上 下
2,508 / 2,840

北海道「無差別憑依」事件

しおりを挟む
 翌朝。
 タカさんは今日から出勤のはずだった。
 私たちがいなくても、タカさんのことだからちゃんと病院には行くのだろう。
 タカさんはいつでも強い、
 一晩寝て、ようやく私も落ち着いて来た。
 柳さんも相当なショックを受けていたけど、ちょっとは良くなったみたいだ。

 「柳さん、元気出しましょう」
 「うん、そうだね」
 「ちゃんとタカさんに謝りに行って」
 「うん……でも」
 「ダメでもですよ! 何百回でも謝って許してもらいましょう!」
 「そ、そうだよね! 私たち、それしかないもんね!」

 朝食を獲りに行ってたルーとハーが帰って来た。

 「あ、ちょっと良くなった?」
 「大変だけど落ち込んじゃダメだよ?」
 「二人とも元気だね」
 「そりゃね。誰かが踏ん張らないと」
 「二人とも、朝ご飯は食べれる?」

 二人に気を遣わせてしまっている。
 私も頑張らなきゃ。
 ルーとハーが豪勢な食材を用意してくれていた。
 多分、私と柳さんのために、美味しいものをと思ってくれたに違いない。
 ウニやサザエなどが沢山あった。
 本当は漁業権などもあるのだが、この島を購入したことで周辺のものは獲ってもいいと漁協の人に言われている。
 新鮮な食材なので、焼いて醤油を垂らすだけで本当に美味しい。
 ああ、タカさんにも食べさせてあげたい。
 こんな状況で私たちだけが美味しい物を食べているなんて、本当に申し訳なく思う。
 食べちゃうんだけど。

 「今日一日はここで英気を養おう」

 ルーが言った。

 「明日は帰ってさ。タカさんに真面目に謝ろう」
 「そうだね!」
 「じゃあ、今日はのんびりして、美味しい物を沢山食べよう!」
 「うん!」

 みんなでやっと笑った。
 でもタカさんに会いたいよー!

 ルーとハーが、山小屋みたいなものを作ってくれてた。
 今は夏だけど、地域的なものか、中は意外と涼しい。
 風もよく通っている。
 水も湧き水をルーたちが運んでくれていた。
 残ったお金は使い果たしたそうだ。

 「もう340円しかないよ」
 「アハハハハハハハ!」

 水のガロン容器、調味料や食器類などで全部使ったそうだ。
 お箸やスプーンはスーパーでもらったもの。
 それでも、こうやって美味しい食事が出来る。
 コップやお椀、取り皿も安い紙製のものを買って来たらしい。
 私と柳さんが何も出来なかった間に、二人は本当によく働いてくれた。
 申し訳ないと思う。
 二人に謝ると笑って「大したことじゃない」と言ってくれた。
 皇紀もこの小屋を作るのに頑張ってくれたらしい。

 「タカさんに出て行けと言われたんだから、お姉ちゃんがショックを受けるのは当然だよ」
 「うん。でも申し訳ない」
 「いいよ。僕たちは兄弟だろ?」
 「ありがとう、皇紀」
 「私もごめんね」
 「柳さんは御堂さんにあんなこと言われたんだ。僕たちよりもショックだったでしょう?」
 「うん、そうなんだけど。でも、落ち込んでちゃいけないよね」
 「そんなことないよ。僕たちがいるんだから、大丈夫だって」
 「ありがとう、皇紀君」
 「エヘヘヘヘヘ」

 そうだ、私たちは家族なんだ。
 誰かが弱ったり困ったりしてたら助け合えばいいんだ。

 「よーし! タカさんに謝るぞー!」

 みんなが笑った。






 お昼は私と柳さんで食材を用意することにした。
 三人には小屋でのんびりしてもらう。

 「柳さん、私が「プチ轟雷」でやりますから!」
 「うん、私が全部拾うからね!」
 「はい!」

 階段を降りた場所から、海面に向かって撃った。

 《プチ轟雷》

 海面に電撃が走り、魚が一杯浮かんで来る。
 二人で必死に回収した。

 「大漁だね!」
 「はい!」

 身体を動かしたことで、気分も良くなって来た。
 二人で一緒に海の中にも潜って、貝類も手に入れた。

 「確かパスタも買ってあったよ」
 「そうなんですか! じゃあ、お昼は海鮮パスタにしましょうか!」
 「いいね!」

 楽しくなって来た。
 でも、タカさんの顔が思い浮かぶ。
 タカさんはきっと今も苦しんでいるに違いない。
 私たちがあんなことをして、他の人に迷惑を掛けて、それで苦しんでいるだろう。
 タカさん……

 「亜紀ちゃん、落ち込まないで。明日はみんなで謝りに行くんだからね」
 「そうですね!」

 私の顔が暗くなったので、柳さんもすぐに悟ったのだろう。
 いけないいけない!

 獲物を上に運んで行き、皇紀と双子が喜んでくれた。
 大げさに褒めてくれるのが分かった。
 みんなでパスタを茹でて、貝や魚の切り身を茹でて美味しいスープパスタを作った。
 他の魚もどんどん焼いて行く。
 誰ももう暗い顔はしない。
 なんとなく、そういう決まり事みたいなものが出来て行った。

 食後にインスタントコーヒーを飲んでいると、「皇紀通信」に連絡が入った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 一江に頼んで、俺のオペはなるべく少なくしてもらった。
 今は緊急事態に備える必要がある。
 六花と響子、鷹にも正直に子どもたちのやったことを話した。
 家を追い出したと言うと、三人とも俺を気遣ってくれた。
 俺と子どもたちの絆を、俺以上に考えていてくれたことが分かる。
 決して別れるはずのない家族なのだと鷹に言われ、泣きそうになった。
 三人に、謝りに来たら許して欲しいと言われた。
 俺もそのつもりだと応えた。

 俺がまったく食事をしていないことも察して怒られた。
 六花が自分の弁当を俺に渡して来たが、申し訳ないが食欲はまったくないので断った。
 俺自身がこんなにも落ち込むとは思ってもみなかった。
 昨日、早乙女の所で頂いた蕎麦だけだ。
 それがまだ身体の中に残っている気がする。
 あいつらがいなければ、俺はこんなにもだらしないのだ。

 そして、本当にアラスカから緊急連絡が入った。
 ターナー大将からの直接の通信だった。

 「タイガー! また北海道で異常反応だ!」
 「なんだと!」
 「それが、今回は妙なんだ。小さなゲートが頻繁に現われているようだ」
 「なに?」
 「何かを送り込んでいるのは確かなんだが、これまでの一気に大軍団を送り込むのとは明らかに違う!」
 「なんだそれは……」

 俺は考えていた。
 何かおかしい。
 でも、相当ヤバいことが起きている予感がある。
 あの「業」が無駄なことをするはずがないのだ。
 俺たちが分からないとすれば、俺たちが大いに困ることに違いない。

 「とにかく、アラスカから派兵してくれ。規模は観測の判断に任せる!」
 「分かった!」

 一旦通信を切った。
 俺は急いで「Ωコンバットスーツ」に着替える。

 そしてすぐに状況が分かった。
 青森に設置した霊素観測レーダーからの情報解析だ。
 またターナー大将から連絡が来る。

 「タイガー、分かったぞ! ゲートの周辺でライカンスロープが発生している!」
 「!」
 「あの、無差別憑依の妖魔を大量に送り込まれた! 不味いぞ、これは!」
 「分かった、すぐに俺も行く!」
 「ホッカイドウ全土に渡る広範囲だ! アラスカのソルジャーの半数を送る!」

 そうなるとソルジャーの数は3万になる。

 「そうしろ! デュールゲリエも5万送れ!」
 「そうする!」
 
 ゲートはすぐに閉じて行ったのだ。
 ならばその後のライカンスロープの発生は、ターナー大将の考えた通りだろう。
 
 北海道の広範囲ということは、時間との闘いになる。
 俺たちの数の劣勢をこういう形で衝かれるとは。

 「了解! 場合によっては「シャンゴ」を使うぞ」
 「!」

 ターナー大将は最悪の事態を既に想定している。
 俺は多少ボケていた。






 俺は非常に嫌な予感に覆われた。
 ターナー大将は状況から北海道を浄化する可能性まで検討している。
 それは何としても避けたい。
 しかし……
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

処理中です...