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愛する者の帰還 Ⅵ
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翌朝、俺は6時に起きた。
斬の稽古に付き合うためだ。
「ふん、今日はまともに起きたな」
「うるせぇ! 寝てるとお前が起こしにくるんだろう!」
「やるぞ」
演習場で組み手をした。
俺は斬に新しい技を見せた。
昨日斬が見せた「螺旋花」と「槍雷」を組み合わせた《雷鎧》に似ているものだ。
《螺旋鎧》
俺の周囲に「螺旋花」の暴風が吹き荒れる。
「なんじゃ、それは!」
「ワハハハハハハハハ!」
斬が俺に近づかない。
距離を置いて、俺の技を解析しようとしている。
「「螺旋花」か!」
「そうだ。お前も身体に纏うことは覚えても、これは分からんだろう」
「教えろ!」
俺は《螺旋鎧》を解いた。
「まあ、お前は俺の弟子だからな」
「なに!」
「教えてやるよ」
「貴様ぁ!」
斬は怒っているが、唇を噛み締めて大人しく頭を下げた。
「頼む、教えてくれ」
「おう!」
《螺旋鎧》は石神家の剣技「煉獄」の応用技だった。
「煉獄」は自分の剣の軌跡を前方へ伸ばしていく技だ。
「連山」はその威力を遠方まで伸ばす技だが、「煉獄」は比較的近距離の敵を撃破する技だった。
「いいか、「螺旋花」は身体の内側にうねらせた波動を放つ技だ」
「おう」
「それを自分の身体から離れた場所へ生じさせる」
「……」
斬が考えていた。
俺の言う意味は理解しているだろうが、その方法が分からない。
「自分の身体を拡大しろ。皮膚面から外に自分が在ると思え」
「……」
俺は斬の右手に触れ、10ミリほどそれを離した。
「ここまでがお前だ」
「……」
斬が何かをしようとしている。
「丹田から全身に波動を拡げ、更に拡大しろ!」
「おう!」
俺はもう一度右手に触れて離した。
僅かに俺の手を追って火花が散った。
「てめぇ!」
「ふん!」
こいつ、「槍雷」でやろうとしやがった。
俺の言ったことを理解したのだろう。
「なるほど。「震花」を放つように、自分の周囲に回転させるのだな」
「分かったかよ!」
「ふん! 分かったわい!」
「このやろう」
斬に練習させながら、俺は説明した。
「前に「ガンスリンガー」の連中を相手にした時に、結構ヤバかった」
「聞いたな。弾丸の軌道を変えて、未来位置に撃ち込んで来る奴らだな」
「そうだ。全身に「螺旋花」をまとったが、それを突破される可能性があった。だからもっと離れた位置から弾丸を消失させる必要を感じたんだよ」
「お前の発想は面白いな」
「東大を出てるからな!」
「ふん!」
斬は基本的な構造を掴んだようだ。
「今日はここまでにしろ」
「なんじゃ、もう終わりか」
「もうちょっとのんびりしてぇんだよ!」
「ふん!」
斬は不満そうだったが、今の《螺旋鎧》をもっと極めたいだろう。
俺が傍にいては、こいつもやりにくいと思う。
俺から教わって一生懸命に練習する姿を見せたくないはずだ。
「軟弱な。好きにしろ」
「ああ!」
俺は本館に戻ってシャワーを浴び、子どもたちの部屋へ行った。
まだ子どもたちは眠っているが、ドアを開けるとロボが飛び出して来た。
「おう、ご飯にするか!」
「にゃ!」
ロボと一緒に厨房へ行くと、もう蓮花が準備をしていた。
デュールゲリエたちもいる。
大勢の食事になるので、手伝わせているのだろう。
ロボが蓮花の足にまとわりつく。
「石神様、おはようございます。ロボさんもおはようございます」
「ああ、おはよう。またお前は早起きだなぁ」
「オホホホホホホ」
コーヒーとロボの食事をもらい、食堂でロボに食べさせた。
ササミを美味そうにロボが食べる。
いい鳥肉を使っているのだ。
俺がコーヒーを飲んでいると、桜花たちが入って来た。
挨拶される。
「お前たちも早起きだな!」
「アラスカでの生活サイクルですよ」
「栞はもっと寝てるだろう」
「それで宜しいのです。それもサイクルですから」
「まったくなぁ」
三人が笑って、自分たちの朝食を作りにいった。
桜花たちは他のブランたちとは別に、ずっと栞と士王の護衛をする。
もちろん戦闘訓練などには随時参加するが。
桜花たちがトレイに食事を持って戻って来た。
「蓮花様が、石神様も朝食を召し上がるかとお聞きです」
「ああ、栞たちが起きたら一緒に食べるよ」
「かしこまりました」
桜花が厨房へ一度戻り、三人で一緒に食べ始めた。
塩鮭。
ハスのキンピラ。
目玉焼き。
フキの煮物。
小茄子の漬物。
納豆(青のり、ウズラ卵)。
レタスとコーンのサラダ。
味噌汁は豆腐とワカメ。
和食の膳に、桜花たちが喜んでいた。
「お前たちにも苦労を掛けたな」
「いいえ! 栞様と士王様のお世話は最高に幸せです!」
「そうか、ありがとうな。これからも宜しく頼む」
「「「はい!」」」
蓮花が入って来た。
「みなさん! お替りをしなさいね!」
「「「はーい!」」」
三人が嬉しそうに茶碗を持って厨房へ行った。
「三人とも和食に喜んでいたよ」
「さようでございますか。しばらくは和食にしようと思います」
「ああ、そうだな」
アラスカでは和食は難しかった。
食糧事情は徐々に改善されているが、急激に増えて行く人口に、やはり食材は限られて行く。
栞は優遇されてはいたが、栞たちの方からそれを遠慮していた。
通常の手に入りやすいものを中心に食べていた。
俺が時々食材を持って行くと、喜んでいた。
やはり和食が食べたかったのだ。
それはそうだろう。
しかし、その希望を贅沢と考え、普段は敢えてアラスカの食材を使っていた。
「実は栞はさ、それほどタコは好きじゃねぇんだ」
俺はそろそろ誤解を解いてやろうと思った。
「ワガママを言ったのにお前たちが必死に探してきてくれたからな。それで申し訳なく思っていたんだよ」
桜花たちが顔を見合わせて笑っていた。
「はい、存じておりますよ」
「え?」
「栞様は優しい方です。ですから言い出せなかったことはよく分かります」
「でも、お前たちは栞に……」
「少しは私たちも」
「!」
やっぱり栞のワガママには困っていたようだ。
「ワハハハハハハハハ!」
「ちょっとした冗談です。だから時々しかタコはお出ししませんでしたよ?」
「そうか」
「タコを出した時の、ちょっと困ったお顔が可愛らしくて」
「そっか!」
4人で笑った。
子どもたちが起きて来て、栞も士王を連れて来た。
「栞様! 申し訳ありません」
「え、どうしたの?」
「折角日本へ戻って来ましたのに! 蓮花様にタコをお願いするのを失念していまして!」
「え! あ、ああ、そうなんだ」
「すぐに!」
「い、いいわよ!」
桜花たちが笑った。
柳に六花たちを起こしに行ってもらった。
蓮花が全員の食事を運んで来る。
みんなが蓮花の食事を褒め称え、蓮花が嬉しそうに笑った。
斬の稽古に付き合うためだ。
「ふん、今日はまともに起きたな」
「うるせぇ! 寝てるとお前が起こしにくるんだろう!」
「やるぞ」
演習場で組み手をした。
俺は斬に新しい技を見せた。
昨日斬が見せた「螺旋花」と「槍雷」を組み合わせた《雷鎧》に似ているものだ。
《螺旋鎧》
俺の周囲に「螺旋花」の暴風が吹き荒れる。
「なんじゃ、それは!」
「ワハハハハハハハハ!」
斬が俺に近づかない。
距離を置いて、俺の技を解析しようとしている。
「「螺旋花」か!」
「そうだ。お前も身体に纏うことは覚えても、これは分からんだろう」
「教えろ!」
俺は《螺旋鎧》を解いた。
「まあ、お前は俺の弟子だからな」
「なに!」
「教えてやるよ」
「貴様ぁ!」
斬は怒っているが、唇を噛み締めて大人しく頭を下げた。
「頼む、教えてくれ」
「おう!」
《螺旋鎧》は石神家の剣技「煉獄」の応用技だった。
「煉獄」は自分の剣の軌跡を前方へ伸ばしていく技だ。
「連山」はその威力を遠方まで伸ばす技だが、「煉獄」は比較的近距離の敵を撃破する技だった。
「いいか、「螺旋花」は身体の内側にうねらせた波動を放つ技だ」
「おう」
「それを自分の身体から離れた場所へ生じさせる」
「……」
斬が考えていた。
俺の言う意味は理解しているだろうが、その方法が分からない。
「自分の身体を拡大しろ。皮膚面から外に自分が在ると思え」
「……」
俺は斬の右手に触れ、10ミリほどそれを離した。
「ここまでがお前だ」
「……」
斬が何かをしようとしている。
「丹田から全身に波動を拡げ、更に拡大しろ!」
「おう!」
俺はもう一度右手に触れて離した。
僅かに俺の手を追って火花が散った。
「てめぇ!」
「ふん!」
こいつ、「槍雷」でやろうとしやがった。
俺の言ったことを理解したのだろう。
「なるほど。「震花」を放つように、自分の周囲に回転させるのだな」
「分かったかよ!」
「ふん! 分かったわい!」
「このやろう」
斬に練習させながら、俺は説明した。
「前に「ガンスリンガー」の連中を相手にした時に、結構ヤバかった」
「聞いたな。弾丸の軌道を変えて、未来位置に撃ち込んで来る奴らだな」
「そうだ。全身に「螺旋花」をまとったが、それを突破される可能性があった。だからもっと離れた位置から弾丸を消失させる必要を感じたんだよ」
「お前の発想は面白いな」
「東大を出てるからな!」
「ふん!」
斬は基本的な構造を掴んだようだ。
「今日はここまでにしろ」
「なんじゃ、もう終わりか」
「もうちょっとのんびりしてぇんだよ!」
「ふん!」
斬は不満そうだったが、今の《螺旋鎧》をもっと極めたいだろう。
俺が傍にいては、こいつもやりにくいと思う。
俺から教わって一生懸命に練習する姿を見せたくないはずだ。
「軟弱な。好きにしろ」
「ああ!」
俺は本館に戻ってシャワーを浴び、子どもたちの部屋へ行った。
まだ子どもたちは眠っているが、ドアを開けるとロボが飛び出して来た。
「おう、ご飯にするか!」
「にゃ!」
ロボと一緒に厨房へ行くと、もう蓮花が準備をしていた。
デュールゲリエたちもいる。
大勢の食事になるので、手伝わせているのだろう。
ロボが蓮花の足にまとわりつく。
「石神様、おはようございます。ロボさんもおはようございます」
「ああ、おはよう。またお前は早起きだなぁ」
「オホホホホホホ」
コーヒーとロボの食事をもらい、食堂でロボに食べさせた。
ササミを美味そうにロボが食べる。
いい鳥肉を使っているのだ。
俺がコーヒーを飲んでいると、桜花たちが入って来た。
挨拶される。
「お前たちも早起きだな!」
「アラスカでの生活サイクルですよ」
「栞はもっと寝てるだろう」
「それで宜しいのです。それもサイクルですから」
「まったくなぁ」
三人が笑って、自分たちの朝食を作りにいった。
桜花たちは他のブランたちとは別に、ずっと栞と士王の護衛をする。
もちろん戦闘訓練などには随時参加するが。
桜花たちがトレイに食事を持って戻って来た。
「蓮花様が、石神様も朝食を召し上がるかとお聞きです」
「ああ、栞たちが起きたら一緒に食べるよ」
「かしこまりました」
桜花が厨房へ一度戻り、三人で一緒に食べ始めた。
塩鮭。
ハスのキンピラ。
目玉焼き。
フキの煮物。
小茄子の漬物。
納豆(青のり、ウズラ卵)。
レタスとコーンのサラダ。
味噌汁は豆腐とワカメ。
和食の膳に、桜花たちが喜んでいた。
「お前たちにも苦労を掛けたな」
「いいえ! 栞様と士王様のお世話は最高に幸せです!」
「そうか、ありがとうな。これからも宜しく頼む」
「「「はい!」」」
蓮花が入って来た。
「みなさん! お替りをしなさいね!」
「「「はーい!」」」
三人が嬉しそうに茶碗を持って厨房へ行った。
「三人とも和食に喜んでいたよ」
「さようでございますか。しばらくは和食にしようと思います」
「ああ、そうだな」
アラスカでは和食は難しかった。
食糧事情は徐々に改善されているが、急激に増えて行く人口に、やはり食材は限られて行く。
栞は優遇されてはいたが、栞たちの方からそれを遠慮していた。
通常の手に入りやすいものを中心に食べていた。
俺が時々食材を持って行くと、喜んでいた。
やはり和食が食べたかったのだ。
それはそうだろう。
しかし、その希望を贅沢と考え、普段は敢えてアラスカの食材を使っていた。
「実は栞はさ、それほどタコは好きじゃねぇんだ」
俺はそろそろ誤解を解いてやろうと思った。
「ワガママを言ったのにお前たちが必死に探してきてくれたからな。それで申し訳なく思っていたんだよ」
桜花たちが顔を見合わせて笑っていた。
「はい、存じておりますよ」
「え?」
「栞様は優しい方です。ですから言い出せなかったことはよく分かります」
「でも、お前たちは栞に……」
「少しは私たちも」
「!」
やっぱり栞のワガママには困っていたようだ。
「ワハハハハハハハハ!」
「ちょっとした冗談です。だから時々しかタコはお出ししませんでしたよ?」
「そうか」
「タコを出した時の、ちょっと困ったお顔が可愛らしくて」
「そっか!」
4人で笑った。
子どもたちが起きて来て、栞も士王を連れて来た。
「栞様! 申し訳ありません」
「え、どうしたの?」
「折角日本へ戻って来ましたのに! 蓮花様にタコをお願いするのを失念していまして!」
「え! あ、ああ、そうなんだ」
「すぐに!」
「い、いいわよ!」
桜花たちが笑った。
柳に六花たちを起こしに行ってもらった。
蓮花が全員の食事を運んで来る。
みんなが蓮花の食事を褒め称え、蓮花が嬉しそうに笑った。
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