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遠士

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 《山が好き!:(なあ、シロピョン)》
 《海が好き!:(どうかしたか、クロピョン)》
 《山が好き!:(主様への贈り物なのだが)》
 《海が好き!:(ああ、あれか)》

 《山が好き!:(やはり、何かをしたいのだ)》
 《海が好き!:(主様に断られただろう)》
 《山が好き!:(そうなのだ。だからな、主様を助けようとしている者にどうかと思うのだ)》
 《海が好き!:(なるほど、それはいいかもな)》
 《山が好き!:(シロピョンもそう思うか!)》
 《海が好き!:(ああ、思うぞ。きっと喜ぶ人間がいるに違いない)》
 《山が好き!:(そうか! では早速やるぞ!)》
 《海が好き!:(まあ、がんばれ)》






 ぐるぐる

 「うっほうっほ」

 ぽーん
 パシッ(キャッチ)
 
 そろそろ~
 ポン

 「うっほ」






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 6月中旬。
 わしはいつものように庭で鍛錬していた。
 何かの気配が空中からした。
 危険性は少ないが、異常な出来事だと感じた。
 なんだ?

 「うっほうっほ!」
 「……」

 なんだ、これは。
 まあ、ゴリラなのだが。
 わしを見て興奮している。
 胸を叩いてわしを威嚇しようとしている。
 こいつ、今、どこから来た?
 空から落ちて来たようだ。
 わしには見えなかったが、何か落下のショックを和らげられたようだった。
 見た所、ゴリラは怪我一つないようだった。

 わしは視線を逸らさずに「虎砲」を放った。
 強大な威圧を放出し、相手の戦意ばかりか強めれば意識まで奪う。

 「うっほ……」

 ゴリラが委縮した。
 野生の連中は強い者には逆らわない。
 さて、どうするか。
 面倒だから殺すか。

 「うっほ」
 
 ゴリラがわしを見て涙を流した。
 わしの殺気が分かったか。
 人間のような感情があるのか。
 わしはゴリラなど知らん。

 「うっほ」

 地面に腹を上に寝転んだ。
 逆らう気はもう無いらしいことがわしにも分かった。

 さて、ではどうするか。
 朝食の準備が出来たと、わしの身の回りの世話をしている五月が迎えに出て来た。

 「大師範様、朝食の……きゃ!」
 「落ち着け、大丈夫じゃ」
 「でも、どうしてゴリラなんて!」
 「気にすることはない。中へ入ろう」
 「は、はい!」

 ゴリラのことは放っておくことにした。
 逃げるのならばそれでもいい。

 わしは食事をし、また庭に出た。
 ゴリラはまだ庭にいた。
 出て来たわしをずっと見ている。
 困った。
 まあ、思えば高い塀に囲まれているのだ。
 逃げることは出来なかっただろう。
 ゴリラはわしの顔を見ておずおずと寄って来た。

 「なんじゃ」
 「うっほ」

 わしの前で少し飛び上がる。
 何を訴えているのか分からん。

 「お前、腹が空いているか?」
 「うっほ」

 石神に電話した。

 「おう、どうした?」
 「ゴリラは何を食べるんじゃ」
 「あ?」
 「だからゴリラの餌じゃ!」
 「だからなんなんだよ!」
 「いいから教えろ! お前は何でも知っておるじゃろう」
 「ふざけんな!」
 「おい!」
 「バナナでも食わせとけよ!」
 「分かった」
 「おい!」

 電話を切った。
 五月にバナナがあるか聞いた。

 「申し訳ございません。今すぐに買って参ります」
 「頼む。ああ、大量にな」
 「かしこまりました」

 わしが鍛錬している間、ゴリラは離れてずっと見ておった。
 「花岡」の技を繰り出すと、何故か興味深そうに少し近づいて来る。
 なんなのだ。
 五月が戻って来たようだ。

 「大師範様、買って参りました」
 「そうか」

 一房を受け取り、ゴリラの前に置いた。

 「食べろ」
 「うっほ!」

 少しの間、わしとバナナを交互に見ていた。
 そしてゴリラがわしを潤んだ目で見て、バナナを拾って食べ始めた。

 「うっほ!」
 「おう、美味いか?」
 「うっほ!」

 喜んでいるようだった。

 「まあ、カワイイ!」

 何故か五月が脅えることなく喜んだ。
 わしはゴリラを放っておいて鍛錬を続けた。
 さて、こいつをどうしたものか。
 石神に聞けば何かいい方法を言うかもしれんが、もうあいつに相談する気は無くなった。

 昼食を食べて、蓮花に電話した。
 あいつは忙しいのだが、快く相談に乗ってくれた。

 「斬様、ゴリラでございますか」
 「ああ、今朝突然うちの庭に落ちて来た」
 「え、それは!」
 「驚くのも無理はない。でも本当なのだ」
 「いえ! それは石神様のお宅でも何度もあったことです!」
 「なんだと?」
 「本当に様々な動物が。後から分かったのですが、どうやら妖魔の王のクロピョンがやっていたことらしいのです」
 「クロピョンか」

 わしも知っている。
 石神を守る仲間だ。

 「なぜわしのところへ」
 「それは分かりませんが。でも、斬様のことを気に入っているのではないかと」
 「クロピョンがか」
 「はい、わたくしにもよくは分かりませんが」
 「でもゴリラなぞ、わしも困るぞ」
 「さようでございますね。ではこちらで引き受けましょうか?」
 「そうしてくれ」
 「分かりました」

 1時間ほどして、蓮花の研究所からブランの何人かが檻を積んだ軽トラでやって来た。
 屋敷に入れ、庭に案内する。

 「こいつだ」
 「はい」

 ゴリラに近づく。
 あのパワーでも、ブランたちであれば問題ないだろう。

 「うっほうっほ!」
 「おい、大人しくしろ」

 ゴリラが激しく暴れた。
 ブランたちは取り押さえたが、地面に腹ばいにされたゴリラが大泣きした。

 「うっほうっほ!」
 「……」

 わしを見ている。
 濡れた瞳でずっと見て何かを訴えている。
 仕方がない。

 「おい、そこまでにしてくれ」
 「はい?」
 「こいつはうちで引き受ける」
 「斬様?」
 「手数を掛けた。引き取ってくれ」
 「はい、分かりました」

 ブランたちが帰って行った。
 蓮花にはわしがゴリラを飼うことに決めたと話した。

 「さようでございますか! それは素敵な!」
 「何、気の迷いじゃ。邪魔になれば処分するしな」
 「まあ、その時はいつでも申し付けて下さい」
 「ああ、覚えておこう」

 自分で自分の心が不思議だった。
 何故こんな面倒なものを引き受けたのか。
 しかし、わしの中でそうしようと決まってしまったのだ。

 そういえばあやつは大きなネコを飼っていたな。
 わしは屋敷の中に入り、バナナを一房持って来た。

 「喰え」

 ゴリラが嬉しそうにバナナを受け取って食べ始めた。
 そして庭をあちこち見ていた。
 松の樹に歩いて行った。
 なんだ?

 
 ブリブリブリ……


 「……」





 まあ、決めたことじゃ。
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