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あの日、あの時: 赤木巡査 Ⅱ

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 赤木さんはパトロールの最中に、よく人を助けたりしていた。
 不良たちにもタバコを吸っていたりすると注意していた。
 大概の不良たちも、頭ごなしに説教する他の警官とは違い、優しく諭そうとする赤木さんを慕う者たちも多かった。
 赤木さんは滅多に補導することなく、諭した不良たちが謝って辞めると、そこで終わっていた。
 だから不良たちも赤木さんを特別な目で見ていた。
 親しくなる奴らもいて、赤木さんに悩み事などを相談することもあった。
 赤木さんは親身になって聴いて、なんとか力になろうとしていた。
 そんな赤木さんを慕う連中が多くなっていった。
 
 「赤木さん、不良たちから慕われてますね」
 「そんなことはないよ。ああ、でもトラ君のお陰はあるかな」
 「俺の?」
 「うん。トラ君がよく僕に親しく話してくれるだろう?」
 「まあ、赤木さんはいい人ですから」
 「だからだよ! みんなトラ君のことを知ってて、トラ君が親しいのならって言うんだよ」
 「えぇ?」
 「トラ君の大事な人間には逆らっちゃいけないんだって言う人もいる」
 「アハハハハハ!」

 俺の力なんて何もない。
 赤木さんが優しい人だから、みんな慕うのだ。

 そのうち赤木さんは不良たちに認められるようになり、ますます連中の悩み相談に乗って行った。

 しかし、反対にそんな赤木さんに反発する連中もいた。
 愚連隊「死蝋」の連中もそういう奴らだった。





 切っ掛けは、赤木さんが「死蝋」の3人の男たちが女子高生を取り囲んでいる現場に遭遇したことから始まった。
 パトロール中の赤木さんたちがそれを見つけ、自転車で走り寄った。
 基本的にパトロールは二人一組で行なう。

 「君たち、何をしているんだ」
 「あんだよ!」
 「ポリには関係ねぇよ!」
 「その子たちを放しなさい」
 「あぁ?」
 
 赤木さんが直接注意をし、もう一人は少し離れて見ていた。
 何かあれば応援を呼ぶためだ。

 「君たち、さあ、行きなさい」
 「ありがとうございます」

 女子高生は礼を言って離れようとした。
 それを一人の男が腕を掴んで止めた。

 「君、腕を放しなさい!」
 
 赤木さんが叫ぶと、他の二人が赤木さんに殴りかかった。
 離れて見ていたもう一人の警官が無線で応援を呼ぶ。
 そこに「ルート20」の槙野と木村が偶然通りかかった。
 木村がチームの金を降ろすので、槙野が護衛についていた時だったそうだ。

 二人は赤木さんに暴行を振るうのを見て駆け寄って助けた。
 赤木さんは殴られながらも一人に手錠を掛け、もう一人を組み敷こうとしていたと聞いた。
 槙野と木村は、赤木さんを執拗に蹴っていた一人を制圧した。
 もう一人の警官が来て、その男に手錠を嵌めた。

 「赤木さん、大丈夫ですか!」
 「ああ、ありがとう。お陰で助かったよ」
 「いいえ」
 「トラ君の友達だよね?」
 「はい、「ルート20」です!」

 赤木さんは目の上を切って血を流していた。
 顔中が晴れ上がり、その顔で笑っていたそうだ。
 すぐにパトカーが来て、「死蝋」の三人を収容した。
 赤木さんも別なパトカーに乗るように言われたが、自分で自転車に乗って病院へ行った。
 右の肩の骨と頬骨にひびが入っていた。
 俺は槙野から話を聞いて、すぐに病院へ見舞った。
 処置を終えた赤木さんは顔を青黒く腫らし、三角巾で右腕を吊っていた。

 「大丈夫ですか!」
 「ああ、トラ君まで来てくれたのか」
 「はい、心配になって」
 「ありがとう。ああ、トラ君の仲間の人に助けてもらったんだ」
 「さっき槙野から聞きました」
 「御礼を言っておいてくれるかな」
 「はい。でも赤木さん、襲ったのが「死蝋」の連中だって」
 「うん、さっき佐野さんから聞いたよ」
 
 俺は「死蝋」がヤバい愚連隊なのだと説明した。

 「「ルート20」とは直接ぶつかってませんけどね。でも噂でとんでもないワルだって聞いてます」
 「佐野さんからもそう聞いたんだ。でも僕は警察官だからね」
 「気を付けて下さい。人を殺したこともあるって話もありますから」
 「そうか、うん、気を付けるよ」

 佐野さんが手を打ってはくれるだろうが。
 赤木さんはしばらく内勤になるだろう。
 宿舎も警察署から近いので、安全だろうと俺は思った。

 その後佐野さんに話を聞いて、やはり赤木さんはしばらく署内での勤務に回してもらうようだった。
 公務執行妨害と暴行傷害で逮捕された三人は、書類送検で終わった。
 そのうちの一人はヘッドの馬路(ばろ)だったと聞いた。
 





 数週間、赤木さんは警察署内で勤務し、何事も無かったのでまた交番勤務へ戻った。
 赤木さんの希望もあったらしい。
 赤木さんはパトロールをしながら、地域の人々に関わって行きたかったのだ。
 もちろんしばらくは赤木さんの周辺はみんなが心配して、監視もしていた。
 しかし「死蝋」が動く様子もなく、徐々に不安も薄れて行った。
 俺も交番によく立ち寄るようにしていた。
 俺は「死蝋」のことは安心していなかった。





 その日、いつものように交番に立ち寄ると、前に赤木さんにフィギュアを見せてもらった時にいた年配の警察官が俺を見て出て来てくれた。
 警察官は全員俺の顔見知りで、特に過激派が警察署を襲った後からは、みんなが俺と親しく話してくれる。
 
 「赤木は、今パトロールに出ているんだよ」
 「そうなんですか」

 別に用事があるわけではない。
 近くを通ったのでいつものように顔を出しただけだ。
 赤木さんはそこの交番勤務が多かったためだ。
 俺が去ろうとすると、パトカーが来た。
 佐野さんが乗っていて、俺を見て驚いていた。

 「トラ、何やってんだ?」
 「いえ、赤木さんがいるかと思って顔を出しただけです」
 「そうか。今忙しいんだ」
 「そうですか、じゃあ行きますね」

 佐野さんの様子がおかしかった。
 いつも俺に軽口を叩くが、今日は真剣な顔のままだった。
 大体、刑事が交番にパトカーで来るとは普通のことじゃない。
 俺は立ち去るフリをして、裏手に隠れた。
 佐野さんの声が聞こえた。

 「さっき、赤木と竹内がパトロール中に襲われた」
 「え!」
 「武器を持った連中に10人で襲われたんだ」

 (!)

 「赤木たちは!」
 「竹内は重傷だ。頭に鉄パイプを喰らって意識不明だ」
 「赤木は!」
 「攫われた。行方は今探ってる」
 「襲ったのは誰なんですか!」
 「分からん。今警官を総動員して目撃情報を探っている……」

 俺は「死蝋」の連中だと思った。
 やはり、赤木さんに怨みを抱いていたのだ。
 多分、赤木さんに逮捕された馬路の仕業だ。
 馬路は「死蝋」のヘッドで、一際キレてる奴だ。
 あいつが出張ればヤバいことになる。
 俺はRZに跨って発進した。
 佐野さんが俺に気付いた。

 「トラ、あいつまだいやがったのか! トラ! 待てぇ!」

 後ろで佐野さんが叫ぶ声が聞こえた。
 俺は「死蝋」のアジトへ向かった。
 以前に小競り合いがあり、馬路たちのアジトは知っている。
 三井山の麓の製材所跡だ。
 周囲には何もなく、製材所の事務所と工場があるだけだ。
 馬路たちは女を集めてはそこで楽しんでいる。
 女を攫って来ることもあると聞いた。
 シンナーや大麻を持ち込んでもいる。
 この辺一帯の愚連隊の中でも最大の規模で、その狂暴性も最高だ。

 以前に、「ルート20」の仲間が馬路たちと揉めた。
 コンビニの前でアヤを付けられ、いきなり10人に襲われた。
 その時は相手が「ルート20」と気付かずに襲われたのだが、後に向こうから頭を下げてきてけじめを付けた。
 どんな愚連隊でも、「ルート20」には逆らわない。
 三井山の製材所で詫びを入れられ、怪我をした連中の治療費と見舞金を納めさせた。
 襲われた三人は足と肋骨を骨折していた。
 金属バットでへし折られたのだ。
 狂暴な連中だった。

 俺も同席し、ヘッドの馬路を見ている。
 一目で分かる、凶暴で卑しい奴だった。
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