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真夏の別荘 愛する者たちと Ⅵ 茜の定食屋5

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 俺の話が終わり、みんなが黙り込んでいた。
 早乙女と雪野さんは茜と会ったことはないが、それでも何かを感じていたようだ。
 それにやっぱり早乙女が大泣きだ。

 「茜が入院中にいろいろ話をしてな。俺がよく大型免許を取ったなって話したら教えてくれた。真岡のことだったんで、俺も驚いたよ」
 「タカさん、茜さんは真岡さんとは会ったんですか?」
 「ああ、俺の仲間になったと知らせたら、真岡が飛んで来たよ。病院に来た」
 「そうなんですか」

 茜も真岡も懐かしそうに再会を喜んでいた。

 「真岡の親父さんは、相当な人だったらしくてな。自分の組や系列ばかりじゃねぇ。他の組の奴らにも随分と親切にしてたそうだ。だから大勢のヤクザたちに慕われていてな。真岡もそうだ。いい親分だよ。だから千両も兄弟盃を交わしたんだろうな」
 「真岡さん、優しそうな人でしたよね」
 「ああ。それでな、親父さんもそうだったようだが、真岡にも何か不思議な力があるようでな」
 「えぇ!」
 「だから、茜を見て一目で気に入ったようだ。てめぇを轢き殺しかけたのによ。茜の面倒を見たくなったそうだよ」
 「けじめじゃなかったんですね」
 「まあ、ちょっとはそういうのもな。でも、基本的にはちょっと説教して終わるつもりだったそうだ。茜を引き取ろうと思ったのは、茜が職を失ったと聞いたからだ。だから面倒を見てやろうと」
 「なるほどぉー!」

 亜紀ちゃんが感動した。

 「じゃあ、お母さんに仕送りしてたとかも」
 「そうだよ。だからその金は確保してやった」
 「その他に5万円でしたよね」
 「住む場所と食事をやったんだ。まあ、茜が遊びたい、贅沢したいって奴だったらもっと違ってただろうな」
 「え、もっと多くなったとか?」
 「逆だよ。1円も渡さなかっただろうよ。真岡は茜に修行をさせたかったんだからな。真っ当なヤクザでは若い組員は無償で追い回しよ。事務所の電話番とかな。食い物だけ与えられる修行だ」
 「はぁーーーー」
 
 他のみんなも納得した。

 「でも、茜はそういう奴じゃなかった。ほとんど貯金に回してた。あんまりにも使わないんで、今度は女将さんが確認しに来た。そうしたら、茜の目標を聞いたわけだな」
 「ああ、だからいきなりお給料が上がったんですね!」
 「そうだな。さらに、茜に大型免許まで取らせてな」
 「凄い人たちですね!」
 「ああ。茜が見事に免許を取ったら、もう修行と援助は終わりだ。貯金通帳は、茜が合格した翌日に振り込まれてた。茜はまた思い出して泣いてたよ。真岡に預かった金を返すと言ったんだけどな」
 「当然真岡さんは断りましたよね?」
 「そうだ。それに茜も500万なんて貯金も無かったしよ」

 みんなが笑った。

 「まあ、茜の場合、お母さんのために全部使ってたからな。自分の贅沢は全然ねぇ。そういう奴だ」
 「茜さん……」

 響子が俺の腕を掴んで言った。

 「私のマブダチだからね!」
 「そうだよな!」

 またみんなが笑った。
 響子と茜は入院中に仲良くなり、今もよく見舞いにも来てくれている。
 双子が次の稽古はもっと一生懸命にやると言い、「私も一緒にやる」と言う亜紀ちゃんを断っていた。

 「えーん」

 柳が言った。

 「茜さん、本当に真面目ですよね」
 
 柳もよく一緒に茜と鍛錬をする。
 茜の頑張りは柳にも似ている。
 だから好きなのだろう。
 才能のことなど考えずに、ひたすらに向かって行こうとする。
 崇高な人間たちだ。

 「なんか! 茜さんは絶対に保奈美さんを見つける気がしてきたぁー!」

 亜紀ちゃんが叫んだ。

 「じゃあ、祈願の「ヒモダンス」! 行くよ!」

 全員で立ち上がって、「ヒモダンス」を踊った。
 ロボも一緒になって踊った。
 亜紀ちゃんが最後に叫んだ。

 「ヒモダンスタイガー!」
 
 もちろん、そんなものは来ない。






 「早乙女、また泣いてんのかよー」

 こいつはいつも大泣きする。

 「だって、石神。お前の周りは本当に美しいな」
 「恥ずかしいだろう!」

 みんなが笑う。

 「俺もさ、お前みたいにいい話をしたいと思ってるんだ」
 「なんだよ、そりゃ」
 「でも、お前の話を聞くと、とんでもないな」
 「アホか」
 
 雪野さんが笑って言った。

 「キャンプの時にも、結構話してくれたんですよ」
 「お前、マジかよ」
 「良かったですよ?」

 早乙女が喜んだ。

 「ほんとうに!」
 「はい、またお願いします」
 「うん!」

 みんなが爆笑した。
 まあ、本当にいい夫婦だ。
 俺はみんなが気付いていない話をした。

 「真岡の家系が何か見えるらしいということだけどよ。どうやら茜にもそういう力があるってことだよな」
 「あ、そうだぁ! 葵さんが見えてたんですよね!」
 「ああ、そのことも茜に聞いてみた。母方の祖母が、沖縄でユタをやってたそうだ。相当優秀だったらしいよ」
 「ユタってなんですか?」

 俺は沖縄の霊媒師だと言った。

 「向こうじゃ本当に一杯いるんだ。近所にユタがいないなんてことはねぇのな。まあなんだ、乱暴な言い方をすれば、都内の歯医者みたいなもんだな」
 「歯医者さん?」
 「あちこちにあるだろ? 3軒並んでるなんてこともある。それで腕のいい所悪い所があるじゃない」
 「ああ、なるほど!」
 「ユタもあんな感じな。何かあるとみんな相談に行くんだよ」
 「へぇー。じゃあ、茜さんもいろいろ見えるんですね」
 「うーん、まあ本人はそんなことないって言ってたけどな。葵さんのことは特殊なんだと」
 「そうなんですかぁー」
 「でもな、もしかしたらあいつ、あんまりにも普通に見えるんで、気付いてないのかもな」
 「えぇ!」
 「多分だけど、悪い物とは感応しないのかもしれん。優しい幽霊って言うかな、そういうものをよく見てるんじゃねぇかと思うよ」
 「なんだかいいですね!」


 響子が眠そうになり、一旦解散にした。

 「まだ飲みたい奴は残ってもいいぞ。桜花たちも残って楽しめよ」
 「「「はい!」」」
 「栞はそろそろ寝ろよな」
 「なんでよ!」
 「お前が飲み過ぎるとコワイんだよ!」
 「……」

 栞も寝ることにした。
 栞は士王と吹雪と一緒の部屋で寝る。
 六花が俺と響子と一緒に寝るからだ。

 寝室に入り、響子を寝かせた。
 ロボも一緒だ。

 「タカトラ、今日もいいお話だった!」
 「そっか」
 「タカトラはいい人に囲まれてるね」
 「そうだな」
 「みんないい人」
 「そうだよな」
 「タカトラは最高!」
 「アハハハハハハハ!」

 響子がすぐに眠り、俺と六花はまた屋上に戻った。
 亜紀ちゃん、双子、桜花たち三人、鷹が残っていた。

 「石神先生、おつまみを作りましょうか?」
 「そうだな。じゃあ、一緒に作るか」
 「はい!」

 鷹とキッチンに降りた。
 二人で巾着タマゴと厚揚げを温めて刻みネギを乗せた。

 「お刺身も切りましょうか?」
 「そうだな。明日は帰るからな」

 鷹が冷蔵庫を見て、適当に取り出して切った。

 「茜さん、素敵ですね」
 「ああ、あいつはいつも他人のことしか考えてねぇ。保奈美とかあちゃんが一番でな」
 「石神先生のこともでしょ?」
 「まあ、ウザイんだけどな」
 「ウフフフフフ」

 鷹が盛り付けを終えて、俺に抱き着いた。

 「私は石神先生が一番です」
 「俺も鷹が一番だよ」
 「まあ!」

 キスをした。
 
 「幻想空間」に上がると、みんなが鷹の料理を大歓迎した。
 深夜まで、俺たちは楽しく話した。
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