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蓮花研究所 防衛戦 Ⅵ

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 「虎白! でかい奴が来るぞ!」
 「分かってる!」

 《地獄の悪魔》はどれも強大だが、こいつは桁が違う。
 それが波動で分かった。
 体長8メートルの巨体で、頭部は鬼を模した芸術品のようだった。
 目鼻はなく、滑らかな平面で構成され、頭部に大きな角が二本。
 身体も単純化された形で胸部は空洞だ。
 ブロンズのような質感だが、それが柔軟に動く。
 後に高虎はダリのナントカという天使像に似ていると言っていた。

 俺は剣聖を集合させるつもりだったが、言わずとも他の剣聖もすぐに来るだろう。
 俺たちはそういう風に出来ている。
 すぐに、思った通り剣聖が集まって来た。

 その時、誰かが突出した。

 「誰だ!」
 「ありゃ虎蘭だぜぇ! あいつ、〈見切り戦〉をするつもりだ!」
 「バカ! 呼び戻せ!」
 「もうでかい奴が出て来る!」
 「ちきしょう!」
 
 虎月がすっ飛んで行った。
 あいつは虎蘭の教育係であり、虎蘭のことを誰よりも見込んでいる。
 しかし、虎蘭は接敵していた。
 無暗に足の速い奴だ。

 敵はドラゴンのようなものと融合していた。
 ドラゴンの背に乗った人間の身体に、背に羽が生えている。
 虎蘭が「神雷」をぶちかました。
 そいつは右手を払った。
 虎蘭の巨大なエネルギーを秘めた「神雷」が霧散した。
 やはり通じない。
 だが、それが分かったことが大きい。
 虎蘭は有用な役割を果たした。

 「虎蘭! 下がれ!」

 虎月が叫んでいる。

 「まだです!」

 「見切り戦」は一度誰かが担えば、他の人間は邪魔しない。
 命を懸けた最期の戦いを崇高のまま終わらせるためだ。
 虎蘭はまた「魔方陣」を描き、今度は「煉獄」と組み合わせた「神雷」を放とうとした。
 しかし、《地獄の悪魔》が派手な電撃を虎蘭に放った。
 虎蘭はそれを避けようともせずに、「神雷」を撃った。
 電撃と「神雷」が接したその瞬間に巨大な爆発が起きる。

 「虎蘭!」

 虎月が駆け寄り、吹っ飛んだ虎蘭を抱き上げて走った。
 俺には分かった。
 あの《地獄の悪魔》は、俺たちの「神雷」を見切ったのだ。
 だから、それを阻む返し技を組み上げた。
 しかし、「煉獄」と組み合わせた「神雷」は撃たせようとしなかった!

 虎月が虎蘭を抱いて戻って来る。
 虎蘭は胸から下を幾つも斬り裂かれ、夥しい血を流している。

 「虎水! こいつを抱えて下がれ!」
 「はい!」

 するとデュールゲリエが降りてきて、虎水から虎蘭を引き受ける。
 《ロータス》が現状を判断し、救護に来たのだ。
 デュールゲリエの方が、早く虎蘭を運べる。
 虎水は虎蘭を預け、戦場に残った。

 「虎白、俺が虎蘭の跡を引き受ける!」
 「待て! 俺に手がある!」

 虎月は虎蘭をやられたことで頭に血が上っている。
 まったく、しょうがねぇ奴だ。

 「虎白、何をするんだ!」
 「神宮寺の「聖光輪」を使う!」
 「なんだと?」
 「お前は「魔法陣」を出せ。俺がそこからぶち込む」
 「なるほど!」
 
 瞬時に虎月が理解し、すぐに「魔法陣」を描いた。
 俺はそこから「聖光輪」を撃った。
 《地獄の悪魔》の喉に大穴が空いた。
 思った通りだ!

 「効いてるぞ」
 「虎月! 次は「雲竜」でやれ!」
 「おう!」

 石神家の剣技全てを理解した可能性もあったが、虎月は躊躇なく「雲竜」で「神雷」を撃った。
 《地獄の悪魔》の右足が粉砕される。
 よし、まだ俺たちの剣技の全てを解析してねぇ!
 まだ直立しているのは、筋力でバランスを取っているのではないのだろう。
 他の剣聖たちも集まって来た。

 「「連山」「煉獄」「雲竜」は使うな! 別な剣技なら通じるぞ!」

 俺の言葉で全員が理解する。
 この《地獄の悪魔》は、俺たちの技を見て返し技を作っていたのだ。
 だから未知の技ならば通じる。
 しかし初見でもう解析されるかもしれない。
 使える技は一度きりだ。
 そういうことが剣聖たちには分かった。

 《破暴》
 《土津波》
 《暁星》
 《嵐牙》
 《紫林》
 《闇剣》
 《貪狼》
 《陣崩》
 
 《地獄の悪魔》の身体がどんどん崩れていく。

 「「「「「「「「ギャハハハハハハハハハ!」」」」」」」」

 頭部が地面に落ちた。

 《高虎》

 俺が最後の奥義を放った。
 頭部が消し飛んだ。
 俺たちの最大奥義だ。
 まだ高虎にも教えていない。
 最近みんなで作ったしな。

 「まだ敵は多いぞ! 行けぇ!」
 「「「「「「「おう!」」」」」」」

 もう今よりもでかい奴はいない。
 剣聖たちは思い思いの戦場へ散って行った。
 研究所は他の剣士たちに任せても大丈夫だろう。
 俺も黒い津波の中心に向かって走った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 気が付くと空中に上がっていて、前鬼に抱えられていた。

 「おい、際どかったぞ!」

 自分でも無意識のうちに高空へ飛んだらしい。
 その直後に意識を完全に失ったが。

 「後鬼は!」
 「「黒笛」で楯を作ったようだ。お前の前に出て高熱から護った」
 
 話しているうちに後鬼が迫って来た。

 「ミユキ! 大丈夫か!」
 「うん。でもあいつは相当硬いね」
 「そうだ。どうする?」
 「柳様が編み出した技がある」
 「おう!」
 「やるか!」

 私たちは地上へ降りた。
 50メートルずつ離れ、扇形に並んだ。

 《オロチデストロイ》

 技名は叫ばなかった。
 《デモノイド》は瞬時に塵のようになり吹き飛んで行った。
 石神家の剣聖の方々が来てくれた。
 他の剣士の方々も集まって来る。
 もう、この場所は私たちの圧倒だ。
 私と前鬼と後鬼は、再び敵を掃討していった。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 《地獄の悪魔》たちもほとんどを斃した。
 あとは無数の妖魔の殲滅だ。
 それも2000万は削っているはず。
 黒い津波のようなものは周囲に散り、研究所を押し包もうとしている。
 俺たちは戦線を引き下げ、他の剣士たちと一緒に全周囲で迎撃して行った。
 雲霞のごとくに押し寄せる密集した敵が、どんどん穴を空けられていく。
 前に出た奴らは優先的に攻撃され、その間に他の妖魔もどんどん削って行く。
 数の多さの脅威は未だあるが、何とか戦線は持ちこたえている。
 
 「デュールゲリエは大活躍だな!」

 虎月が俺に叫んだ。
 確かにその通りだ。
 これ程の数に対して、デュールゲリエの数は本当に助かる。
 数十万の「スズメバチ」の攻撃は、確実に速度感を持って敵を削っていた。
 俺たちの強力な剣技は、この数では厳しかったと実感する。

 「高虎の準備のお陰だな」

 あいつは個人の強さに加え、こうした実際の戦場に即した戦い方を考えていた。
 まったく、俺たちの当主に相応しい奴だ。

 



 4時間後。
 全ての敵を殲滅出来た。
 剣士に3人の死者が出た。
 負傷者は石神家で20名、ブランに25名。
 虎蘭が最も重傷で、あとは命に関わる者はいない。

 俺たちは勝利した。
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