上 下
2,507 / 2,818

石神家 親子の縁切り Ⅲ

しおりを挟む
 「えーと、どこに行こっか?」
 「丹沢は不味いよね?」

 丹沢はタカさんが時々独りで鍛錬に行くのを知ってる。
 一人で努力しているのだ。
 私たちが知ってるのを、多分タカさんは知らない。

 「そうだね。あ、「悪魔島」は?」
 「そっか! あそこ、私たちの島だもんね」
 「もう危ないこともないし」
 「こないだのサバイバルキャンプは中途挫折だし!」

 他の人にも聞いてみた。

 「僕はよく分からないよ」
 「「……」」

 亜紀ちゃんと柳ちゃんは呆然と泣いてる。
 皇紀ちゃんに、簡単に事情を話したら、どうでもいいって言った。

 「じゃー、決まりだね」
 「みんなで「飛行」でゆっくり飛ぶよ」
 「分かったよ」
 「「……」」

 「パジェロ、どうする?」
 「一応向こうでも使うかも」
 「じゃー持ってくかー!」

 亜紀ちゃんと柳ちゃんをパジェロに乗せた。
 アジトにあった調理器具とか調味料なんかも乗せた。
 私とハーでパジェロを担ぎ、皇紀ちゃんにはGPSを見てもらう。
 時速1500キロで飛んだ。
 そうせ服は消えるのでマッパだ。
 前で皇紀ちゃんのチンコが揺れてる。

 3時くらいに「悪魔島」に着いた。
 こないだの戦闘の痕が生々しい。
 森は大半が残ってるけど、山が削られてる。
 あちこちに焦げた窪みも多い。
 アラスカの人たちが一通り調査して行って、ライカンスロープやロシア兵士の死骸は無い。

 「あ、指が落ちてたよ」
 「……」

 埋めた。
 なんか、こないだ作った寝場所は残ってた。

 「これ、使えるね!」
 「やったね!」

 でも、もうちょっと快適さを増すかぁー!
 ハーと一緒に木を伐採して臍っぽいのを刻んで組み合わせて行った。
 隙間は大分あるけど、なんとなくログハウスみたいなものが出来て行く。
 広さは12畳くらいかなー。
 井桁に組んで行くので強度はまーまー。
 屋根も作った。
 雨漏りはするだろーなー。
 
 日が暮れて来たので、慌てて魚を獲りに行った。
 一杯獲れた。

 火を起こして夕飯にする。
 まー、焼くだけ。
 サバイバルだねー!

 亜紀ちゃんはまた棒みたいになってたけど、お魚が焼けると一緒に食べ始めた。
 柳ちゃんも同じ。

 「タカさん……」
 「石神さん、お父さん……」

 暗いなー。
 ハーと一緒に、残った現金(1万289円)で町に買い物に行った。
 足りない調味料とウイスキー(トリスの大びん)と紙コップなんかを買って戻った。
 お酒を飲ませると亜紀ちゃんと柳ちゃんが悪酔いした。
 大泣きして大変なことになった。
 もういい加減にしてよ!





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 子どもたちを追い出した。
 もう、許せなかった。
 以前に悪戯で「Ω」たちを作ったことがある。
 あれはそもそもが俺を守るためにやったことであり、叱って説教して終わった。
 大変なこともあったが、あいつらの心が嬉しくもあった。
 シャドウのこともそうだ。
 しかし、今回は違う。
 面白半分でカメムシを「Ω」化したものだ。
 研究意欲と言えばそうなのだろうが、本質は遊びで生命を弄んだものだ。
 あいつらはブランがどうされたのかを知っているはずだ。
 「業」によって無残に改造され破壊され、元の記憶すら奪われていた。
 人間以外ならばやっていいということではない。
 
 人間を改造すれば能力を高めることが出来るのは分かっている。
 より強いソルジャーを生み出すことが出来る。
 でも、俺はやっていない。
 飽くまでも人間の努力の範疇でのことしかしていない。
 それは「業」との戦いの根幹だ。
 「業」は人間や他の生物をどのようにも改造する。
 それと戦う者たちが俺たちなのだ。

 それに、俺や他の人間に黙って、多大な迷惑を掛けた。
 特に早乙女と「アドヴェロス」の人間たちだ。
 共に戦う仲間に対して、何と言うことだ!
 最初の騒ぎの時に、正直に話して謝って来たのならば、まだ許せた。
 しかしあいつらは二度も俺に黙っていた。
 
 早乙女の所へ謝りに行った。
 電話で事情は話した。
 ロボも付いて来る。

 早乙女は玄関で待っていた。
 土下座して謝った。

 「早乙女、申し訳ない!」
 「石神、立ってくれよ」
 「本当に申し訳ない! 俺の責任だ!」
 「そんな、お前は知らなかったんだろう?」
 「いや、俺があいつらをきちんと育てていなかった! とんでもないことをした!」
 「おい、もういいから上がれよ」

 早乙女は何度も許してくれそうに言ったが、俺の心がそれを受け入れられない。
 本当に申し訳なかった。

 「俺はこんなだから、子どもを育てるなんて無理だったんだ。俺が悪かったんだ!」
 「石神、そんなことはないよ!」

 「あいつらとはもう縁を切る。俺なんかに関わっているととんでもないことになる!」
 「おい、何を言ってるんだ!」

 早乙女は雪野さんを呼んで来た。
 二人に散々説得され、とにかく家に上がらせてもらった。
 「柱」たちが俺の肩を叩き、慰めようとしてくれた。





 「石神、思い詰めるなよ。今回も被害はあったが、重い症状の人間もいないよ」
 「被害に遭った方々には十分な補償をする。もちろんお前や「アドヴェロス」の人間たちにも。立ち会った警官たちにもな。ああ、最初のブガッティの方々にもだ」
 「石神……」
 「お金で解決出来ることではない。要求があれば何でも聞く」
 「お前がそう言うのなら……」

 俺は早乙女達に話した。

 「この件は「虎」の軍の身内がやったことだと公表する」
 「なんだって!」
 「俺が全責任を取る。俺の名前で公表するよ」
 「おい、それは不味いぞ!」
 「仕方がない。黙って隠蔽することは出来ない」
 「そうしたら、折角世界中の信頼を得ている「虎」の軍が……」
 「いいんだ。どんなに不利なことが起きても、本当に俺の責任だからな」
 「石神、お前……」

 早乙女が席を立った。
 雪野さんが俺を慰めてくれる。

 「石神さん、ちょっと思い直して下さい」
 「雪野さん、本当にご迷惑をお掛けしました」
 「そんなことは。私たちは石神さんに大変にお世話になって助けて頂いていますもの」
 「全部俺の責任なんです。あいつらをちゃんと育てられなかった。家長だなんだって家で威張っていて、信頼できる家族だと思い上がっていた。俺は本当にダメな奴です」
 「石神さん、そんなことはありませんよ! 亜紀ちゃんたちはみんないい子です! みんな石神さんのことを本当に慕ってて、私たちもいつも羨んでいるほどに。石神さんたちのような家族になりたいって、いつも久遠さんと話しているんですよ?」
 「俺なんて……」

 早乙女が戻って来た。

 「亜紀ちゃんたちはどこへ行ったんだ?」
 「知らない。もう知る必要もない」
 「石神!」
 「もう本当に別れるつもりだ。あいつらのことはもう……」
 「お前……」

 そろそろ帰ると言うと、早乙女がうちにいろと言った。
 
 「お前、昼はまだ食べてないだろう?」
 「いや」

 雪野さんが食事を作りに行った。
 ロボに刺身を切って来てくれる。
 俺は頭を下げて礼を言った。
 ロボは雪野さんに礼を言っているが、いつものように甘えない。
 ロボも感じているのだ。

 雪野さんが天ぷら蕎麦を作ってくれた。
 食欲は無かったが、無理して頂いた。
 早乙女がまた席を外した。
 しばらくして戻って来た。

 「石神!」
 「御堂!」

 驚いたことに、御堂が入って来た。

 「石神、お前、なんて顔をしているんだ」
 「え?」
 「早乙女さんから話を聞いたよ。お前、亜紀ちゃんたちと別れるって?」
 「そうだ。もう決心した」
 
 御堂が俺の背中に回り、肩に手を置いて言った。

 「無理をするな」
 「無理じゃない!」
 「お前、一番辛い時の顔だよ」
 「なんだよ、それは」

 御堂の説得も聞く気は無かった。

 「お前さ」
 「なんだ」
 「奈津江さんを喪った時の顔だよ、それ」
 「!」

 俺の眼から涙が零れた。
 俺自身は怒りと申し訳なさだけだと思っていた。
 他には子どもたちに裏切られた悲しみしか無かったはずだ。

 「石神、お前は亜紀ちゃんたちとは別れられないよ」
 「御堂ぉ!」
 「無理だって。お前たち程強く結ばれた家族はいないんだから」
 「何を言って……俺は許すことはできな……」
 
 御堂が肩の手に力を入れた。

 「僕もね、柳にはきついことをさっき言った。でもね、親子を解消するつもりはないよ」
 「お前はそれでも……」
 「石神、お前の責任感の強さはよく知ってる。だけどな、お前の愛情はもっと強く深いよ」

 「そうだよ、石神! お前は優しい人間だ」
 「そうですよ、石神さん!」

 「俺だって! 別れたくなんかないんだぁー!」

 叫んでそのまま涙が溢れた。
 もう何も言葉に出来ない。
 みんな黙って俺が泣き止むのを待っていてくれた。
 しばらく泣いて、ようやく少し心が落ち着いて来た。

 「御堂、お前忙しいんだろう」
 「そうだよ」
 「何で俺なんかのために」
 「僕はお前のために生きてるんだ。それ以外のことは何もないよ」
 「御堂!」

 俺は立ち上がり、御堂を抱き締めた。

 「石神、しばらくは亜紀ちゃんたちを放っておけよ」
 「あ、ああ」
 「十分に反省したら、必ず謝りに来る」
 「そうだろうな」
 「そうしたら許してやれよ」
 「……」

 落ち着いて来た俺は、もう一度話し合った。
 忙しい御堂が、ずっと付き合ってくれた。

 「虎」の軍の開発した生命体が今回の被害の元凶であったことは公表する。
 もちろん、被害者たちへの補償もする。
 ブガッティには向こうが請求する額を渡すつもりだ。
 但し、御堂は俺や子どもたちの名前は出さない方がいいと言った。
 申し訳ないが、その方向で進めさせてもらうことになった。
 被害者は早乙女がまとめてくれる。
 もちろん警察内部の人間たちもだ。
 中央公園の修復ももちろんやる。
 子どもたちがいない間の「アドヴェロス」の緊急対応は、俺や蓮花研究所から派遣する。
 申し訳ないが、「アドヴェロス」の人間たちには早乙女から説明してもらう。
 大体の方針が決まった。

 「石神、ロボちゃんはうちで預かるよ」
 「え?」
 「亜紀ちゃんたちがいないと、ロボちゃんの御飯は大変でしょう?」
 
 早乙女と雪野さんが言ってくれた。
 俺はその言葉に甘えた。
 今日は泊って行けと言われたが、俺はまだ行くところがあるので断った。

 蓮花の研究所へ行き、皇紀が抜けたことの詫びをしなければならない。
 それにアラスカなどへ子どもたちがしばらくいないことも連絡する必要がある。
 一江にも話しておく。
 栞や六花、鷹、響子にも伝えた方がいいだろう。

 大変な作業になるが、俺の心は軽かった。
 やるべきことが明確に決まったことと、子どもたちを許すことが決まったからだ。

 あいつら、今どこで何をしていることか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

お尻たたき収容所レポート

鞭尻
大衆娯楽
最低でも月に一度はお尻を叩かれないといけない「お尻たたき収容所」。 「お尻たたきのある生活」を望んで収容生となった紗良は、収容生活をレポートする記者としてお尻たたき願望と不安に揺れ動く日々を送る。 ぎりぎりあるかもしれない(?)日常系スパンキング小説です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...