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北海道「無差別憑依」事件

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 翌朝。
 タカさんは今日から出勤のはずだった。
 私たちがいなくても、タカさんのことだからちゃんと病院には行くのだろう。
 タカさんはいつでも強い、
 一晩寝て、ようやく私も落ち着いて来た。
 柳さんも相当なショックを受けていたけど、ちょっとは良くなったみたいだ。

 「柳さん、元気出しましょう」
 「うん、そうだね」
 「ちゃんとタカさんに謝りに行って」
 「うん……でも」
 「ダメでもですよ! 何百回でも謝って許してもらいましょう!」
 「そ、そうだよね! 私たち、それしかないもんね!」

 朝食を獲りに行ってたルーとハーが帰って来た。

 「あ、ちょっと良くなった?」
 「大変だけど落ち込んじゃダメだよ?」
 「二人とも元気だね」
 「そりゃね。誰かが踏ん張らないと」
 「二人とも、朝ご飯は食べれる?」

 二人に気を遣わせてしまっている。
 私も頑張らなきゃ。
 ルーとハーが豪勢な食材を用意してくれていた。
 多分、私と柳さんのために、美味しいものをと思ってくれたに違いない。
 ウニやサザエなどが沢山あった。
 本当は漁業権などもあるのだが、この島を購入したことで周辺のものは獲ってもいいと漁協の人に言われている。
 新鮮な食材なので、焼いて醤油を垂らすだけで本当に美味しい。
 ああ、タカさんにも食べさせてあげたい。
 こんな状況で私たちだけが美味しい物を食べているなんて、本当に申し訳なく思う。
 食べちゃうんだけど。

 「今日一日はここで英気を養おう」

 ルーが言った。

 「明日は帰ってさ。タカさんに真面目に謝ろう」
 「そうだね!」
 「じゃあ、今日はのんびりして、美味しい物を沢山食べよう!」
 「うん!」

 みんなでやっと笑った。
 でもタカさんに会いたいよー!

 ルーとハーが、山小屋みたいなものを作ってくれてた。
 今は夏だけど、地域的なものか、中は意外と涼しい。
 風もよく通っている。
 水も湧き水をルーたちが運んでくれていた。
 残ったお金は使い果たしたそうだ。

 「もう340円しかないよ」
 「アハハハハハハハ!」

 水のガロン容器、調味料や食器類などで全部使ったそうだ。
 お箸やスプーンはスーパーでもらったもの。
 それでも、こうやって美味しい食事が出来る。
 コップやお椀、取り皿も安い紙製のものを買って来たらしい。
 私と柳さんが何も出来なかった間に、二人は本当によく働いてくれた。
 申し訳ないと思う。
 二人に謝ると笑って「大したことじゃない」と言ってくれた。
 皇紀もこの小屋を作るのに頑張ってくれたらしい。

 「タカさんに出て行けと言われたんだから、お姉ちゃんがショックを受けるのは当然だよ」
 「うん。でも申し訳ない」
 「いいよ。僕たちは兄弟だろ?」
 「ありがとう、皇紀」
 「私もごめんね」
 「柳さんは御堂さんにあんなこと言われたんだ。僕たちよりもショックだったでしょう?」
 「うん、そうなんだけど。でも、落ち込んでちゃいけないよね」
 「そんなことないよ。僕たちがいるんだから、大丈夫だって」
 「ありがとう、皇紀君」
 「エヘヘヘヘヘ」

 そうだ、私たちは家族なんだ。
 誰かが弱ったり困ったりしてたら助け合えばいいんだ。

 「よーし! タカさんに謝るぞー!」

 みんなが笑った。






 お昼は私と柳さんで食材を用意することにした。
 三人には小屋でのんびりしてもらう。

 「柳さん、私が「プチ轟雷」でやりますから!」
 「うん、私が全部拾うからね!」
 「はい!」

 階段を降りた場所から、海面に向かって撃った。

 《プチ轟雷》

 海面に電撃が走り、魚が一杯浮かんで来る。
 二人で必死に回収した。

 「大漁だね!」
 「はい!」

 身体を動かしたことで、気分も良くなって来た。
 二人で一緒に海の中にも潜って、貝類も手に入れた。

 「確かパスタも買ってあったよ」
 「そうなんですか! じゃあ、お昼は海鮮パスタにしましょうか!」
 「いいね!」

 楽しくなって来た。
 でも、タカさんの顔が思い浮かぶ。
 タカさんはきっと今も苦しんでいるに違いない。
 私たちがあんなことをして、他の人に迷惑を掛けて、それで苦しんでいるだろう。
 タカさん……

 「亜紀ちゃん、落ち込まないで。明日はみんなで謝りに行くんだからね」
 「そうですね!」

 私の顔が暗くなったので、柳さんもすぐに悟ったのだろう。
 いけないいけない!

 獲物を上に運んで行き、皇紀と双子が喜んでくれた。
 大げさに褒めてくれるのが分かった。
 みんなでパスタを茹でて、貝や魚の切り身を茹でて美味しいスープパスタを作った。
 他の魚もどんどん焼いて行く。
 誰ももう暗い顔はしない。
 なんとなく、そういう決まり事みたいなものが出来て行った。

 食後にインスタントコーヒーを飲んでいると、「皇紀通信」に連絡が入った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 一江に頼んで、俺のオペはなるべく少なくしてもらった。
 今は緊急事態に備える必要がある。
 六花と響子、鷹にも正直に子どもたちのやったことを話した。
 家を追い出したと言うと、三人とも俺を気遣ってくれた。
 俺と子どもたちの絆を、俺以上に考えていてくれたことが分かる。
 決して別れるはずのない家族なのだと鷹に言われ、泣きそうになった。
 三人に、謝りに来たら許して欲しいと言われた。
 俺もそのつもりだと応えた。

 俺がまったく食事をしていないことも察して怒られた。
 六花が自分の弁当を俺に渡して来たが、申し訳ないが食欲はまったくないので断った。
 俺自身がこんなにも落ち込むとは思ってもみなかった。
 昨日、早乙女の所で頂いた蕎麦だけだ。
 それがまだ身体の中に残っている気がする。
 あいつらがいなければ、俺はこんなにもだらしないのだ。

 そして、本当にアラスカから緊急連絡が入った。
 ターナー大将からの直接の通信だった。

 「タイガー! また北海道で異常反応だ!」
 「なんだと!」
 「それが、今回は妙なんだ。小さなゲートが頻繁に現われているようだ」
 「なに?」
 「何かを送り込んでいるのは確かなんだが、これまでの一気に大軍団を送り込むのとは明らかに違う!」
 「なんだそれは……」

 俺は考えていた。
 何かおかしい。
 でも、相当ヤバいことが起きている予感がある。
 あの「業」が無駄なことをするはずがないのだ。
 俺たちが分からないとすれば、俺たちが大いに困ることに違いない。

 「とにかく、アラスカから派兵してくれ。規模は観測の判断に任せる!」
 「分かった!」

 一旦通信を切った。
 俺は急いで「Ωコンバットスーツ」に着替える。

 そしてすぐに状況が分かった。
 青森に設置した霊素観測レーダーからの情報解析だ。
 またターナー大将から連絡が来る。

 「タイガー、分かったぞ! ゲートの周辺でライカンスロープが発生している!」
 「!」
 「あの、無差別憑依の妖魔を大量に送り込まれた! 不味いぞ、これは!」
 「分かった、すぐに俺も行く!」
 「ホッカイドウ全土に渡る広範囲だ! アラスカのソルジャーの半数を送る!」

 そうなるとソルジャーの数は3万になる。

 「そうしろ! デュールゲリエも5万送れ!」
 「そうする!」
 
 ゲートはすぐに閉じて行ったのだ。
 ならばその後のライカンスロープの発生は、ターナー大将の考えた通りだろう。
 
 北海道の広範囲ということは、時間との闘いになる。
 俺たちの数の劣勢をこういう形で衝かれるとは。

 「了解! 場合によっては「シャンゴ」を使うぞ」
 「!」

 ターナー大将は最悪の事態を既に想定している。
 俺は多少ボケていた。






 俺は非常に嫌な予感に覆われた。
 ターナー大将は状況から北海道を浄化する可能性まで検討している。
 それは何としても避けたい。
 しかし……
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