上 下
2,469 / 2,808

蓮花研究所 防衛線 Ⅳ

しおりを挟む
 「虎蘭! 俺は前に出るからな! お前はここを護れ!」
 「分かりました!」

 刻々と動く戦場において、個人の判断は重要だ。
 命令されなければ動けない奴は、戦場では使えない。
 せいぜいが、そいつには「死」を与えてやることしか出来ない。
 それが最上のことだ。
 真の戦士は言われずとも行動する。
 自分がどう動かなければならないのかが分からなければ、そいつは半人前だ。
 虎蘭はもう俺が言う前に構えていた。
 俺の後ろに回り、俺が撃ち漏らした敵を自分が絶対に屠るつもりでいる。
 だから俺が前に出ると言った時には、既に自分の役目を任じていた。
 出来る奴だ。

 虎蘭は高虎のために命がけで戦う意志を持っている。
 惚れているのかどうかは分からんが、高虎の運命に殉ずるつもりだ。
 俺たちはみんな、そういうバカだ。

 俺は前に出た。
 「虎脚」で敵に向かって駆け寄る。
 俺の後ろを数人の人間が追って来る。
 それもまた、俺が指示することなく動いた剣聖たちなのが見なくても分かる。
 膨大な敵に対して先に数を削らなければとんでもないことになる。
 8000万もの妖魔が来れば、呑み込まれてしまう。
 一度に斃せる数は限られているのだから、先に萎ませなければならない。
 だから剣聖が出てきたのだ。

 「虎白! もうここから撃ってもいいんじゃねぇか?」
 「よし!」

 敵との距離はおよそ8キロ。
 俺たちは足を止めて「神雷」を放った。
 どの剣聖の技も、幅数キロに亘って伸びて行く。
 黒い津波がどんどん飛び散って行くのが見えた。
 しかし、その後ろからまた津波が覆ってきて、元に戻る。
 これが数の力だ。

 「おい、虎白! これは押し切れるのかよ!」
 「やるしかねぇだろう! この数が後ろに行ったら呑み込まれるぞ!」
 「おう!」

 折角高虎から教わった「神雷」が、この数には通用しない。
 
 「切り替えるぞ! 虎月、虎風、紫虎は範囲を広げて連発しろ! 残りの奴らは俺についてこい!」
 
 剣聖3名がとにかく数を削って行く。
 広範囲攻撃にして威力を落としても、《神雷》は大体の妖魔を殺せる。
 だから残りの剣聖で硬い奴を狩りに行くのだ。
 一人が後ろから凄まじい速さで迫って来た。

 「あいつかよ!」

 斬に間違いない。
 斬は「花岡」の大技を撃ち込んだ。
 敵の上空に激しい光の渦が生じ、そこから何かの光の柱がぶち込まれる。

 「へぇ!」
 
 あれほどの津波のように迫って来た敵が、随分と小さくなっている。
 当然また戻るのだが、範囲攻撃が増えるのは有難い。
 
 「やるじゃねぇか!」
 「ふん!」

 斬は俺たちについてきた。
 斬の技を見て、残った3名の剣聖の中から虎月が上がって来る。
 状況が変わったことを察して独自に判断したのだ。
 そのまま7名で敵に突っ込んで行った。







 「《地獄の悪魔》だぞぉ!」

 誰かが叫び、ひと際大きなサソリのような奴に「神雷」をぶち込んで行く。
 巨大な胴体が吹っ飛ぶ。
 俺は双頭のトカゲのような頭を持つ奴に迫った。
 周囲に何かのエネルギーを渦巻かせている。

 「しゃらくせぇよ!」

 俺は
 魔方陣を描いた。

 《煉獄》

 トカゲは瞬時にバラバラになって地面にバラまかれた。

 「ギャハハハハハハハ!」

 他の剣聖たちもどんどん強敵を屠って行く。
 
 「お! あいつを見ろ!」

 斬が異様なことやっていた。
 妖魔の一体をぶっ飛ばし、他の妖魔にぶち当てる。
 すると、当たった妖魔がまたぶっ飛び、他の妖魔に当たって行く。
 それらの妖魔がどんどん爆散していく。

 「なんだありゃ!」
 「ドミノ倒しみてぇだな」
 
 どうやら、妖魔の身体自体を何らかの爆発物のようにしているようだ。
 「花岡」の技でも、あんなのは知らない。
 歴史の長い拳法だ。
 やはり奥が深い。

 その斬に《地獄の悪魔》の一体が迫った。
 あいつに相手が出来るのか、俺は戦いながら見ていた。
 でかいミミズのような姿で、但し全身が鋭い刃物のようなもので覆われ、常に身体を高速回転している。
 どうするのかを見ていた。
 必要ならば手助けするつもりだった。
 
 斬が右手を上に上げて足を僅かに動かした。
 右手を振り下ろす。

 「へぇ!」

 《地獄の悪魔》が両断された。
 俺は斬から目を離した。
 あいつは何の手助けも必要としない。
 しかし、あくまでも人間や兵器相手の「花岡」が、もう妖魔を相手に戦っている。
 笑いが込み上げてきた。
 斬は高虎に惚れ込んでいるのだ。
 口ではいつも生意気な態度だが、高虎のために散々考え続けて来たのだ。
 ツンデレという奴なのか。

 他の剣聖たちもガンガンやっている。
 俺たちが考えているのは、後ろに《地獄の悪魔》が行かないようにだ。
 だから、強い波動の奴を中心に狩っている。
 その他の有象無象は後ろの剣聖たち、それに研究所に残っている剣士たちで何とか出来るだろう。

 その後ろから、数人が上がって来たのを感じた。
 丁度、前線でもっと範囲攻撃の手が欲しいと思ったところだ。
 虎蘭と虎水がやって来た。
 いい判断だ。

 「よし! 存分にやれぇ!」
 「「はい!」」

 俺たちの背後にも、結構な数が漏れて行った。
 俺は一瞥し、まだ剣士たちで持ち堪えると見た。
 今のところ、研究所を取り囲んでの乱戦にはなっていない。
 撃ち漏らして後ろへ行く奴らは、デュールゲリエでも対応出来る。
 あいつらの戦力は十分に宛にできる。
 実際に、「スズメバチ」と呼ばれる無数の小型攻撃機が研究所から盛り上がって来た。
 数十万の単位と聞いている。
 それらが親機のデュールゲリエの管制で「オロチストライク」を撃ち出して行く。
 頼もしい戦力だ。
 剣士たちは、「スズメバチ」で対応出来ない奴を相手にすればいい。
 まだ戦場は俺たちの優位に進んでいる。




 
 「虎白様! 研究所の東にゲート出現です!」

 《ロータス》が連絡して来た。

 「なんだと!」
 「あちらからは妖魔とバイオノイド、それに《デモノイド》が出て来るようです!」
 「分かった! おい、俺たちを運搬出来るデュールゲリエを4体寄越してくれ」
 「かしこまりました!」

 すぐにデュールゲリエが降りて来た。
 
 「巌虎! 緑虎! 嵐虎! 東に行け!」
 「「「おう!」」」

 3人がデュールゲリエに運ばれて行く。
 《ロータス》からまた報告が入った。

 「《デモノイド》が外壁跡に取りつきました!」
 「今剣聖を送ったぁ!」
 「はい! ブランの精鋭が迎撃しています!」
 「そうか!」

 あのミユキと前鬼、後鬼だろう。
 あいつらはブランの中の最強だ。

 「踏ん張らせろ!」
 「はい!」

 戦況は刻々と変化していった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...