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愛する者の帰還 Ⅶ

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 朝食を食べ終え、俺は栞と士王、それに桜花たちを連れてドライブに行った。
 響子、六花、吹雪、鷹も一緒だ。
 子どもたちは訓練に出る。
 で、斬はみんなが持てあますので、VRポッドに入ってもらった。
 一江と大森もVRポッドだ。
 二人は昨日初めて経験し、すっかりバーチャルの環境が気に入ったようだ。
 作戦指揮を執りながら、失敗を積み重ねている。
 しかし、自分の指揮がツボにはまると物凄く楽しいと言っていた。
 斬の場合、もちろん実戦経験だ。

 「このハマーも久しぶりだよ!」
 「そうだな」

 栞がハンドルを握る俺を見ている。

 「あ、私、運転しようか?」
 「ダメだぁ!」
 「「「おやめください!」」」
 「チェッ!」

 この野郎、まだ凝りてねぇ!
 俺は高速をぶっ飛ばした。





 「ねえ、御堂君はいないんだよね?」
 「あいつは滅茶滅茶忙しいからな。実家にも滅多に帰れねぇんだ」
 「そうなんだ」

 俺たちは、《御虎(ミトラ)》シティに向かっている。
 栞たちに見せてやりたかった。
 
 「まだまだ建設中なんだけどな。結構見ごたえがある」
 「うん」
 「それにな、ぶったまげるものがあるんだ」
 「へぇー」
 
 まあ、何の説明もしていないので驚きようがない。
 栞たちが帰って来ることが決まっていたので、俺もアラスカで話していない。
 驚いてもらおう。

 最初に御堂の実家に寄った。
 申し訳ないが御堂家で昼食を頂く。
 子どもたちはいないと伝えてあるので、普通の食事だ。

 「石神さん! 待ってましたよ!」
 「すいません。栞たちが日本へ戻ったので、《御虎》を見せておきたくて」
 「ええ、ええ。大分また変わりましたよ」
 「そうですか、楽しみです」

 当然のようにオロチとニジンスキーたちもいる。
 
 「おい、今日は呑み込むなよな!」

 オロチが長い舌を出して「分かった」と言った。
 かどうかは分からんが、呑み込まれることは無かった。
 栞と士王を呼んで、オロチたちに紹介した。
 二人に身体を撫でさせる。
 オロチも舌を出して二人の顔を舐めた。
 六花と吹雪も呼んで同じようにさせる。

 「鷹!」
 「私もですか!」
 「当たり前だ、来い!」

 鷹が恐る恐る来る。
 オロチが鷹の顔を執拗に舐めた。
 ニジンスキーたちも、鷹の身体に巻きついていく。

 「お前、相当気に入られたな」
 「そ、そうなんですか!」

 俺もオロチたちを撫でてやると、身体を嬉しそうに揺らしながら軒下へ戻って行く。
 嬉しいかどうかも知らんが。

 栞たちが挨拶し、正巳さんが家の中へ案内してくれる。
 広間に御堂家のみなさんが揃っているので、また挨拶した。
 昼は刺身と天ぷらの御膳だった。
 随分と豪華なもので、気を遣わせてしまって申し訳ない。

 「栞さんはうちは初めてですよね?」
 「はい。御堂君とは学生時代に親しくさせてもらってたんですけど」
 「はい、正嗣から聞いています。やっと来ていただけて」
 「鷹さんもようこそ」
 「はい、宜しくお願いします」

 「鷹があんなにオロチたちに懐かれるんなら、もっと早く来させれば良かったな」
 「い、いいえ!」

 何かオロチたちの気に入るものを鷹が持っているのだろう。
 
 士王は珍しい和室に興味を示している。
 食欲は旺盛で、大人と同じ膳を全部平らげた。
 正巳さんが喜んだ。
 
 「士王君も、いずれあの子たちと一緒に」
 「絶対そうしませんよ!」

 正巳さんが笑った。
 冗談じゃねぇ。
 吹雪は流石に全部は入らない。
 響子も同様だ。
 刺身だけ食べさせて、天ぷらは俺と六花でもらった。
 士王もまだ食欲があるようだった。
 
 「吹雪、もらっていいか?」
 「うん!」

 吹雪がニコニコして士王に膳を向けた。
 こいつ、まだ食うのか。 
 食事を終え、一休みしてから、みんなで《御虎》へ向かう。
 正巳さんを助手席に乗せた。

 遠くからも、高い外壁が見えてくる。
 敢えて一度高台に上った。
 《御虎》が一望できる。
 いずれここには強力な防衛施設を築く予定だ。
 みんなでハマーを降りた。

 「スゴイね!」
 
 栞が感嘆し、みんなが広大な都市の眺めに感動した。
 士王や吹雪も何かを感じて目を輝かせている。

 「ここがこれから日本の中心になる」
 「お父さんが創ったんだね!」
 「御堂やいろいろな人間が協力し合って創ってるんだ。「業」に対抗するために、この都市が必要になった。日本が一丸になって戦うためにな」
 「はい!」
 
 士王と吹雪を抱き上げて肩に乗せた。

 「お前たちも守れ。ここには俺や御堂の思い出が多い」
 「「はい!」」

 再びハマーに乗り込み、《御虎》へ向かった。
 既に出入りはゲートをくぐる必要があり、門番は俺の顔を見てにこやかに通してくれた。
 最初に神殿へ向かう。

 「あれは何度も見に行きましたが、いつ見ても素晴らしい」
 「そうですか」

 《ミトラ》の神殿に着いた。
 ピラミッドのような広大な四角錐の底辺からは、まだ《ミトラ》は見えない。
 俺が響子を肩に担ぎ、六花は吹雪を背負った。
 士王は自分の足で行く。
 栞と鷹が士王の手を握っている。
 みんなで階段状の通路を昇った。

 「もうすぐ見えるぞ」

 俺が声を掛けた。
 頂上の《ミトラ》が見えてくる。

 「なに、あれ!」

 栞が興奮して叫ぶ。
 直径40メートルの水晶の物体。
 その内部には様々な幾何学模様や謎の物質が織り込まれ、更に中心には体長5メートルの虎がいる。
 そしてその虎は口に刀を咥えており、観る角度によって刀の種類が変わり、更に内包された様々なものも変化する。
 単なる光の屈折ではない、まるで映像を投影されているように見える。

 全員が声も無く驚いていた。

 「あなた……」

 栞が呆気にとられ、響子は俺にしがみついた。
 
 「みんなで一周するぞ。見えるものが変化するからな。中央の虎が口に咥えている刀も変わるぞ!」
 
 みんなが大興奮でゆっくりと並んで歩く。
 時々大きな声で驚愕している。

 「どうだ、響子。スゴイだろう?」
 「うん! スゴイよ、タカトラ!」
 「鷹、上から見ても変わるんだぞ」
 「え、いいんですか」
 「ああ、観てみろよ」

 鷹が空中に浮遊し、《ミトラ》の内部を覗いた。
 
 「石神先生! スゴイですよ!」
 「そうだろう?」

 栞と六花も、それぞれ子どもを抱えて飛んでみる。
 鷹が俺の隣に降りてきた。

 「響子ちゃんも見ようよ」
 「うん!」

 鷹が響子を抱えて飛んでくれる。
 正巳さんが桜花たちに説明しながら歩いてくれた。
 俺は先に降りて、お茶の用意をする。
 《ミトラ》の周囲に平屋の建物を造り、休憩所にしていた。
 アイス・ミントティを淹れた。

 なかなか降りてこないので、呼びに行った。

 「おい、そろそろ降りろ。下で休めよ」

 30分も経っていた。
 夢中で見ていたのだ。
 下に降りて、お茶にした。
 俺が一通りの経緯を話した。

 「最初はニューヨークの静江さんとか百家からの予言があったんだ。あの神殿というか、台座を作る用意をな」

 材質の指示や設計図まであったことにみなが驚いた。

 「でも、どういうものなのかさっぱり分からなかった。しかし、今年の4月に双子が修学旅行に行った。皇紀も一緒にな。フィリピンだ。あっちには魔法大学があって、麗星の伝手で「ヘヴンズ・フォール」という儀式にあいつらが参加させてもらったんだ」

 「ヘヴンズ・フォール」について説明した。

 「今回は「虎」の軍のために祈ってくれたんだよ。双子に腕輪が、皇紀には槍が降って来た」
 「ほんとうに!」
 「ああ。そして俺のために祈った時に、これが出てきた」
 「なにそれぇ!」
 「まあ、現場でも大騒ぎだったらしいよ。これまでにこんな巨大なものが出てきたことはないからな。一時は避難騒ぎになって大変だった。俺に連絡が来て、亜紀ちゃんと現地に飛んだ。そして回収した」
 「回収って、どうしたの!」
 「それがな、俺が触ったら消えた」
 「なによ、それぇ!」
 
 栞が大興奮だ。
 
 「みんなも観て分かったと思うが、観る角度によって内部に見えるものが違う。それがどのような現象なのかは分からないんだ」
 「ねえ、そもそもあれは何なの?」
 「「護るもの」としか。その範囲も防御力も、また何からどのように護るものかも分からない。ただ、ある人間はあれを「アイギスの宝玉」と言っていた」
 「アイギスの宝玉?」

 実を言えば早乙女の子の久留守が言ったのだ。
 その名前は今は出さない。
 突然大人びた口調で「また「アイギスの宝玉が降ったのですね」と言った。
 誰もその意味は分かってはいない。
 ギリシャ神話での「アイギス」とは、防具のことだ。
 主神ゼウスが娘のアテナへ贈ったもので、あらゆる邪悪、災厄を退ける力を持つ。
 楯とも胸当てとも言われ、形状は幾つかの説がある。
 久留守は「宝玉」と言った。
 神話との相関性は不明だが、恐らくは邪悪な者を撃退するものではないかと思っている。
 だが、その発動をまだ見ていないので、何とも言えないのだが。
 また、アイギスの防具はメドゥーサの首を嵌めることでより強固なものとなったとされる。
 その辺がどうなっているのかも分からない。
 蓮花が一通りの解析を済ませているが、メドゥーサと思しきものは見当たらない。

 お茶を飲んで一休みしたあと、またみんなが《ミトラ》を見に行った。
 幾らでも眺めていたいものだ。
 
 ゆっくりと《ミトラ》を眺め、蓮花の研究所へ帰ることにした。
 ハマーの中で、響子が六花に興奮して話している。
 栞も桜花たちと楽しそうに話していた。
 鷹も俺の隣で嬉しそうな顔をしている。

 「鷹、俺たちはどうなるんだろうな」
 「きっと大丈夫ですよ」
 「そうか」
 「ええ。あんなものが来るんですから。私たちは大丈夫です」

 「そうだな」

 分からないことだ。
 だが、鷹は確信している。
 それは俺への信頼だ。
 そして、俺と運命を共にする覚悟があるためだ。

 俺は運転しながら、皇紀と双子の「ヘヴンズ・フォール」の顛末を話して聞かせた。
 全員が爆笑した。
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