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院長夫妻のガーディアン Ⅲ
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ホテルのスイートルームは快適だった。
ツインのベッドで俺も静子もグッスリと眠れた。
翌朝、ロールスロイスで山の上のお堂に向かった。
またロールスロイスを運転しながら、ルーちゃんたちが楽しい話をしてくれた。
2時間ほどで、実家跡に建てたお堂に着いた。
やっぱり石神が車を手配してくれて助かった。
大きな荷物を持ってこの距離を移動するのは、きっと大変だったろう。
何度も石神は来ているので、きっと俺たちのことを労わって考えてくれたことが分かる。
お堂では堂守を頼んでいる親戚の正成君が待っていてくれた。
結構な量のお土産を渡すと恐縮された。
お坊さんも手配してくれている。
「文学さん、ようこそ遠い所を」
「いや随分と来なくて申し訳ない。ずっとここを守ってくれてありがとう」
「いいえ、僕の役目ですからね。ちゃんとやってますよ」
「うん、本当にありがとうな」
お堂の中は本当に綺麗になっている。
正成君が真面目に世話してくれていることが分かる。
お坊さんとも挨拶を終え、すぐに法要を行なった。
法要を終えてお坊さんを見送り、俺たちはあらためてお堂を見て回った。
あのクマタカが綺麗な状態で玄関前にあった。
3人で黙って、クマタカの剥製を眺めていた。
その時、外にいたルーちゃんが入って来た。
「文学ちゃん! 何か来ました!」
「え?」
「急いで車に戻って下さい!」
「あ、ああ分かった! 静子!」
「はい!」
今度はハーちゃんが飛び込んで来る。
「ルー、ダメだ! 物凄い数に取り囲まれてる!」
「あ、なにこれ! 30万体もいるよ! しかもどんどん増えてる!」
ルーちゃんとハーちゃんは、特別な通信やセンサーで様々な状況を把握出来ると石神から聞いている。
「アラスカと研究所に応援を頼んだ! 5分凌ぐよ!」
「分かったぁ!」
俺たちは部屋の中央に移動させられた。
開いた玄関から外の一部が見えた。
大きな鬼たちが大勢立っているのが見えた。
「なんだ、あれは!」
「文学ちゃん、落ち着いて。攻撃の気配は今のところありません。あれはオーガタイプの鬼たちです! お二人は必ず護りますから!」
「あ、ああ」
「すぐに応援が来ます! それまでは絶対に!」
「うん」
二人が真剣な顔で互いを見ている。
「ルー、私が「桜花」を使う」
「うん、私は絶対にお二人を逃がすから」
「頼んだよ!」
「うん!」
「桜花」がどのようなものかは分からないが、ルーちゃんが何とかするらしい。
俺にも膨大な数の鬼の波動が感じられた。
ルーちゃんとハーちゃんが緊張しているのが分かる。
《鬼羅様》
頭の中に声が響いた。
俺はすぐに、石神がガーディアンに付けてくれた鬼の王の元の名前だと気付いた。
俺たちの背後から、巨大な気配がした。
振り向くと鬼理流が立っていた。
鬼理流は玄関に向かって歩き、大きな身体を屈めて外へ出て行った。
ルーちゃんたちが顔を見合わせて、鬼理流の後を追った。
俺と静子も外へ出る。
体長5メートルにもなった鬼理流が立っていた。
《今は神獣の王・石神様より新たな名を頂いた。《鬼理流》という》
《おお、なんと良い名でございましょう!》
周囲にいた大勢の鬼たちが一斉に地面にひざまずき、頭を下げた。
身の丈数十メートルの巨大な鬼もいる。
山が一面、鬼たちによって覆われていた。
その果てが見えない。
鬼理流が顕われてから静子にも鬼たちが見えるようになったようで、驚いていた。
俺は自然に静子の身体を抱き寄せた。
《鬼族、すべて集まりました》
「ルー、何この数!」
「うん、何億いるのか分からないよ!」
ルーちゃんとハーちゃんが驚愕している。
え、そんなにいるの?
《鬼理流様の下、石神様の御身のために》
《うむ、これからも頼むぞ》
鬼たちが一斉に一層深く頭を下げた。
その動作だけで地面が揺れた。
《このお二人を護るのが我の使命。お前たちも頼むぞ》
《は、必ず!》
鬼たちが徐々に離れて行った。
あれほどの数が、数分ですべて消えた。
鬼理流もいつの間にか消えていた。
その時、上空から「タイガーファング」が降りて来る。
そして無数のデュールゲリエが空を埋め尽くした。
ミユキさんと前鬼、後鬼さんが俺たちの傍に来た。
「御無事ですか!」
「あ、ああ、うん」
ルーちゃんがミユキさんたちに説明していた。
「そんなことが! 来る途中で霊素観測レーダーで、途轍もない数の妖魔を感知していましたが」
「うん、驚いたよ!」
前鬼さんが「タイガーファング」に戻り、しばらくして戻って来た。
「霊素観測レーダーの記録を見ました。3億を超える数の妖魔が集結していたようですね」
「あ、そうなんだ」
「現在、状況は安全なようで安心しました。それでは我々は戻りますので」
「あ、ああ、ありがとう」
「いいえ! 大院長先生と静子様が御無事で何よりです! いつでも参りますから!」
「う、うん、よろしく」
全員が離れて行った。
「「……」」
静子と二人で呆然と眺めていた。
「あなた……」
「うん、帰ろうか」
「はい」
中で気絶していた正成君を起こした。
「あのさ、俺たちは帰るから」
「え、あ、ああ。はい」
「迷惑をかけたね」
「え、ええ。いえ、あの……」
「じゃあ、元気でね」
「いえ、文学さんたちも……」
「大丈夫?」
「はい」
「それじゃあね」
「ええ、またいらして下さい」
えーと、どうなのかな。
分からないや。
ロールスロイスに乗って、市内のホテルへ向かった。
えーと……
「静子、大丈夫か?」
「ええ、驚きました。まさかあんなことが……」
「そうだな」
気になっていたことを聞いてみた。
「ハーちゃん、「桜花」ってなんのこと?」
「はい、必殺技です!」
「そうなんだ」
運転しているルーちゃんが言った。
「お二人は、石神様の大切な方々です」
「え?」
「私たちはお二人を絶対に守りますから」
「ああ、頼むよ」
石神から電話が来た。
しきりに謝っている。
「大丈夫だよ。お前が付けてくれたガーディアンやルーちゃんとハーちゃんは本当に頼もしいよ」
石神は俺たちが無事なことを喜んでくれた。
そういうことも嬉しかった。
市内のホテルに着いて、部屋に戻ってルーちゃんとハーちゃんが身を正して言った。
「不甲斐なく、申し訳ありません」
「そんなことはない! 二人は俺たちを絶対に守ってくれるつもりだったろう?」
「ええ、もう」
ルーちゃんたちが俺たちに向いてニッコリと笑った。
「「文学ちゃん、静子さん、大好きです!」」
みんなで笑った。
しかし、石神よ。
結構大変だよなぁ。
俺、全然分かんねぇんだけど。
ツインのベッドで俺も静子もグッスリと眠れた。
翌朝、ロールスロイスで山の上のお堂に向かった。
またロールスロイスを運転しながら、ルーちゃんたちが楽しい話をしてくれた。
2時間ほどで、実家跡に建てたお堂に着いた。
やっぱり石神が車を手配してくれて助かった。
大きな荷物を持ってこの距離を移動するのは、きっと大変だったろう。
何度も石神は来ているので、きっと俺たちのことを労わって考えてくれたことが分かる。
お堂では堂守を頼んでいる親戚の正成君が待っていてくれた。
結構な量のお土産を渡すと恐縮された。
お坊さんも手配してくれている。
「文学さん、ようこそ遠い所を」
「いや随分と来なくて申し訳ない。ずっとここを守ってくれてありがとう」
「いいえ、僕の役目ですからね。ちゃんとやってますよ」
「うん、本当にありがとうな」
お堂の中は本当に綺麗になっている。
正成君が真面目に世話してくれていることが分かる。
お坊さんとも挨拶を終え、すぐに法要を行なった。
法要を終えてお坊さんを見送り、俺たちはあらためてお堂を見て回った。
あのクマタカが綺麗な状態で玄関前にあった。
3人で黙って、クマタカの剥製を眺めていた。
その時、外にいたルーちゃんが入って来た。
「文学ちゃん! 何か来ました!」
「え?」
「急いで車に戻って下さい!」
「あ、ああ分かった! 静子!」
「はい!」
今度はハーちゃんが飛び込んで来る。
「ルー、ダメだ! 物凄い数に取り囲まれてる!」
「あ、なにこれ! 30万体もいるよ! しかもどんどん増えてる!」
ルーちゃんとハーちゃんは、特別な通信やセンサーで様々な状況を把握出来ると石神から聞いている。
「アラスカと研究所に応援を頼んだ! 5分凌ぐよ!」
「分かったぁ!」
俺たちは部屋の中央に移動させられた。
開いた玄関から外の一部が見えた。
大きな鬼たちが大勢立っているのが見えた。
「なんだ、あれは!」
「文学ちゃん、落ち着いて。攻撃の気配は今のところありません。あれはオーガタイプの鬼たちです! お二人は必ず護りますから!」
「あ、ああ」
「すぐに応援が来ます! それまでは絶対に!」
「うん」
二人が真剣な顔で互いを見ている。
「ルー、私が「桜花」を使う」
「うん、私は絶対にお二人を逃がすから」
「頼んだよ!」
「うん!」
「桜花」がどのようなものかは分からないが、ルーちゃんが何とかするらしい。
俺にも膨大な数の鬼の波動が感じられた。
ルーちゃんとハーちゃんが緊張しているのが分かる。
《鬼羅様》
頭の中に声が響いた。
俺はすぐに、石神がガーディアンに付けてくれた鬼の王の元の名前だと気付いた。
俺たちの背後から、巨大な気配がした。
振り向くと鬼理流が立っていた。
鬼理流は玄関に向かって歩き、大きな身体を屈めて外へ出て行った。
ルーちゃんたちが顔を見合わせて、鬼理流の後を追った。
俺と静子も外へ出る。
体長5メートルにもなった鬼理流が立っていた。
《今は神獣の王・石神様より新たな名を頂いた。《鬼理流》という》
《おお、なんと良い名でございましょう!》
周囲にいた大勢の鬼たちが一斉に地面にひざまずき、頭を下げた。
身の丈数十メートルの巨大な鬼もいる。
山が一面、鬼たちによって覆われていた。
その果てが見えない。
鬼理流が顕われてから静子にも鬼たちが見えるようになったようで、驚いていた。
俺は自然に静子の身体を抱き寄せた。
《鬼族、すべて集まりました》
「ルー、何この数!」
「うん、何億いるのか分からないよ!」
ルーちゃんとハーちゃんが驚愕している。
え、そんなにいるの?
《鬼理流様の下、石神様の御身のために》
《うむ、これからも頼むぞ》
鬼たちが一斉に一層深く頭を下げた。
その動作だけで地面が揺れた。
《このお二人を護るのが我の使命。お前たちも頼むぞ》
《は、必ず!》
鬼たちが徐々に離れて行った。
あれほどの数が、数分ですべて消えた。
鬼理流もいつの間にか消えていた。
その時、上空から「タイガーファング」が降りて来る。
そして無数のデュールゲリエが空を埋め尽くした。
ミユキさんと前鬼、後鬼さんが俺たちの傍に来た。
「御無事ですか!」
「あ、ああ、うん」
ルーちゃんがミユキさんたちに説明していた。
「そんなことが! 来る途中で霊素観測レーダーで、途轍もない数の妖魔を感知していましたが」
「うん、驚いたよ!」
前鬼さんが「タイガーファング」に戻り、しばらくして戻って来た。
「霊素観測レーダーの記録を見ました。3億を超える数の妖魔が集結していたようですね」
「あ、そうなんだ」
「現在、状況は安全なようで安心しました。それでは我々は戻りますので」
「あ、ああ、ありがとう」
「いいえ! 大院長先生と静子様が御無事で何よりです! いつでも参りますから!」
「う、うん、よろしく」
全員が離れて行った。
「「……」」
静子と二人で呆然と眺めていた。
「あなた……」
「うん、帰ろうか」
「はい」
中で気絶していた正成君を起こした。
「あのさ、俺たちは帰るから」
「え、あ、ああ。はい」
「迷惑をかけたね」
「え、ええ。いえ、あの……」
「じゃあ、元気でね」
「いえ、文学さんたちも……」
「大丈夫?」
「はい」
「それじゃあね」
「ええ、またいらして下さい」
えーと、どうなのかな。
分からないや。
ロールスロイスに乗って、市内のホテルへ向かった。
えーと……
「静子、大丈夫か?」
「ええ、驚きました。まさかあんなことが……」
「そうだな」
気になっていたことを聞いてみた。
「ハーちゃん、「桜花」ってなんのこと?」
「はい、必殺技です!」
「そうなんだ」
運転しているルーちゃんが言った。
「お二人は、石神様の大切な方々です」
「え?」
「私たちはお二人を絶対に守りますから」
「ああ、頼むよ」
石神から電話が来た。
しきりに謝っている。
「大丈夫だよ。お前が付けてくれたガーディアンやルーちゃんとハーちゃんは本当に頼もしいよ」
石神は俺たちが無事なことを喜んでくれた。
そういうことも嬉しかった。
市内のホテルに着いて、部屋に戻ってルーちゃんとハーちゃんが身を正して言った。
「不甲斐なく、申し訳ありません」
「そんなことはない! 二人は俺たちを絶対に守ってくれるつもりだったろう?」
「ええ、もう」
ルーちゃんたちが俺たちに向いてニッコリと笑った。
「「文学ちゃん、静子さん、大好きです!」」
みんなで笑った。
しかし、石神よ。
結構大変だよなぁ。
俺、全然分かんねぇんだけど。
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