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愛する者の帰国

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 話は遡り、8月の中旬。
 俺は例年通りに夏季休暇を取り、まずは群馬の蓮花研究所へ行くことにしていた。
 ある目的のためだ。
 
 7時に子どもたちをハマーに乗せ、出発する。

 「ロボいるかぁー」
 「「「「「はい!」」」」」
 「にゃ」

 ようやく皇紀も日本へ戻り、一緒に行動する。
 皇紀は逞しくなり、顔つきも大人びて来た。
 海外での様々な経験が、皇紀を大きく成長させた。
 金髪の長い髪を後ろで結んでいる。
 後ろのシートで双子に挟まれて嬉しそうな顔をしていた。
 助手席には柳が座っている。
 亜紀ちゃんは一番後ろのシートで一人だが、青山で一江と大森をピックアップするので一緒に座ることになる。
 病院は斎木が中心になり、第一外科部のエース三人が抜けているが、最近は斎藤や山口が随分と優秀になったので安心している。
 他の部員ももちろんだ。

 「ぶちょー!」

 一江のマンションの前で、二人が待っていた。
 
 「よう!」
 「今回は宜しくお願いします!」
 「お手数をお掛けします」
 「おう! 宜しくな!」

 一江と大森は2泊なのでそれほどの荷物はない。
 亜紀ちゃんが二人をシートへ座らせ、荷物を後部に置いた。
 すぐに高速に乗る。

 「本当は院長たちも連れて来たかったんだけどなぁ」
 「しょうがないですよ。丁度、広島へ行かれるということでしたから」
 「そうだな。こないだクマタカの話をして、一度行こうと思ったようだからな」
 「石神さんのお陰ですね」
 「俺はそんなことは」

 でも、院長たちも久しぶりの広島だ。
 いろいろと感じることもあるだろう。
 院長たちには、アンドロイドのルーとハーを付けている。
 二人の運転で、俺のロールスロイス・ファントムで移動する。
 お疲れが無く行って欲しい。





 最初のサービスエリアでいつものように食事をした。
 子どもたちは朝食を食べているが、やはり幾つもの食べ物を買い集めて行く。

 俺と一江たちは、俺が用意した稲荷寿司を食べた。

 「部長! 美味しい!」
 「ほんとに!」
 
 二人が喜んでくれた。

 「まあ、長かったよなぁ」
 「そうですね。もう三年半ですもんね」
 「俺のせいだけどな」
 「そんなことは!」
 「部長は最善のことをしてきたんじゃないですか!」
 「ああ」

 無理矢理俺が実行したことで、否応なくあいつは従ってくれた。
 時々暴れていたが。

 「蓮花さんの研究所ならば、大丈夫なんでしょう?」
 「まあな。以前とは比べ物にならないほどに防備は完璧だからな」
 「楽しみですね!」
 「そうだな」
 「本当は部長の傍がいいんでしょうけどね」
 「しょうがねぇよ。ある意味じゃ「業」の最大目標だからなぁ」

 休憩を終え、またハマーに乗って出発した。
 今度は皇紀が助手席に座る。
 柳は双子と座る。

 皇紀とフィリピンやパムッカレの話を聞いた。
 基地建設の状況は家でちゃんと聞いている。
 しかし皇紀も忙しいので仕事の話が中心となり、直接仕事に関係のない話は俺との間でしていない。
 この機会に、ゆっくりと皇紀の話を聞いてやりたいと思った。

 「どうだよ、何か困ったことは無いのか?」
 
 皇紀が俺を見て嬉しそうに笑った。
 聞いてもらいたいことがあるのだ。

 「フィリピンに行くと、不思議とフローレスさんにバッタリ会うんですよ」
 「ワハハハハハハハハ!」

 一体、どういう縁だ。

 「タカさん、笑い事じゃなくてですねぇ」
 「まさか、またヤってねえよな?」
 「ヤリませんよ!」
 
 まあ、別にヤってもいいのだが。
 だが、皇紀は風花にそういう話は出来ないだろう。
 複数の女と関係を持つのは別に悪くはない。
 但し、公明正大に自分が複数の女と関係を持っていると言えば、だ。
 隠れて、また相手を騙しての関係であれば悪だ。
 前回の皇紀のフィリピンでの女遊びは、隠してのことだから叱った。

 「会ったらどうしてんだよ?」
 「挨拶してですね、それからは毎回困ってます」
 「困る必要はねぇだろう」
 「そんな!」
 
 やはり皇紀はまだ若い。

 「ちゃんと、もうフローレスとは関係を持たないと言えばいいんだ。そうすれば、どこで何回会ったって関係ねぇよ」
 「まあ、そうですけど」
 「一度ちゃんと話せ。お前が言わないから、向こうだって期待を抱いてしまうんだ」 
 「そうですね」
 「いいか、フローレスは俺たちの仲間だ。俺たちのためにいろいろとやってくれている有難い人間だ」
 「は、はい! そうです!」
 「だったら大事にしろ。ちゃんとけじめを付けて付き合え」
 「はい!」

 俺は皇紀にどう言えばいいのかを話した。
 日本で結婚を前提に付き合っている女がいること。
 そして、もう他の女性とは関係を持てないことをだ。
 
 「それでも迫られたらどうすればいいんでしょうか」
 「きっぱりと断れ。お前が本気で風花以外と付き合わないことを思っていれば、毅然とした態度が相手にも分かる。本当に思えばな」
 「分かりました!」

 話はトルコのパムッカレのことになった。
 パムッカレでは、ジャンダルマ(軍事警察)のアキフやその父親のアルタイにも会っているようだ。
 皇紀がジャンダルマに自分が来ていることを連絡すると、必ずアキフが連絡を取って来る。
 皇紀を食事に誘ったりしてくる。
 皇紀は基地建設に何か要望があればという意味で、来ていることを伝えているのだが、アキフにとっては恩人だと思っている俺たちを歓待したいのだ。
 迷惑とは言わないが、気を遣われるのは恐縮だ。
 特に皇紀はそういうことにも慣れていないので困っているのだろう。

 「いつも豪華な食事を用意されて困っているんです」
 「そういうこともな、しっかりと断れ」
 「はい!」
 「自分は仕事で来ていること。パムッカレを守る基地を作るために集中していること。だからゆっくりと食事をする時間も無いのだとちゃんと言えよ」
 「はい!」

 皇紀も自分がしっかりとした態度を取ればいいのだということは分かったようだ。

 「アキフは命を「虎」の軍に救われた。そればかりか自分の大事な父親や仲間たちもな。それにあいつの両足だ。「虎」の軍の技術で最高の義体を備えることになった。感謝して当然だ。だからお前が行けば歓待しようとするに決まっている」
 「はい、そうですよね」
 「だけどお前は付き合う必要は無い。アキフだってやるべきことがある。「虎」の軍のために協力してくれれば、それが一番俺たちには有難い」
 「はい!」
 
 トルコ政府は全面的に「虎」の軍に協力を惜しまないようになった。
 以前の自分たちの利益と保身に凝り固まった政権は国民から引きずり降ろされ、新たに「虎」の軍に協力的な政権が誕生した。
 もちろん、ジャングルマスターの情報操作と「虎」の軍の外交官アーネスト・ウィルソンたちの努力によるものだ。
 それによって逸早くパムッカレに「虎」の軍の軍事基地建設がスムーズに始まり、その視察で皇紀はしょっちゅうパムッカレに滞在している。
 皇紀は他にも幾つものプロジェクトに携わっているので、現地で建設や防衛システムの指示や検討を重ねる他、他の施設などの仕事も並行している。
 また、新たな防衛システムの研究や武器の研究など、多岐に渡る仕事を抱えている。
 多忙なのだ。

 アキフたちの歓待は有難いが、本当は基地で飯を喰いながら打ち合わせをするという忙しさなのだ。
 皇紀は何とか時間を捻出しようとしているのだが、それは間違いだ。

 「タカさん、わかりました。僕が甘い態度だったので、相手も気付かないということですね」
 「そういうことだ。分かったか?」
 「はい。まあ、まだまだ甘いんでしょうが、毅然とした方向で行きます」
 「おう!」

 他にも幾つもあるのだろうが、皇紀の悩みは全て根幹は同じだ。
 優しい奴の悩み方なのだ。
 そういう所は、「ワル」である双子は抜群に上手い。
 誰からも好かれるのだが、ちゃんと自分たちの行動に支障が出ないように付き合っている。
 虎白さんなども双子のことは大好きだが、あれはカワイイ子どもだからではない。
 純粋に俺を慕い頑張っている人間だからだ。
 その上で、甘えて来るのが何とも言えずにカワイイのだ。
 人間関係の距離感が上手い。
 柳も人間関係は上手いが、双子には劣る。
 柳はいい意味で遠慮があり、一歩退くことを優先する。
 誰とでも仲良くなるが、双子のように懐に入るタイプとは違う。
 双子が上だということではないのだが、やはり人間関係は抜群だ。

 皇紀がスッキリとした顔になった。
 蓮花研究所が近くなった。
 皇紀に電話させる。

 「蓮花さん!」
 「皇紀様!」
 「もうすぐ着きます」
 「はい! もう楽しみでございます!」
 「アハハハハハ! では、後でまた」
 「はい!」

 皇紀も蓮花研究所は久し振りになる。
 嬉しそうな顔をしていた。






 玄関前に、大勢の人間が集まっていた。
 こんな出迎えはされたことが無い。
 俺たちは笑って研究所の敷地に入った。
 大歓声が挙がり、俺たちは囲まれた。
 みんなが笑っている。

 あの斬までが満面の笑みで俺たちを迎えていた。
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