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愛する者の帰還 Ⅱ

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 11時になっていた。
 俺たちは荷物を置いて、12時に昼食となる予定だ。

 「斬、夕べは眠れたかよ?」
 「フン!」

 斬をからかうといつものごとく憮然とした顔を作ろうとした。
 だが、失敗していた。

 「お前、笑ってるぞ?」
 「フン!」

 鬼のような男が、楽しみで仕方がないのだ。

 「もう、着くな」
 「ああ」
 「おい、だからお前、ニヤけてるって!」
 「……」

 斬の顔が面白くて仕方がない。
 他の連中は遠目に見て、顔をそむけて笑っている。
 俺たちは発着場へ移動した。
 手の空いている者は全員来るが、一応警戒の人員は配備している。
 
 「タイガーファング」が時間通りに到着した。
 護衛のデュールゲリエ1000体と霊素レーダーを備えた「ウラール」、そして戦闘機「ニーズヘッグ」4機が同行している。
 「タイガーファング」が着地すると当時に、デュールゲリエと支援機はアラスカへ戻った。
 後部のハンガーが開く。

 「あなたぁー!」
 「おう!」
 「お父さん!」
 「よう!」

 栞と士王が駆け寄って、俺が抱き締めた。

 「やっとこれたよー!」
 「ワハハハハハハハハ!」

 桜花、椿姫、睡蓮も降りて来て、俺に挨拶した。
 操縦席から青嵐と紫嵐も降りて来る。

 「無事に届けてくれてありがとうな」
 「はい! 何事も問題ありませんでした!」
 「御苦労!」

 斬が栞と士王の傍に来た。
 嬉しそうに顔を綻ばせている。

 「おじいちゃん!」
 「おう、よく帰って来たな」
 「うん!」
 
 栞と士王も嬉しそうだ。
 今日から、栞たちは蓮花研究所で暮らすことになる。
 士王が「花岡」の技を完成させるためだが、俺が士王に日本を知っておいて欲しかった。
 
 以前は蓮花研究所も、まだ防衛システムが弱かった。
 アラスカ基地が完成していたので、そちらへ栞を送った。
 実際、その後蓮花研究所は「業」によって侵入を許してしまっている。
 タヌ吉の「地獄道」が防いだが、「業」が本気を出して来れば分からなかった。
 だから已む無くアラスカへ住まわせたのだ。
 不自由を掛けたが、もうこの蓮花研究所でも大丈夫だ。
 アラスカほどではないが、そうそう引けは摂らない。
 斬によって、士王は「花岡」の技を教わって行く。
 恐らく士王にとって必要なことだ。

 一江と大森が栞の傍へ行った。

 「栞! 久し振りだね!」
 「やっと帰って来たんだな」
 「うん! やっとだよ! 本当に日本だよ!」
 「「アハハハハハハハ!」」

 栞たちは大勢と挨拶し、少し泣いていた。
 悪かったとは思う。

 蓮花の号令で、みんなで大食堂へ移動した。
 






 大食堂で全員で食べる。
 昼食は「石神家式海鮮丼」だった。
 桜花たちが、新鮮な魚介類に狂喜する。

 「栞様! 大きなハマグリが!」
 「こちらはアワビでございます!」
 「マグロが宝石のようですよ!」

 楽しそうに好きな食材を選んで大丼に乗せて行く。
 栞は桜花たちに自分たちを気にせずに楽しめと言った。
 青嵐と紫嵐も、ブランたちに囲まれて嬉しそうだ。
 
 「六花と響子、鷹は夕方に来るからな」 
 「そうなんだ、忙しいの?」
 「ああ、ちょっと大使夫人会の昼食会があってさ。どうしても六花と響子が外せなくて」
 「へぇー!」
 「鷹はナースの研修会だ。新人のナースを引率してる」
 「大変だね!」
 「俺はヒマだからな!」
 「あなたはもっと来てよ!」
 「ワハハハハハハハハ!」

 斬が士王の丼を作ってやっている。
 士王が楽しそうに、どういう魚かを斬に聞いている。

 「おじいちゃん、楽しそう」
 「そうだな。今日は鍛錬に付き合わなくて済みそうだ」
 「あなたも大変ね」
 「そんなこともねぇよ。あいつとの鍛錬はいつも俺にとっても有用だ」
 「しょっちゅう付き合ってたんでしょ?」
 「まあ、ちょっとめんどくさかったな」
 「もう!」

 俺と栞と士王、蓮花、斬、一江と大森とでテーブルを囲んだ。
 一江と大森は普段は斬に近づけないが、栞と士王がいれば安心だ。

 「斬、それだけでいいのかよ?」

 健啖なあいつが、随分と乗せる魚が少ない。

 「幾らでも喰えるだろう」
 「まあ、残ってればな」

 俺が指で示した。
 うちの子どもたちがガンガン喰っている。
 斬は慌てて丼を掻き込み、また取りに行った。

 「斬は随分と飯を喰うようになったんだよ」
 「そうなの!」
 「相当鍛えてるからな。身体も結構若返ったぞ」
 「ほんとう!」
 
 斬は地獄のような鍛錬をし、まるで身体が作り変えられるかのように変わって行った。
 あの年であそこまで肉体が変化するのは相当なことだ。

 俺たちは楽しく食事をし、栞はずっと日本に戻れた嬉しさを語った。
 ブランたちや研究所の所員たちが、次々とテーブルに挨拶に来る。
 みんな、今日から栞や士王たちと一緒にいられることを喜んでいるのだ。
 蓮花に連れられ、シャドウも挨拶に来た。

 「自分のような者まで、すみません」
 「こいつはこの研究所の中で一番わしの相手になる」
 「斬様!」
 「そうなんだ!」

 斬が嬉しそうにシャドウを褒めた。
 
 「なかなかやるぞ。こいつの血を受けたせいらしいがな」
 「シャドウさん、今後とも宜しくお願いします」
 「いいえ、こちらこそ! お二人のことは、必ず私が守りますので!」
 「宜しくね!」

 シャドウも嬉しそうだった。
 俺がいない間、斬はここにも鍛錬を兼ねて指導に来てくれている。
 シャドウは中でも組み手の相手としては最上らしい。
 シャドウは「花岡」も身に付けており、しかも相当なレベルにある。
 特に斬の指導を受けてからは、その成長が目覚ましい。

 「こいつはなかなか来ないからな」
 「おい! 結構来てやってるだろう!」
 「ふん!」

 まあ、月に数回だが。
 しかも毎回時間はそう長くは無い。
 俺も忙しいのだ。
 しかし、真剣勝負が出来る相手はお互いに滅多にいない。
 俺も斬も互いにいい好敵手だった。
 俺がいない時には、シャドウを相手に鍛錬をしているのだろう。
 シャドウも大変だが、シャドウの様子には斬を遠ざけようとするものは無い。
 厳しいことも当然あるだろうが、基本的に斬の指導が嬉しいのだろう。
 何しろ、蓮花を護ることに繋がる。
 その辺が本心か。

 時差の関係で、栞と士王は少し休むことにした。
 ロボも一緒に行く。
 俺も一緒に寝ようと思ったが、当然のように士王のいない斬はヒマだ。

 「おい、やるぞ」
 「分かったよ!」

 しょうがねぇーなー。
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