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早乙女家 初キャンプ Ⅲ

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 夕飯の準備が出来て、気持ちよさそうに昼寝をしていた子どもたちを起こした。
 顔を洗わせて、バーベキューを始める。
 今日は運動もしたし、いつもよりも多くの食材を用意していた。

 小さめの肉や野菜を刺した串を焼いて、みんなで食べる。
 うちの子どもたちは好き嫌いは無い。
 野菜もどんどん美味しそうに食べて行く。
 そして石神家風に、網の上で様々なものを焼いた。
 牛肉、ソーセージ、エリンギ、ナス、トマト、エノキ、シメジ、タマネギ、シシトウ、ピーマン、ニンジン、エトセトラ。
 石神に教えてもらった「宮のタレ」で食べる。
 全てがいつもよりも美味しく感じる。
 やはり、キャンプはいい。

 怜花も久留守もニコニコして話しながら食べている。
 自然の中で食べるバーベキューは格別で、みんなでいつも以上に食べた。
 満腹になる前に、雪野さんがホタテのバター醤油を作ってくれた。
 石神がよく焼いてくれるものでうちもみんなが大好きだ。
 本当に美味しかった。
 そろそろいいかという頃に、デュールゲリエに連絡し、風呂の用意を頼んだ。
 すぐに来てくれて、「花岡」の技で湯を焚いてくれる。
 ゆっくりとお茶を飲んでいると、簡単に湯が沸いた。

 「いつでも参りますので、遠慮なくお呼び下さい」
 「ああ、ありがとう! 助かったよ」
 「いいえ、では楽しんで下さいね」
 「本当にありがとう!」

 雪野さんと片付け物をし、みんなでお風呂に入った。
 少し温めでいい感じの湯温だった。
 雪野さんと一緒に子どもたちの身体を洗い、みんなで湯船に入る。
 昼間とは違って、子どもも座れる高さに湯面がある。
 きっと、さっき調整してくれたのだろう。
 みんなで星空を見ながら自然の中の湯を楽しんだ。
 石神のように上手くは話せないが、石神から聞いた子ども時代の話をすると、怜花と久留守が大喜びだった。
 そろそろ上がろうかと思っていた時に、久留守の顔がまた変わった。
 
 「来る」

 久留守が突然言った。
 
 「え、どうしたんだ?」
 「……」

 もう喋らない。
 すると、モハメドさんが俺に言った。

 《向こうだ》
 「え、どっち?」

 モハメドさんが俺の頭を引っぱたく。

 《3時方向だ!》

 見ると、林の中から巨大な白い獣が出て来た。

 「モハメドさん!」
 《大丈夫だ。主の僕だ》
 「え!」

 雪野さんも気付いた。
 俺が大丈夫だと言い、石神の仲間なのだと説明した。
 近くに来ると、体長5メートルもある狼なのだと分かった。
 あまりの大きさに、大丈夫だと言った俺も驚く。

 《邪々丸、久し振りだな》
 《ああ、フェンリル。今はモハメドという名を主から頂いている》
 《そうか、我も「巫炎(ふえん)」という名を頂いた》
 
 モハメドさんと獣の会話が聞こえた。
 テレパシーだ。
 雪野さんも驚いているので、聞こえているのだろう。
 巨大な狼が俺に向かって言った。

 《我が主の匂いがしたので見に来た。我が主に協力する者なのだな》
 「え、俺ですか!」
 《お前も、その女も。そしてその子どもはまた特別だな》

 「……」

 久留守のことだろう。
 久留守は何も答えない。

 《クルス、主を頼むぞ》
 「分かっている。今度は絶対にしくじらない」

 「「!」」

 俺と雪野さんは同時に驚いた。
 久留守はやはり石神と深い縁があるのだ。
 俺たちの子であると同時に、大きな運命を背負っているのだ。

 《その光の子も良いな》
 「れ、怜花と言います!」
 「そうか、名も良い」
 「石神が名付けてくれたんですよ!」
 《さもありなん。本当に良い名だ》

 今度はハムちゃんを見て言った。

 《そちらの者は、主の匂いが濃いな》
 「チュウチュウ!」
 《なるほど。そういうことか。これからも宜しく頼む》
 「チュウ!」
 
 巫炎と名乗った巨大な狼は、ゆっくりと去って行った。
 久留守はもう、いつものあどけない顔でニコニコしている。

 「おい、石神を頼むな」
 「うん!」

 もう普通の子どもだ。
 風呂から上がり、火照った身体を少しテーブルに座って休ませた。
 本当にここはいい風が吹く。
 雪野さんが冷えたビールを出してくれ、子どもたちにはジュースを飲ませた。
 焚火の火が明るく、いい雰囲気だった。

 「あ」

 久留守が森の方を向いた。
 バキバキと枝を踏む音が聴こえた。


 フグォォー、フグォォー……


 「なんだ!」
 「あなた!」

 獣の鳴き声だが、声の大きさから相当な巨体であることが分かる。
 石神から、この辺はイノシシや熊までいることを聞いている。

 《大丈夫だ。小者の味方だ》

 モハメドさんが言った。
 やがて、森から大きなイノシシが出て来た。
 今度は体長3メートルほどか。
 普通のイノシシではない。

 《石神様の匂いを辿って参りました。参上が遅くなり申し訳ございません》
 「あなたはどなたですか?」
 《この辺りの主をしております。わたしのような者が申し訳ないのですが、ご挨拶をせねばと参りました》
 「そ、そうなんですか」
 《つまらないものですが、贈り物を持ってまいりました》
 「それはご丁寧に。我々は石神の協力者です。わざわざすいません」
 《いいえ……あぁ! あなた様はぁ!》

 山の主さんが驚いて脅えていた。

 《そ、そ、そ、それにそちらの方もぉ! あ、あなたもそう!》

 なんなんだ。

 《おい、この者たちはここで楽しんでいるのだ。贈り物を置いてもう邪魔をするな》

 モハメドさんが言った。

 《は、はいぃぃぃーー!》

 山の主さんは少し近づいて来た。
 贈り物を持って来たと言っていたが、何も見えない。


 ウゴォォォ! ゲヘェェゥォォー! ゲボゲボ ウグォォーー! ゲボゲボ……


 「「「「……」」」」

 大量のドングリが目の前に山となった。
 ヌラヌラと粘液が輝いている。

 《ゲホッ! ど、どうぞ ゲホゲホ!》

 「モハメド、殺そう」
 《ああ、そうだな》
 「チュー!」

 久留守がコワイ声で言い、モハメドが同意し、ハムちゃんが叫んだ。

 《い、いやぁ! ま、まってくださいぃー!》

 モハメドさんと久留守が何かヤバい雰囲気なので、俺が止めた。

 「待って! 山の主さんは悪気はないんだよ! 殺すのは待って!」

 何とか二人を宥めた。
 
 「さあ、もう行って下さい」
 《あ、ありがとうございます!》

 大イノシシは慌てて森の中へ入った。
 すぐにデュールゲリエがやって来た。

 「申し訳ありません、またあのバカ猪が参りましたようで」
 「え、ええ。さっきそこに」
 「ハァー。またこれを置いて行ったのですね」
 「はい、贈り物なのだと」
 「困ったものです。前にもよく言い聞かせたのですが」
 「そうなんですか」
 「50回腹を蹴って血反吐を吐かせて、もう分かったと思っておりましたが。性懲りもなくまた」
 「え、あの!」
 「今度はきちんと言い聞かせます。申し訳ありませんでした」
 「いえ! どうか暴力は!」
 「ではこれを片付けますので、どうぞ皆様はお休み下さい」
 「はぁ。あの、ほんとに山の主さんには」
 「御安心を」

 大丈夫かな。
 申し訳なかったが、片づけをデュールゲリエに任せ、俺たちはテントに入った。
 トランプで遊び、少し話をした。
 テントでみんなで横になって、また俺が聞いた石神の話をした。
 怜花も久留守も石神が大好きだ。
 下手な話し方だったが、みんなが喜んでくれた。
 そろそろいい時間になったので、みんなで寝ることにした。






 夜中に大きな獣の悲鳴が遠くで聞こえた。
 そのまま寝た。
 ごめんね。

 でも、山の主って結構偉いんじゃないのかな?
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