」
 「ああ、あの子か!」

 マクシミリアンはディアブロのことを知っているようだった。

 「私は至急フランス政府に宣戦布告をします!」
 「え、待ってください! それは!」
 「いいえ、我々はタイガーの軍です。最高指揮官の命令に従います」
 「それではフランスが!」
 「知ったことではありません。タイガーの要求を拒めば、フランスがこの世から消え去るだけです」
 「何を言ってるんだ!」
 「ご説明をありがとうございました。せめて親しい方にはご連絡し、至急フランスから出国することをお勧めします」
 「なんてことだ!」

 通信を切った。
 バチカンとは親しくしたいのだが、とにかく今は事情が切迫している。





 また長い夜が始まりそうだった。
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