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愛する者の帰還 Ⅳ

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 夕飯の準備が始まった。
 今日はもちろん、バーベキューだ。
 どうして「もちろん」だか、分からんが。
 俺は別に、バーベキューマニアでもないのだが。
 不思議なことに、祝い事のような時にはバーベキューになることが多い。
 一辺倒と言ってもいい。
 うちは花見もバーベキューだ。
 何故だろう?
 まあ、俺も嫌いなわけでもないのだが。

 子どもたちを中心に、ブランたちも一緒に準備をしている。
 桜花たちも率先して楽しそうに手伝っている。
 蓮花は別な炊き込みご飯などをブランたちと作っている。
 斬がジッと俺を見ているので、俺も食事作りを手伝った。
 あいつ、大人しくしてられねぇのかよ!

 栞は一江や大森、鷹や六花たちと楽しそうにテーブルで話していた。
 士王が吹雪と一緒にシャドウに遊んでもらっている。
 斬は……つまらなそうだった。
 シャドウがそれを見て、士王と吹雪を斬の所へ連れて行った。

 「斬様、この子たちはとんでもない才能です! 是非とも斬様からお教えを頂けませんか?」
 「よし、相手になろう」

 斬が嬉しそうな顔をした。
 それをまた、栞が優しい笑顔で見ていた。

 斬が二人を相手に、好きに向かわせた。
 士王は流石に動きがいいが、一つ下の吹雪も予想外に動いている。
 「花岡」の技こそないが、吹雪は独特なリズムで斬に手足を振るっている。

 「ほう!」

 斬も喜んだ。
 吹雪の並大抵でない才能に気付いたのだ。
 元々俺の血を引いていることに加え、六花の超絶のリズム感がある。

 「お前! 面白いな!」
 「はい!」

 吹雪が楽しそうに斬に立ち向かっていく。
 そのうちに、士王が吹雪の動きに合わせて連携していった。
 
 「ワハハハハハ!」

 斬が一層楽しそうに二人の相手をして行く。
 シャドウも加わる。

 「わたしも是非!」
 「おう! 来い!」

 4人で食堂の隅で組み手を行なって行く。
 そのうちに料理を作っているブランや子どもたちも笑顔で見ていた。
 時折声援を送る。

 「士王さん! がんばれ!」
 「吹雪くん! いいぞ!」

 斬は美しい舞を踊っていた。
 その動きは士王や吹雪を誘い、一緒に舞うように見える。
 シャドウもそれに合わせて周囲を舞った。

 気楽に始めた遊びが、まるで舞踏のショウになって行く。
 吹雪がその中でリズムを変えた。

 「おう!」

 斬が楽しそうにそれに合わせて、別な舞を始める。

 「お前、いいな!」
 「はい!」

 六花の血だろう。
 舞踏になった動きが吹雪の中で様々な筋で流れ始めた。
 士王も気付いて次々に変化する舞に合わせて行った。
 シャドウは少し離れて、3人の舞をうっとりと眺めている。
 いつの間にか、その周囲に人垣が出来て行った。

 「おい、そこまでにしろ!」

 俺が声を掛けて、三人が止まった。

 「そろそろ食事だ!」
 「「はい!」」

 斬が優しい笑顔で士王と吹雪の頭を撫でた。

 「楽しかったな」
 「「はい!」」

 俺が呼んでテーブルに付かせた。

 俺と栞、斬、響子、士王、吹雪、六花、鷹、蓮花、そして一江と大森。
 俺たちのテーブルに、次々に焼けた料理が持って来られる。
 今日は栞と士王が主役だ。
 そして桜花、椿姫、睡蓮。
 アラスカで4年近くを栞と士王を守って暮らした三人。
 うちの子どもたちは今日は焼きに専念し、自分たちは後で食べる。
 500人以上の大人数が詰めて、楽しい食事になっていた。
 青嵐と紫嵐も久しぶりのブランの仲間たちと楽しそうにしている。
 栞が笑顔で俺に言った。

 「やっと日本に帰って来れたよ!」
 「おう!」
 「おうじゃないわよ! 本当にあんな地の果てにこれまで!」
 「ワハハハハハハハハ!」

 やっぱり栞が恨みがましいことを言う。
 こいつには本当に不自由な思いをさせた。

 「でも、あっちも楽しかったわ。今から思えばね」
 「そうか」
 「あなたがもっと来てくれてればね!」
 「しょうがねぇだろう!」
 「これからは本当に来てよね!」
 「努力する」
 「そこは言い切ってよ!」

 みんなが笑った。
 斬が士王と吹雪に食べさせている。
 二人とも斬が差し出すものを嬉しそうに食べている。

 子どもたちも、自分たちの食事を始めた。
 いつものように争いながらだが、楽しそうだ。
 皇紀が加わったこともあるだろう。
 皇紀も嬉しそうに肉を奪い合っている。

 「皇紀君、逞しくなったね」
 「ああ、そろそろだな」
 「え?」

 栞が俺に聞き返した。

 「あいつも18歳になる。そろそろ結婚してもいいよな」
 「アア! じゃあ風花ちゃんと?」
 「そうだよ。ちょっと豪華な結婚式を考えてるんだ」
 「へぇー、どんな?」
 「まだ秘密だ」
 「なんでよー!」

 栞が俺を睨んだ。

 「響子にはちょっと話してるよな?」
 「うん!」
 「響子ちゃん、教えて!」
 「や」
 「なんでぇ!」

 響子には、いずれアラスカで住むようになる話をしている。
 皇紀の結婚式はアラスカで行なう予定だ。
 《マザーキョウコ・シティ》での大々的な結婚式になると、響子には話した。
 皇紀と風花が初めて使う、「トラ大聖堂」を今建設中だ。
 アラスカでの人口も増え、カテドラルや結婚式場もあるが、世界的にも最大規模の結婚式場を作るのだ。

 皇紀は俺の子どもとして初めての結婚式になる。
 俺も楽しみだ。
 皇紀には、もちろん風花との結婚の話をしている。
 風花には近々プロポーズに行く予定だ。
 まあ、断られることも無いだろう。

 本来は生活は大阪になるのだが、皇紀はまだまだあちこちへ行かなければならない。
 悪いが基本は俺の家で皇紀が暮らし、世界中を回りながら大阪の風花と時々会う。
 そんな単身赴任的なものになるだろう。
 そういう話も風花とするはずだった。

 皇紀の結婚式は、俺たちの象徴になるはずだ。
 世界中から「虎」の軍に協力してくれる主だった人間をアラスカでの皇紀の結婚式に集める。
 だから今はまだ栞にも話せない。
 機密事項なのだ。
 ちなみに、皇紀にも話していない。
 あいつは驚くだろう。

 俺は遠くない未来に思いを馳せた。 
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