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カメカメ ぷぅー

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 「カメカメ(あれ、ここはどこだ?)」

 気が付くと、目の前が明るい。
 ちょっと寒かったが、どんどん暖かい空気が入って来る。

 「カメカメ(なんだろ?)」
 
 とにかく表に出た。
 ちょっと身体が痛い。


 プゥー


 だからちょっと漏らしちゃった。
 自然現象だもん
 あ、すっげぇ臭い。
 でも、外に出るととても暖かく、身体もどんどん戻って行った。

 「カメカメ(うわぁ、気持ちいいな)」

 ボクは空を飛んだ。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 「磯良! 大丈夫かぁ!」

 早霧さんが大声で叫んだ。
 早霧さんたちと稽古をしていて、早霧さんが俺に新しい技を撃った。
 予想外に威力が出て、早霧さんが焦っていた。
 一緒に訓練していた葛葉さんと鏑木さん、羽入さん、紅さん、それに獅子丸さんが、一斉にこっちを見ている。
 今日は「アドヴェロス」のフルメンバーが揃っていた。
 《デモノイド》の襲撃以来、みんな時間があれば集まって訓練している。
 
 「大丈夫ですよ! ちゃんと射線はかわしましたから!」
 「おう、悪かったな!」
 「大丈夫ですって」

 よくこういうことはある。
 だから早霧さんは、咄嗟に避けられる俺を相手に新技を試すことが多い。

 「早霧! 磯良が危ないじゃないの!」
 「悪かったよ、愛鈴!」
 「もう、いつもあんたは!」
 「ワハハハハハハ!」
 「笑うな!」

 俺も笑いながら愛鈴さんに手を振った。
 葛葉さんが向こうを見ていた。

 「早霧、あっちの建物が崩れたぞ」
 「あちゃぁー!」
 「結構壁を破壊してる。あそこはなんだっけか?」
 「分かんねぇ。愛鈴、知ってるか?」
 「知らないよ。でも警報も鳴らないから、重要施設じゃ……」

 途端に警報が鳴った。

 「まずったかぁ!」
 
 早霧さんが叫び、みんなで崩れた壁に向かった。
 厚さが1メートル以上ある頑丈な壁が、幅3メートルほど崩壊していた。
 上位妖魔の攻撃に耐えられる壁のはずだったが、早霧さんの新技が優秀だったのだ。
 本部の建物から早乙女さんと成瀬さんが出てきた。
 デュールゲリエたちも5体出ている。

 「何があったんですか!」

 成瀬さんが怒っている。
 
 「悪ぃ! 新技が暴発した!」
 「また早霧さんですかぁ!」
 「悪かったって!」

 崩れた壁の建物を見て、成瀬さんが叫んだ。

 「あそこはライカンスロープを冷凍保管してるんですよ!」
 「そうだっけか?」
 「もう! 今、確か一体カメムシ型のライカンスロープを……あ、臭い!」
 「あいつかぁ!」

 みんなが異臭を感じていた。
 徐々に凄まじい臭いになって来た。
 間違いない、あの時の奴だ。
 まだ生きていたなんて……

 「おい、飛んだぞ!」
 
 葛葉さんが叫んだ。
 壊れた壁から這い出してきた銀色のカメムシ型が、空へ飛んだのだ。

 「まずいぞ! あいつはまずい!」

 全員が、あの日のことを思い出していた。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 あの日、ブガッティの東京ショウルームでライカンスロープ出現の発報があった。
 すぐに俺と愛鈴さん、早霧さんと葛葉さん、そして早乙女さんも緊急出動した。
 どういうタイプかはまだ分からなかったが、物凄い異臭でショウルーム内で昏倒している人もいるらしい。
 危険な奴かもしれないので、俺が先に中へ入った。

 物凄い臭いだった。

 10メートルも進むと、意識が薄れた。
 警戒する間も無い程の強烈な悪臭だった。

 「磯良!」

 後ろで愛鈴さんが叫ぶのが聴こえたが、俺は既に身体の自由が利かなかった。
 嗅覚をやられて、体中の神経が暴れ出したのだ。
 飛び込もうとする愛鈴さんを、早霧さんたちが必死に止めている。
 それを最後に、俺の意識は途絶えた。

 外に出されてしばらくして目覚めた。
 その時にはガスマスクや防護服が用意されていて、もう一度俺が愛鈴さんと中へ入った。
 体長30センチもある銀色の巨大カメムシがいて、そいつが犯人だとすぐに分かった。
 無影斬が効かず、驚いたが何とか必殺技で斬った。
 カメムシの背中が割れたが、致命傷ではないかもしれない。
 その時に早乙女さんから通信が来て、冷凍すれば捕獲出来ると聞いた。
 俺と愛鈴さんで見張り、早霧さんが液体窒素と捕獲容器を持って来た。
 カメムシを容器の中へ入れて、また液体窒素で満たした。
 それを見届けて、俺はまた倒れた。
 先ほど吸った悪臭のせいだろう。

 気が付くと「アドヴェロス」の医療施設にいた。
 全裸だった。
 看護用のデュールゲリエがいる。
 医師や看護師の姿は無い。

 「どうなったんですか?」
 
 俺がデュールゲリエに聞くと、詳しい状況を説明してくれた。
 まず、ブガッティのショウルームにいたのはカメムシ型のライカンスロープであろうこと。
 体長32センチほどで、非常に堅固な外骨格。。
 それがカメムシの能力なのか、とんでもない異臭を放ち、ショウルーム内に充満した臭いが意識を喪わせるほどのものだったこと。
 それは成分的なことではなく、余りにも強力な異臭で神経がシャットダウンしてしまうようだ。
 一定時間呼吸すれば、命にも関わるものだったらしいが。
 カメムシ型のライカンスロープは冷凍保管され、「アドヴェロス」内の保管施設に収容したと。
 低温で動かなくなることは、早乙女さんがある組織から聞いたということだった。

 しかし問題はその後で、あの異臭に触れた俺や他のハンターは臭いが取れず、大変な騒ぎになった。
 シャワーなどでは全然拭えず、強力な洗浄剤で全身を何度か洗って、ましになったという。
 俺はデュールゲリエたちが洗ってくれたと聞いた。
 でも、鼻の奥に残っているのか、あの臭いを感じて気分が悪くなった。

 「相当なレベルの悪臭です。現在成分分析をしていますが」
 「そうですか」

 俺はあまりの臭いのきつさに昏倒したようだが、気分の悪さを除けば体調に異常はなさそうだった。
 ライカンスロープにしては、随分と大人しいタイプのようだ。
 強烈な臭いは問題だが。
 「アドヴェロス」の研究チームが調べようとしたが、とにかくあの強烈な悪臭が災いして、あまり進められなかった。
 それに、カメムシ型の外骨格は異常に硬く、解体用の丸鋸も通じなかったそうだ。
 更に、俺が斬った傷はいつのまにか塞がっていたそうだ。
 まだ、あいつは生きている。
 結局冷凍保存することになった。
 生物は極低温で長時間置かれると細胞が死滅する。
 標本保管ということだが、今後似たようなライカンスロープが出てくれば、この標本が役立つかもしれない。
 そういうことで、俺たちはあのカメムシ型を忘れて行った。
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