富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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佐野と「アドヴェロス」 Ⅴ

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 バーベキューを終え、子どもたちが片づけをしている間に、風呂を頂いた。
 今日は早乙女たちが屋上露天風呂を用意してくれた。
 10人が一遍に入れる広い風呂場だ。
 俺は早乙女と佐野さんと一緒に入る。

 「あー、この風呂もいいなぁー」

 佐野さんが満足そうに湯船で言った。

 「佐野さん、風呂好きですね」
 「そうだな。滅多に行かないが、女房とたまに温泉に行くよ」
 「そうなんですか!」

 いい話を聞いた。
 うちの「虎温泉」も気に入ってくれたようだ。
 じゃあ、作るかぁー。

 「早乙女は温泉なんか行くのか?」
 「いや、行ったことないな」
 「なんだよ。雪野さんは好きかもしれないぞ?」
 「こ、今度聴いてみる!」

 俺と佐野さんで笑った。
 もう佐野さんにも早乙女の「雪野愛」は伝わっているだろう。

 「佐野さん、早乙女から聞いてますよ。「アドヴェロス」で、もう評判なんだって」
 「そんなことはねぇよ。みなさん、優しい方々で、新参者でジジィの俺にも良くしてくれてるだけだ」
 
 早乙女が真剣な顔をしていた。

 「そんなことはありません。佐野さんはもう「アドヴェロス」にとって欠かせない人物ですよ」
 「いや、そんなことは」

 早乙女が俺に話した。

 「佐野さんには「デミウルゴス」や外道会なんかの捜査部門に入ってもらったんだ。数日後には新たな売買ルートを掴んでくれ、「創世の科学」の裏組織の一つも挙げてくれたんだ!」

 もちろん俺も早乙女から聞いている。
 
 「スゴイよな」
 「そうだよ! うちの捜査部門では何も掴めなかったんだ」
 「佐野さん、流石ですね!」
 「そんなことはねぇよ。俺はただ聞き込みに回っていただけだ」
 「早乙女達もやってましたよ」
 「だからたまたまだよ。聞き込んだ場所が良かったんだろう」

 そういう場所を掴むのが、佐野さんの素晴らしい所だ。
 刑事としての勘が違う。

 「今後は佐野さんを中心とした部署を作るつもりだ」
 「ちょっと待って下さい! 俺はまだ入ったばかりですよ!」
 「関係ありません。あの磯良だって、入ったばかりでトップハンターですからね」
 「あいつは凄かったよなぁ」
 「ああ、広範囲でライカンスロープが暴れている中を、磯良がどんどん駆逐していったんですよ」
 
 早乙女が佐野さんを嬉しそうに見ている。

 「佐野さん、「アドヴェロス」は実力主義でなければダメなんです。敵は余りにも強大で狡猾だ。だから年功序列だの出世がどうのなんて二の次です。必要な人間が必要なことをしなければならない。佐野さんの力が今すぐに必要なんです」
 「俺は何でもしますよ。でも、出世したいわけじゃないですから」
 「分かってますよ」

 佐野さんは警察官時代に、敢えて昇進試験を受けずに、定年まで現場に留まったと聞いた。
 それでも最終的に警視になり、現場に留まった。
 警察官の多くが出世のために試験勉強に夢中になる中で、佐野さんはあの街を現場で守っていくことだけを考えていてくれた。
 和久井署長も同じだ。
 キャリア官僚としてあちこちを回って出世するはずを、佐野さんと一緒にあの街に留まってくれた。
 そして佐野さんを補助して助けてくれたのだ。

 多分、小島将軍はその礼として、和久井署長に警備会社を設立させ、後に佐野さんに高給を与えたのだろう。

 「ところで佐野さん、待遇面ってどう聞いてますか?」
 「いや、何も」

 俺が早乙女を睨む。

 「おい、早乙女! 何やってんだ!」
 「あ、ああ、済まない! 佐野さんには月末の給与支給の時に話そうと思っていたんだ」
 「バカ! 今時待遇面を話さないで雇う会社はねぇぞ!」
 「わ、悪かった! 佐野さん、すみません!」
 「いや、全然構いませんよ! 和久井社長の会社で随分と貯えが出来ましたし。警察官を退職して、退職金だって……」

 俺は遮って言った。

 「いいですか、「アドヴェロス」は外部嘱託の人間、佐野さんもそうです。そういう人間には、基本給として最初に月に200万円が支給されます」
 「なんだと!」
 「社会保険料と源泉税、住民税は控除されません。「虎」の軍法にのっとった措置です」
 「おい!」

 「佐野さんの場合、更に家族手当と技能手当が付きます。早乙女、技能手当はどうなる!」
 「うん、成瀬とも話し合ったが、300万円でと思ってる」
 「少ねぇな」
 「多すぎだぁ!」
 「まずはしょうがねぇ。実績で今後昇給してくれな」
 「分かってる」

 「おい! 俺の話を聞けよ!」

 「ああ、「虎」の軍から別途、協力費が最初に支給されますから」
 「なんだよ、それは!」
 「「虎」の軍に正式に協力してもらえる感謝金ですよ。もう振り込んでますから」
 「なんだとぉー!」
 「今月の二十日付で」
 「おい、それは幾らなんだよ!」
 「知りません。経理部門が査定しているんで」
 「トラぁー!」

 佐野さんが慌てて風呂を出て行った。
 急いで浴衣を着込んで走って行く。

 「おい、石神、幾らだったんだ?」
 「100億円」

 早乙女は、当然俺が決めていることを知っている。

 「お前、また……」
 「佐野さんだかんな」
 「まったくもう」

 俺たちも笑いながら風呂を出た。
 リヴィングに戻ると、佐野さんが奥さんと青い顔をしていた。
 スマホで銀行口座をチェックしたらしい。

 「おい、トラ……」
 「はーい」
 「なんだよ、これ……」
 「はい。おい、ルー!」
 「はーい!」

 ルーが来る。

 「佐野さんの銀行の金をよ、一部預かってくれよ」
 「はーい! また堅い株式でいいよね?」
 「ああ、そうしてくれ。佐野さん、80億円を俺たちに預けてくれませんか?」
 「全部やるよ」

 まあ、警察の退職金と今までの貯え、それに毎月これから500万円が入るのだ。
 佐野さんは金には興味は無いだろうから、それで十分だろう。

 「ああ、そうですね。じゃあ、ルー、100億円だ」
 「はーい!」
 「大体、配当で毎年5億円が入りますから」
 「「!」」
 「じゃあ、そういうことで」
 「ま、まて、待ってくれ、トラ……」
 「ワハハハハハハハハ!」

 早乙女が佐野さんに近寄って言った。

 「佐野さん、俺たちもね」
 「あ、ああ」
 「最初に結婚祝いで、御祝儀で10億円もらってですね」
 「なんだ?」
 「それでこの家ですよ! 何百億か知りませんけど」
 「あ、ああ」
 「子どもの出産祝いだのなんだかんだ理由を付けられてですね」
 「お、おお」
 「今、金融資産だけで一兆円近くあります」
 「「!」」

 佐野さんと奥さんが驚く。
 奥さんは倒れそうだ。

 「だからね」
 「「……」」
 「もう、お金のことは考えないようにしました」
 「「……」」
 「諦めましょう」
 「「……」」

 子どもたちが奥さんを連れて露天風呂に行った。
 ゆっくり浸かって来て、奥さんも大分顔色が良かった。
 双子が「手かざし」とかしたんだろう。
 みんなで尖塔の広間に移動する。
 俺が子どもたちに、椅子とテーブルを運ばせた。

 「おい、石神!」
 「なんだ?」
 「このテーブルと椅子は見たこと無いぞ!」
 「またかよ! 「1001巻「来客備品篇」の113ページに書いてあるよ!」
 「!」

 早乙女と雪野さんがすぐに『早乙女家仕様書』を出して確認する。

 「ほんとだぁ!」
 「ばか!」

 上客のための、高品質のテーブルセットだ。
 一枚板の樫のテーブルと、クッション性の高いハイバックのチェアセットが第21倉庫に仕舞ってある。
 16人が余裕で座れるものなので、丁度良い。
 
 「佐野さん、今日は何を飲みますかー」
 「何でもいい」
 「じゃあ、日本酒にしますねー」
 「ああ、冷でいいぞ」
 「あなた、私も今日は一緒に」
 「ああ、呑め呑め」
 「はい」

 


 佐野さんと奥さんが長い溜息をついていた。
 なんでかなー。
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